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第十四章 氷結界
第148話 チュートリアル:藍嵐君主
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氷の様に砕け散る魔神。その破片が不自然に空中で止まった。
蠢いている蟲、山に倒され起き上がろうとする魔神、斬撃によって粉々に砕けた破片。
モンスターの群れが襲い来る。と忙しなく撤退の準備をしていた里に居るメンバー全員が静止。
「……」
無双状態だった撫子はこの異常な状態に警戒しながら立ち尽くし、雷人となった西田は辺りを見渡す。
地面を陥没させながら着地した黄龍仙は視線を真っ直ぐ三体目の龍を睨み、幻霊君主は 霧の剣――幻霊霧剣を露の様に消して同じく龍を見た。
『氷結界の零龍 トリシュラ』
「アキラ……?」
さっきまで話していた十六夜 アキラ。その姿はまるで細部まで巧妙に作られた氷の像。
「惹句!」
腕を組みながら止まり。
「流美!?」
頭を両手で支えながら止まり。
「黒鵜!!」
膝を付けた状態から起き上がろうとする黒鵜が止まる。
「みんなどうしたんだッ!!」
止まっている。
優星以外が止まっているのだ。
すぐに感づいた。
「――ッハ!」
それはあの三つ頭の龍の所業ではないかと。
(あのモンスターの仕業なのかッ!)
しかし自分にはどうにもできない。負傷という事実もあるが、そもそも距離が遠すぎるという現実もある。
「冷静になれ……」
石像の様に動かなくなった仲間たちを見る。
「他のモンスターが出てくる可能性だって捨てきれない。今俺が離れれば、みんなを守れないじゃないか……」
拳を強く握ると半透明な機械の腕が優星の腕を包む。
「俺がみんなを守るんだ!」
自分に檄を飛ばし張り切る優星。
(任せたぞ、西田メンバー!)
場所は変わり静止した戦場。
――バリッ!!
一切合財が静止したこの状況。撫子は試しに蜘蛛のモンスターを斬ると、粉々に砕けるも途中で静止。ビデオのストップがかかった様に止まった。
西田 信彦。
大和 撫子。
黄龍仙。
ティアーウロング。
四つの存在に立ちはだかるの三つ首の龍。
『氷結界の零龍 トリシュラ』
白銀の氷鎧を身に纏い、大きな翼が扇ぐ度に鋭い氷の破片が撒かれる。
「▽▲▽――」
三つ首から甲高くも重圧な鳴き声が発せられた。
三つ首の額にはこれまでこれまで倒してきたモンスターと同系の氷の系譜が埋め込まれる形であった。時折発光するそれは、まるで魔神と蟲たちと呼応する様。
撫子は一つの説を思い浮かぶ。
(巨人然り蜘蛛然り、私が倒した龍以外のモンスターは体のどこかに氷があった)
撫子はトリシュラを睨む。
(この無数にいる蟲、巨人らは皆、この龍によって操られていた可能性がある)
実際に撫子の説は当たっていた。
氷結界の零龍 トリシュラは、轟龍グングニルと晶龍ヴリューナクとは一線を画す力を持っており、太古の争いを終わらせたのは実質的にはトリシュラの要因が大きかった。
様々な能力を持っているトリシュラ。その一つが自分より弱った者を氷結で包み操るといった芸当。
魔神も、蟲も、すべてトリシュラが操っていたのだ。
それは撫子どころか西田、黄龍仙、ティアーウロング、四人ともおおまかな予想は付いていた。
しかし、一つだけ解せない事があった。
「▽▲▽――」
トリシュラの胸に、可視化できる糸の様なものが繋がっていた。
「……」
ティアーウロングには見覚えがあった。その糸に見覚えがあったのだ。脳裏に浮かぶのは彼女の笑顔。
黒い帯が巻かれた手で拳を作る幻霊。
それを肯定する様に、奴はトリシュラの背からひょいと顔を出し、小粋な帽子を押さえながら降りてきた。
フードの奥で顔を顰めるティアーウロング。
それを視界に入れた撫子と西田のメッセージ画面に赤くこう表示される。
『傀儡君主 カルーディ』
『警告:レイドボス出現』
君主、出現。
「「ッ!!」」
西田と撫子はブワリと発汗するほどの恐怖を感じる。
詳細不明。レイドボスという扱いで登場した傀儡君主 カルーディ――に恐怖したのではない。
