7 / 9
マシューとジョナス
しおりを挟む
翌日、東棟の女子教室の前で一人の男子生徒が人待ち顔で佇んでいたが、レティシアを見ると声を掛けてきた。
「失礼ですが、レティシア・ポーレットさんですか?」
もしや、この人がマシューだろうか?
「僕はマシュー・スコットといいます。昨日は不在にしていて失礼しました」
(やっぱりそうだわ。早速、挨拶に来てくれたのね)
マシューは赤みのある茶色い髪で、目は琥珀色。ジョナスのような美しさはなくどちらかというと地味なあっさりとした顔だが、レティシアには好ましく思えた。背はレティシアが少し見上げるくらい。日に焼けた肌が男らしい。
「いえ、私達が突然に押しかけたのですから、気になさらないで」
「で、あの……もし良かったら、今日の昼休み、ご一緒しませんか」
ジョナスのようにスマートな話し方は出来ないようだが、ひと言ひと言、考えながら話すのは好感が持てる。
「はい。お願いします」
マシューはホッとしたように笑顔を見せ、では昼休みに、と頭を下げて南棟へ戻って行った。
「ちょっとちょっと! いったいどういう事よ、レティシア? ジョナスとヘザーはイチャついてるし、レティシアは他の男性と話してるし。どうなっちゃったの、あなたたち」
アリスがどこからかやって来て、矢継ぎ早に話した。
「ええ、聞いてくれる、アリス? 実はね……」
「まあ……婚約者を交換? しかも次期当主まで? レティシア、そんな横暴許していいの?」
「もちろん腹立たしいわ。でもまだ成人前の私には何も出来ない。唯一の救いは、スコット家の方がいい人達みたいだってことくらいかしら」
「そうねえ。今の人……マシューっていうんだっけ? ジョナスみたいに目を引く美しさはないけれど、真面目そうよね」
「結婚相手にはその方がいいと思うわ」
長い間裏切られ、放置されていた母を思うと、父と同じように美しい顔を持ったジョナスよりもマシューの方が安心出来る気がする。もちろん、本当のところはわからないけれど。
昼休み、レティシアはマシューとカフェテリアで向かい合わせに座っていた。
「レティシア様、僕なんかと結婚して構わないんですか? 僕、変わり者だと噂されているらしいんだけれど気になりませんか」
「そうねえ、どんな変わり者なのかまず教えていただける?」
レティシアは笑いを堪えながら言った。
「自分では変わってるとは思ってないんですけどね。僕、虫が好きなんです。昨日も朝から昆虫採集に出掛けていて、それで留守にしていたんです」
「虫ですか? 私は蝶くらいしか知りませんわ」
「蝶の他にもたくさんの虫がいるんですよ。皆、虫には興味がないし、むしろ忌み嫌っていますが、あんなに可愛い奴らはいません。僕は虫の研究をライフワークにしようと思っているんです」
「素敵ですね。今度、私にも教えて下さる?」
するとスコットは顔を輝かせた。
「もちろんです。ぜひまた遊びに来て下さい。僕のコレクションをお見せします」
その時、レティシアの視界にヘザーとジョナスが映った。ヘザーもレティシアに気がつき、ジョナスの腕を引っ張ってこちらへやって来た。
「お姉様! この方が新しい婚約者?」
(余計なことを。新しい、なんて言わなくていいのに)
「マシュー、ご紹介しますわ。私の妹ヘザーと、婚約者のジョナスです」
「やあマシュー、驚いたよ。虫博士の君が義理の兄になるとはね」
レティシアはジョナスの言葉にからかいが含まれているのを感じ、嫌な気分になった。
「ジョナス様、僕も驚きました。今後は義理の兄弟としてよろしくお付き合いください」
「うふふ、なんだか二人、お似合いですわ。髪の色も似てるし。やっぱり私とじゃあ、釣り合わなかったですわね。私にはジョナス様じゃないと」
ジョナスの腕に絡みつくヘザーと、嬉しさを隠さないジョナス。まだレティシアが婚約者だった時はさすがにここまであからさまにはしていなかった。
「ではお姉様。私達はあちらで食事をしますわ。ご機嫌よう」
二人は腕を組んだまま向こうのテーブルに歩いて行った。
「……すみません、失礼な妹で」
「事情は伺ってます。本当は僕とヘザー様が婚約する予定だったんですよね」
「はい。マシュー様こそ、私なんかで構わないでしょうか?」
レティシアは申し訳なさそうに言ったが、マシューは愉快そうに目を躍らせていた。
「僕はレティシア様に代わってくれて本当に良かったと思っていますよ? ヘザー様は苦手なタイプです。レティシア様はとても美しいし、落ち着いた雰囲気がとても……好みです」
初めてこんな風に褒められ、レティシアは頬が熱くなった。
「そんな……十人中九人はヘザーの方が美しいと言うはずですわ」
「だったら僕は残りの一人なのかもしれません。でも僕には、あなたの方が数倍美しく思えます」
なんか気障なこと言ってしまった、と顔を真っ赤にしているマシュー。そんな所もレティシアの胸をキュンとさせた。
(この人とならいい夫婦になれるかもしれない……)
春の風のようにふわりと恋が訪れた気がして心が温かくなるレティシアだった。
「失礼ですが、レティシア・ポーレットさんですか?」
もしや、この人がマシューだろうか?
