俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第十九章 進路

第247話 チュートリアル:十字架

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「――さあ、自分の部屋だと思ってくつろいでくれ」

「い、いただきます……」

 白の世界。いや、それはもう耳に胼胝ができる程聞き、身慣れ親しんだ色だ。

 しかしどうだろうか。俺が今座っている陰影が付いたフカフカな白いソファ。手触りの良い金色の装飾が手肌から感じ、一目でわかるほどの上質な白色のテーブルにはソーサーにティーカップ。

「――ンク」

 カップを傾けると芳醇な優しい香りが鼻腔をくすぐり、柔らかく、そして仄かに甘い紅茶が舌に絡む。

(これは……)

 ボクくんこと藍嵐君主タイフーンルーラーネクロスさんの紅茶……。香りで察し、飲み込んで確信した。

「――ん」

 紅茶を喉に通し、微笑む部屋の主。

「藍嵐のヴァッサルには頭が下がる。この紅茶に出会ってからは、すっかり虜になってしまった」

 クスリと微笑んでカップを置いた白鎧――ベアトリーチェ。

 前みたいにバスローブ姿、ではなく、どこかの貴族かって感じの正装。しかも男装というね。でも女性特有の体つきは隠す気は無いらしい。

 ブロンド髪と同じ色の長いまつ毛を羽ばたかせ、青い瞳に俺を写す。

「……ズズ」

 自然と目を逸らしてしまうのは仕方のない事だと言いたい。大人びているとは言え、恋人よろしくイチャコラした彼女の顔と同じなのだから……。

「ふふ、相変わらずだ。眼を合わせるのは気恥ずかしいか?」

「言っただろ、あんたの顔見てると心臓がキュウキュウ締まるんだって」

 正面を見てベアトリーチェの顔を見るも目は合わせられず、ふっくらとしたピンク色の唇を見ながらそう言った。

「――なぁ。どうしたら我に慣れてくれる」

「ッ」

 耳障りの良い甘く少し高い中性的な声。蠱惑な唇がしなやかに動く。それを注視していた俺はドキリとした。

「ハハ、知ってるか? 顔が赤いぞ」

「え!?」

 ひまわりが笑った様に笑顔になるベアトリーチェ。

 何となくだけど、顔の火照りで赤くなってるかなぁて思ったら案の定……。ちなみに屈託なく笑顔になったベアトリーチェに対して可愛いと思ってしまたのは内緒だ。

「やはり十年そこらしか生きていない子供だな。からかい甲斐がある」

「か、勘弁してくれ……」

 どうやら俺は遊ばれたらしい。これが大人の余裕、大人の色気か……。

 ふむ。あと数年経てば愛くるしい瀬那も大人の色気が醸し出されるはず……。目の前のベアトリーチェがそれを確定させてるし、これはドキがムネムネ案件待ったナシだ。

 そんな事を思っていると、蠱惑に眼を細めたベアトリーチェに気付いた。

「――貴殿の番《つがい》と同じ顔」

 スラっとした綺麗な指が折りたたむ様に顔に当て。

「そして魂違いの同一人物……」

 凹凸が分かるくらい優しく触れた唇。

「――本能を倒した褒美で……抱いてみたくはないか……」

 潤んだ瞳が俺を見る。

「――英雄色を好む……。それはどの世界でも共通である……」

 流れる様に首から触れた手が膨らんだ胸部を撫でる。

「――なに、番に罪悪感を感じる必要はない」

 手は徐々に下がって行く。

「何故ならば……我々は同じ人物なのだから……」

 魅了してくる声。

 蠱惑に見つめてくる瞳。

 熱い吐息。

 それらは俺の脳漿を掻き回すには十分で、人間としての本能が俺を突き動かす――

「――なんてあるか。そんなんええから早よ用件言え」

 俺氏、真顔で対応。

 しかし関西弁になってしまうほどには動揺を隠せない。 

「乗ってこんか。つまらん奴だな貴殿は……」

「悪かったなつまらん奴で」

 蠱惑的な雰囲気から一変。顔をしゅんとして俺を突っぱねた。

 正直に言う。

 興奮した。

 めっちゃ興奮した。

 俺のナウい息子♂も少しだけ反応した。

 でも俺の心がそれを許さない。

「ええんやで。飛び込んでええんやで」

「ダメだね。ダメよ。ダメなのよ」

 と、天使と悪魔みたいにタナトスとオルフェウスが心の中で囁いて来た。しかも桐生ちゃ~ん(兄貴風)の歌うたってるし。音楽家だからなんでもありかよ。

 心のペルソナが発動し、俺には瀬那が居るんだと改めて気づかされた。

 ベアトリーチェが喉を潤してカップをソーサーに置いた。

 キリッとした顔が俺に向けられる。

「まぁ冗談は程々にして、ティアーウロングに足を運んでもらったのは他でもない。改めて、お礼を言いたいんだ」

「お礼?」

「ああ」

 ベアトリーチェの真剣な眼差しと目が合わさる。

「本能のルーラー。カルーディの件、ご苦労であった」

 彼女の瞳は曇りが無く、本心からお礼を言っていると分かる。

「……ああ」

 消えてしまいそうなほど小さな返事をし、目を伏せる様に逸らしながら礼を受け取った。

 目を逸らしたのは気恥ずかしさからではない。ただ、まだちょっとだけ、カルーディ――カルールを倒したって言う事に、まだ整理がついていないからだ……。

「……お代りはいるか」

「……ありがと」

 それを察したかどうか知らないけど、紅茶が少しだけ残ったカップにベアトリーチェはお代りを淹れてくれた。

「それにしても……本当に好かれているんだな。ウルアーラに」

「……え?」

 優しい声が響く。

「エルドラドの報告で聞いている。貴殿に宿ったウルアーラの力が、共に戦ったと」

「……」

「理解しているとは思うが、貴殿に宿ったウルアーラの魔力は特別だ。それも魔力の質だけでルーラーに生れるほどだ。そんな大切な部分を、貴殿は託された。」

「……」

 そう。ウルアーラさんは過去、タコ女に魔力を奪われそうになった。そして謎の球体が魔力に触れ、ウルアーラさんはルーラーに生った。その事を知っているのは俺だけだと思ってたけど、どうやらベアトリーチェには話していたと……。

「燻ぶっていた彼女の魔力……。きっと、貴殿の運命を変えるために、表に出てきたんだろうな……」

「……運命……か」

 目を瞑っているベアトリーチェ。

 カルールにルーラーを封印されたあの時、ウルアーラさんの魔力が無かったら、きっと俺は死んでいた。文字通り、ウルアーラさんの魔力で運命を変えられた……。

「……ほんと、俺って好かれてるな」

 自分の手の平を見て、そう呟いた。

「ああ。だか結果的に貴殿にはを背負わせてしまった。まだ若葉が芽生えた萌芽……。我々としては貴殿に背負わせるのは不本意だったことを、今ここで話しておく……」

「……重し、か」

 ずっしりとくる言葉だ。

「――確かに、重いな」

「……」

 眉をハノ字にしたベアトリーチェ。

「でもな、俺は後悔してない」

 拳を握る。

「仇討だの何だのってエルドラドみたいに思ってたけど、いざ成し遂げて背負ってみて、初めて心の底から命の尊さ感じた」

「……」

「ウルアーラさんの分まで生きるって、カルールの分まで生きてやるって、そう思ってたのは事実だ。でもそれは、俺が都合よく言い訳してただけだ……」

「……」

 紅茶の湯気が消える。

「その分まで生きてやるなんておこがましい。俺は俺の分でしか生きれない。だから俺は背負う背負っていく……! 二人の十字架を……。必要な事なんだ、これからの俺に。これからのティアーウロングに……」

「……ティアーウロング」

 託された想い。

 潰えさせた想い。

 きっと増えるであろう十字架。この先もずっと、俺は背負い抱いていく。
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