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第五話
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ニクラスと共に現れたのは、確か以前に仲の良いお友だちなのだと紹介された方々です。彼らのテーブルから楽しげに会話する声がここまで届き、わたくしは強い後ろめたさを感じて青ざめました。
女人禁制の場所に出入りしているなんて知れたら、はしたない女だと思われて、嫌われてしまうかもしれません。それも婚約者がいる身で、護衛も同伴とはいえ他の殿方と……。
――こんなところ、来るのではなかった!
しかし今慌てて席を離れては、逆に目立ってしまうでしょう。わたくしはなるだけ目立たないように、店の奥で息を殺しました。
しばらくして飲み物が到着したらしいニクラスたちの話が、さらに盛り上がりを見せ始めたころ。この隙にそっと店を出ようとテーブルを離れかけた、その時でした。――大声で話す彼らの会話が、図らずして耳に入ってきたのです。
「お前、本当に上手くやったよなぁ! 結婚と同時に叙爵が決まったんだろ!? いくら王女殿下といってもあんな地味な鶏ガラ姫相手に熱心に愛を囁くなんてよくやるなぁと思ったが、爵位付きなら話は別だよ。あーあ、嫡男じゃないってだけで爵位の継げない俺らは不遇だよなぁ」
そう大声で嘆く友人らしき男に向かい、ニクラスは勝ち誇ったような声で答えます。
「まぁあんな鶏ガラ姫のお相手も、王家の血を引く次代が確保できるまでの我慢だからな。後はいくらでも、好みの女を連れてくればいい」
「でも、曲がりなりにも相手は王女サマだぞ? 夫が浮気してるって陛下に泣きつかれたら、マズいんじゃないか!?」
「そんなもの、結婚してしまえば夫に文句なんて言わせないさ。それが地味でおとなしい女の唯一の利点だろ? お前の婚約者、美人だけど気が強そうだもんな!」
「ああー、早まったかな。お前が叙爵するって噂を聞いて、彼女が早く出世しろってこの頃うるさいんだよ。贈り物の要求も年々高額になってくしさぁ」
「その点、王女サマはいいぞ? 日頃から贅沢品には満足していらっしゃるから、一輪の花に甘い言葉を添えて渡すだけでいい。俺から貰えるなら何でも嬉しいんだってさ」
「マジかよ!? 逆だと思ってた……」
「ま、俺はお前等とはココの出来が違うからな」
頭の横を指差しながらニクラスが笑うと、友人は悔しそうに麦酒の杯を振り上げて言いました。
「ああクソ、いい気になりやがってよぉ! 俺も今の女さっさと捨てて、どっかの醜女の逆玉狙おうかなぁ」
そのままゲラゲラと笑い合う声が聞こえて……その間、わたくしが手に持ったままのカップを、カタカタと小刻みに鳴らしていると――まるでその震えを止めようとするかのように、そっと温かい手が重ねられました。血の気が引き、冷え切っていた指先に……じんわりと熱が戻って来るようです。
「すまない、こんなところに連れてくるべきではなかった。――行こう」
ベルトラン様の静かな声に促され、店を出てゆくわたくしに……婚約者は最後まで、気づくことはありませんでした。
女人禁制の場所に出入りしているなんて知れたら、はしたない女だと思われて、嫌われてしまうかもしれません。それも婚約者がいる身で、護衛も同伴とはいえ他の殿方と……。
――こんなところ、来るのではなかった!
しかし今慌てて席を離れては、逆に目立ってしまうでしょう。わたくしはなるだけ目立たないように、店の奥で息を殺しました。
しばらくして飲み物が到着したらしいニクラスたちの話が、さらに盛り上がりを見せ始めたころ。この隙にそっと店を出ようとテーブルを離れかけた、その時でした。――大声で話す彼らの会話が、図らずして耳に入ってきたのです。
「お前、本当に上手くやったよなぁ! 結婚と同時に叙爵が決まったんだろ!? いくら王女殿下といってもあんな地味な鶏ガラ姫相手に熱心に愛を囁くなんてよくやるなぁと思ったが、爵位付きなら話は別だよ。あーあ、嫡男じゃないってだけで爵位の継げない俺らは不遇だよなぁ」
そう大声で嘆く友人らしき男に向かい、ニクラスは勝ち誇ったような声で答えます。
「まぁあんな鶏ガラ姫のお相手も、王家の血を引く次代が確保できるまでの我慢だからな。後はいくらでも、好みの女を連れてくればいい」
「でも、曲がりなりにも相手は王女サマだぞ? 夫が浮気してるって陛下に泣きつかれたら、マズいんじゃないか!?」
「そんなもの、結婚してしまえば夫に文句なんて言わせないさ。それが地味でおとなしい女の唯一の利点だろ? お前の婚約者、美人だけど気が強そうだもんな!」
「ああー、早まったかな。お前が叙爵するって噂を聞いて、彼女が早く出世しろってこの頃うるさいんだよ。贈り物の要求も年々高額になってくしさぁ」
「その点、王女サマはいいぞ? 日頃から贅沢品には満足していらっしゃるから、一輪の花に甘い言葉を添えて渡すだけでいい。俺から貰えるなら何でも嬉しいんだってさ」
「マジかよ!? 逆だと思ってた……」
「ま、俺はお前等とはココの出来が違うからな」
頭の横を指差しながらニクラスが笑うと、友人は悔しそうに麦酒の杯を振り上げて言いました。
「ああクソ、いい気になりやがってよぉ! 俺も今の女さっさと捨てて、どっかの醜女の逆玉狙おうかなぁ」
そのままゲラゲラと笑い合う声が聞こえて……その間、わたくしが手に持ったままのカップを、カタカタと小刻みに鳴らしていると――まるでその震えを止めようとするかのように、そっと温かい手が重ねられました。血の気が引き、冷え切っていた指先に……じんわりと熱が戻って来るようです。
「すまない、こんなところに連れてくるべきではなかった。――行こう」
ベルトラン様の静かな声に促され、店を出てゆくわたくしに……婚約者は最後まで、気づくことはありませんでした。
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