「――――――――」
隠すことをしない膨れ上がった殺意の化身――幻霊君主 ティアーウロングに心底恐怖し、撫子に味わったことの無い恐怖心が襲う。
常人なら泡を吹いて倒れる程だが、撫子の胆力に加え、今のところ味方であると言う事実が撫子を正気にさせていた。
「おっと。そっちのお化けくんが殺意マシマシで睨んでくるかププ! お兄さん少しビビっちゃったよぉ」
黒色の強い大道芸人風の服装。それを着こなすカルーディは言葉と矛盾するようにケラケラと笑った。
小粋な帽子を手慣れた様にクルクルと回し、胸に持ってきて少し頭を下げた。
「お初にお目にかかります♪ 僕はカルーディ。しがない傀儡君主で、面白い事が大好きなパペッティア! どうぞよろしくね♪」
へらへらと笑うカルーディ。上空で滞空する西田と刀の柄に手が触れている撫子に笑顔を振りまいた。
「あ、そうそう! 僕は別に構わないんだけど、質問するなら今のうちだよ? お化けくんが痺れを切らないうちに色々聞いてよ♪」
そう。殺意を溢れ出した幻霊君主は未だに動いていない。まだ理性的に思考ができる状態と撫子は判断。
幻霊が何を考えているか分からないが、確かに敵対している君主の情報を掴むチャンスではあると考えた。敵の言葉に乗る形でシャクではあるが、仕方ないと撫子は決める。
「ダンジョン『氷結界の里』。それらを裏で糸を引いていたのは氷結界の零龍トリシュラと思ったが、どうやら違ったようだ。その糸、トリシュラを操っているのはお前だったと言う訳か」
「正解♪」
冷静で淡々と話す撫子と違い、カルーディは隠す事無く肯定した。
「この手付かずのダンジョンを解放したのも、小出しで他のダンジョンにモンスターを放ったのも、三対の龍を解放したのも、地深くに埋まっていた巨人と蟲をトリシュラを通じて操ったのも僕だ♪」
何が面白いのかへらへらと笑う。
「でも誤算だったのはこの龍たちが弱って出てきたのと、トリシュラの抵抗のせいで他の二体の龍を逃しちゃった事かなぁ。まぁ遊び程度だったから別によかったけどね!」
「……この時が止まったような現象もお前か」
「いや? それはトリシュラの力。こいつって吼えるだけで時の歩みを止めちゃうチート能力持ってるけど、弱っててザコしか止めれなかった……。ポンコツな龍だけど、使える能力だから僕のペットにしようか検討中です♪」
ボクまたなんかやっちゃいました? と言わんばかりに後頭部を掻くカルーディ。睨む四つの存在が居るのにもブレず、この状況下でも余裕綽々。
ふざけた態度。幻霊君主の性格なのか、カルーディの舐め切った態度を感じ、更に殺意を溢れ出し彼の周囲の空間が歪んでいく。
――プツッ
「――」
何かが切れた音が響いた。
「――トリシュラは私が管理しよう」
「!?」
誰もが声のする方に顔を向けるが、先ほどまで笑っていたカルーディは光の無い眼で声の存在に顔を向けた。
「――▽▲▽」
青い空間から出てきたそれはトリシュラの真ん中頭の額に埋め込まれた氷の系譜に触れる。すると、ひな鳥の様な鳴き声で悲鳴をあげたトリシュラが、それの手の平に凝縮され青い水晶の形となった。
「……お前、理性の仲間か」
お茶らけた雰囲気を捨て去り、ドスが効いた声を発したカルーディ。彼の指先にトリシュラと繋がっていた糸が戻る。
「そうだが」
ふわっと着地した存在。
撫子と西田は彼を見た。
『藍嵐君主 ネクロス』
(こいつも――)
(ルーラーだと――)
驚愕する二人。
しかし、藍嵐君主のメッセージは赤くなく、そしてレイドボスとも出ていない。
幻霊と同じ敵対心はこっちに向いておらず、幻霊は驚かない様子を見た二人は、少なくとも敵ではないと感じた。
「少々出遅れたが、再びこの世界に来るとはな」
どこか懐かしむネクロス。蒼い髪を雪が撫でる。
「おい。それ返せよ。僕のだぞ」
光の無い目がネクロスを射貫く。
「貴様がカルーディだな」
カルーディの言葉を無視するネクロス。
「だったら何?」
――瞬間、ネクロスの身体から幻霊以上の殺意が溢れ出る。
「私の理解者であり良き友であった人魚の姫――ウルアーラ。貴様が誑かしたのだな……」
(……誑かした?)
怒りを滲みだすネクロスだったが、無表情の撫子は聞き逃さなかった。
未だに謎が多いと国連も頭を抱えるマーメイドレイド事件。
それはルーラーズは一枚岩ではなく、強行の末攻めてきた結果という説が強い。
しかし撫子はこの場で一つの道筋を浮かぶ。
君主ウルアーラの暴走は、このマリオネットルーラーによって画策された出来事だという説だ。
敵対するルーラーたち。今回の元凶であるカルーディの所業を踏まえると、十分にその可能性が大きいと判断。
撫子がそう考えている間にも事が進む。
「ウルアーラ? ああ! あの美人な人魚だよね♪」
光の無い眼で醜悪に笑うカルーディ。唐突に懐をまさぐると、何かを握りこんで見せた。
「これぇ、赤い髪ぃ♪」
握りこんだのは綺麗な赤い色をした髪の毛。それを見せつける様に――
「――スゥゥ――」
嗅いでみせる。
「あ゛あぁ堪らない……。手足を切り落としてからたっぷり楽しむ計画はそこのお化けくんが台無しにしたけど、辛うじて手に入れたんだよねぁこれ♪」
「……」
幻霊が霧の剣を出す。
「スゥーハァー良い匂いぃぃ……」
撫子は目を細め、西田は静かに帯電を強めた。
「実はね、この髪で何度も何度もさぁ……。何度も何度も――」
――自慰に耽ったんだよねぇ。
瞬間。
「ぁ――」
瞬間移動した幻霊が霧の剣でカルーディの心臓を刺した。まだ足りないと髪を握った右腕を切り落とした幻霊。バランスを崩したカルーディは不敵に笑う。
「バカじゃんお前ェ!! 所詮僕は傀儡だよ? なに傀儡にマジになってんの? ギャハハハハハ!!」
地面に倒れながらも高笑い。
幻霊は睨む。
「ほら殺せよ壊せよ僕を!! もうここに居る意味って無いんだよねぇ! 僕が君たちの前に現れたのってただの暇つぶしだからぁ!! バーカ! バーカ!」
狂気に触れている。
人間の二人はそう思った。
「お前らって揃いも揃ってバカで間抜けだよねー! そんなんだから負け続け――」
――ッドオオオオオオオオオンン。
けたたましい音が地鳴りの様に響く。
カルーディの上半身は消し飛んだ。背後にあった山と共に。
「聞くに堪えん」
攻撃を加えたネクロスはそう言って青い空間に姿を消し、世界の時が動き出した。
蠢いている蟲、山に倒され起き上がろうとする魔神、斬撃によって粉々に砕けた破片。
モンスターの群れが襲い来る。と忙しなく撤退の準備をしていた里に居るメンバー全員が静止。
「……」
無双状態だった撫子はこの異常な状態に警戒しながら立ち尽くし、雷人となった西田は辺りを見渡す。
地面を陥没させながら着地した黄龍仙は視線を真っ直ぐ三体目の龍を睨み、幻霊君主は 霧の剣――幻霊霧剣を露の様に消して同じく龍を見た。
『氷結界の零龍 トリシュラ』
「アキラ……?」
さっきまで話していた十六夜 アキラ。その姿はまるで細部まで巧妙に作られた氷の像。
「惹句!」
腕を組みながら止まり。
「流美!?」
頭を両手で支えながら止まり。
「黒鵜!!」
膝を付けた状態から起き上がろうとする黒鵜が止まる。
「みんなどうしたんだッ!!」
止まっている。
優星以外が止まっているのだ。
すぐに感づいた。
「――ッハ!」
それはあの三つ頭の龍の所業ではないかと。
(あのモンスターの仕業なのかッ!)
しかし自分にはどうにもできない。負傷という事実もあるが、そもそも距離が遠すぎるという現実もある。
「冷静になれ……」
石像の様に動かなくなった仲間たちを見る。
「他のモンスターが出てくる可能性だって捨てきれない。今俺が離れれば、みんなを守れないじゃないか……」
拳を強く握ると半透明な機械の腕が優星の腕を包む。
「俺がみんなを守るんだ!」
自分に檄を飛ばし張り切る優星。
(任せたぞ、西田メンバー!)
場所は変わり静止した戦場。
――バリッ!!
一切合財が静止したこの状況。撫子は試しに蜘蛛のモンスターを斬ると、粉々に砕けるも途中で静止。ビデオのストップがかかった様に止まった。
西田 信彦。
大和 撫子。
黄龍仙。
ティアーウロング。
四つの存在に立ちはだかるの三つ首の龍。
『氷結界の零龍 トリシュラ』
白銀の氷鎧を身に纏い、大きな翼が扇ぐ度に鋭い氷の破片が撒かれる。
「▽▲▽――」
三つ首から甲高くも重圧な鳴き声が発せられた。
三つ首の額にはこれまでこれまで倒してきたモンスターと同系の氷の系譜が埋め込まれる形であった。時折発光するそれは、まるで魔神と蟲たちと呼応する様。
撫子は一つの説を思い浮かぶ。
(巨人然り蜘蛛然り、私が倒した龍以外のモンスターは体のどこかに氷があった)
撫子はトリシュラを睨む。
(この無数にいる蟲、巨人らは皆、この龍によって操られていた可能性がある)
実際に撫子の説は当たっていた。
氷結界の零龍 トリシュラは、轟龍グングニルと晶龍ヴリューナクとは一線を画す力を持っており、太古の争いを終わらせたのは実質的にはトリシュラの要因が大きかった。
様々な能力を持っているトリシュラ。その一つが自分より弱った者を氷結で包み操るといった芸当。
魔神も、蟲も、すべてトリシュラが操っていたのだ。
それは撫子どころか西田、黄龍仙、ティアーウロング、四人ともおおまかな予想は付いていた。
しかし、一つだけ解せない事があった。
「▽▲▽――」
トリシュラの胸に、可視化できる糸の様なものが繋がっていた。
「……」
ティアーウロングには見覚えがあった。その糸に見覚えがあったのだ。脳裏に浮かぶのは彼女の笑顔。
黒い帯が巻かれた手で拳を作る幻霊。
それを肯定する様に、奴はトリシュラの背からひょいと顔を出し、小粋な帽子を押さえながら降りてきた。
フードの奥で顔を顰めるティアーウロング。
それを視界に入れた撫子と西田のメッセージ画面に赤くこう表示される。
『傀儡君主 カルーディ』
『警告:レイドボス出現』
君主、出現。
「「ッ!!」」
西田と撫子はブワリと発汗するほどの恐怖を感じる。
詳細不明。レイドボスという扱いで登場した傀儡君主 カルーディ――に恐怖したのではない。
「――――――――」
隠すことをしない膨れ上がった殺意の化身――幻霊君主 ティアーウロングに心底恐怖し、撫子に味わったことの無い恐怖心が襲う。
常人なら泡を吹いて倒れる程だが、撫子の胆力に加え、今のところ味方であると言う事実が撫子を正気にさせていた。
「おっと。そっちのお化けくんが殺意マシマシで睨んでくるかププ! お兄さん少しビビっちゃったよぉ」
黒色の強い大道芸人風の服装。それを着こなすカルーディは言葉と矛盾するようにケラケラと笑った。
小粋な帽子を手慣れた様にクルクルと回し、胸に持ってきて少し頭を下げた。
「お初にお目にかかります♪ 僕はカルーディ。しがない傀儡君主で、面白い事が大好きなパペッティア! どうぞよろしくね♪」
へらへらと笑うカルーディ。上空で滞空する西田と刀の柄に手が触れている撫子に笑顔を振りまいた。
「あ、そうそう! 僕は別に構わないんだけど、質問するなら今のうちだよ? お化けくんが痺れを切らないうちに色々聞いてよ♪」
そう。殺意を溢れ出した幻霊君主は未だに動いていない。まだ理性的に思考ができる状態と撫子は判断。
幻霊が何を考えているか分からないが、確かに敵対している君主の情報を掴むチャンスではあると考えた。敵の言葉に乗る形でシャクではあるが、仕方ないと撫子は決める。
「ダンジョン『氷結界の里』。それらを裏で糸を引いていたのは氷結界の零龍トリシュラと思ったが、どうやら違ったようだ。その糸、トリシュラを操っているのはお前だったと言う訳か」
「正解♪」
冷静で淡々と話す撫子と違い、カルーディは隠す事無く肯定した。
「この手付かずのダンジョンを解放したのも、小出しで他のダンジョンにモンスターを放ったのも、三対の龍を解放したのも、地深くに埋まっていた巨人と蟲をトリシュラを通じて操ったのも僕だ♪」
何が面白いのかへらへらと笑う。
「でも誤算だったのはこの龍たちが弱って出てきたのと、トリシュラの抵抗のせいで他の二体の龍を逃しちゃった事かなぁ。まぁ遊び程度だったから別によかったけどね!」
「……この時が止まったような現象もお前か」
