【完結】炎の戦史 ~氷の少女と失われた記憶~

朱村びすりん

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第三章

27,リュウキの強さ

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「ヤエ!」
 
 もう一度彼女の名を叫ぶ。
 声に反応し、ヤエはハッとしたようにリュウキの方に目線を向けた。

「リュウキ様……!」
「大丈夫? 僕が来たからもう安心だよ」

 リュウキはすっと巨大蜘蛛の前に立ち塞がる。
 蜘蛛はリュウキを見ると、突然口の中から唾液のようなものを大量に垂れ流した。
 その様子を目の当たりにしてリュウキはゾッとする。

「うわ……気持ち悪いな、君」

 リュウキがそう言った直後、蜘蛛は機敏な動きで飛び掛かってきた。
 八本の脚を向け、真正面から攻撃してこようとするのをリュウキは無言で回避する。蜘蛛の動きは単純だった。
 それよりもリュウキには気がかりなことがある。
 
「僕よりも図体が大きな蜘蛛の化け物か……ちょっと吐き気がしちゃうな」
 
 どうしても、その容姿を受けつけられない。胸の奥がカッと熱くなっていった。

「ああ、これは……」

 感情が高ぶっていくのが分かる。興奮、などではない。不快によるものだ。
 リュウキが「怒り」や「不快感」を覚えた時に身体から炎が噴き出ると、体力はあまり消費されない。むしろ好都合だった。
 
「待っててねヤエ。すぐに助けるから」
「そんな巨大蜘蛛を相手に平気ですか」
「僕は炎使いだよ。すぐに倒してみせるさ」
 
 作り笑いを浮かべると、リュウキの両手から瞬く間に真っ赤な炎が溢れ出てきた。見る見るうちに火力は強くなっていき、温度も上昇していく。
 巨大蜘蛛は姿勢を変えて牙を向ける。

「そんなに大きく口を開けて威嚇でもしているのか? 僕が怒りたい気分だよ。ヤエにこんな怖い思いをさせて」

 ドスドスと足音を鳴り響かせ、一歩一歩近づいてくる蜘蛛に向かってリュウキは両手の平を見せつける。

「燃やしてあげるから覚悟しなよ」

 怒りを込めた口調で言い放つと、リュウキの炎は蜘蛛に向かって勢いよく放射された。
 攻撃を躱そうと蜘蛛は逃げ惑うが、リュウキに操られる炎の塊は線を描くように的を追い続ける。

「逃げたって無駄だ。丸焦げにしてあげる」

 密集された竹林の壁に蜘蛛を追い込んだ。
 隠れようとしたのか、糸を吐き出して竹のかんに巻きつけるが、リュウキの炎はすかさずそれらを全て焼き払う。

「残念だったねぇ、君。相手が悪かったな」

 不敵な笑みを浮かべながら、リュウキは一気に炎を巨大蜘蛛の全身に浴びせた。
 熱さにもがく蜘蛛は火の中で足をバタバタと動かしているが、もはや逃げられない。

 ──あっという間に蜘蛛は燃え尽きてしまった。
 
「なんだ、見た目だけは迫力があるけど大したことなかったね」
 
 あっさりと勝敗が決まり、リュウキは拍子抜けしてしまう。さっさと鎮火させると、巨大蜘蛛はすでに灰と化していた。

「リュウキ様……」

 ヤエはどっと疲れたような表情を浮かべる。
 彼女に向かってリュウキは優しく微笑みかけた。人差し指で小さな火を放ってから、ヤエに巻きつく糸を静かに燃え千切っていった。

 やっとの思いで解放された彼女の両手首には、うっすらと赤く跡が残っている。

「ヤエ、大丈夫?」
「はい。助けていただきありがとうございました」
「いいんだよ。怪我はしてないようでよかった」

 まだ放心状態の彼女をじっと見つめ、リュウキは小首を傾げた。

「それにしても……ここでヤエは何をしていたんだ?」
「そ、それは」

 ヤエは目線を下に落とす。
 
「朝食を」
「え?」
「リュウキ様の為に、朝食の材料を探していました」

 小さな声で、ヤエは確かにそう言った。
 彼女からの意外な言葉に、リュウキは目を見開く。

「僕の、為?」
「昨夜はごちそうになりました。だから今朝は、私が何か作ろうと。立派な筍がありましたので、採っていたところを化け物に……」
 
 その話を聞いて、リュウキの口角はこの上ないほどに上がった。

「ヤエ」
「……はい」
「やっぱり君は優しいなぁ。早速作ってよ!」
「……でも、汚れてしまいましたから」
「そんなの水で洗えばどうにでもなるよ」
「水は貴重です。無駄遣いしないでください」
「どこが無駄なんだよ。こういう時に使わないとね」
 
 そう言いながらリュウキはすっとしゃがみ込み、土まみれに汚れた筍を手に取った。
 どことなくやるせない横顔で、ヤエは筍を眺めている。

 ──だがこの時であった。突如、背後から何かの気配が再び現れる。
 カサカサと竹の葉が揺れる音が微かに響き、リュウキは咄嗟に後ろを振り返った。
 しかし、何もいない。先ほどの蜘蛛が焼け焦げた跡しかない。
 竹林の奥に何かが隠れているのか。リュウキは立ち上がり、周囲を見回す。
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