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第六章
54,民の不満
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※
「えっ、嘘だろっ?」
食事を取るついでに、リュウキとヤエは料理屋の女店主と話をしていた。
リュウキは椅子に腰掛けながら神妙な面持ちになっていた。それはヤエも同じ。
「この村にも馬がいないのか……」
落胆するリュウキの声は暗い。そんな彼を眺めながら、女店主は深く溜め息を吐いた。
「そんな残念がられても、あたしらだって困っているんだよ。隣の村に行く足を取られたんだからね」
「取られた……? 誰にですか?」
頭を傾げるヤエを見て、店主は腕を組んで呆れ顔になった。
「国に、だよ! あんたら、西の兵士なんじゃないのかい? その立派な鎧はお飾りなのかね。軍馬が足りないからって、国は肥料と一緒にこのシシ村にいる馬をみんな持っていっちまったのさ。まさか、知らないなんてことないわよねぇ?」
──知らない。
万が一、ヤエとリュウキが西の兵士だったとしても記憶がないので分からない。
しかし明らかに苛立っている店主の様子を見ると、あまり言い訳をしない方が良さそうだ。
苦笑しつつも、リュウキは静かに口を開く。
「それは……シシ村の人たちには悪いことをしたね。代わりに詫びる。申し訳ない」
俯き加減でリュウキが頭を下げるが、女店主は何も言わずに溜め息を吐いた。その目は、
「食べ終わったならさっさと出ていきな」
まるでそう訴えているようだった。
旨い料理が台無しだ。肉饅頭が冷めていく。
急いで食事を終わらせ、リュウキたちはさっさと店を出ていった。
──だが、外に出て村の中を歩いていても、村人たちからはあからさまに白い目で見られてしまう。西軍の鎧を纏う二人を横目に、人々はひそひそと何かを話している。
『国のせいで苦しめられている』
『肥料を大量に生産させられて負担が大きくなる一方だ』
『兵士は所詮、国に仕えている。他人事のような顔をしてこの村を彷徨くな』
『化け物の生産を間接的に加担させられているわたしたちの身になってみろ』
そのような不満の声がひしひしと伝わってくるのだ。
ひとけの少ない路地に入り、ヤエはリュウキに背負われながら小さく唸った。
「あの。リュウキ様……」
少しばかり寂しいような声質になってしまった。
リュウキは歩みを止め、ヤエの方に振り返る。
「なに?」
「……シシ村の方たちは、国に不満を持っているようですね」
「うん。そうだね」
小首を傾げるリュウキの表情は冷たかった。
「先ほどの料理店でのお話や、村人たちの態度、気になりませんか。肥料を納める為の労力を考えると、気の毒で仕方がありません」
「まあ、そうだね。まるで西国は幻草という危険なものを保護しているようにも感じられる」
ヤエは考え込んでいた。西国の政には何か裏があるような気がしてならない。すると、リュウキは心配そうな眼差しで顔を覗き込んでくる。
「ヤエ、どうかした……?」
その声は、優しい。心からヤエを気にかけているように感じる。
リュウキの瞳の奥にはどこか寂しさや迷いがある気がした。そんな彼の目をじっと見つめ、ヤエは呟く。
「シュキ城へ赴き、西の王にもしお会いできることがあれば、事情を聞く必要がありそうですね」
「お? ヤエ、すごい度胸だね! 西王に拝謁するのか」
「民は巻き込まれています。どうにかしたいと思いませんか?」
「うーん、どうだろう。僕は内政のことに関してよく知らないし。僕が最西端の幻草を燃やし尽くせば解決なんじゃないかな」
「……いかほどの幻草があるか分からないのですよ。全て焼き払えなかったらどうします」
「そんなこと言っても、僕は今のところ一般兵だからね! そこまで深く考えてられないさ」
リュウキはいつもの調子で笑いあげた。
彼の答えに、ヤエは心底がっかりした。
「やはり私は、あなたがよく分かりません……」
「えっ、なんで?」
「優しい方なのか、冷たい人なのかよく分からないんです」
「うーん。どちらかというと僕は冷酷な人間かもしれないよ……。でも、ヤエには優しくしたいかな」
リュウキの言葉を聞いて、ヤエは口を開けなくなる。
あまりにも神妙な面持ちだったから。ふざけているわけではない。彼の本心で言っていると思ったからだ。
「えっ、嘘だろっ?」
食事を取るついでに、リュウキとヤエは料理屋の女店主と話をしていた。
リュウキは椅子に腰掛けながら神妙な面持ちになっていた。それはヤエも同じ。
「この村にも馬がいないのか……」
落胆するリュウキの声は暗い。そんな彼を眺めながら、女店主は深く溜め息を吐いた。
「そんな残念がられても、あたしらだって困っているんだよ。隣の村に行く足を取られたんだからね」
「取られた……? 誰にですか?」
頭を傾げるヤエを見て、店主は腕を組んで呆れ顔になった。
「国に、だよ! あんたら、西の兵士なんじゃないのかい? その立派な鎧はお飾りなのかね。軍馬が足りないからって、国は肥料と一緒にこのシシ村にいる馬をみんな持っていっちまったのさ。まさか、知らないなんてことないわよねぇ?」
──知らない。
万が一、ヤエとリュウキが西の兵士だったとしても記憶がないので分からない。
しかし明らかに苛立っている店主の様子を見ると、あまり言い訳をしない方が良さそうだ。
苦笑しつつも、リュウキは静かに口を開く。
「それは……シシ村の人たちには悪いことをしたね。代わりに詫びる。申し訳ない」
俯き加減でリュウキが頭を下げるが、女店主は何も言わずに溜め息を吐いた。その目は、
「食べ終わったならさっさと出ていきな」
まるでそう訴えているようだった。
旨い料理が台無しだ。肉饅頭が冷めていく。
急いで食事を終わらせ、リュウキたちはさっさと店を出ていった。
──だが、外に出て村の中を歩いていても、村人たちからはあからさまに白い目で見られてしまう。西軍の鎧を纏う二人を横目に、人々はひそひそと何かを話している。
『国のせいで苦しめられている』
『肥料を大量に生産させられて負担が大きくなる一方だ』
『兵士は所詮、国に仕えている。他人事のような顔をしてこの村を彷徨くな』
『化け物の生産を間接的に加担させられているわたしたちの身になってみろ』
そのような不満の声がひしひしと伝わってくるのだ。
ひとけの少ない路地に入り、ヤエはリュウキに背負われながら小さく唸った。
「あの。リュウキ様……」
少しばかり寂しいような声質になってしまった。
リュウキは歩みを止め、ヤエの方に振り返る。
「なに?」
「……シシ村の方たちは、国に不満を持っているようですね」
「うん。そうだね」
小首を傾げるリュウキの表情は冷たかった。
「先ほどの料理店でのお話や、村人たちの態度、気になりませんか。肥料を納める為の労力を考えると、気の毒で仕方がありません」
「まあ、そうだね。まるで西国は幻草という危険なものを保護しているようにも感じられる」
ヤエは考え込んでいた。西国の政には何か裏があるような気がしてならない。すると、リュウキは心配そうな眼差しで顔を覗き込んでくる。
「ヤエ、どうかした……?」
その声は、優しい。心からヤエを気にかけているように感じる。
リュウキの瞳の奥にはどこか寂しさや迷いがある気がした。そんな彼の目をじっと見つめ、ヤエは呟く。
「シュキ城へ赴き、西の王にもしお会いできることがあれば、事情を聞く必要がありそうですね」
「お? ヤエ、すごい度胸だね! 西王に拝謁するのか」
「民は巻き込まれています。どうにかしたいと思いませんか?」
「うーん、どうだろう。僕は内政のことに関してよく知らないし。僕が最西端の幻草を燃やし尽くせば解決なんじゃないかな」
「……いかほどの幻草があるか分からないのですよ。全て焼き払えなかったらどうします」
「そんなこと言っても、僕は今のところ一般兵だからね! そこまで深く考えてられないさ」
リュウキはいつもの調子で笑いあげた。
彼の答えに、ヤエは心底がっかりした。
「やはり私は、あなたがよく分かりません……」
「えっ、なんで?」
「優しい方なのか、冷たい人なのかよく分からないんです」
「うーん。どちらかというと僕は冷酷な人間かもしれないよ……。でも、ヤエには優しくしたいかな」
リュウキの言葉を聞いて、ヤエは口を開けなくなる。
あまりにも神妙な面持ちだったから。ふざけているわけではない。彼の本心で言っていると思ったからだ。
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