【完結】炎の戦史 ~氷の少女と失われた記憶~

朱村びすりん

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第十七章

148,絶望の狭間で

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 闇の中でリュウキは孤独に震えていた。
 目に映る全てのものが赤くなっている。血よりも赤く、炎のように熱く眩しい。

 自制が効かなかった。どんなに抑えようとしていても無駄だった。
 じわじわと精神が破壊されていくのを感じた。火を噴くように心の中で叫び続ける。この絶叫は現実世界で形作られ、周囲のもの全てを燃やしていった。どんなにもがいていようとも、苦しみから解放されることはない。むしろどんどん闇の世界へ堕ちていく。

 自分はもう、誠の化け物になってしまう。自我を失い、何もかも忘れ、この世の全てを燃え尽くすまで暴れ続けるのだろう。

『苦しい』
『苦しい』
『苦しい……』

 どこからともなく、悲痛の声が響きわたってきた。それと同時に、ふとリュウキの脳裏に辛そうな表情を浮かべる人々の姿が浮かんだ。
 彼らは皆、涙を流している。瞳は赤黒く、目の焦点が合っていなかった。老若男女問わずふらふらと右往左往し、呻き声を上げているのだ。

(なんだろう……)

 頭の中に流れる光景が何なのか、リュウキは把握出来ずにいた。

『苦しい』
『苦しい……』
『苦しいんだ……』

 彼らの周辺は、巨大な炎で囲まれていた。メキメキと音を立てながら、行く手を阻むかのように燃え続けている。

(……どこかで見たことのある光景だ)

 だが、今のリュウキには思考を巡らせる気力がない。

(苦しいのは僕も同じだ)

 リュウキにとって、その悲鳴は雑音に過ぎなかった。

 ──そんな折である。
 ふと目の前に景色が見えた。いや、見えたのではない。
 意識が戻らないまま、現実世界の今を脳内で・・・眺めている。そんな感覚だった。

 リュウキの周辺は、いつの間にか地獄と化していた。城や城壁は燃え崩れ、辺り一面に万を超える人間の死骸が転がっている。しかも──それらを貪る、動物たちの姿があった。
 
(動物? いや……違う)

 彼らは皆、目が真っ赤に染まっている。リュウキのように、心を失った様で血を浴びながら。

(そうか。彼らも化け物になったんだね……)

 そう理解したとき、リュウキの中に再び何かが響いてきた。先程とはまた違ったものだ。甲高く、走馬灯のように次々と脳裏に過っていく。

 それは「悲しみ」にも聞こえるし「苦しみ」のような悲鳴にも思えた。
 数千、数万、数十万、もしかすると億を超えているかもしれない。計り知れない絶望を乗せた叫び声がリュウキの中に流れ込んでくる。 
 正常な精神であったら、耳を塞いだのかもしれない。だが、どんなに煩わしくても、もはやリュウキには何も感じない。
 全てがどうでもよかった。
 だから、意識を完全に手放そうとした。化け物になるのならば、自分が自分であることも忘れてしまう。今更精神を取り戻すなんて無理だ。リュウキはそう思っていた。
 その刹那である。

『リュウキ様』

 悲鳴の中に、微かに優しい声が聞こえた。
 無になろうとしていたリュウキは、そこでハッとする。

(……君は)

 胸の鼓動が高まる。
 今の今まで全てがどうでもよいと思っていたのに。
 リュウキは再度、悲鳴の中に紛れる「声」を探し求めた。

(君の声が聞こえた気がした。もう一度、僕を呼んでくれないか……?)
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