【完結】炎の戦史 ~氷の少女と失われた記憶~

朱村びすりん

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第十六章

140,暴れる炎の龍

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 シュウの言葉に、東兵たちは狼狽え始める。
 しかし将軍は大きく首を振るのだ。

「これは東西の戦だ。立ち去るなど出来ぬ。最西端へ赴き、この世の災いとなっている紅い幻草を処分せねばならないのだ!」

 荒々しい口調で訴える将軍に、シュウは無表情で頷いた。

「分かっている。わたしも幻草の消滅を望んでいるのだ。だが恐らく、今シュキ城には北の皇帝がいる。戦に赴いたとしても、奴に全員殺されるだろう」
「なんだと……!?」

 シュウはあくまでも冷静に、東軍に退くよう願った。

 ──ハクの脚の残骸を見た限り、既にリュウトはこの周辺にいるのは間違いない。

 戦の前に兵たちがリュウトの手によって無念の死を遂げることは目に見えていた。
 だが、シュウの説得に簡単には応えてくれない。

「その話は誠なのか? なぜ北皇帝がシュキ城にいるのだ? 全く理由が分からない」
「北皇帝は人間を滅ぼそうとして東西の争いと幻草、化け物を利用している。そなたたちが争うほど、リュウトの謀にはまっているのも同然だ。今、西を攻めるべきではない」

 将軍は一瞬迷ったような表情を浮かべた。だが、ぎこちないながらも首を横に振る。

「我らは何があろうとも最西端へ赴けと軍師に命じらているのだ。今更引き返すわけにはいかぬ」

 その言葉に、シュウは眉を潜めた。

 ──シュウ自身も軍に仕えてきた身である。将軍の考えは痛いほど理解できた。軍法に背けば重い罰を受けることもあるのだ。
 たまたま出会った、しかも他国の元武将に何を言われたとしても簡単には受け入れられないだろう。

 なかなか話が進展しないことにしびれを切らせたのか、将軍は大きく息を吐いた。

「我らはこのまま進軍する。阻もうとするなら、そなたの命はないと思え」

 捨て台詞を吐いてから、将軍は進軍し始めた。シュウの目の前を通り過ぎ、崩壊した城門へと向かっていく。

「待て」

 行かせるわけにはいかない。このままでは……何万をも越える更なる犠牲が出てしまう。

 シュウは自身の無力さに呆然とした。

 ──そもそもヤエとリュウキを巻き込んだことがいけなかった。二人に幻草薬を飲ませ、危険な目に遭わせてしまった。リュウキに炎の力が覚醒したからと、それを利用する為にシュキ城へ導いた。
 国の争いを止めるには、北皇帝に信頼を得なければならなかったのに。全ての計画が崩れてしまった。
 どこで道を誤ったのだろう。
 いや、それ以前にこんな自分に世の和平を取り戻す力など元々ない。だから家族や仲間を巻き込む事態になった。
 情けない。なんて情けないのだろう。
 シュウはこんな自分を恥じる。

「行くな……シュキ城へ行くな!」

 東軍に向かって叫ぶしかなかった。しかし、シュウのその声は、馬の蹄と兵士たちの足音によってかき消される。
 絶望に陥った、その刹那であった。

「……なんだっ?」

 進軍が止まった。兵士たちは皆、西の方角を見て驚いたような顔をする。
 釣られるように、シュウもその目線の先を見た。

「まさか」

 西の方角──おそらく最西端だ。シュキ城がある方から、炎が立ち上がっているではないか。遠方でもはっきり分かる。
 その炎は「龍」のような形をして、空を暴れ回っている。

 呆気に取られていると──炎の龍は見る見る巨大化していった。遠方であるはずなのに、爆発音のようなものがはっきりと聞こえた。
 見たこともない不気味な炎に、シュウは固唾を呑みこむ。

 龍はまるでもがいているようだ。口部分を大きく開いた次の瞬間、火を噴き出した。シュキ城の周辺が瞬く間に燃え始める。
 その範囲は徐々に広がっていき──

「まずい!」
「皆、退け!」
「火に炙られるぞ!!」

 なんと龍の放つ炎は一気に城外にまで飛散してきたのだ。火の玉の形をしたものが次々と襲いかかってくる。

 シュウは手綱を掴み、城門の更に離れたところまで馬で駆けていく。
 何もない平地に、隠れる場所などない。乱暴に飛んでくる火の玉を避けるしかなかった。

 背後では、兵たちの混乱する姿。乱れつつ逃れようとするが、火の玉に直撃する兵が後を絶たない。

「皆の者、逃げよ! 逃げるのだ!!」

 将軍は焦りながらもどうにか軍を退かせる。しかし数十人が岩のような火の玉に身体を打ち付けられ、倒れ込んでいった。皆、衝撃と熱さによって次々と息絶える。

「南門から入るしかない……」

 狼狽える東軍たちを横目に、シュウは急いで南側へと馬を走らせた。

 ──間違いない。暴れ回るあの炎の龍は、リュウキだ。暴走を止めなければ、シュキ城が燃やされるだけでは済まされない。炎の力が、災いとなってしまう。 
 シュウは手に汗を握り、無我夢中で馬を走らせた。
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