「僕はマシュー・スコットといいます。昨日は不在にしていて失礼しました」
(やっぱりそうだわ。早速、挨拶に来てくれたのね)
マシューは赤みのある茶色い髪で、目は琥珀色。ジョナスのような美しさはなくどちらかというと地味なあっさりとした顔だが、レティシアには好ましく思えた。背はレティシアが少し見上げるくらい。日に焼けた肌が男らしい。
「いえ、私達が突然に押しかけたのですから、気になさらないで」
「で、あの……もし良かったら、今日の昼休み、ご一緒しませんか」
ジョナスのようにスマートな話し方は出来ないようだが、ひと言ひと言、考えながら話すのは好感が持てる。
「はい。お願いします」
マシューはホッとしたように笑顔を見せ、では昼休みに、と頭を下げて南棟へ戻って行った。
「ちょっとちょっと! いったいどういう事よ、レティシア? ジョナスとヘザーはイチャついてるし、レティシアは他の男性と話してるし。どうなっちゃったの、あなたたち」
アリスがどこからかやって来て、矢継ぎ早に話した。
「ええ、聞いてくれる、アリス? 実はね……」
「まあ……婚約者を交換? しかも次期当主まで? レティシア、そんな横暴許していいの?」
「もちろん腹立たしいわ。でもまだ成人前の私には何も出来ない。唯一の救いは、スコット家の方がいい人達みたいだってことくらいかしら」
「そうねえ。今の人……マシューっていうんだっけ? ジョナスみたいに目を引く美しさはないけれど、真面目そうよね」
「結婚相手にはその方がいいと思うわ」
長い間裏切られ、放置されていた母を思うと、父と同じように美しい顔を持ったジョナスよりもマシューの方が安心出来る気がする。もちろん、本当のところはわからないけれど。
昼休み、レティシアはマシューとカフェテリアで向かい合わせに座っていた。
「レティシア様、僕なんかと結婚して構わないんですか? 僕、変わり者だと噂されているらしいんだけれど気になりませんか」
「そうねえ、どんな変わり者なのかまず教えていただける?」
レティシアは笑いを堪えながら言った。
「自分では変わってるとは思ってないんですけどね。僕、虫が好きなんです。昨日も朝から昆虫採集に出掛けていて、それで留守にしていたんです」
「虫ですか? 私は蝶くらいしか知りませんわ」
「蝶の他にもたくさんの虫がいるんですよ。皆、虫には興味がないし、むしろ忌み嫌っていますが、あんなに可愛い奴らはいません。僕は虫の研究をライフワークにしようと思っているんです」
「素敵ですね。今度、私にも教えて下さる?」
するとスコットは顔を輝かせた。
「もちろんです。ぜひまた遊びに来て下さい。僕のコレクションをお見せします」
その時、レティシアの視界にヘザーとジョナスが映った。ヘザーもレティシアに気がつき、ジョナスの腕を引っ張ってこちらへやって来た。
「お姉様! この方が新しい婚約者?」
(余計なことを。新しい、なんて言わなくていいのに)
「マシュー、ご紹介しますわ。私の妹ヘザーと、婚約者のジョナスです」
「やあマシュー、驚いたよ。虫博士の君が義理の兄になるとはね」
レティシアはジョナスの言葉にからかいが含まれているのを感じ、嫌な気分になった。
「ジョナス様、僕も驚きました。今後は義理の兄弟としてよろしくお付き合いください」
「うふふ、なんだか二人、お似合いですわ。髪の色も似てるし。やっぱり私とじゃあ、釣り合わなかったですわね。私にはジョナス様じゃないと」
ジョナスの腕に絡みつくヘザーと、嬉しさを隠さないジョナス。まだレティシアが婚約者だった時はさすがにここまであからさまにはしていなかった。
「ではお姉様。私達はあちらで食事をしますわ。ご機嫌よう」
二人は腕を組んだまま向こうのテーブルに歩いて行った。
「……すみません、失礼な妹で」
「事情は伺ってます。本当は僕とヘザー様が婚約する予定だったんですよね」
「はい。マシュー様こそ、私なんかで構わないでしょうか?」
レティシアは申し訳なさそうに言ったが、マシューは愉快そうに目を躍らせていた。
「僕はレティシア様に代わってくれて本当に良かったと思っていますよ? ヘザー様は苦手なタイプです。レティシア様はとても美しいし、落ち着いた雰囲気がとても……好みです」
初めてこんな風に褒められ、レティシアは頬が熱くなった。
「そんな……十人中九人はヘザーの方が美しいと言うはずですわ」
「だったら僕は残りの一人なのかもしれません。でも僕には、あなたの方が数倍美しく思えます」
なんか気障なこと言ってしまった、と顔を真っ赤にしているマシュー。そんな所もレティシアの胸をキュンとさせた。
(この人とならいい夫婦になれるかもしれない……)
春の風のようにふわりと恋が訪れた気がして心が温かくなるレティシアだった。
130
あなたにおすすめの小説
厄介者扱いされ隣国に人質に出されたけど、冷血王子に溺愛された
今川幸乃
恋愛
オールディス王国の王女ヘレンは幼いころから家族に疎まれて育った。
オールディス王国が隣国スタンレット王国に戦争で敗北すると、国王や王妃ら家族はこれ幸いとばかりにヘレンを隣国の人質に送ることに決める。
しかも隣国の王子マイルズは”冷血王子”と呼ばれ、数々の恐ろしい噂が流れる人物であった。
恐怖と不安にさいなまれながら隣国に赴いたヘレンだが、
「ようやく君を手に入れることが出来たよ、ヘレン」
「え?」
マイルズの反応はヘレンの予想とは全く違うものであった。
双子の妹は私に面倒事だけを押し付けて婚約者と会っていた
今川幸乃
恋愛
レーナとシェリーは瓜二つの双子。
二人は入れ替わっても周囲に気づかれないぐらいにそっくりだった。
それを利用してシェリーは学問の手習いなど面倒事があると「外せない用事がある」とレーナに入れ替わっては面倒事を押し付けていた。
しぶしぶそれを受け入れていたレーナだが、ある時婚約者のテッドと話していると会話がかみ合わないことに気づく。
調べてみるとどうもシェリーがレーナに成りすましてテッドと会っているようで、テッドもそれに気づいていないようだった。
冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様
さくたろう
恋愛
役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。
ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。
恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。
※小説家になろう様にも掲載しています
いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。
完璧な妹に全てを奪われた私に微笑んでくれたのは
今川幸乃
恋愛
ファーレン王国の大貴族、エルガルド公爵家には二人の姉妹がいた。
長女セシルは真面目だったが、何をやっても人並ぐらいの出来にしかならなかった。
次女リリーは逆に学問も手習いも容姿も図抜けていた。
リリー、両親、学問の先生などセシルに関わる人たちは皆彼女を「出来損ない」と蔑み、いじめを行う。
そんな時、王太子のクリストフと公爵家の縁談が持ち上がる。
父はリリーを推薦するが、クリストフは「二人に会って判断したい」と言った。
「どうせ会ってもリリーが選ばれる」と思ったセシルだったが、思わぬ方法でクリストフはリリーの本性を見抜くのだった。
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
【完結済】侯爵令息様のお飾り妻
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────
継母や義妹に家事を押し付けられていた灰被り令嬢は、嫁ぎ先では感謝されました
今川幸乃
恋愛
貧乏貴族ローウェル男爵家の娘キャロルは父親の継母エイダと、彼女が連れてきた連れ子のジェーン、使用人のハンナに嫌がらせされ、仕事を押し付けられる日々を送っていた。
そんなある日、キャロルはローウェル家よりもさらに貧乏と噂のアーノルド家に嫁に出されてしまう。
しかし婚約相手のブラッドは家は貧しいものの、優しい性格で才気に溢れていた。
また、アーノルド家の人々は家事万能で文句ひとつ言わずに家事を手伝うキャロルに感謝するのだった。
一方、キャロルがいなくなった後のローウェル家は家事が終わらずに滅茶苦茶になっていくのであった。
※4/20 完結していたのに完結をつけ忘れてましたので完結にしました。
貧乏令嬢はお断りらしいので、豪商の愛人とよろしくやってください
今川幸乃
恋愛
貧乏令嬢のリッタ・アストリーにはバート・オレットという婚約者がいた。
しかしある日突然、バートは「こんな貧乏な家は我慢できない!」と一方的に婚約破棄を宣言する。
その裏には彼の領内の豪商シーモア商会と、そこの娘レベッカの姿があった。
どうやら彼はすでにレベッカと出来ていたと悟ったリッタは婚約破棄を受け入れる。
そしてバートはレベッカの言うがままに、彼女が「絶対儲かる」という先物投資に家財をつぎ込むが……
一方のリッタはひょんなことから幼いころの知り合いであったクリフトンと再会する。
当時はただの子供だと思っていたクリフトンは実は大貴族の跡取りだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる