50 / 288
第七章 二学期
第50話 チュートリアル:追い込み
しおりを挟む
「――君だけのぉ、唇にそっと触れたああい♪」
大吾の上手くもなく下手じゃない歌がカラオケボックスを響かせる。
彼女である花田さんは目を輝かせながら手拍子。ギブスが取れ、歌詞の意味を含めて花田さんを指さし。腕が治って良かったが全快じゃないらしい。
広めの部屋。そこで俺はジュースを啜り、首が固まって対面の瀬那と目が合う。
「えーーハジメくん意外と顔イイじゃん~。私タイプかも~」
「うわー肩の筋肉すっご!」
「触ると服越しでも分かる割れてる腹筋も凄いじゃーん」
「ふーん着やせするんだねぇ」
俺は今、カラオケボックスで現役ギャルJKの集団に体をまさぐられている。情け容赦無い突然のスキンシップ。まさか歌が始まって数秒後にペタペタ触られるとは思っていなかった。
「あ、あのぉ、触るの止めてもらっていいスか……? 名前もまだ知らない訳ですし……」
「えーじゃあ名前知ってたら触ってもいいんだぁ」
「そういう意味じゃ……」
四方八方から女子特有の良い匂いが俺の鼻腔をくすぐる。さらに童貞の俺には辛すぎる肌を密着する過激なスキンシップ。多少寒くなってきたかな? という気温なのにまだまだ露出が多いギャル集団。
「……楽しそうダネ」
ムスッとして如何にも機嫌が悪そうなお瀬那さん。その小さな口でストローを咥えジュースを飲んでいる。
俺が目で助けを求めても一切微動だにしない。
「うわ胸板ヤバくない!?」
「マジだ、つんつん」
「今は~♪ 何度も――♪」
歌は滞りなく続けられ、俺はおもちゃにされる。
「はぁ……。ほらみんな、萌が困ってるじゃん。どいたどいた!」
へーいやらちぇーやらが名残惜しそうに聞こえ、ギャルたちが俺から離れていく。まぁ二人は両隣に座ったが。
どうやら俺の訴えは瀬那に届いたようだ。
「おい!! みんな俺の歌聞けよ!!」
「マイク通して叫ぶな!!」
大吾以外が耳を塞ぐ。大吾が痺れを切らして怒鳴ってきた。すかさず怒鳴り返すギャルが一人。同じく耳を塞ぐ花田さんを見た大吾。流石にミスったとマイクをオフにして小さく謝った。
「いやーマジで萌っちが来るとはなぁ」
もえっち……。
「瀬那には感謝だわー」
「ごめん萌。みんなどうしてもって言うから……」
「ああ、そういう」
なんか申し訳なさそうに誘ってくると思ったら、ギャルたちが俺を呼んで欲しかったのか。瀬那も俺が陰キャゲーマーと知ってるし板挟みになった結果、誘ってきたと予想しよう。
確かにギャルのグイグイ来る勢いは根負けするだろうな。
「俺は萌ちゃんを楽しむために来た」
これが愉悦部か大吾……!
「私は大吾くんに会いたかったから」
大吾死ね。
「蕾……」
「大吾くん……」
完全に二人の世界だ。大吾死ね。
って言うか花田さんは普通にこの場に馴染んでるんだな。まぁ瀬那と仲良しだし、ギャルたちも仲良しってのも頷ける。
「で? 萌っちはちゃんと持って来たの?」
瀬那の隣の白ギャルが話しかけてきた。
「え、何を……」
「は?」
怖。怖くないけど怖い顔してる。
「金だよ金一人分。きっちり三万くらい余分にってさぁ」
「……」
【悲報】俺氏、白ギャルに金をゆすられる。……もしや今、俺は援助交際を持ちかけられているのか……? 三万という現実的なこの数字。イケナイ事だゾ!! こんな同人誌みたいな展開!!
「あっ」
今瀬那の素な反応が出た。まわりのギャルもまたかよーと呆れている。どうやら瀬那が噛んでるらしい。
「ごめん萌! 説明忘れてた!」
焦る反応を見て安心した。一応瀬那は処、お花が散ってないはず(希望論)だから聞く価値はある。
「ほら、十月って言えばハロウィンでしょ? 去年も仮装してインスタ映えったからさ、今年もチャレンジしよってなってね」
「ほいコレ」
隣のギャルがスマホを見せて来た。そこには去年撮ったであろうマリオとルイージが笑顔で映っていた。もちろんギャルたちだ。
「けっこう凝ってるんですね」
一応コスプレ程度のぽいは陰キャながら知っているが、この仮装は生地の質とか髭の具合が素人目線で段違いで出来がいいとわかる。
「お!」
横にスワイプしていくと、クオリティの高い初音ミクが映っていた。しかも真っ直ぐこのスマホに向かってポーズしている。
俺はこの初音ミクに見覚えがある。掲示板で見た。クソクオリティが高い初音ミクがいると。
「それ私な」
「え」
嘘だろ。この二次元から飛び出してきた初音ミクが三万円のギャルと言うのか……!?
「あ゛りえない……!?」
思わず闇マリクになってしまう衝撃。
「私趣味がコスプレの衣装づくりだからでさ、なんか顰蹙買われたりDMで喧嘩売られたりとかするけど、可愛いもの作って僻まれるのマジでカスって感じ」
「まぁまぁそれだけクオリティ高いって事だからねー」
「嫉妬よ嫉妬」
ギャル同士が慰め合ってる。もしかしたらこの三万ギャルは俺が思っているより凄いギャルかもしれない。
「って事で八人分の衣装作るからしばらく籠るわ。今日はカラオケで歌うまくるからヨロシク!」
「イエーイ! ノってるかあああい!!」
さっそくギャルがマイクを取って歌いだそうとしている。
八人分……。俺も含まれるから当然か。それに三万って高くね? コスプレ衣装の制作費用とか知らんけど中抜きとかされるんじゃね? 電通行為されるんじゃね?
「金余ったら返すから」
どうやら顔に出ていた様だ。
「はい」
手の平を向けられた。
「無いです」
「は?」
「用意してないです」
「は?」
三万ギャルが不機嫌になっている。そして伝え忘れた元凶は仲間と肩を組んで歌っている。
そして陽キャ御用達のハロウィンに駆り出される事が否応なしで決定した俺。めちゃくちゃ憂鬱になる。
翌日。
晴天広がるいい天気。そんな日に俺は。
「――コハッ!!」
内臓が掻き回される一撃を腹部に受けた。
飛び散る唾液を撒き散らしながら吹き飛ばされる俺。地に手と足を付けブレーキ、立て直さないぞと迫る大きな鋼の拳を体を捻って避ける。
「ッフ」
俺の胴体ほどもある隆起した鋼の腕。ストレートで伸びきった腕に抱き着き、軸にして回転、その勢いのまま回し蹴りを脇腹のアーマーに浴びせる。
手で防がれる蹴り。
剛腕を離し握られた脚を折り曲げて体制を変える。実質体を支えているのは掴まれた脚一本のみ。折り曲げた勢いでツインアイ光るフェイスに本気の一撃を与え、奴の首が衝撃で伸びる。
離される脚。
地に両手を突き出して逆さ状態に。腕の力で跳躍し、太ももで顔を挟む様に肩車になる。そのまま力任せに両手を合わせてフェイスに叩きこもうとしたが、右手で引きはがされ、こちらが力任せに放り投げられた。
風を切る感覚。水が流れる壁が前へ前へと流れ、宙で態勢を立て直すと、白の長髪はためく奴が自慢の拳を握って迫って来る。
「すぅ」
着地。
小さく息を吸って呼吸を整える。
駆動音を響かせる奴の一挙動。地面の水しぶきが連鎖的に爆ぜる攻撃姿勢の構え。正拳突きじゃない微かに見えた鋼指の緩み。
(掴みか……!!)
一歩踏み出して力む。
掴み。掴みとわかれば対処は複数ある。上段、中段、下段。体内時間でいくつも思考。だが。
「破々々々々!!」
体の芯を震わす黄龍仙の声。その迫る姿はまさに武神。だが。
だが俺は、自分の思考が信じられなかった。
それはそう。直感に似たモノだった。
だからこそ。
「不流亜!!」
リャンリャンのフェイント踵落としを寸での所で避ける事ができた。
猛禽類に似た足の爪。地面を震撼させる一撃。その隙間を縫って避けのけた。
「――」
無表情の黄龍仙。だがリャンリャンは驚いているに違いない。俺だって驚いている。
そして踵落としの勢いで落ちてくる顎。それ目掛けて俺は小さくジャンプ。
下段から最上段に打ち込む回し蹴り。
月の半月を描く其れは機仙拳が奥義が一つ。
それがこれ。
「弧月脚!!」
「!!??」
顎からの衝撃で首が反り、長髪が爆ぜる様に大きく広がった。
「ふぅー」
着地し黄龍仙を見ると、首が反ったままでピクリとも動かない。俺は爪先で膝を小突いていい加減動けと催促する。
すると何事もなく首を動かして俺を見るツインアイ。
「まだまだだネ☆」
「越前リョーマか」
ツッコんでしまった。
「デキは不完全だけど驚いたヨ☆ まさか密に練習してた?」
「いやぜんぜん。思い出してやってみよかなぁて思ったらできた」
「えぇ……。戦闘センス高過ぎぃ☆」
黄龍仙でドン引かれるとなんかかわいいな。リャンリャンは全然可愛く無いが。
まぁ今日の鍛錬はこんな所だろと指を鳴らし、ファントム・ディビジョンからリビングへ帰ってきた。
『チュートリアル:家臣と鍛錬しよう』
『チュートリアルクリア』
『クリア報酬:速さ+』
水をコップに入れ喉に流し込む。火照った体で飲む水はうまし。
「あ、俺しばらく短期のバイトすっから」
「バイト? お金ならカードがあるんじゃ――」
「必要な金が多いし、クレカは生活するために使う。高い遊びは自分で稼ぐわ」
真顔のリャンリャン。一秒後にその細目が開き、声を荒げた。
「モテないからって女遊びはダメだよ大哥!! そんなに童貞捨てたいのかい!?」
「違うわアホ!!」
この仙人、俺をイジル事には一級品だな。
時は十月上旬。
クラス対抗があと一ヶ月となると、身体面はもちろん座学までもそれに向けての授業が多くなる。なんか別クラスの奴らが怪しい視線を送ってくるが、特に何かしてくる事も無いので放置している。
放課後のバイトや土日のバイト、一週間重い物を運ぶ(俺はラクチン)労働して結構稼いだ。その一部である三万を瀬那経由で白ギャルに渡された。
十月中旬。
模擬戦をとりいれた授業に現役攻略者が有志で集われ、俺ら生徒の力が試された。いい勝負をする人もいれば、基礎体力が足りなかった人もいる。各々の追い込みする課題が明確に見えた。
コスプレ衣装も着々と完成しているらしく、今回のテーマは格ゲーらしい。なぜ格ゲーかと聞くと、コスプレの比率的にあまり居ないらしく、今回はそこの枠絡め取る算段らしい。
ちなみに六人のコスプレは決まっているが、俺は内緒らしい。金出してんだから知りたいところだが、大吾に楽しいからと論されたり、白ギャルに凄まれたりしたので渋々委縮。
十月下旬。
対抗への追い込み。日に日に実感する自分の成長に、俺含む生徒たちはヤル気十分。
コスプレ衣装や小物を作り終えた白ギャルから余ったお金が帰ってきた。
十六円。
十円一枚に五円と一円だ。
この手の平にあるお金を見て寂しくなった。
そしてハロウィン当日の朝。
白ギャルの家にて集合し、開口一番こう言われた。
「萌っち。ちゃんとチン毛剃るか抜いて来た?」
「……」
さっそく帰ってゲームしたくなった。
大吾の上手くもなく下手じゃない歌がカラオケボックスを響かせる。
彼女である花田さんは目を輝かせながら手拍子。ギブスが取れ、歌詞の意味を含めて花田さんを指さし。腕が治って良かったが全快じゃないらしい。
広めの部屋。そこで俺はジュースを啜り、首が固まって対面の瀬那と目が合う。
「えーーハジメくん意外と顔イイじゃん~。私タイプかも~」
「うわー肩の筋肉すっご!」
「触ると服越しでも分かる割れてる腹筋も凄いじゃーん」
「ふーん着やせするんだねぇ」
俺は今、カラオケボックスで現役ギャルJKの集団に体をまさぐられている。情け容赦無い突然のスキンシップ。まさか歌が始まって数秒後にペタペタ触られるとは思っていなかった。
「あ、あのぉ、触るの止めてもらっていいスか……? 名前もまだ知らない訳ですし……」
「えーじゃあ名前知ってたら触ってもいいんだぁ」
「そういう意味じゃ……」
四方八方から女子特有の良い匂いが俺の鼻腔をくすぐる。さらに童貞の俺には辛すぎる肌を密着する過激なスキンシップ。多少寒くなってきたかな? という気温なのにまだまだ露出が多いギャル集団。
「……楽しそうダネ」
ムスッとして如何にも機嫌が悪そうなお瀬那さん。その小さな口でストローを咥えジュースを飲んでいる。
俺が目で助けを求めても一切微動だにしない。
「うわ胸板ヤバくない!?」
「マジだ、つんつん」
「今は~♪ 何度も――♪」
歌は滞りなく続けられ、俺はおもちゃにされる。
「はぁ……。ほらみんな、萌が困ってるじゃん。どいたどいた!」
へーいやらちぇーやらが名残惜しそうに聞こえ、ギャルたちが俺から離れていく。まぁ二人は両隣に座ったが。
どうやら俺の訴えは瀬那に届いたようだ。
「おい!! みんな俺の歌聞けよ!!」
「マイク通して叫ぶな!!」
大吾以外が耳を塞ぐ。大吾が痺れを切らして怒鳴ってきた。すかさず怒鳴り返すギャルが一人。同じく耳を塞ぐ花田さんを見た大吾。流石にミスったとマイクをオフにして小さく謝った。
「いやーマジで萌っちが来るとはなぁ」
もえっち……。
「瀬那には感謝だわー」
「ごめん萌。みんなどうしてもって言うから……」
「ああ、そういう」
なんか申し訳なさそうに誘ってくると思ったら、ギャルたちが俺を呼んで欲しかったのか。瀬那も俺が陰キャゲーマーと知ってるし板挟みになった結果、誘ってきたと予想しよう。
確かにギャルのグイグイ来る勢いは根負けするだろうな。
「俺は萌ちゃんを楽しむために来た」
これが愉悦部か大吾……!
「私は大吾くんに会いたかったから」
大吾死ね。
「蕾……」
「大吾くん……」
完全に二人の世界だ。大吾死ね。
って言うか花田さんは普通にこの場に馴染んでるんだな。まぁ瀬那と仲良しだし、ギャルたちも仲良しってのも頷ける。
「で? 萌っちはちゃんと持って来たの?」
瀬那の隣の白ギャルが話しかけてきた。
「え、何を……」
「は?」
怖。怖くないけど怖い顔してる。
「金だよ金一人分。きっちり三万くらい余分にってさぁ」
「……」
【悲報】俺氏、白ギャルに金をゆすられる。……もしや今、俺は援助交際を持ちかけられているのか……? 三万という現実的なこの数字。イケナイ事だゾ!! こんな同人誌みたいな展開!!
「あっ」
今瀬那の素な反応が出た。まわりのギャルもまたかよーと呆れている。どうやら瀬那が噛んでるらしい。
「ごめん萌! 説明忘れてた!」
焦る反応を見て安心した。一応瀬那は処、お花が散ってないはず(希望論)だから聞く価値はある。
「ほら、十月って言えばハロウィンでしょ? 去年も仮装してインスタ映えったからさ、今年もチャレンジしよってなってね」
「ほいコレ」
隣のギャルがスマホを見せて来た。そこには去年撮ったであろうマリオとルイージが笑顔で映っていた。もちろんギャルたちだ。
「けっこう凝ってるんですね」
一応コスプレ程度のぽいは陰キャながら知っているが、この仮装は生地の質とか髭の具合が素人目線で段違いで出来がいいとわかる。
「お!」
横にスワイプしていくと、クオリティの高い初音ミクが映っていた。しかも真っ直ぐこのスマホに向かってポーズしている。
俺はこの初音ミクに見覚えがある。掲示板で見た。クソクオリティが高い初音ミクがいると。
「それ私な」
「え」
嘘だろ。この二次元から飛び出してきた初音ミクが三万円のギャルと言うのか……!?
「あ゛りえない……!?」
思わず闇マリクになってしまう衝撃。
「私趣味がコスプレの衣装づくりだからでさ、なんか顰蹙買われたりDMで喧嘩売られたりとかするけど、可愛いもの作って僻まれるのマジでカスって感じ」
「まぁまぁそれだけクオリティ高いって事だからねー」
「嫉妬よ嫉妬」
ギャル同士が慰め合ってる。もしかしたらこの三万ギャルは俺が思っているより凄いギャルかもしれない。
「って事で八人分の衣装作るからしばらく籠るわ。今日はカラオケで歌うまくるからヨロシク!」
「イエーイ! ノってるかあああい!!」
さっそくギャルがマイクを取って歌いだそうとしている。
八人分……。俺も含まれるから当然か。それに三万って高くね? コスプレ衣装の制作費用とか知らんけど中抜きとかされるんじゃね? 電通行為されるんじゃね?
「金余ったら返すから」
どうやら顔に出ていた様だ。
「はい」
手の平を向けられた。
「無いです」
「は?」
「用意してないです」
「は?」
三万ギャルが不機嫌になっている。そして伝え忘れた元凶は仲間と肩を組んで歌っている。
そして陽キャ御用達のハロウィンに駆り出される事が否応なしで決定した俺。めちゃくちゃ憂鬱になる。
翌日。
晴天広がるいい天気。そんな日に俺は。
「――コハッ!!」
内臓が掻き回される一撃を腹部に受けた。
飛び散る唾液を撒き散らしながら吹き飛ばされる俺。地に手と足を付けブレーキ、立て直さないぞと迫る大きな鋼の拳を体を捻って避ける。
「ッフ」
俺の胴体ほどもある隆起した鋼の腕。ストレートで伸びきった腕に抱き着き、軸にして回転、その勢いのまま回し蹴りを脇腹のアーマーに浴びせる。
手で防がれる蹴り。
剛腕を離し握られた脚を折り曲げて体制を変える。実質体を支えているのは掴まれた脚一本のみ。折り曲げた勢いでツインアイ光るフェイスに本気の一撃を与え、奴の首が衝撃で伸びる。
離される脚。
地に両手を突き出して逆さ状態に。腕の力で跳躍し、太ももで顔を挟む様に肩車になる。そのまま力任せに両手を合わせてフェイスに叩きこもうとしたが、右手で引きはがされ、こちらが力任せに放り投げられた。
風を切る感覚。水が流れる壁が前へ前へと流れ、宙で態勢を立て直すと、白の長髪はためく奴が自慢の拳を握って迫って来る。
「すぅ」
着地。
小さく息を吸って呼吸を整える。
駆動音を響かせる奴の一挙動。地面の水しぶきが連鎖的に爆ぜる攻撃姿勢の構え。正拳突きじゃない微かに見えた鋼指の緩み。
(掴みか……!!)
一歩踏み出して力む。
掴み。掴みとわかれば対処は複数ある。上段、中段、下段。体内時間でいくつも思考。だが。
「破々々々々!!」
体の芯を震わす黄龍仙の声。その迫る姿はまさに武神。だが。
だが俺は、自分の思考が信じられなかった。
それはそう。直感に似たモノだった。
だからこそ。
「不流亜!!」
リャンリャンのフェイント踵落としを寸での所で避ける事ができた。
猛禽類に似た足の爪。地面を震撼させる一撃。その隙間を縫って避けのけた。
「――」
無表情の黄龍仙。だがリャンリャンは驚いているに違いない。俺だって驚いている。
そして踵落としの勢いで落ちてくる顎。それ目掛けて俺は小さくジャンプ。
下段から最上段に打ち込む回し蹴り。
月の半月を描く其れは機仙拳が奥義が一つ。
それがこれ。
「弧月脚!!」
「!!??」
顎からの衝撃で首が反り、長髪が爆ぜる様に大きく広がった。
「ふぅー」
着地し黄龍仙を見ると、首が反ったままでピクリとも動かない。俺は爪先で膝を小突いていい加減動けと催促する。
すると何事もなく首を動かして俺を見るツインアイ。
「まだまだだネ☆」
「越前リョーマか」
ツッコんでしまった。
「デキは不完全だけど驚いたヨ☆ まさか密に練習してた?」
「いやぜんぜん。思い出してやってみよかなぁて思ったらできた」
「えぇ……。戦闘センス高過ぎぃ☆」
黄龍仙でドン引かれるとなんかかわいいな。リャンリャンは全然可愛く無いが。
まぁ今日の鍛錬はこんな所だろと指を鳴らし、ファントム・ディビジョンからリビングへ帰ってきた。
『チュートリアル:家臣と鍛錬しよう』
『チュートリアルクリア』
『クリア報酬:速さ+』
水をコップに入れ喉に流し込む。火照った体で飲む水はうまし。
「あ、俺しばらく短期のバイトすっから」
「バイト? お金ならカードがあるんじゃ――」
「必要な金が多いし、クレカは生活するために使う。高い遊びは自分で稼ぐわ」
真顔のリャンリャン。一秒後にその細目が開き、声を荒げた。
「モテないからって女遊びはダメだよ大哥!! そんなに童貞捨てたいのかい!?」
「違うわアホ!!」
この仙人、俺をイジル事には一級品だな。
時は十月上旬。
クラス対抗があと一ヶ月となると、身体面はもちろん座学までもそれに向けての授業が多くなる。なんか別クラスの奴らが怪しい視線を送ってくるが、特に何かしてくる事も無いので放置している。
放課後のバイトや土日のバイト、一週間重い物を運ぶ(俺はラクチン)労働して結構稼いだ。その一部である三万を瀬那経由で白ギャルに渡された。
十月中旬。
模擬戦をとりいれた授業に現役攻略者が有志で集われ、俺ら生徒の力が試された。いい勝負をする人もいれば、基礎体力が足りなかった人もいる。各々の追い込みする課題が明確に見えた。
コスプレ衣装も着々と完成しているらしく、今回のテーマは格ゲーらしい。なぜ格ゲーかと聞くと、コスプレの比率的にあまり居ないらしく、今回はそこの枠絡め取る算段らしい。
ちなみに六人のコスプレは決まっているが、俺は内緒らしい。金出してんだから知りたいところだが、大吾に楽しいからと論されたり、白ギャルに凄まれたりしたので渋々委縮。
十月下旬。
対抗への追い込み。日に日に実感する自分の成長に、俺含む生徒たちはヤル気十分。
コスプレ衣装や小物を作り終えた白ギャルから余ったお金が帰ってきた。
十六円。
十円一枚に五円と一円だ。
この手の平にあるお金を見て寂しくなった。
そしてハロウィン当日の朝。
白ギャルの家にて集合し、開口一番こう言われた。
「萌っち。ちゃんとチン毛剃るか抜いて来た?」
「……」
さっそく帰ってゲームしたくなった。
274
あなたにおすすめの小説
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる