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9 レオン3
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俺は早速、ソワイエ子爵家を訪れた。リュシエンヌの兄であり当主のフランソワは気の弱そうな顔をした男で、妻に完全に主導権を握られているようだった。
「そうですわ、公爵様。私たちも万全の治療をと思いますけれどやはり、先立つものがございませんと。リュシエンヌの治療のために義父母がお金を使い果たしてしまいましたからね、そのせいで私どもの子供がひもじい思いをさせられているんですの。あんまりだとは思いませんか」
妻はリュシエンヌを邪魔に思う気持ちを隠すつもりもないようだ。
「ではソワイエ子爵。リュシエンヌを私にくれないか」
「え……?」
流石にフランソワが眉をひそめた。後で聞いたのだが、若い娘が眠っているということでよからぬ輩が無体を働こうと家に押し入ってきたり、愛人として別荘に囲おうとする貴族などが後を絶たないのだという。そのための警備費用も金がかかる原因だそうだ。
「父母の遺言で、リュシエンヌがそのような扱いをされないようにと、私はそれだけは守ろうと思っているのです」
横から妻が睨んでいる。眠っている義妹がどうなろうと自分たちのほうが大事だとでも言いたげだ。
「誤解しないで欲しい。私はリュシエンヌを正妻として迎えたいと考えている」
「……正気ですか? 妹はあの状態で、立ち上がることはおろか目を覚ますこともないのですよ? それなのに正妻にするだなんて……」
「関係ない。私は10歳の頃からずっと、リュシエンヌだけを想ってきたのだから。こんなことになっているなんて、もっと早く知っていれば……」
マノンが声を弾ませ話に割り込んできた。
「正妻ということは、支度金は弾んでいただけるのですね? 公爵家の正妻に相応しい支度ができるように。ね、そうですわね?」
卑しい目つきだ、と思った。しかし、これまでリュシエンヌを守ってくれたのもまた真実。ならば相応の対価は払うつもりだ。
「……100万ドレール支払う用意があります」
「……! そんなに……!!」
貴族の支度金は概ね10万ドレールほど。これだけ払えば文句はないだろう。
「では契約書を作成してもよいだろうか」
「は、はいっ」
連れて来た弁護士が文書を作成している間に私はリュシエンヌの部屋に案内された。驚いたことに彼女は12年前と同じ姿で眠っている。
(時が止まっているというのは本当だったのか……)
白い頬にはうっすらと赤みが差している。我が屋敷の中庭で微笑んでいたあの頃のまま。これが眠ったままの人間だと誰が思うだろう?
「リュシエンヌ……どうか目を覚まして……」
俺は彼女の華奢な手を取り、その甲に口づけた。この細い指に似合う結婚指輪を贈ろう。君とずっと、一緒に生きていく。
「……ん……」
微かに、小さな声が聞こえた。
まさかと思いリュシエンヌの顔を覗き込む。すると瞼がピクリと動き、徐々に開いていって……すみれ色の美しい瞳が覗いた。
「リュシエンヌ……⁈」
俺はすぐにクレールを呼び、子爵をつれてくるように命じた。その間ずっと彼女の手を握っている。あの頃俺よりも大きかったその手は、今では俺の手のひらの中にスッポリ包まれてしまうほど小さい。
視線がゆっくりと彷徨い、一瞬俺と目が合った。
(リュシエンヌ……!)
声を掛けようと思ったが、驚かしてしまったらいけない。後退りして彼女の視界からそっと消えたところでソワイエ子爵がドアをバタンと鳴らして入って来た。
「リュシエンヌ……リュシー! 目が覚めたのか!」
「お……兄様……?」
リュシエンヌは戸惑っているようだ。実の兄とはいえ、これだけ時間が経って姿も変わっている。戸惑うのも無理はない。
「フランソワ、リュシエンヌは混乱しているようよ。まずはお医者様に、問題がないか診てもらいましょう」
「ああ、そうだ、そうだな、もちろん」
ソワイエ夫妻は医者を呼びながら部屋を出て行ったが俺はその場にとどまった。医者が来たらこの部屋を出されるだろう。だがもう少しだけ側にいたい。
俺は跪き、もう一度リュシエンヌの手を取った。
「リュシエンヌ、目覚めてくれてありがとう。これであなたと結婚式が挙げられます」
リュシエンヌの目が丸く見開かれた。何を言ってるの? って思っていることだろう。残念だが本気だ。君が何と言おうと俺は……君と結婚する。
「そうですわ、公爵様。私たちも万全の治療をと思いますけれどやはり、先立つものがございませんと。リュシエンヌの治療のために義父母がお金を使い果たしてしまいましたからね、そのせいで私どもの子供がひもじい思いをさせられているんですの。あんまりだとは思いませんか」
妻はリュシエンヌを邪魔に思う気持ちを隠すつもりもないようだ。
「ではソワイエ子爵。リュシエンヌを私にくれないか」
「え……?」
流石にフランソワが眉をひそめた。後で聞いたのだが、若い娘が眠っているということでよからぬ輩が無体を働こうと家に押し入ってきたり、愛人として別荘に囲おうとする貴族などが後を絶たないのだという。そのための警備費用も金がかかる原因だそうだ。
「父母の遺言で、リュシエンヌがそのような扱いをされないようにと、私はそれだけは守ろうと思っているのです」
横から妻が睨んでいる。眠っている義妹がどうなろうと自分たちのほうが大事だとでも言いたげだ。
「誤解しないで欲しい。私はリュシエンヌを正妻として迎えたいと考えている」
「……正気ですか? 妹はあの状態で、立ち上がることはおろか目を覚ますこともないのですよ? それなのに正妻にするだなんて……」
「関係ない。私は10歳の頃からずっと、リュシエンヌだけを想ってきたのだから。こんなことになっているなんて、もっと早く知っていれば……」
マノンが声を弾ませ話に割り込んできた。
「正妻ということは、支度金は弾んでいただけるのですね? 公爵家の正妻に相応しい支度ができるように。ね、そうですわね?」
卑しい目つきだ、と思った。しかし、これまでリュシエンヌを守ってくれたのもまた真実。ならば相応の対価は払うつもりだ。
「……100万ドレール支払う用意があります」
「……! そんなに……!!」
貴族の支度金は概ね10万ドレールほど。これだけ払えば文句はないだろう。
「では契約書を作成してもよいだろうか」
「は、はいっ」
連れて来た弁護士が文書を作成している間に私はリュシエンヌの部屋に案内された。驚いたことに彼女は12年前と同じ姿で眠っている。
(時が止まっているというのは本当だったのか……)
白い頬にはうっすらと赤みが差している。我が屋敷の中庭で微笑んでいたあの頃のまま。これが眠ったままの人間だと誰が思うだろう?
「リュシエンヌ……どうか目を覚まして……」
俺は彼女の華奢な手を取り、その甲に口づけた。この細い指に似合う結婚指輪を贈ろう。君とずっと、一緒に生きていく。
「……ん……」
微かに、小さな声が聞こえた。
まさかと思いリュシエンヌの顔を覗き込む。すると瞼がピクリと動き、徐々に開いていって……すみれ色の美しい瞳が覗いた。
「リュシエンヌ……⁈」
俺はすぐにクレールを呼び、子爵をつれてくるように命じた。その間ずっと彼女の手を握っている。あの頃俺よりも大きかったその手は、今では俺の手のひらの中にスッポリ包まれてしまうほど小さい。
視線がゆっくりと彷徨い、一瞬俺と目が合った。
(リュシエンヌ……!)
声を掛けようと思ったが、驚かしてしまったらいけない。後退りして彼女の視界からそっと消えたところでソワイエ子爵がドアをバタンと鳴らして入って来た。
「リュシエンヌ……リュシー! 目が覚めたのか!」
「お……兄様……?」
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「ああ、そうだ、そうだな、もちろん」
ソワイエ夫妻は医者を呼びながら部屋を出て行ったが俺はその場にとどまった。医者が来たらこの部屋を出されるだろう。だがもう少しだけ側にいたい。
俺は跪き、もう一度リュシエンヌの手を取った。
「リュシエンヌ、目覚めてくれてありがとう。これであなたと結婚式が挙げられます」
リュシエンヌの目が丸く見開かれた。何を言ってるの? って思っていることだろう。残念だが本気だ。君が何と言おうと俺は……君と結婚する。
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