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第三章
28,怪しい気配
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「リュウキ様? どうされましたか?」
心配そうな表情になるヤエに向かって、リュウキは真顔で「し」と人差し指を鼻に当てる。
その様子を見てヤエは口を閉ざした。
一時期風すらも消え失せ、全く無音の世界に包まれる。
リュウキは神経を集中させて「何か」の気配を捉えようとした。耳を澄ませ、目で周囲を見回そうとするほど息が上がってしまう。リュウキの額からは大粒の汗が流れ落ちていった。
──しかし、いくら身構えていても、その「何か」は現れない。
リュウキの集中力は途切れ途切れになっていく。
「気のせいか……?」
大きく息を吐いた。もし何かがいたのならば、襲われる前にこの場から立ち去ってしまおう。
そう思い、リュウキは一旦気配を追うのを止め、ヤエの方を振り返ろうとした──その刹那。
「うっ……!」
声にもならない悲鳴でヤエが叫んだ。
しまった。
リュウキが振り返った時には、既にヤエの姿がなくなっていた。
「ヤエ!」
右を確認し、左に首を回す。彼女はいない。次にリュウキは上を見た。
するとそこに──糸で全身ぐるぐる巻きにされたヤエが。竹と竹の間に、逆さまになって吊るされていた。
「まずい」
リュウキはすかさず炎を放ち、糸を燃やそうとする。が、その瞬間ヤエの頭上から、大きな黒い影が出現した。いくつもの真っ赤な目でヤエを見下ろしている。
──もう一体。別の巨大蜘蛛がいたのだ。
蜘蛛は腹の先から糸を出し、更にヤエの全身を巻きつけると、彼女を引き寄せてしまった。
身動きが取れないヤエは、蜘蛛の腹に身を固められた。
「くそ、化け物。彼女を放せ!」
思わず口調が荒くなるリュウキ。
あまりの恐怖に、ヤエは叫ぶことすらできない様子だ。
そんな彼らを嘲笑うかのように、巨大蜘蛛はヤエを離さないまま、竹と竹の間を飛び越えてこの場から立ち去ろうとする。
「逃がさない!」
低い声でリュウキは叫び、必死になって蜘蛛の後を追いかけた。
どんなに息が上がっても関係ない。ヤエの身が危険だ。あんな化け物に彼女が食べられてたまるか。
その一心だった。
幸いなことに、巨大蜘蛛は動きが単純。少しばかり距離を離されても、同じ方向にしか逃げていかないので見失うことはなかった。
まっすぐ。一直線でとにかく走る。
好機を見つけて火を放ち、ヤエに巻きついている糸を燃やそう。
リュウキは蜘蛛の様子を窺いながら、必死になって追いかけていく──
やがて周囲には竹林がなくなり、太陽がよく見える場所に行きついた。目の先には崖がある。果てしなく高く、着地点が見えないほどだった。落ちたら命はないだろう。
行き場をなくした蜘蛛は地に飛び降りてきて、リュウキの前に立ちはだかる。威嚇するように、口を開いて唾液を大量に流した。
「汚いなぁ。君たちのそれ、なんとかならない?」
背中がゾワッとするほど、リュウキは化け物の容姿に嫌悪感を覚えた。
再び目の前が赤く染まってくる。流れる血も熱くなり、無意識のうちに炎が全身から噴き出てきたのだ。
「彼女を離してくれないかな」
圧の掛かった口調でそう言うが、蜘蛛にはリュウキの言葉は届かない。
ヤエは酷く震えていた。早く解放してあげたい。
リュウキは彼女を火傷させないよう、火の玉を蜘蛛の顔面目がけて放った。
しかし集中力が不足していた。リュウキは充分な熱を放てなかったのだ。
糸も燃やせないどころか、生ぬるい火の玉は蜘蛛に刺激を与えることすらままならない。
巨大蜘蛛はリュウキの所に飛び掛かってきて、大きな前足を振りかざしてきた。このような単純な攻撃なら避けるのは容易い──そのはずなのだが。
身体が動かなかった。動いてくれなかった。蜘蛛の動きはしっかりと目で追っていたはずなのに。
リュウキはそのまま蜘蛛の前足で身体を思い切り強く押し倒された。
しかし身体は地に打ちつけられることはなく。フワッと全身が浮いている感覚となった。
「リュウキ様……!!」
蜘蛛に捕らわれたまま、ヤエは叫び声を上げた。不安や恐怖に包まれた声色だ。
リュウキは今の状況をすぐに理解した。
果てしない大地へと身が投げ出されている。ヤエの不安な顔も、気持ち悪い蜘蛛の姿もあっという間に遠ざかっていった。
落ちていく。止まることなく、リュウキは断崖絶壁から落とされてしまったのだ。
(まずい。死ぬのか)
冷静にそう思う。叫び声すら上げられなかった。
(ごめん、ヤエ……)
ゆっくりと瞼を閉ざし、自己嫌悪に陥り、リュウキは歯を食いしばる。
彼女の悲痛の声が遠くから聞こえた気がした。しかし、すぐに何も感じなくなる。
──程なくして、リュウキの目の前は真っ暗になった。
心配そうな表情になるヤエに向かって、リュウキは真顔で「し」と人差し指を鼻に当てる。
その様子を見てヤエは口を閉ざした。
一時期風すらも消え失せ、全く無音の世界に包まれる。
リュウキは神経を集中させて「何か」の気配を捉えようとした。耳を澄ませ、目で周囲を見回そうとするほど息が上がってしまう。リュウキの額からは大粒の汗が流れ落ちていった。
──しかし、いくら身構えていても、その「何か」は現れない。
リュウキの集中力は途切れ途切れになっていく。
「気のせいか……?」
大きく息を吐いた。もし何かがいたのならば、襲われる前にこの場から立ち去ってしまおう。
そう思い、リュウキは一旦気配を追うのを止め、ヤエの方を振り返ろうとした──その刹那。
「うっ……!」
声にもならない悲鳴でヤエが叫んだ。
しまった。
リュウキが振り返った時には、既にヤエの姿がなくなっていた。
「ヤエ!」
右を確認し、左に首を回す。彼女はいない。次にリュウキは上を見た。
するとそこに──糸で全身ぐるぐる巻きにされたヤエが。竹と竹の間に、逆さまになって吊るされていた。
「まずい」
リュウキはすかさず炎を放ち、糸を燃やそうとする。が、その瞬間ヤエの頭上から、大きな黒い影が出現した。いくつもの真っ赤な目でヤエを見下ろしている。
──もう一体。別の巨大蜘蛛がいたのだ。
蜘蛛は腹の先から糸を出し、更にヤエの全身を巻きつけると、彼女を引き寄せてしまった。
身動きが取れないヤエは、蜘蛛の腹に身を固められた。
「くそ、化け物。彼女を放せ!」
思わず口調が荒くなるリュウキ。
あまりの恐怖に、ヤエは叫ぶことすらできない様子だ。
そんな彼らを嘲笑うかのように、巨大蜘蛛はヤエを離さないまま、竹と竹の間を飛び越えてこの場から立ち去ろうとする。
「逃がさない!」
低い声でリュウキは叫び、必死になって蜘蛛の後を追いかけた。
どんなに息が上がっても関係ない。ヤエの身が危険だ。あんな化け物に彼女が食べられてたまるか。
その一心だった。
幸いなことに、巨大蜘蛛は動きが単純。少しばかり距離を離されても、同じ方向にしか逃げていかないので見失うことはなかった。
まっすぐ。一直線でとにかく走る。
好機を見つけて火を放ち、ヤエに巻きついている糸を燃やそう。
リュウキは蜘蛛の様子を窺いながら、必死になって追いかけていく──
やがて周囲には竹林がなくなり、太陽がよく見える場所に行きついた。目の先には崖がある。果てしなく高く、着地点が見えないほどだった。落ちたら命はないだろう。
行き場をなくした蜘蛛は地に飛び降りてきて、リュウキの前に立ちはだかる。威嚇するように、口を開いて唾液を大量に流した。
「汚いなぁ。君たちのそれ、なんとかならない?」
背中がゾワッとするほど、リュウキは化け物の容姿に嫌悪感を覚えた。
再び目の前が赤く染まってくる。流れる血も熱くなり、無意識のうちに炎が全身から噴き出てきたのだ。
「彼女を離してくれないかな」
圧の掛かった口調でそう言うが、蜘蛛にはリュウキの言葉は届かない。
ヤエは酷く震えていた。早く解放してあげたい。
リュウキは彼女を火傷させないよう、火の玉を蜘蛛の顔面目がけて放った。
しかし集中力が不足していた。リュウキは充分な熱を放てなかったのだ。
糸も燃やせないどころか、生ぬるい火の玉は蜘蛛に刺激を与えることすらままならない。
巨大蜘蛛はリュウキの所に飛び掛かってきて、大きな前足を振りかざしてきた。このような単純な攻撃なら避けるのは容易い──そのはずなのだが。
身体が動かなかった。動いてくれなかった。蜘蛛の動きはしっかりと目で追っていたはずなのに。
リュウキはそのまま蜘蛛の前足で身体を思い切り強く押し倒された。
しかし身体は地に打ちつけられることはなく。フワッと全身が浮いている感覚となった。
「リュウキ様……!!」
蜘蛛に捕らわれたまま、ヤエは叫び声を上げた。不安や恐怖に包まれた声色だ。
リュウキは今の状況をすぐに理解した。
果てしない大地へと身が投げ出されている。ヤエの不安な顔も、気持ち悪い蜘蛛の姿もあっという間に遠ざかっていった。
落ちていく。止まることなく、リュウキは断崖絶壁から落とされてしまったのだ。
(まずい。死ぬのか)
冷静にそう思う。叫び声すら上げられなかった。
(ごめん、ヤエ……)
ゆっくりと瞼を閉ざし、自己嫌悪に陥り、リュウキは歯を食いしばる。
彼女の悲痛の声が遠くから聞こえた気がした。しかし、すぐに何も感じなくなる。
──程なくして、リュウキの目の前は真っ暗になった。
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