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3章
37-3 パーティにて
しおりを挟む「なに……」
レインはアナベル様に目を向けず、私たちに向かって合図をした。空中に浮かんだままだった私は扉に向かって指を向けた。指に合わせて会場の扉が開く。
そこにいたのはジェイデン様と一人の青年。セオドア様が隣に付き添っている。
「お前は……」
ギリングス辺境伯とアナベル様は言葉を失った。同時に表情を失ったようで口をだらしなく開けている。
「見覚えがあるでしょう?バーナード様が亡くなった時の従者です」
レインがそう言うと、ジェイデン様は穏やかに微笑んだ。
「この男と私がバーナード・リスター様を殺しました。アナベル様とギリングス家に命じられて」
ジェイデンの落ち着いた声が響いた後に「嘘よ!」とアナベル様が叫んだ。ギリングス辺境伯は「バカバカしい、付き合ってられない」と席を立ち、夫人と息子を連れて外に出ようとする。
そんな彼らの前に立ちはだかったのは、王都から派遣された騎士団だ。
「ギリングス辺境伯。国王からも話を聞きたいと要請がありましたので、王都までご同行いただけますか?」
「国王?」
「ええ。リスター家だけでなく、貴方が関係した事件についての報告がいくつか来ております。魔法省からも申請が出されていない魔法生物や、魔法具の事故など様々な問題があがってきていまして。とにかく王都まで同行ください」
騎士団は彼の返事を聞くこともなくギリングス辺境伯の両隣を囲んで、そのまま会場の外に連れ出していった。残された夫人と息子も慌てて会場から出ていく。
壇上には一人アナベル様が残されたまま。
「……ジェイデン、撤回しなさい。そんな嘘ついてどうするのよ」
「真ですから」
「貴方だって投獄されるのよ!」
アナベル様が鋭く叫ぶが、ジェイデン様は凪いだ表情でどこかを見つめたまま返事をしない。
すると騎士に囲まれている不正者たちが叫び始めた。
「レイン様!アナベルは悪女です!私たちは彼女に唆されて金銭を受け取っただけです!」
「そうだ、それに受け取った金の一部は彼女に渡している!」
「アナベルに脅されてやったことです!」
「私たちは騙されたんだ!全てあの女の計画だ!」
先程までしおらしくしていたのに、一人が叫べば我も我も後に続いていく。叫んだところで己の罪が軽くなるわけでもないのに。
アナベル様に溺れ、汚い金を手にしてきた醜い者たち。
アナベル様は喚く彼らを冷めた目で見下す。今まで彼女に溺れてきたくせに、もう彼女に熱い目線や甘い声を送る者は一人もいない。
欲で繋がった関係は脆く、一瞬で彼女の築いた理想の国は崩れさった。
「アナベル、書類としての証拠はなくてもこれだけの証人がいるのなら貴女は罪からは逃れられない」
喚く男たちを冷たい目で見たレインは一歩前に出て、アナベル様に最後の言葉をかける。
「私は無罪よ」
「その話は王都で聞いてくれると思うよ。どちらにせよ貴女の居場所はもうリスター領にはない」
「……!」
レインの言葉を顔を赤くした、アナベル様は突然顔をあげた。空中に浮かんでいる私を激しく睨みーー私に向かって手を伸ばした。
まさか!そう思った時には、私に向かって氷の刃が放たれていた。私目掛けて鋭い刃が飛んでくる。
「セレン!」
慌てて手を胸の前にかざすと、私の目の前に大きな氷の塊が現れた。
アナベル様の放った刃は、氷の塊にザクッと刺さった。
……一部貫通してお腹に刺さっているけれど、このドレスはお腹にレインのアレルギー対策のハンカチを仕込んでいたからなんとかセーフだ。
次の攻撃に備えるけれど、刃は向かってこない。
地上に目を向けると、なんとレインがアナベルに飛びかかっていた!
「レイン!」
レインはアナベルを抱きしめるように覆いかぶさっている。
それでは、発作が出てしまう……!
アナベル様もレインの行動に驚いたように目を開いてから、私をもう一度ギッと睨んだ。
女の恨みは女に向くらしい。レインと揉み合いながらも私に向かって再度刃を飛ばす。
私ももう一度氷の塊を作って前に放った。
空中で塊は刃とぶつかり、刃を粉々にする。勢いが止まらない氷の塊は、醜い有力者たちの上にうまいこと落ちてくれた。あまりにも喚いていたのでこれで静かになることだろう。
駆けつけた騎士がアナベル様を魔力を封じるロープで縛り付けたのを確認して、私は地上に降り立った。
アナベル様は、汚い男たちよりも、彼女を断罪したレインよりも、私に殺意を向けている。
ああ、この人は本当にレインを愛していたのだ。歪んだ形と言えど。
「呪われたままでいなさいよ」
アナベル様は連行されながら、レインに呪いの言葉を吐いた。
彼女の姿が見えなくなってからレインは「ご心配なく」と扉に向かってつぶやいた。
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