俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第十七章 傀儡の影

第198話 チュートリアル:狼煙

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 どこにでもある閑静な住宅街。何練もあるマンションの最上階の一室。

 ――ガチャ。

「ふぁあぁ」

 欠伸する声。

 ドアが開き、顔を覗かせたのはゴミが入った袋。その袋を持つ男性は無精ひげで寝巻姿。半目で寝ぐせすら整えていない。

 彼の名前は阿久津 健。

 攻略者学園の教師の一人で、萌たちの担当教師でもある。

 今の時期は夏休みともあって学生たちは各々過ごす中、教師たちは研修会、講習会など、この時期に集中して開かれる会。それらが終わると復命書などを作成といった様に、存外忙しかったりする教師。

 その中で取れた夏季特別休暇。阿久津は日ごろの睡眠不足を補うかの様に、今日も昼過ぎに目を覚ました。

 ――ガサ

「ふぅ」

 指定の場所にゴミを置き、頭を掻く阿久津。真昼のマンションは静かで人の気配を感じない。今日も呑気な日常だと思いながら、彼はエレベーターに乗った。

「ふあぁぁあ~」

 涙を浮かべ大きな欠伸をした阿久津。自分の部屋の前に着く瞬間。

 ――ガチャリ

 隣の部屋の扉が開いた。

 特に気にする事なくカードキーを押しつけ解錠すると、阿久津は不意に視線を感じた。

「あ、ども」

「こんにちは……」

 隣の部屋に住んでいるのは女性。特に親しい隣人といった事も無く、こういう挨拶をするだけ関係。

 しかしながら、阿久津は違和感を感じた。

「今日はお休みですか?」

 半目で質問。普段はキャリアウーマンなのか、レディーススーツを身に纏い出勤する彼女の姿があった。
 しかし、平日の昼間というのに出勤せずラフな格好。労働者の権利である有給消化なのかと、特に深い意味は無く質問した阿久津だった。

「えっと……」

「?」

 すぐに答えが返ってくると思っていた阿久津だが、もじもじと指を摩りながら回答を探す彼女の姿に疑問を抱く。

「実はその、退職したんです……一身上の都合で……」

「……」

 阿久津は何も言えない。地雷を踏んでしまったと質問したのを後悔した。

「――と言っても、実はセクハラとパワハラが凄くて……」

「セクハラとパワハラ……」

「はい。溜めこんだ結果、鬱と診断されました……へへ……」

(えぇぇ……)

 言われてみればキリッとした自信満々なバリバリなキャリアウーマンだったのにも関わらす、頬はコケ、隈ができ、カラ元気だと分る無理やり作った笑顔にドン引きした阿久津。

 挨拶する程度の知り合いならばここで「お大事に」等の上辺だけの心配を口にするだろう。しかしこの阿久津という男は隣人ではあるが一教師。

 故に。

「あの、捌け口って言うか、話や愚痴なら聞きますけど。俺教師なんで……」

「え……? あの――」

 女性は一歩、近づいた。

 場所は変わり繁華街。

 毎日賑わうここの一角に、サークル――ファイブドラゴンの事務所があった。

 駐車スペースには様々なバイクがズラリと止まっており、違法ギリギリを攻めた改造車まである。

 その事務所の二階に男が一人。

「……遅い」

 特徴的な逆立った髪型。ライダースを着て腕を組む男。

 サークル・ファイブドラゴンのリーダー、不動優星だ。

 集合時間だと言うのに、壁に飾られた時計を見ると既に三十分はオーバー。

「はぁ……」

 慣れたものだが何とも度し難いと大きく溜息をついた優星。

「溜息をついたらその分だけ幸せが逃げるわよ」

 女性更衣室から出てきたのは十六夜 アキラ。優星の恋人で会った。

 大きな胸を無理やりライダースに押し込みジッパーを閉める彼女。

「惹句はどこかの喫茶店でコーヒーを。黒鵜は施設のちびっ子達にお菓子の寄付を。前はお菓子だったけど今回はおもちゃとか? 流美は相変わらずバイクいじってるハズ。いい加減慣れたわ」

 そう言いながら長い髪を整えるアキラ。

「俺も慣れたとは言いたいが、やはり個人プレーが過ぎるのは今後の課題だな。戦いにも影響してくる」

「そう硬い事言わないの。実力の底上げをして難易度の高い国連の依頼も達成してるじゃない。少しくらい多めに見てやってもいいんじゃない?」

「まぁ理解はしているが……」

「それと――」

 優星の首に腕を回し顔を近づかせたアキラ。

「みんなが遅れてるおかげでイチャイチャできるって思わない?」

「アキラ――」

「――ん」

 蛍光灯でできた影が重なる。

「――最近ここでキスするのが多い気がする」

「え、そう?」

「ああ。ここだけの話だが、物陰で俺の口を塞ぐアキラの気遣いだがみんなにバレてる」

「――え、そうなの!? やだハズカシイ!!」

「黒鵜なんてアメリカかぶれもいい加減にしろと俺に文句を言ってくるんだ」

 優星とアキラの仲は周知の事実だが、同棲してからかアキラが優星を求める頻度が増加。事務所だろうが外だろうが優星の唇を奪いに来る始末。

 独り身の三人は気まずい空気を感じてたが、黒鵜の言うアメリカかぶれの影響で、すでに背景の一部扱い。頭隠して尻隠さずと言ったところ。

「ひ、控えないとなぁ~」

「そうだな。ッハハ」

 顔を赤くして俯くアキラに優星は笑う。

「ミーティングの時間にも集まらないんだ。惹句たちが来るまで俺たちもコーヒーブレイクとしよう」

「そうね。そうしましょ」

 二人はコーヒーメーカーに向かう。

 時を同じくして東京。渋谷。

 ファッションの街と謳われる渋谷。

 近年主流のコギャルや、80年代後期から90年代前期に流行したアメカジをルーツとした渋カジ系。時代に逆行した渋カジがまた再熱しているとの噂もあり、様々なファッションに身を纏う人々が今日も暑い中往来していた。

 ファッションの街と謳われる側面、近年ではアフタヌーンティーを前面に押した商売が流行。つまりはヌン活だ。

 忙しない現代日本に一時ひとときの楽しみを。香ばしい紅茶を嗜み、皿に乗せられた洋菓子に頬を落とながらおしゃべりをする。

 比較的女性が大多数を占めるが、男性もチラホラと散見。しかし現実的には自己承認欲求を満たすため、もしくはヌン活をしている自分に酔うため、足繫く通う者もいる。

 そしてここに、SNSに投稿しイイねとコメントを心に満たさんとする自己承認欲求の虎が一人。

 ――カシャカシャ

「ヤバイめっちゃバえるうううう!!」

 端末のカメラで撮影。納得いくフォトが取れれば爆速で投稿。

 褐色ギャル――朝比奈瀬那がテンションを上げる。

「ちょ瀬那っち興奮しすぎー」

「まぁ高いお金使ってヌン活してますからねぇ」

「そうそう。少しくらいはしゃいでも文句言われんてー」

 友人のギャルズも同伴。テーブルには湯気が立つ紅茶に加え、段重ねに積まれた皿に洋菓子がズラリ。

「ヤバうま!」

「やっぱマカロンは外せないよねぇ~」

「いやストロベリーっしょ」

 口に頬張るのは各々が好きな洋菓子。食べやすい大きさに切られた菓子類。ギャルズ含むヌン活をしに来た他の客も唸らせる。

「びゅおー」

 無限の力を持つ伝説のヒーロー。強い星の戦士でもあるピンクの悪魔染みた吸引力。

「瀬那のいい所はちゃんと食べきるところだね」

「バえ目的で大量に残す人が問題になったから……」

「環境破壊は気持ちいいZOY!!」

 一部食べ放題ともあって驚異の吸引力を発揮する瀬那。

 ギャルズの一人がテーブルに乗っている瀬那の重量感ある無敵将軍を見る。

「なお糖分は胸に行く模様」

「不公平だよねぇ。私も無敵将軍みたいに実ったらめちゃくちゃモテたのに……」

「負け惜しみ負け惜しみ」

「うっさい!?」

 糖分を取るのに夢中な瀬那を他所に、ギャルズは身内漫才を繰り広げる。

「で、瀬那」

「ん?」

 口元にホイップを付けた瀬那がいやらしく半目になったギャルに呼ばれた。

「夏休みヤリまくり生活の成果はその艶肌ってことかな?」

「にゃッ!?」

「1ヶ月1万円節約生活みたいに言うな!?」

「しゃくれー!!」

 ヌン活を楽しむギャルズ。

 時は夜も更ける深夜零時ごろ。

「……」

 夜のニューヨークを一望できる部屋に、サークルエクストラスのリーダー、エッジ・エクストラスがいた。

 功を成した画策の影響でパパラッチの後が絶たない妹カップルに笑いが止まらないエッジだったが、深夜にも関わらずこの日は寝付けないでいた。

 広告塔として、モデルとして、サークルの長として、エッジが就寝するのは零時を過ぎるのは珍しくない。

(――――嫌な予感がする)

 第六感にも似た直感。

 脚をデスクに乗せ、瞼を閉じる。

 この体勢は仕事場で寝つける体勢。朝のために体力を回復に勤しみたいが、胸に感じる嫌な予感がエッジを離さない。

 冷房の効いた部屋。駆動音だけが支配する静寂に、意識を手放しそうになるエッジ。

 しかし、予感は当たってしまう。

 ――ゾク

「――ッ!!」

 首筋に悪寒。

 すぐさま立ち上がり、背後のガラス張りの窓を見た。

「……ニューヨークにも来たか」

 エッジが見た物。それは。

『レディース&ジェントルメェェェェン!!』

 ニューヨークの街の上空に出現した巨大なゲートだった。

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