お望み通り、別れて差し上げます！

3

今や完全にフェリアを見下して勝ち誇っているリオルは、そんな提案をし始めた。
フェリアはそんな男を見て小さく息を吐くと、にっこりと効果音が付きそうな程に、見事なまでに美しい笑顔を浮かべた。


「いえ、お気になさらず。婚約締結時に両家で交わした契約通りのものを支払っていただければそれで十分ですわ。とはいえ、私もあなたも、今話した内容を確実なものにしたい気持ちは同じでしょう。最近事業の調子が良いブレイズ伯爵家の令息である貴方の事です。公的な証明になり得る物を何か用意されているのではなくて?」

フェリアのその言葉を聞いたリオルは、口の端をゆがめると、嘲けるように知ったまま口を開いた。


「はっ、お前もどうやら必死なようだな。そんなに僕が支払いを踏み倒すことを疑っているのか?まあいい。僕としてもカミラと結ばれる為にお前とは後腐れなく別れたい。今すぐ書類を作成して持ってきてやる。ここで少し待っていろ。」

そう吐き捨てると、今後の事を想像しているのか、上機嫌に去っていった。
カツカツと遠ざかっていく足音を背景に、一息つこうとしたところで、足音が近付いてきた。あまりにも帰ってくるのが早いと感心しそうになった所ではたと気が付く。先程よりも音が軽快だったのだ。
コツコツと小気味良い音が近付いて来て、扉の前で止まった。
フェリアは小さく溜息をつくと、新たな面倒事の気配に小さく眉をひそめる。
しかし、そんな様子も、室内に響いたノックの音と共に綺麗さっぱり霧散する。
入室を許可すると共に現れたのは、彼女が予想していたのと違わぬ顔であった。


「ごきげんよう、フェリア様。」

にっこりと表現するにはいささか邪念が多いように見える。後ろ手に扉を閉めたその女は、フェリアに向かって軽く挨拶すると、ローテーブルを挟んだ向かい側に何のためらいも無く腰を下ろした。
どうやら出ていくつもりなど毛頭無く、しばらくは居座るつもりでいるようだ。嫌な予感というものほど、どうしてこうも当たるのか、と痛み出した頭を無視して、フェリアは向かいに座る女へと意識を集中させることにした。


「ええ、お久し振りですわね、カミラ様。」