俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第八章 VS嫉姫君主

第63話 漣歌姫物語

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 アレはそう、上を泳ぐ魚たちもびっくりする様な嵐だった。

 おてんば娘だった私は好奇心を押さえられず上へ泳いでいくと、地上で生きる者たちの船が転覆していた。

 ―――助けなきゃ。

 次々に溺れていく人を見た私は心に従い、救助に向かった。

 でも助けられるのは一人が精一杯。沈んでくる樽や木々を避け、一人の人間に手を伸ばして地上へ上がった。

 嵐が去った後、平らな岩場へ人間を寝かせ、様子を見た。

 ―――なんて気品のある方なんだろ。

「~~~♪♪」

 この出来事を歌に乗せて歌っていると、しばらくすると口から水を吐き、彼は意識を取り戻した。

「けほっ、けほ、……き、キミが助けてくれたのか」

「ええ。でもごめんなさい。救えたのはあなただけなの……」

「……そうか。綺麗な歌声で目が覚めたよ。……ん?」

「ッ!!」

 彼の視線が私の尾ひれに。しまった! と、すぐさま海の中へ入り海面に顔だけ出して彼を見た。

 そこには彼は居なかった。

「え!? どこに――」

「ぐぼぼぼぼぼ!?」

「ええええええ!!??」

 海に沈んでいく彼。すぐに助けて同じ岩場へ上げた。

「いやぁ助かったよ。君を追う様に前のめりになったらツルっと滑ってた! ハハハ!」

「笑い事じゃないわよもう! あのまま死なれちゃ助けた意味がなくなるわ!」

 彼は悪びれる事も無くしきりに笑い、怒っていた私もしだいに心が安らいだ。

「ハハハ。……キミに助けられたのは二度目だね。ボクはエリック。キミは?」

「私は……。私はウルアーラ。見ての通り、人魚よ」

 これがエリックとの始まりだった。

 それから私たちは、この岩場で幾度も合い、語り、驚いたり、食べ物を交換して食べたり、一緒に歌ったり。足蹴も無く顔を合わせた。

 地上の人間には関わるな――

 おてんば娘の私にお父様がよく言っていた事だ。でもそれが余計に私の心に火を灯した。

「ウルアーラどこに行くつもりだ? トルトン様がまたまたお怒りになるぞ!」

「うまい事言っておいてねセバスチャン!」

「また人間に会いに行くの~?」

「ごめんねフランダー。また美味しい地上の食べ物貰ってくるから!」

 執事兼音楽家のセバスチャンがやれやれと顔を振り、友達のフランダーが困った顔をしている。
 もういつもの事だとはにかんだ笑顔を残して地上へ上がる。

「やあウルアーラ。待ってたよ」

「早いわね、エリック」

 人魚の私に怖がらず、あまつさえ私を驚きと関心の渦へ放り込んだ。

 しだいに私は、エリックの事を胸に秘めていた。

 そんな頃だった。

「もう、ここへは来れない……」

 その一言を言う勇気がどれ程要るのか、彼の悲愴で悔いる顔がそう私に思わせた。

 なんでだと説いた。

「実は、縁談があるんだ。政治上断る事が難しい」

 胸が痛んだ。

「ああ、それも考えた! でもお忍びでキミに会いに来るのは現実的じゃない!」

 胸に針が刺さった。

「中途半端は嫌なんだ! だからこうして最後に会いに来た!」

 胸に鋭い歯が刺さった。

「愛しているからこそ、裏切るんだ……」

 胸に、穴が空いた。

 流れる涙を他所に、エリックは背中を見せ後にした。

「――。――」

 次の日、馴染みの岩場で彼を待った。けど来なかった。

 家に帰らず朝日に照らされるのは七日目。来ない。

 半分家出状態。地上の季節が変わる頃。来ない。

 待てども待てども、彼は来ない。それは当然かもしれない。エリックはハッキリと別れを告げたのだから。
 でも私は変わらない。彼への想いは変わらない。きっと来るはずだと、来るんだと。彼への愛は増していく一方だった。

「エリック……」

 彼が去ってから同じ季節になった頃、私は思い立った。

「待つ必要なんてない。私が行けばいいのよ!」

 私はすぐさま向かった。近寄ってはならない、陰気な海域へ。

「おや? これは珍しい客だねぇ」

「そのタコ足……。あなたが願いを叶えてくれる魔女、ヴァネッサね」

「トルトンの言いつけを守らなくていいのかい? ウルアーラ姫」

「お父様は心配性だから、あなたの事を言い過ぎなのよ。現にほら、あなたなんてちっとも怖くない」

「アッハッハッハ! お転婆もここまでくると勇敢だねぇ」

 海域一危険な存在。それがヴァネッサ。お父様やセバスチャンに言い聞かされた様に、ヴァネッサはあくどい顔をしていたけど、実際会ってみるとただの化粧の濃い年増のおばさん。尾ひれもいい所だった。

 でもそんな彼女の力が必要。

「私に脚をちょうだい」

「んー? 聞いてないのかい? 願いを叶えるには対価が必要。それも大層な――」

「知ってるわ。早くして」

「んんんんんん!! 任せなさい!」

 ヴァネッサが手をかざすと、私に光が集まり四散。

 下半身を見ると、そこにはヒレじゃなく人間の脚があった。

「対価は髪色。確かに貰ったよ。っひひひ!」

「ッッ~~!!」

 歓喜に震えた。これで地上を歩ける。

「ありがとうヴァネッサ――」

 言葉が詰まる。彼女を見ると、先ほど見た手入れがなっていない髪は何処へやら、流れる様な綺麗な赤い髪がそこにはあった。
 自分の髪を見ると、まるで汚水に浸したくすんだ色。私の髪はヴァネッサの物になった。

「アッハッハッハ! 綺麗な髪をしていたんだねぇ!」

 心底嬉しそうに笑う彼女を見て、いえ、彼女の髪を見て、私は――

(嫉ましい……)

 生きて来て思ったことの無い感情が芽生えた。

 この日から、ヴァネッサの下へ頻繁に訪れる事となる。

「おや? どうしたんだい?」

「……地上って恐ろしい所なのね。心無い人が襲ってきたわ」

「そうかい。で、どんな願いを叶えたいんだい」

 男が数人襲ってきた。辛くも逃げ伸びたけど、エリックに会うには自衛できる力が必要。

「邪魔者を退治できる力が欲しいの」

「んんんん! わかったよ! それ!」

 光に包まれる。

「――ッ!? ――! ――!!」

「対価は声だよ。っひひひ! 声が出ない代わりに人一倍力が強くなっている。さあお行き!」

 声が出ないなんてどうでもいいとエリックは言ってくれるはず。私たちの愛は揺るがない。
 そう心で叫びながら、漲る力を押さえて地上に出た。

 そしてまたヴァネッサの下へ来た。

「……」

「おや? どうしたんだい」

 ヴァネッサの声が透き通る様に綺麗。きっとそれは私の声。

(嫉ましい……。嫉ましい……わ……)

「ん? ヴォエ!? 小汚いうえに酷い臭いさね! 地上の猿の匂いがお前さんからプンプン臭うよぉ」

「……」

(嫉ましい)

「ああ、声が出ないんだったねぇ。私には分る。地上で酷い目に遭ったんだろぅ? まるでそう、みたいに。酷い話だよぉ」

「……」

「私が叶えられるのは人一倍だけ。複数人襲ってきたら勝ち目が薄い。運がなかったねぇ」

 大丈夫。どんなにこのカラダが汚れても、彼なら、エリックなら、愛してくれる。ぜったい愛してくれる。愛してくれるんだから。私が愛してるから。彼が愛してくれるから。愛すから。愛されるから。

 そうじゃなきゃ悲痛な苦痛は乗り切れなかった。

「その眼で分かる。もう襲われたくないんだろぉ? 一刻も早く彼に会わないとねぇ? じゃ、願いを叶えるよ! それ!」

 お父様やセバスチャン、フランダーと最後に話したのはいつだっただろう。そう考えながら歩いていた。

「うわ、こいつオークみたいな容姿だな」

「いくら女でもこいつは無理だ。あーあ、あのベッピンさんもっかい抱きてー」

「お前が居眠りしたから逃げたんだろう! あの上玉を――」

 私の横を通り過ぎる男の群れ。山賊たち。襲われないから願いは叶った。これでエリックの所に行ける。

 しかし、年月が経ってもエリックと会う事は無かった。

 地上を歩くのを止め、声を出そうとするのを止め、見つからないなら待つことに徹した。あの岩場で。思い出の岩場で。彼がいた岩場で。

 しかし来ない。

 でも今来ないだけで後から来るはず。

 心は繋がってるから。互いに愛してるから。

 きっと政治的な理由で身動きが取れないから来れないんだ。

 でも大丈夫。愛してる限り私は愛してる。愛してるから。

 そして訪れる――邂逅の時――

「……キミは」

「ッ」

 岩場の少し上。そこには私を見下ろすまごう事なきエリックがいた。
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