89 / 101
婚礼
鬼畜公爵
しおりを挟む鬼畜公爵……という声が上がったことに、姉妹達は開いた口が塞がらなかった。
あの明るくて優しいディトが鬼畜呼ばわりされているということが、信じられなかったからだ。
しかし、群衆の言葉が一切信じられないわけではない。
現に、目の前に佇む血塗れのディトも、アレッサのことを『オモチャ』と称したのだから。
「にしても、この子可愛いねー!目はまんまるで、髪も綺麗!肉付きも最高!」
ディトは、アレッサの顔を真っ赤になった小手で撫でる。頬が血で汚れてしまうのにも関わらず、彼に触れられたアレッサはまた、頬を赤らめた。
『オモチャ』という言葉を聞いた時は驚いたが、ディトの言動からして恐らく男の娯楽としてという意味なのだろうと、アレッサは思っていた。
『鬼畜公爵』という異名も、きっとそういう趣味を持っているからなのだろう。でなければ、鬼畜を名乗る者は今こうして頬を優しく撫でられるわけがないのだ。
それに、自分が犯したのはたかが不敬罪だ。言って懲役と平民下がりで済むだろう。死罪に及ぶほどのものではないと、アレッサは高を括っていた。
そこに娯楽が追加されるだけだろうと、男に抱かれるくらいならちょっと刺激が強くてもどうってことないと、裏で笑っていた。
しかし、思考を巡らせていたアレッサは、不意に顎を強く掴まれたことで意識をディトの方へと向き直される。
「すごく壊し甲斐がありそう!」
そう言って無邪気な笑みを溢すディトに、アレッサは顔を引き攣らせた。
(何?壊すって、もしかして本当にそういう嗜好持ちなの?)
でも痛いのはちょっとなー、と呑気にも考えていた頃が、彼女にもあった。
引っかかるような笑みを浮かべるアレッサに、ディトは続けて話しかける。
「これだけ丸い目ならくり抜くのは簡単そうだなぁ。髪もどれくらい引っ張ったら千切れるのかな?脇腹の贅肉もたくさん削げそうだし!」
ニコニコと笑みを浮かべて物騒なことを言い出したディトに、アレッサはとうとう笑えなくなった。
距離を空けるために後ろへ下がろうとするも、顎を掴む手が外れることはなく、むしろ痛いほどに締めてくる。
見た目からは予測できない異常なまでの力に、アレッサは穏やかに笑うディトを直視することができなかった。
「でも今日はおめでたい日だし、明日に取っておこう!兄さん、コレ僕んとこに一旦置いてくるから。次はちゃんと正装で行くね!」
「ああ、わかった。早めに来るんだぞ」
「もちろん!」
満面の笑みラゼイヤに返したディトは、アレッサの肩を掴もうと、彼女の顎を掴んでいた手を一瞬離した。
その隙を逃さず、アレッサは扉の方へと全速力で走った。
「あれ?」
間の抜けた声を出すディトを気にも止めず、アレッサは風を肩で切る勢いで走り抜けた。
呆然としていたアグナスや騎士の隣も軽々とすり抜け、出口である扉の方へと目指す。
時折息を詰まらせそうになるも、そんなことどうでも良いようにただひたすら駆けていた。
(冗談じゃない冗談じゃない冗談じゃない!!!)
あの絶世の美丈夫が、まさかあんなことを言い出すとは思わなかった。
しかも見た目に反して力も強く敵うわけがない。
あのままでいたら恐らく……ロズワートよりも酷い目に遭う。
アレッサはそう判断し、逃げることを決意した。
隙を見て逃げれば反応は遅いからその間に距離を稼げる。障害物もいるからそう簡単に追いつけまい。
このまま逃げて、逃げて、アミーレアよりももっと先へ逃げて
あたしは生きるんだ
アレッサは、その一心で扉に向かっていた。
扉まであと少し
敷居を越えるまであとちょっと
神殿を出るまで__
そこで、アレッサの意識は途絶えた。
0
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
龍人の愛する番は喋らない
安馬川 隠
恋愛
魔法や獣人などが混在する世界。
ハッピーエンドの裏側で苦しむ『悪役令嬢』はヒロインから人以下の証を貰う。
物として運ばれた先で出会う本筋とは相容れないハッピーエンドへの物語
【完結】愛する人が出来たと婚約破棄したくせに、やっぱり側妃になれ! と求められましたので。
Rohdea
恋愛
王太子でもあるエイダンの婚約者として長年過ごして来た公爵令嬢のフレイヤ。
未来の王となる彼に相応しくあろうと、厳しい教育にも耐え、
身分も教養も魔力も全てが未来の王妃に相応しい……
と誰もが納得するまでに成長した。
だけど───
「私が愛しているのは、君ではない! ベリンダだ!」
なんと、待っていたのは公衆の面前での婚約破棄宣言。
それなのに……
エイダン様が正妃にしたい愛する彼女は、
身分が低くて魔力も少なく色々頼りない事から反発が凄いので私に側妃になれ……ですと?
え? 私のこと舐めてるの? 馬鹿にしてます?
キレたフレイヤが選んだ道は───
※2023.5.28~番外編の更新、開始しています。
ですが(諸事情により)不定期での更新となっています。
番外編③デート編もありますので次の更新をお待ちくださいませ。
【完結】【番外編追加】お迎えに来てくれた当日にいなくなったお姉様の代わりに嫁ぎます!
まりぃべる
恋愛
私、アリーシャ。
お姉様は、隣国の大国に輿入れ予定でした。
それは、二年前から決まり、準備を着々としてきた。
和平の象徴として、その意味を理解されていたと思っていたのに。
『私、レナードと生活するわ。あとはお願いね!』
そんな置き手紙だけを残して、姉は消えた。
そんな…!
☆★
書き終わってますので、随時更新していきます。全35話です。
国の名前など、有名な名前(単語)だったと後から気付いたのですが、素敵な響きですのでそのまま使います。現実世界とは全く関係ありません。いつも思いつきで名前を決めてしまいますので…。
読んでいただけたら嬉しいです。
完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。
『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』
『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』
公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。
もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。
屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは……
*表紙絵自作
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます
りんりん
恋愛
特産物のないポプリ国で、唯一有名なのは魔法だ。
初代女王は、歴史に名を残すほどの魔法使い。
それから数千年、高い魔力を引き継いだ女王の子孫達がこの国をおさめてきた。
時はアンバー女王の時代。
アンバー女王の夫シュリ王婿は、他国の第八王子であった。
どこか影の薄い王婿は、三女ローズウッドを不義の子ではと疑っている。
なぜなら、ローズウッドだけが
自分と同じ金髪碧眼でなかったからだ。
ローズウッドの薄いピンク色の髪と瞳は宰相ククスにそっくりなのも、気にいらない。
アンバー女王の子供は四人で、すべて女の子だった。
なかでもローズウッドは、女王の悩みの種だ。
ローズウッドは、現在14才。
誰に似たのか、呑気で魔力も乏しい。
ある日ストーン国のレオ王から、ローズウッド王女を妻にしたいとうい申し出が届いた。
ポプリ国は、ストーン国から魔法石の原料になる石を輸入している。
その石はストーン国からしか採れない。
そんな関係にある国の申し出を、断ることはできなかった。
しかし、レオ王に愛人がいるという噂を気にしたアンバー女王は悩む。
しかし、ローズウッド王女は嫁ぐことにする。
そして。
異国で使い魔のブーニャンや、チューちゃんと暮らしているうちに、ローズウッドはレオ王にひかれていってしまう。
ある日、偶然ローズウッドは、レオ王に呪いがかけられていることを知る。
ローズウッドは、王にかけられた呪いをとこうと行動をおこすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる