四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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婚約(正式)

雪解け

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 躊躇無く首にネックレスを付けたエレノアに、バルフレは目を見開いた。

 表情の乏しかった彼が目を丸くする様は、誰が見ても驚くものであった。


「エレノア……?」


 彼女の取った行動に、バルフレは動揺を隠しきれていなかった。
 承諾も拒否も、声に発することなく彼女はネックレスを付けたのだから。


「バルフレ様」


 エレノアの声に、バルフレの肩が震える。
 目の前にいる彼女は、無邪気に笑っていた。


「私のために作ってくれたんですよね?このネックレス」


 エレノアは、首から降りている宝石を優しく撫でた。


「呪いなんて気にしませんよ。むしろ、嬉しいんです。私のためにこんなに素敵なものを作ってくれたのが」

「…………」

「貴方様の想いが込められていると思うと、どうしても嬉しくなっちゃうんです!」


 心を見せなかった彼が心を込めて作った『お守り』。それがエレノアにとって一番大事なことであった。
 呪いの話も、ネックレスの呪いも、彼女には気にするものでもない。

 真意を伝えようとした彼の誠心誠意の贈り物であったから。

 人を疑うことのないエレノアは、純粋にその事実を受け止め喜んでいた。



 微笑むエレノアを、バルフレは無言で見つめている。

 彼女はただ率直に、自分の想いを受け入れてくれた。

 呪いがどれほど恐ろしいものなのか、彼女はまだわからないだけなのかもしれない。

 しかし、首に提げた禍を纏ったネックレスを大事そうに撫でる彼女が、愛おしくてたまらなかった。



 目の前にいるエレノアが愛おしかった。



「そうだわ!バルフレ様、もしよろしければバルフレ様のアクセサリーを私にも選ばさせてください!私だけというのも申し訳ありませんし……お父様が貿易で関わっていた商人の方でアクセサリーを取り扱っている方がいますの。その方いつも素敵な装飾品を取り寄せているのですよ!そちらでしたらきっと貴方様にお似合いのものが__


 此処で、エレノアの言葉は途切れた。





 エレノアの唇は、バルフレの唇で塞がれていた。



「…………!?」


 間を置いて、エレノアの頭が活動しだした。

 訳が分からなかった。

 何故、バルフレに口付けられているのか。

 唐突に押し付けられた唇から伝わる熱が、彼女の全身を駆け巡っていた。



 しばらく、エレノアはその状態のまま動けずにいた。自分の両肩を掴む腕は優しすぎて、退かすことを躊躇った。
 しかし、バルフレの方から口を離したことで、口はようやく自由になったが、肩は掴まれたままだった。


「エレノア」


 口付けに気を取られていたエレノアは、柔らかい声に驚いて顔を上げた。

 目の前には、バルフレの顔があった。



 白い肌で、黒いヒビの入った容貌。誰もが恐れるであろうその顔は、酷く穏やかに笑っていた。



 赤い瞳は、宝物を見るような眼差しで此方を見つめており、肩に触れていた腕も割れ物を扱うような手つきで背中に回る。


「エレノア……」


 名前を呼ぶ彼は、エレノアを抱きしめる。きつく、それでいて傷付けないように腕で包み込むバルフレの頭が、エレノアの頬に擦り寄った。
 急に変貌したバルフレに焦りを覚えたエレノアは、彼から離れようともがいたがあまり意味はなかった。


「ば、バルフレ様!急に何を」

「初めて会った時から好きだった」


 バルフレから放たれた言葉に、エレノアは声を失った。止まってしまったエレノアを置いて、バルフレは続ける。


「初めて見た時、可憐だと思った。無邪気に笑うその顔も綺麗だったが、目を輝かせて話すその無邪気さも可愛らしくて仕方がなかった。今まで共にいたが、それでも色褪せることのないお前が、私は愛おしくてたまらない」


 熱烈な告白を直に耳に受けて、エレノアは何も言えなくなってしまった。

 彼の本音が、あまりにも甘すぎたからだ。


「私の呪いを、私を受け入れてくれたお前が、愛いよ」


 耳に流れる甘ったるい言葉が、エレノアの体を熱くさせる。あまりに直球すぎる愛は、流石のエレノアも恥ずかしくてならなかった。


「もう、呪いも、この想いも、隠すつもりはない」


 バルフレは、鼻先に触れるエレノアの髪にも優しいキスを落とした。


「どうか、今日も共に過ごしてほしい。今日だけでなく、これからもずっと共に……お前の話を、声を、私は聞いていたい」


 バルフレの顔が離れる代わりに、ヒビ割れた右手がエレノアの頬を撫でる。

 赤く蕩けた双眸は、エレノアを留めていた。



「愛している、エレノア」



 笑んだ口から発せられた言葉は、エレノアの心にすとん、と落ちた。



 ずっと知りたいと思っていたバルフレの真意。

 それはエレノアが思っていた以上に甘く、優しすぎるものであった。

 素直になってほしいとは思っていたが、それにしては素直になりすぎだ。

 ただこうして彼の愛に触れられたことは、嬉しいものである。

 しかし、バルフレが紡いだその言葉は、愛の告白には重すぎるほどで、むしろ繋ぎ止めるための『呪い』のようでもあった。

 故に





「あらあら……」





 羞恥心で頬を赤く染めたエレノアが発せられたのは、なんとも弱々しい感嘆符だけであった。















 晴れて結ばれた二人は、その後皆から大いに祝福されるのだが、既に普段の真顔を取り戻しているバルフレに対して、エレノアはずっと真っ赤な笑顔を晒していたのであった。
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