16 / 147
やっと6歳
2
しおりを挟む
「お待たせいたしました」
「いや、いい。予告なく来たのは私だからな」
店を出ると、父はさっさと歩きだしました。いつも通り、昼食をとる店は決めてから来たようです。カーライルに拒否権は初めからないということですね。わかっています。
それなりに混雑している店でしたが、用意してあった席にすぐつくことができました。
「ここはパンがおいしい。隣のパン屋から仕入れていると聞いた」
あー。父が言いたいことがなんとなく読めました。どうせ聞き出されるので、自主的にゲロします。
「パン屋に酵母を渡したのは、私ですよ」
美味しいパンが食べたい! その一心で、前世の知識を掘り起こし、調薬室でうろ覚えの記憶を頼りに試行錯誤して天然酵母をつくったのです。半年くらいかかりましたよ。元デ・・・ぽっちゃりの執念ですね。
満足いくパンが焼けるようになった頃、ちょうどいいところに近所のパン屋が火傷の治療に訪れたので、レシピと一緒に渡したのです。対価は毎日出る売れ残りのパンで。
でも侯爵様にしては、情報が古いですね。2年以上前の話ですよ。
「パンを餌に、荒野で難民たちに何をさせている?」
あら。そちらが本命でしたか。父の目が剣呑な光を帯びています。きっといくら探っても、カーライルが何をしているのかがわからなくて、直接聞くことにしたのでしょう。随分長いこと観察しましたね。
「侯爵様の不利益にはならないことですよ。利益にもならないかもしれませんが」
売れ残りのパンや水、治療を対価に、難民たちに乾燥に強い植物を集めて、育ててもらっているのです。
オニキスお願い! で闇魔法を使用すれば、乾燥に強い植物どころか、一帯を森にすることもできるようなのですが、残念ながら彼の力で作り出した植物は繁殖できず、一代限りなのです。
ここで役立つのが植物魔法です。植物の品種改良は植物魔法の方が適しているのです。ただしDNAという、生命の構造情報があるという概念がないとできません。そして操作するべき情報の場所がわからないと、改良に時間がかかります。育てて様子をみないと、結果がわかりませんからね。でも私には状態異常を探ることができます。「乾燥に強い」ことを「異常」とみなせば簡単でした。
植物魔法はこの世界の人たちに、成長促進や操ったりしかできない、ハズレ魔法と思われています。しかしその神髄は品種改良にあるのです。いちから作れないこともないですが、人食い植物とか出来ちゃったら、恐いじゃないですか。
「侯爵様。エンディアから国境までの荒野と砂漠で活動する、許可をいただけませんか?」
「何をする気だ?」
にっこりと微笑んでみせます。父はじっと私を見つめたまま、動きません。
「砂漠の拡大を止めたいとは思いませんか?」
父が眉をひそめました。カーライルの真意を謀りかねているようです。
植物採集自体は、店に慣れて余裕ができた2年前からずっと続けています。雑草と引き換えに、パンを与える。カーライルに張り付いていた監視も、どう報告していいか悩んだでしょうね。一見、慈善事業にみえますから。
慈善事業に見えても、私にも利益があることです。メンタリストな父には、悪巧みしている人間の気配がするのでしょう。
利益と言っても、追放後のガンガーラで生きていくための布石ですけど。今、余裕がある間に、乾燥に強い植物を作って保管しておけば、あちらで生活していくのに役立つと思うのです。
父は諦めたようにため息をつきました。
「いいだろう。ただし、監視は着けさせていただく。金も出さぬ」
「かまいません」
ホクホクと昼食を再開します。
実はどうやって話を持っていこうか悩んでいたんですよね。だって、ついに、ついに! 1月ほど前ですが、乾燥に強くて食べられる実のなる植物を見つけたのですよ! この世界では酸っぱくて、かつ強いえぐみの為に好んで食べる人がいなかった、マンゴーもどきです。味の方はどげんかせんといかん状態でしたが、それも改良済みです。後は栽培するのみ!
お腹いっぱい食べるのが、待ちきれないです。
まだ私を観察していた父は、再びため息をつきました。
「カーライル殿、申し訳ない。いつもの薬をくれぬか?」
「はい。どうぞ」
話題を変えることにしたようです。言われると思って用意していた瓶を手渡しました。
「どこか行かれるのですか?」
「王都だ」
長旅ですね。王都までは馬車で片道20日前後かかります。渡したポーションの作用時間は長くとも1日。足りないですね。
「あとで店に寄っていただければ、必要な分お渡ししますよ」
「悪いな」
この3年で判明した父の弱点、それは乗り物酔いです。体調が優れないと、馬車どころか馬に乗っても酔うらしい。
乗り物酔いの気持ち悪さを思い出してしまったようで、父が渋面で食事の手を止めます。思わず笑いそうになって、美味しいパンが喉につまりかけました。
「いや、いい。予告なく来たのは私だからな」
店を出ると、父はさっさと歩きだしました。いつも通り、昼食をとる店は決めてから来たようです。カーライルに拒否権は初めからないということですね。わかっています。
それなりに混雑している店でしたが、用意してあった席にすぐつくことができました。
「ここはパンがおいしい。隣のパン屋から仕入れていると聞いた」
あー。父が言いたいことがなんとなく読めました。どうせ聞き出されるので、自主的にゲロします。
「パン屋に酵母を渡したのは、私ですよ」
美味しいパンが食べたい! その一心で、前世の知識を掘り起こし、調薬室でうろ覚えの記憶を頼りに試行錯誤して天然酵母をつくったのです。半年くらいかかりましたよ。元デ・・・ぽっちゃりの執念ですね。
満足いくパンが焼けるようになった頃、ちょうどいいところに近所のパン屋が火傷の治療に訪れたので、レシピと一緒に渡したのです。対価は毎日出る売れ残りのパンで。
でも侯爵様にしては、情報が古いですね。2年以上前の話ですよ。
「パンを餌に、荒野で難民たちに何をさせている?」
あら。そちらが本命でしたか。父の目が剣呑な光を帯びています。きっといくら探っても、カーライルが何をしているのかがわからなくて、直接聞くことにしたのでしょう。随分長いこと観察しましたね。
「侯爵様の不利益にはならないことですよ。利益にもならないかもしれませんが」
売れ残りのパンや水、治療を対価に、難民たちに乾燥に強い植物を集めて、育ててもらっているのです。
オニキスお願い! で闇魔法を使用すれば、乾燥に強い植物どころか、一帯を森にすることもできるようなのですが、残念ながら彼の力で作り出した植物は繁殖できず、一代限りなのです。
ここで役立つのが植物魔法です。植物の品種改良は植物魔法の方が適しているのです。ただしDNAという、生命の構造情報があるという概念がないとできません。そして操作するべき情報の場所がわからないと、改良に時間がかかります。育てて様子をみないと、結果がわかりませんからね。でも私には状態異常を探ることができます。「乾燥に強い」ことを「異常」とみなせば簡単でした。
植物魔法はこの世界の人たちに、成長促進や操ったりしかできない、ハズレ魔法と思われています。しかしその神髄は品種改良にあるのです。いちから作れないこともないですが、人食い植物とか出来ちゃったら、恐いじゃないですか。
「侯爵様。エンディアから国境までの荒野と砂漠で活動する、許可をいただけませんか?」
「何をする気だ?」
にっこりと微笑んでみせます。父はじっと私を見つめたまま、動きません。
「砂漠の拡大を止めたいとは思いませんか?」
父が眉をひそめました。カーライルの真意を謀りかねているようです。
植物採集自体は、店に慣れて余裕ができた2年前からずっと続けています。雑草と引き換えに、パンを与える。カーライルに張り付いていた監視も、どう報告していいか悩んだでしょうね。一見、慈善事業にみえますから。
慈善事業に見えても、私にも利益があることです。メンタリストな父には、悪巧みしている人間の気配がするのでしょう。
利益と言っても、追放後のガンガーラで生きていくための布石ですけど。今、余裕がある間に、乾燥に強い植物を作って保管しておけば、あちらで生活していくのに役立つと思うのです。
父は諦めたようにため息をつきました。
「いいだろう。ただし、監視は着けさせていただく。金も出さぬ」
「かまいません」
ホクホクと昼食を再開します。
実はどうやって話を持っていこうか悩んでいたんですよね。だって、ついに、ついに! 1月ほど前ですが、乾燥に強くて食べられる実のなる植物を見つけたのですよ! この世界では酸っぱくて、かつ強いえぐみの為に好んで食べる人がいなかった、マンゴーもどきです。味の方はどげんかせんといかん状態でしたが、それも改良済みです。後は栽培するのみ!
お腹いっぱい食べるのが、待ちきれないです。
まだ私を観察していた父は、再びため息をつきました。
「カーライル殿、申し訳ない。いつもの薬をくれぬか?」
「はい。どうぞ」
話題を変えることにしたようです。言われると思って用意していた瓶を手渡しました。
「どこか行かれるのですか?」
「王都だ」
長旅ですね。王都までは馬車で片道20日前後かかります。渡したポーションの作用時間は長くとも1日。足りないですね。
「あとで店に寄っていただければ、必要な分お渡ししますよ」
「悪いな」
この3年で判明した父の弱点、それは乗り物酔いです。体調が優れないと、馬車どころか馬に乗っても酔うらしい。
乗り物酔いの気持ち悪さを思い出してしまったようで、父が渋面で食事の手を止めます。思わず笑いそうになって、美味しいパンが喉につまりかけました。
119
あなたにおすすめの小説
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる