27 / 165
第三章
27,リュウキの強さ
しおりを挟む
「ヤエ!」
もう一度彼女の名を叫ぶ。
声に反応し、ヤエはハッとしたようにリュウキの方に目線を向けた。
「リュウキ様……!」
「大丈夫? 僕が来たからもう安心だよ」
リュウキはすっと巨大蜘蛛の前に立ち塞がる。
蜘蛛はリュウキを見ると、突然口の中から唾液のようなものを大量に垂れ流した。
その様子を目の当たりにしてリュウキはゾッとする。
「うわ……気持ち悪いな、君」
リュウキがそう言った直後、蜘蛛は機敏な動きで飛び掛かってきた。
八本の脚を向け、真正面から攻撃してこようとするのをリュウキは無言で回避する。蜘蛛の動きは単純だった。
それよりもリュウキには気がかりなことがある。
「僕よりも図体が大きな蜘蛛の化け物か……ちょっと吐き気がしちゃうな」
どうしても、その容姿を受けつけられない。胸の奥がカッと熱くなっていった。
「ああ、これは……」
感情が高ぶっていくのが分かる。興奮、などではない。不快によるものだ。
リュウキが「怒り」や「不快感」を覚えた時に身体から炎が噴き出ると、体力はあまり消費されない。むしろ好都合だった。
「待っててねヤエ。すぐに助けるから」
「そんな巨大蜘蛛を相手に平気ですか」
「僕は炎使いだよ。すぐに倒してみせるさ」
作り笑いを浮かべると、リュウキの両手から瞬く間に真っ赤な炎が溢れ出てきた。見る見るうちに火力は強くなっていき、温度も上昇していく。
巨大蜘蛛は姿勢を変えて牙を向ける。
「そんなに大きく口を開けて威嚇でもしているのか? 僕が怒りたい気分だよ。ヤエにこんな怖い思いをさせて」
ドスドスと足音を鳴り響かせ、一歩一歩近づいてくる蜘蛛に向かってリュウキは両手の平を見せつける。
「燃やしてあげるから覚悟しなよ」
怒りを込めた口調で言い放つと、リュウキの炎は蜘蛛に向かって勢いよく放射された。
攻撃を躱そうと蜘蛛は逃げ惑うが、リュウキに操られる炎の塊は線を描くように的を追い続ける。
「逃げたって無駄だ。丸焦げにしてあげる」
密集された竹林の壁に蜘蛛を追い込んだ。
隠れようとしたのか、糸を吐き出して竹の稈に巻きつけるが、リュウキの炎はすかさずそれらを全て焼き払う。
「残念だったねぇ、君。相手が悪かったな」
不敵な笑みを浮かべながら、リュウキは一気に炎を巨大蜘蛛の全身に浴びせた。
熱さにもがく蜘蛛は火の中で足をバタバタと動かしているが、もはや逃げられない。
──あっという間に蜘蛛は燃え尽きてしまった。
「なんだ、見た目だけは迫力があるけど大したことなかったね」
あっさりと勝敗が決まり、リュウキは拍子抜けしてしまう。さっさと鎮火させると、巨大蜘蛛はすでに灰と化していた。
「リュウキ様……」
ヤエはどっと疲れたような表情を浮かべる。
彼女に向かってリュウキは優しく微笑みかけた。人差し指で小さな火を放ってから、ヤエに巻きつく糸を静かに燃え千切っていった。
やっとの思いで解放された彼女の両手首には、うっすらと赤く跡が残っている。
「ヤエ、大丈夫?」
「はい。助けていただきありがとうございました」
「いいんだよ。怪我はしてないようでよかった」
まだ放心状態の彼女をじっと見つめ、リュウキは小首を傾げた。
「それにしても……ここでヤエは何をしていたんだ?」
「そ、それは」
ヤエは目線を下に落とす。
「朝食を」
「え?」
「リュウキ様の為に、朝食の材料を探していました」
小さな声で、ヤエは確かにそう言った。
彼女からの意外な言葉に、リュウキは目を見開く。
「僕の、為?」
「昨夜はごちそうになりました。だから今朝は、私が何か作ろうと。立派な筍がありましたので、採っていたところを化け物に……」
その話を聞いて、リュウキの口角はこの上ないほどに上がった。
「ヤエ」
「……はい」
「やっぱり君は優しいなぁ。早速作ってよ!」
「……でも、汚れてしまいましたから」
「そんなの水で洗えばどうにでもなるよ」
「水は貴重です。無駄遣いしないでください」
「どこが無駄なんだよ。こういう時に使わないとね」
そう言いながらリュウキはすっとしゃがみ込み、土まみれに汚れた筍を手に取った。
どことなくやるせない横顔で、ヤエは筍を眺めている。
──だがこの時であった。突如、背後から何かの気配が再び現れる。
カサカサと竹の葉が揺れる音が微かに響き、リュウキは咄嗟に後ろを振り返った。
しかし、何もいない。先ほどの蜘蛛が焼け焦げた跡しかない。
竹林の奥に何かが隠れているのか。リュウキは立ち上がり、周囲を見回す。
もう一度彼女の名を叫ぶ。
声に反応し、ヤエはハッとしたようにリュウキの方に目線を向けた。
「リュウキ様……!」
「大丈夫? 僕が来たからもう安心だよ」
リュウキはすっと巨大蜘蛛の前に立ち塞がる。
蜘蛛はリュウキを見ると、突然口の中から唾液のようなものを大量に垂れ流した。
その様子を目の当たりにしてリュウキはゾッとする。
「うわ……気持ち悪いな、君」
リュウキがそう言った直後、蜘蛛は機敏な動きで飛び掛かってきた。
八本の脚を向け、真正面から攻撃してこようとするのをリュウキは無言で回避する。蜘蛛の動きは単純だった。
それよりもリュウキには気がかりなことがある。
「僕よりも図体が大きな蜘蛛の化け物か……ちょっと吐き気がしちゃうな」
どうしても、その容姿を受けつけられない。胸の奥がカッと熱くなっていった。
「ああ、これは……」
感情が高ぶっていくのが分かる。興奮、などではない。不快によるものだ。
リュウキが「怒り」や「不快感」を覚えた時に身体から炎が噴き出ると、体力はあまり消費されない。むしろ好都合だった。
「待っててねヤエ。すぐに助けるから」
「そんな巨大蜘蛛を相手に平気ですか」
「僕は炎使いだよ。すぐに倒してみせるさ」
作り笑いを浮かべると、リュウキの両手から瞬く間に真っ赤な炎が溢れ出てきた。見る見るうちに火力は強くなっていき、温度も上昇していく。
巨大蜘蛛は姿勢を変えて牙を向ける。
「そんなに大きく口を開けて威嚇でもしているのか? 僕が怒りたい気分だよ。ヤエにこんな怖い思いをさせて」
ドスドスと足音を鳴り響かせ、一歩一歩近づいてくる蜘蛛に向かってリュウキは両手の平を見せつける。
「燃やしてあげるから覚悟しなよ」
怒りを込めた口調で言い放つと、リュウキの炎は蜘蛛に向かって勢いよく放射された。
攻撃を躱そうと蜘蛛は逃げ惑うが、リュウキに操られる炎の塊は線を描くように的を追い続ける。
「逃げたって無駄だ。丸焦げにしてあげる」
密集された竹林の壁に蜘蛛を追い込んだ。
隠れようとしたのか、糸を吐き出して竹の稈に巻きつけるが、リュウキの炎はすかさずそれらを全て焼き払う。
「残念だったねぇ、君。相手が悪かったな」
不敵な笑みを浮かべながら、リュウキは一気に炎を巨大蜘蛛の全身に浴びせた。
熱さにもがく蜘蛛は火の中で足をバタバタと動かしているが、もはや逃げられない。
──あっという間に蜘蛛は燃え尽きてしまった。
「なんだ、見た目だけは迫力があるけど大したことなかったね」
あっさりと勝敗が決まり、リュウキは拍子抜けしてしまう。さっさと鎮火させると、巨大蜘蛛はすでに灰と化していた。
「リュウキ様……」
ヤエはどっと疲れたような表情を浮かべる。
彼女に向かってリュウキは優しく微笑みかけた。人差し指で小さな火を放ってから、ヤエに巻きつく糸を静かに燃え千切っていった。
やっとの思いで解放された彼女の両手首には、うっすらと赤く跡が残っている。
「ヤエ、大丈夫?」
「はい。助けていただきありがとうございました」
「いいんだよ。怪我はしてないようでよかった」
まだ放心状態の彼女をじっと見つめ、リュウキは小首を傾げた。
「それにしても……ここでヤエは何をしていたんだ?」
「そ、それは」
ヤエは目線を下に落とす。
「朝食を」
「え?」
「リュウキ様の為に、朝食の材料を探していました」
小さな声で、ヤエは確かにそう言った。
彼女からの意外な言葉に、リュウキは目を見開く。
「僕の、為?」
「昨夜はごちそうになりました。だから今朝は、私が何か作ろうと。立派な筍がありましたので、採っていたところを化け物に……」
その話を聞いて、リュウキの口角はこの上ないほどに上がった。
「ヤエ」
「……はい」
「やっぱり君は優しいなぁ。早速作ってよ!」
「……でも、汚れてしまいましたから」
「そんなの水で洗えばどうにでもなるよ」
「水は貴重です。無駄遣いしないでください」
「どこが無駄なんだよ。こういう時に使わないとね」
そう言いながらリュウキはすっとしゃがみ込み、土まみれに汚れた筍を手に取った。
どことなくやるせない横顔で、ヤエは筍を眺めている。
──だがこの時であった。突如、背後から何かの気配が再び現れる。
カサカサと竹の葉が揺れる音が微かに響き、リュウキは咄嗟に後ろを振り返った。
しかし、何もいない。先ほどの蜘蛛が焼け焦げた跡しかない。
竹林の奥に何かが隠れているのか。リュウキは立ち上がり、周囲を見回す。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる