俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第六章 法術のススメ

第42話 チュートリアル:城主

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 君主ルーラー――
 黄金――
 敵――

 ガリガリと、細く、鋭利に、尖った鉛筆の様に感覚が鋭くなっていく。疑問、困惑、思考、挙動。その他にも思考が折り重なり、時間を止めた様に俺を支配していく。

 微かに揺れる瞳。呼吸を忘却の彼方へと追いやる。
 そして細胞の一つ一つを認識できるように感覚が鋭くなると、心臓の一挙動で思考の深海から我に返る。

「――」

 無意識に体が傾こうとする。一歩を踏み込むためだ。

(脚で攻撃――体当たり――オーラ剣――顕現――)

 この一歩から選択肢が分岐する。相手は君主ルーラー。判断が間違えれば終わる。

「――」

 俺の選択肢。それは――

「まぁ待てはじめくん。落ち着けって、な」

「!?」

 止まって……しまった。奴の言葉で、有無を言わさず、一歩踏み出しただけで止まってしまう。
 たった一言で惑わされたのでもなく、スキルを使われたでもなく、俺は自分の意志で止まる。この自分でも予想外の行動に、背中に汗が一滴流れた。

「……なんだお前は」

 引きつく喉から出た言葉。深々とリビングにあるソファに座る奴は、黄金の杯を回して香りを楽しんでいる仕草をしている。

「自己紹介しよう。俺は黄金君主ゴールドルーラーエルドラド。気軽にエルと呼んでくれ。メルシー」

「……」

「この国の飲酒可能年齢は二十歳だが、飲むかい? 冒険しようぜ」

 黄金君主ゴールドルーラーエルドラド。俺は緊張の糸を張っているのに、エルドラドはむしろ自然体。俺の事を知っているからには俺が幻霊君主ファントムルーラーと知っているはず……。言葉を交わしたのに奴の仕草や声の揺れでは情報を取れない。

「……俺を殺しに来たのか」

「おいおい、そのつもりなら優雅に酒なんて飲まない。ほら、俺に交戦の意志は無い」

 杯を手元に浮かせ、コメディドラマ見たく身振り手振りで否定している。

「だいたいなぁー、俺とお前が戦えば消滅するぞ。この学園都市。建物も崩壊するし、人だって沢山死ぬ。それは萌くんは望んでないし、俺も望んでない。俺はただ……話し合いに来ただけだ」

「それを信じろと」

「あーー。じゃあ俺の素顔見せる」

 エルドラドはそう言うと、宝石が散りばめられた仮面を手で覆い、後頭部のプレートが軽い音をたてて収納。仮面をそっと机の上に置いた。

 そして俺は呆然と口が空いた。

「また会ったな!」

 見間違うはずがない記憶に新しい顔。ビーチで場所を譲ってくれた健康的なおじさん……!

 見開いた瞳が閉じない。それ程に俺は驚いている。

「……な、なんで――」

 頭が混乱する。なおの事混乱する。

 気前のいいおじさんが君主だった。

 なぜ、なぜ、なぜ。

 そして思い出す。

「すまないね萌くん――」

「……あれ? おじさんに自己紹介したっけ?」

 混濁する思考の中、忘れかけていた疑問が噴火が如く蘇り、俺を戦慄させた。

「結論から言うと、俺は萌くんを監視してた」

「監……視……」

「危険な存在かどうか、性格趣味私生活。そりゃそうだろう、仲間のアンブレイカブルがお前に斃されたんだから」

「ッ!!」

 無意識に指先が動く。暴力を振るおうと。だが動けない。黄金に光る縄がいつのまにか体に巻き付き、身動きが取れないでいた。

「はぁー。おたくら人類の性分は戦闘民族か何かか? こっちはヤル気無いって言ってるじゃん」

「っく!」

「力むな力むな。いいか、その縄は簡単に解ける。俺の力以上ならな」

 力ずくで引き千切ろうにも微動だにしない。……目をそむけたくなる。奴の言葉が本当なら、今の俺では力が及ばないと。

「……」

 話し合い。確かにエルドラドと名乗ったおじさんからは敵意や交戦の意志は微塵にも感じない。ただ優雅に、小指を立てて杯をあおっている。

 気が変わって交戦。最悪、黄龍仙――リャンリャンをルーラーの力で呼び出せば戦闘面はなんとか――

「家臣《ヴァッサル》もダメだぞー」

 考えが浅はかだった。

「ンク。それにしても狭い部屋だなぁ~。君主ルーラーだぞお前。自分のディビジョンでなぜすごさない?」

「……俺のかってだろ」

「それと酒が無いのがダメだな。冷蔵庫にも無かった」

「かってに人ん家の冷蔵庫を開けんな!」

 本当におじさんは君主なのかと疑う程に調子が狂う。俺だけが張り詰めて俺だけが一喜一憂していた。独り相撲だ。

「ンク。ふー。……萌くん。これから君を、君主になった君が座るべき椅子が有る所に来てもらう」

「座るべき……椅子……?」

 喉を鳴らせて飲み終えると、さっきまでのおちゃらけた声ではなく、低く真剣みが有るトーンへと変わっていった。
 椅子と言われ疑問が浮かんだが、何処かに連れていくと言われ俺はエルドラドを睨んだ。

「そこに行くと易々と俺は口をはさめなくなるから、今、聞いておきたい」

 赤い瞳が俺を写す。エルドラドの表情は捉えどころのない無表情。

「アイツは……。アンブレイカブルは最後――」

 どうだった――

 曖昧な。すごく曖昧な問。

 嬉しさを含むどうだった。
 怒りを含むどうだった。
 楽しさを含むどうだった。

 そのどれとも違う、哀愁漂う、どうだった。

 演技じゃない。本気だと俺にはわかった。

 応えなくていい。

 答えなくていい。

 でも俺は――

「泣いてた」

「――」

 堪えた。

 アンブレイカブルは堪えていた。涙を流す事でしか表現できなかった。たまにアンブレイカブルの夢を見る。それはとても幸せそうで、儚い夢。それが何故か、壊された。

 憎悪。

 憎悪が彼を支配したが、やがてそれも堪え、俺の前に現れた。

「でもこうも言っていた」

「?」

「この戯れを終わらせろってな!」

 悲しみを浮かべるエルドラド。俺の二言目で瞼を大きく開けた。驚いた表情。すぐにそれは。

「ッッ~~クハッハッハッハ!」

 満面の笑顔に変わった。腹を抱え、机を叩き、涙が目じりに浮かぶ。しきりに笑い、落ち着きを取り戻したエルドラド。

「何がおもしろい!」

 度肝を抜き、青ざめる顔が拝めると思ったが、その反対。俺は思わず声を荒げてしまった。

 そんな俺を無視し落ち着きを取り戻したエルドラド。白い歯を見せてこう言ってきた。

「良し。じゃあ行くぞ」

「え――」

 心の準備すら与えないエルドラドのフィンガースナップ。一瞬で視界が金色に染まり、一秒もしないうちに金色が収縮する音を立て消え去った。

 そして俺は目がおかしくなった。

「……なんだ、ここ」

 そう錯覚する白。

 床、壁、柱にいたるまでが白の世界。

 天井がやけに高い。

 脳裏に浮かぶのは城の中。物語のお城。

 無音のはずが、壮大なオーケストラが聞こえてきそうな場の雰囲気。

 俺は無意識に唾を飲み込んだ。

「ホワイト・ディビジョン。ここは俺らリーダーのディビジョンだ」

 ディビジョン。君主が作り出せる己の世界。俺もファントム・ディビジョンを展開できるがまだ力不足ででいる。
 この壮大感……。嫌でも分からされる城主との力の差。

「っ!」

「ついて来い」

 解放される束縛感。金色の縄が粒子となって消える。
 金色の悪趣味な仮面をいつのまにか被っているエルドラドが先行した。

 白の廊下を歩いていく。靴下越しにわかる柔らかな肌触り。白で見えにくいが、どうやら絨毯が敷かれている様だ。

 見えていた大きな扉の前に辿り着く。

「……」

 いる。

 この先に城主が。

「はい。開門~」

 ガチャリと音を立てて開門する。

 歩くエルドラドについて行く。目を伏せながら、高鳴る鼓動を抑えながら。

 そしてエルドラドが止めると同時に、俺は顔を上げご尊顔を――

「――」

 謁見の間。ファンタジーによくある構図。だが俺を見下ろすのは城主だけではなかった。

 扇状に広がる椅子。端から中央にかけて位の様に椅子が設けれれている。
 中には空席もいくつかあるが、一番上の真ん中、白の鎧を着たのが城主だろう。

「まずは感謝を述べたい。我らの呼びかけに応じここに参上した事、嬉しく思う」

 重圧な声。しかし、どこか中世的な側面も垣間見える。

「ふぅ」

 黄金の玉座を出現させ深く座り、脚を組んでまた杯を持っている。
 この男は酒飲んでないとじっとしてられないのか? アル中だな。

「……感謝なんていらない。俺は話があると隣のおっさんに懇願されて来たまでだ」

「そりゃ足の指舐めそうになるまでお願いしたぞ俺はうん」

「……」

 何回も頷くエルドラド。本当に調子が狂う。俺は挑発をしたのにまるで相手にしない感。

「そうか。ご苦労だったエル」

「メルシー」

 なんかこのやり取りで城主の冗談通じない感が俺の中で湧く。言葉を選ばないと生きて帰れないかもしれない。

「それと謝罪したい。我らの同胞、ウルアーラの暴走。止められなかった。すまない」

 同胞の暴走。そしてウルアーラと言う単語。

 エルドラドの正体と合わせると、泡沫事件の真犯人はあの不気味な女性、ウルアーラ。

「俺に謝るな! 謝るなら関係者全員に謝れ! 部下の不始末は上司のアンタが取れ!」

 冷静でいなければならないのに、自分でも何言っているか分からない程に饒舌になっている。
 しまったと思いながらも睨めつけるのを止めない。下がったらダメな気がするからだ。

「部下ではないが……そうだな。時が来れば公的に謝罪しよう」

 何故。なぜ俺の言葉に肯定的なのか。疑問だらけで頭がおかしくなりそうだ。

「……さて、本題に入ろうか」

(来るか……)

「花房 萌殿。いや、アンブレイカブルの意志を継ぐ者よ」

 発する言葉に重みを感じる。さっきまでのYESUマンの雰囲気から一転し、荘厳かつ巨大な存在へ錯覚させられる。

「我らはそなた、幻霊君主ファントムルーラーを同胞として迎える」

 肯定的、奇異的、挑発的、保母的、委縮的、その他もろもろな複数の視線が俺を鋭く射貫く。

 隣のおっさんは酒飲んでるけど。

 "迎える"。~様と思うとか、そう考えてるとか、俺に選ばせる選択権を持たせる言葉じゃない。これはもう決定事項。そう言っている。

「――」

 俺が答えたのは――
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