四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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婚約(正式)

好奇心はなんとやら

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 __月日は流れ、

 気付けば婚礼の日まで二週間が経っていた。



 姉妹達はそれぞれの婚約者と結ばれたらしく、仲睦まじい様子であった。

 クロエはゴトリルとの特訓が楽しいそうで、訓練中は重苦しいドレスよりも身軽な兵士の服を好んで着ており、大いに剣を振るっている。
 最近は剣の技も上達したそうで、そのことを喜びながら報告してくる姿は『可愛い』らしかった。

 ルーナはラトーニァと共にいて笑うことが増えた。婚約破棄された直後はロズワートに言われたことを気にして上手く笑えていなかったが、『あの夜』以降、いつもの笑顔が戻ってくるようになった。中庭でラトーニァの仕事を手伝っている彼女は、幸せそうであった。

 エレノアは、普段と変わらず、バルフレによく話している。ニコニコと、たくさんの話をバルフレに振っているが、当初は黙り込んでいたバルフレも、エレノアの時だけよく話すようになっていた。心なしか、彼女と話す時の彼の顔は穏やかに見える。お互い、想いは通じ合っているようであった。

 姉妹達は皆幸せそうで、婚礼の日を待ち遠しそうにもしていた。しかしそんな中、未だに婚約者との進展がない者がいた。



 オリビアであった。





 ……昼下がり、オリビアはラゼイヤと共に書斎を訪れていた。


「オリビア、今日はこの本を読んでみてはどうかな」

「ありがとうございます。早速読ませて頂きます」


 此処最近は、ラゼイヤがオリビアに本を勧めてくるようになっていた。
 書斎の本棚には、未だオリビアが読んだことのない本がたくさんある。此処にある本は物語も面白く、読んでいても飽きないのだ。


「それじゃあ、ゆっくりしていておくれ」


 ラゼイヤはそう言うと、机の書類に取り掛かった。
 これがいつもの流れであった。

 ラゼイヤは、政務を一人でこなす。本を読むだけでは申し訳ないとオリビアは何度か手伝おうとしたが、「その必要はない」と毎度断られていた。
 そして、今ではオリビアがラゼイヤの傍で本を読むことが、暗黙で義務化されていた。

 オリビア自身、本を読むことは好きであったから退屈など全くしなかったのだが、ラゼイヤとの交流があまりないことを少し心配していた。
 しかし、彼はご覧の通り政務の仕事が次から次へと舞い込むようで、減ることのない書類と奮闘していた。


(流石に、お手を煩わせるのはいけませんし……)


 本当は、二人で散歩をしたり、お茶を飲んだりしたいのだが、あまりに忙しそうなラゼイヤを見ていると、そう切り出すのは躊躇してしまうのだった。

 しかし、婚礼の日は間近。
 オリビアは心の底で、焦りを覚えていた。


(私は、まだこの方のことを何も知らない。本当にこのままで良いのかしら)


 燻る不安に身を焦すのを感じながらも、オリビアは考えないよう本に集中していた。





 夕刻を過ぎた頃。

 しばらくして、書類を整理し終えたのであろうラゼイヤが椅子から立ち上がる。


「オリビア。少し席を外すが、君はそのままで構わないからね」

「わかりましたわ」


 部屋を後にしたラゼイヤを、オリビアは見送った。丁度、本を読み終えた頃であった。


「この本、何処にしまってあったかしら……」


 普段はラゼイヤが閉まってくれるのだが、彼は今いない。オリビアは本棚の前に立ち寄り、並べられた本の中から空いている隙間を探した。


「上かしら」


 そう思い顔を上げると、オリビアでも手が届きそうなところが空いていた。しかし、彼女が目に止まったのはそこではなかった。

 もう一段上。敷き詰められた本の際に、何かが挟まっていた。


(何かしら、あれ……)


 本を元の場所へしまった後、オリビアはそれに視線を集中した。

 自分では届かないところに、紙らしきものが挟まっている。ラゼイヤの触手なら届きそうな高さであった。


(何故あんなところに)


 そう思ったが、大体予想は付いていた。

 オリビアでも届かない場所……即ち、オリビアにも、誰にも見られたくないものなのかもしれないと。


「…………」


 オリビアは、それが気になって仕方がなかった。まるでラゼイヤを疑うようで申し訳なかったが、何も知らない彼女はそれを調べることで彼に一歩近付けるのではないかとも考えていた。


(はしたないけど……ごめんなさい)


 居ても立っても居られなくなったオリビアは、まだ誰も来ないことを確認すると、ラゼイヤが使っていた椅子を本棚まで運び、ヒールを脱いで座面に登った。
 椅子のおかげで天井にまで頭が届くようになったオリビアは、本棚に挟まっていた紙と目が合った。


「…………」


 オリビアは少し考えた後、その紙を引き抜いた。 
 まさか自分が此処まで行動的で無謀なことをするとは思っておらず、オリビアはラゼイヤに心の中で謝罪をしつつ、しっかりとその紙を握っていた。

 椅子から降りて確認すると、それは紐で括られた封筒の束であった。
 サイズ感からして手紙のようだが、封はそのままで固く閉じられている。一度も開封していないようであった。


「誰からの手紙なの?」


 気になって、恐る恐る差出人の面を見てみた。





 その名前を見た瞬間、彼女は言葉を失った。
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