【R18】私が後輩のセフレに沼ってから別れるまでのお話。

志貴野ハル

文字の大きさ
28 / 37
第7章

しおりを挟む
 ユウマくんと言い合った春が過ぎて夏休みに入っても、なかなか順調に進まない就活は、移動費もホテル代もかさんだ。
 卒業に必要な単位をすでに取り終えていたのが唯一の救いだった。

 テレアポのバイトを週五に増やして、週一のゼミや企業選考以外はほとんど家の中でバイト漬けの生活になる。おかげで就活に必要なお金を捻出することができたけど、大学生というよりアルバイターの気分だ。
 親からは、地元に帰ってくるなら卒業までに決まらなくても多少の援助はすると言われた。だけどそれだけは絶対に嫌だった。過疎化の進んだ寂れた地元に戻ったところで給料も低いし、娯楽もないし、いいことなんて一つもない。そもそも私は地元を出たくてここの県外の大学を選んだんだから。


『最近、シフトにほとんど毎日入ってくれてますけど、就活は順調ですか?』

 パソコンの前で、ゼミの教授に言われたことを、バイト先のリモート面談でも聞かれて苦笑する。

「それがまだ……、職種を選んでいるわけでもないんですけど」

 バイトや契約社員の業務態度を見ながら、次の契約期間を判断する人事のお姉さんは『懐かしいなぁ』と笑いながら、上手くいかない私の就活話を聞いてくれた。

『どこでも良くて、さっさと決めてしまいたいなら、うちに来ますか?』
「え?」
『本社の選考通してないので大卒としての正社員枠ではなくて、最初は契約社員枠でのスタートになると思いますけど。大学一年の頃からずっと働いてきてくれたでしょう? 学生のリモートなんて特にバックれやすいのに、逃げずに今まで続けてきてくれているから、仕事に対する真面目ぶりは知ってますし。契約社員といっても名ばかりで、一年経ったらというか、早くて半年でも正社員になれると思いますよ』
「え、そんなことできるんですか」
『ぶっちゃけこの業界、本当に人不足で。毎年、十人くらい新入社員としてこっちに配属されても、残るのは数年に一人か二人なんですよね。ほとんどベテランさんの正社員登用で成り立っているようなもので。
 だから来てくれるなら嬉しいです。……あ、なんなら今、面接しますか? 部長がそこにいるので。形だけになると思うけど』

 一、二分、画面がミュートになった後、画面の横から今まで会ったことのないスーツ姿の男性が映し出された。三十歳を少し過ぎたくらいの、色黒でスポーツやアウトドアが好きそうな若い外見で、どことなく藤さんに似ている。

『初めまして。実は今まで横でやり取りを聞いていました』
「あ、初めましてっ。よろしくお願い致します」

 お互いに名乗ったところで、『はい、じゃあ採用』とあっさり言われる。

「えっ」
『今までの面談記録も見ていたし、たまに業務ログも聞いていて仕事ぶりも人柄も本当に文句ないから。そちらがよろしければですが』
「え、こんなあっさりでいいんですか!?」
『いいですよー。契約社員になってからの仕事内容も特に今までと変わらないし、正社員になっちゃえば、いずれリーダーというか役職ついたりしちゃうけど。……でも、ねえ、それはおいおいになるの? 今いける?』
 部長と呼ばれた人が椅子の背もたれに体を預けて、画面の外にいるであろう人事のお姉さんに声をかける。
『とにかく、僕からは採用ということで以上です。他に聞きたいことはあればどうぞ』
「え、えぇと」

 本当に形だけの面接で、何を聞けばいいのかが出てこない。聞いたほうがいいんだっけ。活かしきれない就活マニュアルが頭をよぎるけどこの場合はどうなの。

「特に、ないです……」
『はーい、それでは四月、会えるのを楽しみにしてます。卒業まであと少し頑張ってください』
「あっ、ありがとうございます!」

 画面越しに深々と頭を下げる。終始軽い調子で手を振って画面の外に出ていく部長を見送ると、入れ替わりで人事のお姉さんがひょこっと顔を出した。

『ね、形だけだったでしょ』
「はい。本当にいいんですか……?」
『うん、問題ないです、面接は面接なので。一応、あの人ここでは一番偉い人なんですよ。あ、あと、さっき契約社員枠と言ったのですが、今がもう契約社員みたいな形になっていたので、四月から正社員としてお願いします。その前に色々、研修を挟むと思いますけど』
「よ、よろしくお願いしますっ」
『はい! これで就活終了、おめでとうございます! 研修など今後の日程については後ほどメールするので、すみません、面談、長くなってしまいました。一時間しっかり昼休憩をとって、午後の業務もよろしくお願いします』
「いえっ、ありがとうございます」

 面談を終えてパソコンを閉じる。
(……ええと、これで本当に就活、終わったのかな)
 あまりにもとんとん拍子で進んだから、まだ信じられない。
 だけどその日の夜には、堅苦しい文言で書かれた正式な採用通知と、入社前に一度会社へ来てほしいというメールが届いて、ようやく実感が湧いた。配属先だという会社の住所はユウマくんの地元だと言っていたところだった。
 ユウマくんがそばにいたときは、彼の地元を見てみたくて就活にかこつけて足を運んだりもしたけど、離れてからどこでもいいと投げやりになっていた。それなのに、ここに来て妙な縁が生まれて可笑しくなる。
 ユウマくんと言い合いになってから三ヶ月経って、一度も声を聞いていないし、会ってもいない。最初の一週間は電話が何度も来ていたけど、出る勇気がなくて無視していたら、とうとう来なくなった。
 本当は就職先が決まったことを伝えたかったけど、友達でもない私が、彼女がいる人にそこまでするのは大丈夫なのかと思うと、怖くてできない。
 もうきっぱりと断ち切ってこのまま終わりにしたほうがいい。わかっているのに、この三ヶ月の間、いまだに金曜日の夜に来てくれるのではないかと期待して、隣にユウマくんがいないことに違和感を覚える。
 考えないようにしているのに、気づいたらユウマくんのことばかり頭に浮かんできて、自分がおかしくなりそうだった。
 もうさっさと卒業したい。彼と会えない距離に行ってしまいたい。そう思う自分と、また会いたいと思う自分がせめぎ合っていて、ぐらぐらと揺れる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...