「いや? それはトリシュラの力。こいつって吼えるだけで時の歩みを止めちゃうチート能力持ってるけど、弱っててザコしか止めれなかった……。ポンコツな龍だけど、使える能力だから僕のペットにしようか検討中です♪」
ボクまたなんかやっちゃいました? と言わんばかりに後頭部を掻くカルーディ。睨む四つの存在が居るのにもブレず、この状況下でも余裕綽々。
ふざけた態度。幻霊君主の性格なのか、カルーディの舐め切った態度を感じ、更に殺意を溢れ出し彼の周囲の空間が歪んでいく。
――プツッ
「――」
何かが切れた音が響いた。
「――トリシュラは私が管理しよう」
「!?」
誰もが声のする方に顔を向けるが、先ほどまで笑っていたカルーディは光の無い眼で声の存在に顔を向けた。
「――▽▲▽」
青い空間から出てきたそれはトリシュラの真ん中頭の額に埋め込まれた氷の系譜に触れる。すると、ひな鳥の様な鳴き声で悲鳴をあげたトリシュラが、それの手の平に凝縮され青い水晶の形となった。
「……お前、理性の仲間か」
お茶らけた雰囲気を捨て去り、ドスが効いた声を発したカルーディ。彼の指先にトリシュラと繋がっていた糸が戻る。
「そうだが」
ふわっと着地した存在。
撫子と西田は彼を見た。
『藍嵐君主 ネクロス』
(こいつも――)
(ルーラーだと――)
驚愕する二人。
しかし、藍嵐君主のメッセージは赤くなく、そしてレイドボスとも出ていない。
幻霊と同じ敵対心はこっちに向いておらず、幻霊は驚かない様子を見た二人は、少なくとも敵ではないと感じた。
「少々出遅れたが、再びこの世界に来るとはな」
どこか懐かしむネクロス。蒼い髪を雪が撫でる。
「おい。それ返せよ。僕のだぞ」
光の無い目がネクロスを射貫く。
「貴様がカルーディだな」
カルーディの言葉を無視するネクロス。
「だったら何?」
――瞬間、ネクロスの身体から幻霊以上の殺意が溢れ出る。
「私の理解者であり良き友であった人魚の姫――ウルアーラ。貴様が誑かしたのだな……」
(……誑かした?)
怒りを滲みだすネクロスだったが、無表情の撫子は聞き逃さなかった。
未だに謎が多いと国連も頭を抱えるマーメイドレイド事件。
それはルーラーズは一枚岩ではなく、強行の末攻めてきた結果という説が強い。
しかし撫子はこの場で一つの道筋を浮かぶ。
君主ウルアーラの暴走は、このマリオネットルーラーによって画策された出来事だという説だ。
敵対するルーラーたち。今回の元凶であるカルーディの所業を踏まえると、十分にその可能性が大きいと判断。
撫子がそう考えている間にも事が進む。
「ウルアーラ? ああ! あの美人な人魚だよね♪」
光の無い眼で醜悪に笑うカルーディ。唐突に懐をまさぐると、何かを握りこんで見せた。
「これぇ、赤い髪ぃ♪」
握りこんだのは綺麗な赤い色をした髪の毛。それを見せつける様に――
「――スゥゥ――」
嗅いでみせる。
「あ゛あぁ堪らない……。手足を切り落としてからたっぷり楽しむ計画はそこのお化けくんが台無しにしたけど、辛うじて手に入れたんだよねぁこれ♪」
「……」
幻霊が霧の剣を出す。
「スゥーハァー良い匂いぃぃ……」
撫子は目を細め、西田は静かに帯電を強めた。
「実はね、この髪で何度も何度もさぁ……。何度も何度も――」
――自慰に耽ったんだよねぇ。
瞬間。
「ぁ――」
瞬間移動した幻霊が霧の剣でカルーディの心臓を刺した。まだ足りないと髪を握った右腕を切り落とした幻霊。バランスを崩したカルーディは不敵に笑う。
「バカじゃんお前ェ!! 所詮僕は傀儡だよ? なに傀儡にマジになってんの? ギャハハハハハ!!」
地面に倒れながらも高笑い。
幻霊は睨む。
「ほら殺せよ壊せよ僕を!! もうここに居る意味って無いんだよねぇ! 僕が君たちの前に現れたのってただの暇つぶしだからぁ!! バーカ! バーカ!」
狂気に触れている。
人間の二人はそう思った。
「お前らって揃いも揃ってバカで間抜けだよねー! そんなんだから負け続け――」
――ッドオオオオオオオオオンン。
けたたましい音が地鳴りの様に響く。
カルーディの上半身は消し飛んだ。背後にあった山と共に。
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