悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ

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そろそろ10歳

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 殿下たちはこれ以上私の機嫌を損ねたくないらしく、約束通り社交シーズン終了までいらっしゃいませんでした。面の皮が厚そうな殿下でも、私の警告を無視した結果、不味いことになった自覚はある様ですね。
 あぁ、そのかわりにお手紙を頂きましたよ。

 殿下からのお手紙には謝罪と、歯の浮くような、誤解を招きそうな言葉が書き列ねてありました。砂糖が吐ける気分になりながら後半は斜め読みして、燃やして証拠隠滅を。そして当たり障りのない内容の手紙を返しました。

 アレクシス様からは惚れ惚れとするような季節の挨拶と、殿下を止められなかったこと、レグルスを追いつめる手伝いが出来なかった事に対する丁寧な謝罪を頂きました。例文として参考にするため、保管することにします。そして頑張って考えた返礼をしたためて送りました。

 イングリッド様からは妄想に満ちた、読み物としてはとても面白い内容のお手紙を頂きました。「続く」と文末にありましたので、友達申請を受け入れつつ、続きを催促する返事を書きました。

 レオンハルト様からは御礼と謝罪と共に、また会いたいと直球で書いてある、簡潔なお手紙を頂きました。また何か問題を持ち込む気でしょうか。嫌な予感しかしないので、私はお会いしたくなんてないですよ。御礼と謝罪は受け入れたと、その他には触れずに返信しました。



 そうして平和に社交シーズンが終了し、私はようやくテトラディル領へ帰ることができたのです!
 お勉強のため、弟のルーカスと母はこのまま王都に居残りでございます。ルーカスはかなり不機嫌でしたけど、学んだことを次に会ったときに教えて欲しいとお願いしたら、やる気になったようでした。ふふふ・・・これで、テトラディル侯爵領の屋敷で一人を満喫できますよ。
 帰りは国境の町エンディアに用があるという父と、途中まで一緒でした。

 何でも私と同じ黒髪で「黎明れいめいの女神」とかいう人物をガンガーラ国が血眼で探していると、父が隣国に派遣している間者から報告されたらしいのです。そしてその人物らしき女性をエンディアで見たという、噂があるのだとか。
 いえ、まさか。お父様、私ではありませんよ。だって私はずっと王都に居ましたでしょう? それに「女性」というには、私は幼すぎると思いませんか?
 機密事項っぽいことをジト目で私に話してくる父を誤魔化し・・・きれたつもりですが、念のためその晩にチェリをカーライル村(仮)へ派遣し、口止めをお願いしました。
 まったく・・・ガンガーラめ。何をしてくれるのですか。

 私に訊ねたいことがたくさんあっても、あれ以来腫れ物に接するようにしてくる父は、深く突っ込んでくることなくエンディアへと旅立っていきました。



 そして私は晴れて自由の身! なのですが、最近悩んでいることがあります。

 ひとつめ。オニキスの行動ですね。
 私が悪夢を見て夜中に目を覚ますと、しばらくは真面目に話を聞いてくれるのですが・・・そこまではいいのですよ。かなり気分が楽になりますし、感謝しています。
 問題はその後、眠たくなってきたなぁという頃にオニキスが圧し掛かってきて、さらに顔中をペロペロしてくるのです。合間に切ない感じで私の名前を呼ぶので、孤独を思い出させてしまっているのだと思います。

 ぎゅっと抱きしめて「大好き」と囁くと動きが止まりますし。

 それで満足するのか、何事もなかったかのように私を寝かしつけてきますから、対処法としては間違っていないとは思います。
 私の悪夢がオニキスの負担になっていないか、それが心配なのです。



 ふたつめ。クラウドについてなのですが・・・。
 私、チェリには7割がた勝てるようになりました。しかしクラウドには未だに1勝もできていません。
 だっておかしいではないですか。私はラスボスで、クラウドは中ボスなのですよ? なぜ私は彼に勝てないのでしょうか?!

「もう一度、お願いします」
「カーラ様、今日はもう3戦いたしました。また明日にしましょう」

 ここは私が作ったオアシスの横、砂漠の真っただ中です。そこら中に私が放った氷の槍や、土壁が立っています。魔法を使用しても勝てないって、どういうことでしょうか。
 再戦に乗り気でないクラウドは、剣を鞘に納めて構えを解いています。それでも隙を見いだせないなんて、かなりの実力差があるということですよね。
 こうなったらアレを使ってみましょう。

「くふふ・・・」

 私は影の異空間収納から秘密兵器を取り出しました。そして心の中で「なんちゃらパワー! 変身メタモルフォーゼ!」的なことを唱えつつ、一瞬で着替えを完了します。
 オニキスが呆れた様子でため息をつきました。彼は私がこっそり練習していたのを、知っていますからね。きっとこんなことの為に夜更かししたのかと思っているのでしょう。
 クラウドが右手で鼻と口を覆いました。ちなみにクラウドの利き手は右ですよ。

「・・・オニキス様の入れ知恵でずが?」
「ふふふ・・・さあ、参りますよ!」

 後半なぜか鼻声のクラウドを無視して、ミスリル製の薙刀を構えると、白地に赤い大輪の牡丹がいくつも描かれたチャイナドレスの裾が開きました。そこから覗いた足に、クラウドがちらりと目を向けます。
 伴侶を探す気がないとか言いつつも、そういう興味はちゃんとあるんですね。

「はっ!」

 息を吐きながら苦無を投擲しました。避けられるのは想定内なので、その間に間合いを詰めます。クラウドが剣を抜く前に薙刀の射程まで近づくことができました。剣を抜かせないように突きを繰り返します。

「くぅっ」

 私が砂に足をとられた隙に、利き手から左手へ、口元を覆う手を変えるクラウド。口元を覆うことに何の意味があるのでしょうか?
 クラウドに剣を抜かせたら負けがほぼ確定します。突きを繰り返しつつ、上空に氷の槍を数十本作りました。そしてそれをクラウドの背後を囲うように砂地へ突き刺します。隙間なく突き刺さった氷の槍は壁となり、クラウドの退路を塞ぎました。
 あ、転移は二人とも禁止ですよ。

「あは」

 勝てそうな気がして、つい笑みを漏らしてしましました。と、突きをよけたクラウドが薙刀の柄を掴み、体を反転させます。梃子の原理で彼の体を支点に加えられた力に耐えきれず、薙刀を手放してしまいました。
 そのままクラウドの体をまわってきた薙刀を、しゃがんで避けます。クラウドは薙刀を回転させて持ち直すと、片手で軽々と薙刀を操って突いてきました。こんなことなら薙刀に、「カーラしか使えない」を付与しておくのでした。
 何度か避けましたが、しゃがんだ姿勢からなので結構無様です。結局、両手を砂に付いてしまった私に、薙刀の切っ先が突き付けられて、負けてしまいました。

「・・・ありがとうございました」
「・・・」

 クラウドはこくりと頷いただけで、話そうとせず、相変わらず左手で鼻と口を押えています。返された薙刀を影の異空間収納にしまい、無言で彼に向かって手を差し出しました。
 私を起こそうと手を貸してくれる、クラウド。チャーンス!!

「とうっ!」

 クラウドに飛びついて、その身体を足で挟みます。長い脚って便利ですね!

「ちょっ! なっ」

 珍しく狼狽えるクラウドの首に左腕を回してしがみつき、右手を彼の口元を覆ったままの手にかけます。
 何がそんなに嫌なのか、決して左手をどけようとしません。空いている右手で私の右肩を掴んで、はがそうとしてきました。
 負けじとクラウドにしがみつきます。

「何を隠しているの? 見せなさい」

 ふるふると首を振るクラウド。目の前を通過した彼の耳は、口を押さえているために苦しいのか、ほんのり赤くなっていました。そのまま私から顔をそむけたため、適度に筋肉が付いた首筋があらわになります。
 そこに吸血鬼よろしく、ちょっと強めに噛みついてみました。

「んぅ・・・」

 クラウドは小さく呻いて、力が抜けたように、砂へ膝をついてしまいました。手加減したつもりですが、痛かったですかね。やめませんけど。
 さらにガブガブすると腰が抜けたように座って砂に右手をついたので、押し倒し馬乗りになります。それでも口元を覆ったままの、クラウド。やや目を潤ませてこちらを見上げる様子に、嗜虐心がそそられました。
 思わずにんまりしてしまいます。

「さぁ、みせてごらん?」

 はぁはぁ言いながらクラウドの左手に手をかけた所で、オニキスから待ったがかかりました。

『カーラ、侵入者だ』

 クラウドに馬乗りになったまま、顔だけオニキスの方へ向けます。オニキスがゆっくりとこちらに近付いてきました。

「どちらに? 刺客ですか?」
『テトラディル侯爵領の方だ。刺客ではなく深紅・・・伯爵令息だな』

 深紅の伯爵令息といえば、レオンハルト様ですよね? なのに侵入とは、一体どういう事でしょうか?

「お見えになったのではなく?」
『ああ。侵入してきた。塀を超えて、すでに敷地内に入り込んでいる。飛ばすのはまずいと思って侵入を許したが・・・どうする?』

 意味がわかりませんが、早く帰った方が良さそうです。立ち上がり、クラウドを見下ろしました。

「クラウドはカーライル村(かっこかり)のチェリを、迎えに行ってから来て下さい」
『待て! 転移するなら寝室は・・・』

 テトラディル侯爵領の寝室へ転移し、着替えるために急いで姿見の前に立ちます。チャイナドレスを脱ごうとしたところで、視線を感じてそちらに目を向けました。窓枠に手をかけ、今にも室内に侵入しようとしていたレオンハルト様と目が合います。
 え? 何? ここ、2階にある私の寝室ですよね?

『寝室は避けろと言いたかったのだが・・・遅かったか』

 オニキスが申し訳なさそうに、私を見上げました。

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