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「どうだ、一年ぶりの王都は」
馬車の窓にぴったりと顔を寄せて外を見ているソニアに、リカルドが笑いをこらえた声で尋ねる。
「あっ……すみません。はしたないことを」
「ふっ……見たければいくらでも見ていいぞ。懐かしいのだろう」
リカルドはそう言ったが、実は逆であった。15年間暮らしたはずの街なのに、懐かしいという気持ちがほとんど湧いてこない。店が多く人や馬車の往来も激しい街並みを、ごみごみして息苦しいな、とソニアは感じていた。金色の畑、緑豊かな森、静かに流れる川、冬には雪が降る山々……ステッラの自然のほうがすでに懐かしい。
(たった一年でこんな風に思うなんて……)
やがて馬車は静かにジラルディ家のタウンハウスに到着した。これから一週間、この屋敷で過ごすのだ。さほど大きくはないが、落ち着いた温かみのある屋敷である。
「フィオレンツァ伯爵家に里帰りしたいなら、行ってきてもかまわないが……」
「いえ、その必要はありません。私が訪れても誰も喜びませんし」
サバサバと答えたつもりのソニアだったが、リカルドに頭をぽんぽんとされると少し目頭が熱くなった。リカルドは、近頃こうしてよくソニアの頭を撫でる。どういう気持ちからなのかソニアにはわかりかねていたが、悪い気はしなかった。
「では二人で王都を楽しむことにしよう。一休みしたらカフェにでも行ってみるか」
「ええ、ぜひ! ステッラにはパン屋はあるけれどカフェはありませんものね」
それから二人は街のあちこちを見て回って幾日か過ごし、ついに立太子式当日を迎えた。
「支度はできたか、ソニア」
「はい、リカルド様」
部屋に入ってきたリカルドを見てソニアは思わず感嘆のため息をついた。きちんと髪を撫で付け、王家に繋がる者であることを示す勲章を胸に光らせた彼は、やはりその尊い出自をうかがわせる。リカルドのほうもソニアを見るとにこりと笑い優しい声で囁いた。
「やはりよく似合うな。ネックレスもその大きさにして良かった」
ティアラとイヤリング、ネックレスはすべて希少なピンクダイヤモンドを使っている。この一年で背も伸びて首がすんなりと長くなってきたこともあり、大きなネックレスも違和感なく喉元に収まっていた。
「ありがとうございます。こんなに素晴らしいものを用意していただいて本当に嬉しいですわ」
「騎士団長の妻なのだから当然だ。今日は皆に紹介して回らなければならないから、申し訳ないがつきあってもらうぞ」
「はい、もちろんです」
立太子式は教会の中央に敷かれた赤いカーペットの上で行われた。その両側、左右に分かれて王族・貴族が座っている。
古式にのっとった式の荘厳さに胸をうたれながら眺めていたソニア。ふと向かい側の席を見ると、フィオレンツァ伯爵夫妻――つまり、ソニアの父と義母――と目が合った。義母は鼻に皴を寄せツンと横を向いてしまったし、父は気まずそうに目を逸らし隣に座る幼い息子に話し掛ける素振りをした。
(やっぱり、私のことなんて何も気にかけていないんだわ)
ずっと不遇だった実家での自分を思い出し悲しい気持ちになったソニア。そのまま他の貴族のほうまで目をやると――
(あっ……ディーノ……!)
かなり末席ではあるが、懐かしいディーノ・マルコーニが座っていた。ソニアは彼から目を離すことができず、必死で合図を送る。
(ディーノ! 私はここよ! 気づいて)
だが前方を見つめたままのディーノとは最後まで目が合うことがなかった。
(席が離れているからかもしれないわ。この後の祝賀パーティーで話ができたら……)
馬車の窓にぴったりと顔を寄せて外を見ているソニアに、リカルドが笑いをこらえた声で尋ねる。
「あっ……すみません。はしたないことを」
「ふっ……見たければいくらでも見ていいぞ。懐かしいのだろう」
リカルドはそう言ったが、実は逆であった。15年間暮らしたはずの街なのに、懐かしいという気持ちがほとんど湧いてこない。店が多く人や馬車の往来も激しい街並みを、ごみごみして息苦しいな、とソニアは感じていた。金色の畑、緑豊かな森、静かに流れる川、冬には雪が降る山々……ステッラの自然のほうがすでに懐かしい。
(たった一年でこんな風に思うなんて……)
やがて馬車は静かにジラルディ家のタウンハウスに到着した。これから一週間、この屋敷で過ごすのだ。さほど大きくはないが、落ち着いた温かみのある屋敷である。
「フィオレンツァ伯爵家に里帰りしたいなら、行ってきてもかまわないが……」
「いえ、その必要はありません。私が訪れても誰も喜びませんし」
サバサバと答えたつもりのソニアだったが、リカルドに頭をぽんぽんとされると少し目頭が熱くなった。リカルドは、近頃こうしてよくソニアの頭を撫でる。どういう気持ちからなのかソニアにはわかりかねていたが、悪い気はしなかった。
「では二人で王都を楽しむことにしよう。一休みしたらカフェにでも行ってみるか」
「ええ、ぜひ! ステッラにはパン屋はあるけれどカフェはありませんものね」
それから二人は街のあちこちを見て回って幾日か過ごし、ついに立太子式当日を迎えた。
「支度はできたか、ソニア」
「はい、リカルド様」
部屋に入ってきたリカルドを見てソニアは思わず感嘆のため息をついた。きちんと髪を撫で付け、王家に繋がる者であることを示す勲章を胸に光らせた彼は、やはりその尊い出自をうかがわせる。リカルドのほうもソニアを見るとにこりと笑い優しい声で囁いた。
「やはりよく似合うな。ネックレスもその大きさにして良かった」
ティアラとイヤリング、ネックレスはすべて希少なピンクダイヤモンドを使っている。この一年で背も伸びて首がすんなりと長くなってきたこともあり、大きなネックレスも違和感なく喉元に収まっていた。
「ありがとうございます。こんなに素晴らしいものを用意していただいて本当に嬉しいですわ」
「騎士団長の妻なのだから当然だ。今日は皆に紹介して回らなければならないから、申し訳ないがつきあってもらうぞ」
「はい、もちろんです」
立太子式は教会の中央に敷かれた赤いカーペットの上で行われた。その両側、左右に分かれて王族・貴族が座っている。
古式にのっとった式の荘厳さに胸をうたれながら眺めていたソニア。ふと向かい側の席を見ると、フィオレンツァ伯爵夫妻――つまり、ソニアの父と義母――と目が合った。義母は鼻に皴を寄せツンと横を向いてしまったし、父は気まずそうに目を逸らし隣に座る幼い息子に話し掛ける素振りをした。
(やっぱり、私のことなんて何も気にかけていないんだわ)
ずっと不遇だった実家での自分を思い出し悲しい気持ちになったソニア。そのまま他の貴族のほうまで目をやると――
(あっ……ディーノ……!)
かなり末席ではあるが、懐かしいディーノ・マルコーニが座っていた。ソニアは彼から目を離すことができず、必死で合図を送る。
(ディーノ! 私はここよ! 気づいて)
だが前方を見つめたままのディーノとは最後まで目が合うことがなかった。
(席が離れているからかもしれないわ。この後の祝賀パーティーで話ができたら……)
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