婚約者を取り替えて欲しいと妹に言われました

月(ユエ)/久瀬まりか

文字の大きさ
1 / 9

義母と妹

しおりを挟む
「はじめまして、レティシアお姉様。ヘザーです。驚いちゃった、お姉様ってあまりご令嬢っぽくないんですね。貴族の方ってみんなお父様みたいに金髪なんだと思ってたわ」

 自然なウェーブのついた金色の髪をこれ見よがしに揺らしながらヘザーは嫌な笑みを浮かべた。どうやら、『勝った』と思っているらしい。確かに、明るいプラチナブロンド、ブルーの瞳は平民には珍しい。色だけでなく顔の造形も父に似て美しいのは間違いない。

(それにしても、お母様が亡くなったのはたった半年前なのに……)

 ポーレット伯爵家当主のダニエルは、一年間の喪に服することもなく後妻を迎え入れた。しかも、その後妻は娘を連れてポーレット家に現れた。

「お父様……この方は?」

「お前の妹だ。名前はヘザーという。歳は十五になったところだ」

(なんてこと! 私の一つ下なの? ではお父様は、私が生まれた頃には既にお母様を裏切っていたということなのだわ)

「レティシア、ヘザーと仲良くしてあげてね。この子は伯爵様の血を引くあなたの妹なの。これからはあなたと同じ暮らしをここでしていくことになるのよ。あなたとこの子は同等な身分なのだから」

 後妻のデミはいきなりレティシアを呼び捨てにして母親然と振舞った。レティシアの首の後ろ辺りがゾワゾワとしたのは、デミの態度が不快だからか、もしくは怒りからか。

「今後は家の事はデミに任せる。お前もデミの言うことをよく聞き、ヘザーを可愛がるんだぞ」

「……はい、お父様」

 父の言葉に異を唱えることなど出来はしない。心の中で嘆息しながらレティシアは頭を下げた。

 レティシアはポーレット伯爵家の一人娘である。女にも相続権があるこの国では、紛れもなく次期伯爵家当主だ。そのための勉強もしっかりと頑張ってきた。亡くなった母フローラが抜かりなく教育をしてくれたおかげである。

 母には愛されていたという確信があるレティシアだが、父からの愛はあまり感じたことがなかった。

「お父様はお仕事でお忙しいのよ」

 ほとんど帰ってこない父のことを母に尋ねると、いつも少し眉を下げて寂しげに言った。

(あの二人がいたからお父様は帰ってこなかったのね……)

 レティシアは自分が金髪ではないから父に嫌われているのだと思っていた。レティシアの髪は母と同じ赤毛。

「いつ見ても嫌な赤い髪だな。私と少しも似ていない」

 ダニエルは明るい金髪に青い瞳、いかにも貴族的な美しい男性である。そしてその美しさを自慢にしており、自分と違う赤毛の娘を疎ましく思っていた。

 ダニエルとフローラは恋愛結婚ではなく、親同士が決めた婚姻だ。顔は綺麗だが全く能の無い息子を心配した祖父が、才媛で知られたスミス伯爵家のフローラと縁を結び領地経営に携わってもらおうと考えたのである。
 貴族では珍しい燃えるような赤い色の髪を持つフローラ。ダニエルはその色を、そして親に勝手に決められた自分よりも優秀な妻を嫌った。

 後妻のデミはかつてポーレット家のメイドだった。髪も目も平凡な茶色だがぽってりした唇と泣きぼくろ、豊満な身体を持ちいわゆる蠱惑こわく的な女だった。フローラがレティシアを身籠った頃にポーレット家に雇われたデミは、半年も経たずに辞めた。恐らくその頃からダニエルにどこかで囲われていたのだろう。

 デミがヘザーを産んだ時、ダニエルは大いに喜んだ。自分と同じ、金髪に青い目の娘だったからだ。

「なんと美しい子だ! この子はいずれ必ず引き取り、良い結婚をさせてやろう。しばらくは日陰の身で我慢してくれ」

 そしてフローラが亡くなるとすぐに屋敷に迎え入れたのである。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

完璧な妹に全てを奪われた私に微笑んでくれたのは

今川幸乃
恋愛
ファーレン王国の大貴族、エルガルド公爵家には二人の姉妹がいた。 長女セシルは真面目だったが、何をやっても人並ぐらいの出来にしかならなかった。 次女リリーは逆に学問も手習いも容姿も図抜けていた。 リリー、両親、学問の先生などセシルに関わる人たちは皆彼女を「出来損ない」と蔑み、いじめを行う。 そんな時、王太子のクリストフと公爵家の縁談が持ち上がる。 父はリリーを推薦するが、クリストフは「二人に会って判断したい」と言った。 「どうせ会ってもリリーが選ばれる」と思ったセシルだったが、思わぬ方法でクリストフはリリーの本性を見抜くのだった。

妹が行く先々で偉そうな態度をとるけど、それ大顰蹙ですよ

今川幸乃
恋愛
「よくこんなんで店なんて開けましたね」 「まるで心構えがなっていませんわ、一体何年働いてますの?」 エインズ公爵家の娘、シェリルは商人やメイドなど目下の相手に対していつもこんな感じだった。 そのため姉のラーナは常にシェリルのなだめ役をさせられることを悩んでいた そんなある日、二人はスパーク公爵家のパーティーに招待される。 スパーク家の跡継ぎは聡明で美貌の持ち主と名高く次代の王国を支えると評判のアーノルドで、親密になれば縁談もあるかもしれない。 そう思って張り切るラーナとシェリルだったが、シェリルはスパーク家の人々にもいつも通り怒りをぶちまけてしまい、ラーナの制止も聞かない。 そこにアーノルドが現れ……

妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです

今川幸乃
恋愛
ハワード公爵家の長女クララは半年ほど前にガイラー公爵家の長男アドルフと結婚した。 が、優しく穏やかな性格で領主としての才能もあるアドルフは女性から大人気でクララの妹レイチェルも彼と結ばれたクララをしきりにうらやんでいた。 アドルフが領地に次期当主としての勉強をしに帰ったとき、突然クララにレイチェルから「アドルフと結ばれた」と手紙が来る。 だが、レイチェルは知らなかった。 ガイラー公爵家には冷酷非道で女癖が悪く勘当された、アドルフと瓜二つの長男がいたことを。 ※短め。

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完

瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。 夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。 *五話でさくっと読めます。

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください

今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。 しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。 ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。 しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。 最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。 一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。

私の婚約者様には恋人がいるようです?

鳴哉
恋愛
自称潔い性格の子爵令嬢 と 勧められて彼女と婚約した伯爵    の話 短いのでサクッと読んでいただけると思います。 読みやすいように、5話に分けました。 毎日一話、予約投稿します。

あなたの1番になりたかった

トモ
恋愛
姉の幼馴染のサムが大好きな、ルナは、小さい頃から、いつも後を着いて行った。 姉とサムは、ルナの5歳年上。 姉のメイジェーンは相手にはしてくれなかったけど、サムはいつも優しく頭を撫でてくれた。 その手がとても心地よくて、大好きだった。 15歳になったルナは、まだサムが好き。 気持ちを伝えると気合いを入れ、いざ告白しにいくとそこには…

デートリヒは白い結婚をする

ありがとうございました。さようなら
恋愛
デートリヒには婚約者がいる。 関係は最悪で「噂」によると恋人がいるらしい。 式が間近に迫ってくると、婚約者はデートリヒにこう言った。 「デートリヒ、お前とは白い結婚をする」 デートリヒは、微かな胸の痛みを見て見ぬふりをしてこう返した。 「望むところよ」 式当日、とんでもないことが起こった。

処理中です...