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後日談
今日も愛が重過ぎる
しおりを挟む__ある離れにて。
その男は真顔で、作業台の上でずっと訳のわからぬ絡繰をいじっている。
時折解体し、再び噛み合わせるを繰り返しながら、その絡繰を着々と作り上げようとしていた。
その手には暗いヒビが顔にまで走っており、離れの薄暗さも相まって不気味さを増している。
赤い眼光は、真っ直ぐと絡繰のほうに向けられたままで、誰も声をかけられるような雰囲気ではなかった。
「バルフレ様!」
しかしそんな中、離れには鈴のような声が響き渡る。
名を呼ばれたその男……バルフレは、声の主に優しい笑みを向けた。
「今日は何の道具をお作りになっているのかしら?」
「ああ……私達に必要なものさ」
声の問いに、バルフレは穏やかに返す。絡繰を触る手は止まっていない。
「エレノア、そこにある器具をとってくれ」
バルフレは声の主である女性……エレノアに優しく指示を出した。
「ええ!此方でよろしいでしょうか?」
「ああ。ありがとう」
エレノアから手渡された器具を、バルフレは絡繰に施す。エレノアはそれをマジマジと見つめていた。
バルフレの妻となったエレノアは、魔科学の研究者である彼の助手として働いている。
こうして器具を取り出したり、時折魔法の生成を手伝ったりと、大役は任せられないが、補佐としての職務を全うしていた。
「それでですね、バルフレ様!今日の朝見かけた鳥なのですけど、あれは此処から東側の地域にいる珍しい鳥なのですよ!凄いと思いません?ここからだいぶ遠い場所にいるはずなのに、ここまで渡ってきたんですから!」
しかし、普段はいつものお喋りを連発し、作業中のバルフレに延々と話し続けるという仕事外の作業をしていた。
これで助手が務まるのかと言えば、一般的にはそう思えないだろう。だが、バルフレ相手ではそれが役割でもあった。
バルフレは、エレノアの言葉に対して「ああ」や「それは……」と返し続ける。バルフレにとって、エレノアとのこの時間が至福であったのだ。
そのために、今の絡繰を作っているのだ。
「エレノア、完成したぞ」
不意にバルフレがそう言い、絡繰をエレノアの手に置く。それを眺めていたエレノアは、ある正解に辿り着いた。
「オルゴールですね!」
金の装飾が施された純白のオルゴールを見て、エレノアは感嘆を漏らした。
「ネジを巻いてみてくれ」
バルフレに促されると、エレノアは躊躇することなくそのオルゴールのネジを回す。
すると、中から可愛らしい音色が流れ出した。
「素敵な音色ですわ!此方はどのような効果がありますの?」
エレノアがそう聞くと、バルフレは窓の方を指さした。それに釣られて視線を向けると、いつもの景色が映り込んでいるのだが、ひとつだけ違和感があった。
鳥が、宙に浮いたまま止まっているのだ。
ホバリングしているのではなく、羽ばたこうとしているその瞬間で止まっているのだ。
「バルフレ様、あれは一体……」
「時だよ。時を止めたんだ」
困惑気味のエレノアに、バルフレは早々と答える。
「そのオルゴールが流れている間、時間が止まり続ける。オルゴールが止まれば、また動き出すんだ」
「へぇ!それは凄いですわ!時を止める魔法は初めて見ました!」
エレノアは嬉々としてオルゴールを眺めている。その表情を、バルフレは嬉しそうに見つめていた。
「それで、此方のオルゴールは何のために作りましたの?」
笑顔のまま首を傾げるエレノアに、バルフレは笑みを絶やさず答えた。
「言っただろう、私達に必要なものだと」
バルフレはそう言うと、オルゴールを持ったままであったエレノアの両手を自らの手で包み込む。
急に近くなった距離に、エレノアは目を見開いてみせた。
「私達の時間を作るにはどうするべきか……仕事を割くことはできないだろう?だからこれを作った」
バルフレは、エレノアの指に自分の指を絡め、止まりかかっていたオルゴールのネジを器用に回す。
「時が止まっている間、誰からも干渉されないこの刹那の間、私とお前だけが動けるんだ」
次第に近付いてきた赤い双眸に、エレノアは見つめ返すことしかできない。
怖いから、とかではない。その逆だ。
「これからも夫婦として、二人きりの時間を大切にしようじゃないか。私のエレノア」
バルフレは、神聖なものにするかの如く、厳かな口付けを落とした。
バルフレのエレノアに向ける愛慕は、嘘偽りなく曲がりない代わりに常軌を逸している。それは他の兄弟が引くほどに。
しかし、その過剰な愛を受け入れられるほどの器が、エレノアにはあった。
だからこそ、二人は相性が良かったのだろう。
「バルフレ様ったら、ちゃんとお仕事の研究をしてくださいませ!」
顔を赤らめつつ、恥ずかしさよりも嬉しさが勝り破顔しているエレノアがバルフレの頬に口付ける。
そうすると、彼はより一層笑みを深めて喜ぶのだ。
今日も彼女は夫からの重い愛を受けつつ、それに応えるのであった。
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