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第十八章
159,ヤエの憂い
しおりを挟む「朱鷺の君もハクも、覚悟を決めた顔つきをしているな。本当によいのか」
渋い声で、シュウはそう問いただす。彼らしくなく、未だに戸惑っているようである。
しかし朱鷺の少女もハクも、躊躇することなく頷くのだった。
「いいからさっさと燃やしやがれ! ここにいる化け物たちもそろそろやり合うようだぜ?」
ハクは化け物たちを睨みつける。
食い荒らされた兵士たちの死骸は、もうほとんどが骨になっていた。
次の獲物を狙うように化け物たちはじわじわとこちらに近づいてくるではないか。
「ハク……」
震えた声で、ヤエはハクの前に立つ。今にも泣きそうな顔だった。
「どうした、ヤエ」
「あなたたち化け物が辛いのは分かった……。でも、その苦しみからいつか逃れられたらって思うの。一緒にその方法を見つけない?」
「あのな、ヤエ。もたついてたら本当に人間が滅ぼされるかもしれないんだぞ。それに……俺はもうこんな体になっちまった。もう、ヤエを守ることはできねぇんだよ」
「守られなくてもいい! 一緒にいるだけでいいから……!」
彼女は最後の最後まで飽きらめきれていないようだった。
本当はこの場にいた全員が同じ想いだろう。
複雑な表情を浮かべ、シュウはそっとヤエの右肩に手を置いた。
「もうやめろ、ヤエ」
「兄様、でも……」
「これは戦争だ! 私情でどうこうなる話ではない。わたしとて、家族や仲間を失うのは本望ではない。犠牲をこれ以上増やしたくない。しかし、ここで紅い幻草を燃やさなければ、化け物によって辛い想いをする人々がもっと増えてしまうのだぞ……!」
シュウにそう言われると、ヤエは歯を食いしばる。涙目になり、顔を真っ赤にした。
そんな彼女を見つめるシュウも、切ない瞳の色を浮かべている。
「ねえ、ヤエ」
頬を赤く染めながら、朱鷺の彼女は朗らかに微笑んだ。
「黄泉の国にいくだけだよ。寂しくない。この世が和平を手にするまで、きっと見届けられるから」
温和な声でそう語ると、朱鷺の少女はそっと両翼でヤエを抱き締める。
何も答えなかったが、ヤエは目の奥を潤わせながらも穏やかな表情となっていく。
束の間、静寂が流れた。
次の瞬間。
「危ねぇ!」
突如ハクが叫び、ヤエと朱鷺の少女の前に立ち塞がる。
化け物の大鹿が、飛びついてきたのだ。
すかさずハクは後ろ脚で大鹿を蹴り飛ばす。
「泣いてる暇なんかないぜ……」
ハクは低く唸り、静かに辺りを見回した。
その目線の先には──真っ赤な目でこちらを睨む化け物たちがいる。涎を垂らし、今にも一斉に飛びかかってきそうだった。
「リュウキ様、化け物たちは我々が食い止めます。どうか、紅い幻草を燃やして下さい」
シュウは氷の剱を構えた。その目には、もう迷いなどない。
大きく頷き、リュウキは拳を握り締めた。
化け物の数は夥しい数に増えていた。倒壊したシュキ城の瓦礫の隙間からも現れ、空には大鳥が大量に飛行し、リュウキたちを囲む獰猛な化け物を合わせると恐らく数万を超えている。
一晩もしないうちにこれほどの数が増殖されてしまうのだ。いかに恐ろしいことか。
リュウキの足が勝手に震え始めた。
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