69 / 147
そろそろ10歳
28
しおりを挟むさて、ガンガーラの王弟と約束をしてから1月が経とうとしていますが、相変わらず呼び出しはありません。レオンに監視されながら生殺し状態な日々に、飽きた私は現実逃避をすることにしました。
「すごいですね! さすがチェリ。この刺繍と透け感の兼ね合いが完璧です!」
「ありがとうございます」
現在、私はチェリと共に鏡の前でファッションショーをして楽しんでいます。
私が魔法で作り出した服に刺繍をしたり、飾りを付けたりして、それを互いに着せ替えて遊んでいるのです。もちろん寝室でやっていますので、男子禁制でございます。
チェリは真面目に、私が後々着ることになりそうなガンガーラの服とか、外出用のワンピースとか、ドレスを作ってくれました。デザイン画を元に概形を魔法で作り出したのは、私ですけど。
「カーラ様・・・これは、ちょっと・・・」
「え? 可愛くないですか?」
制服美少女戦士的なものは却下されたので、正統派アイドル的なふんわりプリーツ多用、パニエ着用推奨の膝上ドレスを作ってみたのですが・・・チェリが着るのを渋っています。
「可愛いのに・・・」
どうやらこれもお蔵入りのようです。なにせ私のデザイン力が貧困なせいで、どうしてもコスプレ方面へ行ってしまうのですよ。そしてそれは、この世界の人からすると際どいものが多い。
チェリと私のサイズは全く違いますので、チェリに作ったものを私が着ることはできません。仕方なく、オニキスが作った異空間収納の穴に放り込みました。
そのオニキスはというと、ベッドの上に寝そべって、きゃっきゃうふふしている私たちをぼんやりと眺めています。興味がないのかと思いきや、気に入った時は無意識に尾が揺れるらしく、ちゃんと見ているようです。ちなみに今も揺れています。
今、私が着ているのはガンガーラの服なのですが、前回のものとは違って上が半袖で裾が短く、ヘソが出ています。下は長い生地をペチコートに挟みながらスカートのように腰に巻き、残りを肩の上にかける、インドの民族衣装と言ってすぐ思い浮かぶ感じですね。問題は巻き付ける生地が薄いため、ヘソが透けていることです。薄紅色の生地に、ベージュの糸で、チェリ渾身の刺繍が施されていますから、よーく見ないと分かりませんけど。
「ヘソが出ているのは普通なのですか?」
「そうですね。その様なものが多いです。年配者や旅装はその限りではありませんが」
どうやらこれが普通らしいです。血まみれになった服は処分されてしまいましたから、王弟に呼ばれた時はこれを着ていくことにします。
それまで汚したくないので、脱いで丁寧にたたみ、影の異空間収納へしまいました。
「チェリ、そろそろお昼にしませんか?」
「かしこまりました」
私の割と正確な腹時計が食料を要求し始めました。もうお昼時のようです。
チェリは手早く片付けると、一礼をしてから寝室を出て行きました。後に残された私は、オニキスの横へうつぶせで倒れこみます。
「お出かけできないと、つまらないですね」
『1月も外出しなかったのは、転移を習得して以来初めてではないか? まあ、我はどこだろうと、カーラさえいれば満足だが』
そう言ってもらえるのは嬉しいですし、私もオニキスといるのはとても落ち着くので好きです。しかし、どうしても屋敷でじっとしているのが、苦痛に感じてしまうのです。それなりに制限はあっても、今までは好き勝手してきましたからね。
クラウドとの鍛錬でストレスを発散してはいますが、魔法禁止ですので当然のように連敗中。余計に鬱憤が溜まってきました。
せっかく父がエンディアを離れたというのに、こっそりチェリを派遣するだけで、私はカーライル村へ行けていませんし。もちろん国境の雑草や、山林の様子も見に行けていません。
『国境も山林も雨を降らせておいた。心配ない』
「ありがとう、オニキス」
オニキスはいつも水を撒きに行く場所に目印を付けたらしく、遠隔で雨を降らせることができるようになりました。私が行う水まきとは違い、広範囲にゆっくりと水を供給できるため、雨を降らせるのは1週間に1度としています。
私の遊びに付き合いながら遠隔で天候を操作するなんて、オニキスは本当にチートですよね。無駄な抵抗かもしれませんが、レオンに私の秘密がバレないよう我慢している今、その有能さがありがたい。
目の前にあったオニキスの頭を撫でると、彼は気持ちよさそうに目を閉じました。
『カーラ、王弟が呼んでいる』
耳が痛いほどの静寂と、人の気配がほとんどしない様子から、時刻は真夜中だと思います。確かに私は人払いをしろと言いましたが、何も真夜中に呼び出さなくてもいいのに。
私はのっそりと起き上がると、ぼんやりしながらも影の異空間収納から、午前中に着て遊んでいたガンガーラの服を取り出しました。すでに日付が変わっていそうなので、正確には昨日の午前中になりますね。
実は王弟に渡したのはただのペンダントで、呼んだら教えてくれるようオニキスに頼んだだけです。オニキスはついでにペンダントへ、王弟の居場所が精霊の世界からわからないよう、ジャミング効果を持たせたらしく、今回は光の精霊にバレるのを心配しなくてもいいそうです。
「クラウドはどうしましょうか」
仕事は完璧従者な彼も、この時間はさすがに眠っています。彼の部屋は応接室をはさんで向こうにありますので、起こしに行けばいいのですけど、眠っている人を起こすのって気が引けるのですよね。
「僕を連れて行ってよ。カムの従者ほど強くないけど、盾にはなるよ」
「っ!!」
誰もいないはずの暗闇から声がして、心臓が飛び跳ねました。
びっくりした! びっくりした!! びっくりした!!!
気付いていたなら教えてくださいよ、オニキス。
『いや、気付かなかった。そもそもこれの気配はつい先ほどまで、隣の部屋にあったぞ?』
オニキスが私と声の主、レオンの間に移動する気配がします。明かりは窓から入り込む月の光しかありませんので、レオンの姿も、闇色のオニキスの体もほとんど見えません。
「ごめん。驚かせた? どうして気付いたのかとか、どうやって来たのかは企業秘密ぎゃん!」
『カーラ様、無事っすか?』
「遅くなりまして申し訳ございません」
レオンの悲鳴が聞こえて、室内が明るくなりました。蝋燭を片手に、クラウドがレオンの腕を捻りあげているのが見えます。
どうやらモリオンがこちらの異変に気付いて、クラウドを起こしたようですね。
「ありがとう。クラウド」
モリオンもありがとうございます。
視線を送ると、モリオンが小さく頷きました。わかってくれたようです。
「カーラ様、ペンタクロム様はいかがいたしましょう?」
「拘束して置いていきます。面識があるクラウドならともかく、レオンを連れていけば警戒されるだけですから」
「承知いたしました」
「えっ! 僕の意見は無視?!」
クラウドがどこからともなく取り出した縄で、レオンを後ろ手に縛り上げました。
不服そうなレオンが、口を歪ませて金の瞳を伏せています。ボタンを外してくつろげてある胸元に、色気を感じました。9歳でこれでは、先が思いやられますね。
「レオン、留守を頼みます」
「わかった。今回は諦めるよ。でもそろそろ僕を信用して欲しいな」
オニキスに裏切る気配はないと言われましたし、口止めの状態異常をかけてあるので、それほどレオンを警戒してはいません。しかし規格外をばらすのは、勇気がいるというか・・・彼は怖がって取り乱したりしないと思いますが、逃げられてレグルスを見張れなくなるのは困ります。
「・・・善処します」
手始めに転移を見せてしまいますか。
あ。そういえば一度見られたような。
「クラウド、行きますよ」
「はい。カーラ様」
クラウドは縛られたままのレオンを床に転がすと、蝋燭の火を消しました。
この月明かりだと転移するところがよく見えませんが・・・まぁ、いいか。オニキスに視線で合図を送ります。
口に出さずに要望を思い浮かべて、呼び出し地点から近く、人のいない場所へ転移してもらいました。チェリがついでだと言って作ってくれた、クラウドの着替えを彼にわたします。そして私は「なんちゃらパワー! 変身!」と心の中で唱えて、ガンガーラの服への着替えを完了させました。
今回は前回の失敗を踏まえて、すでにクラウドへ背を向けています。彼が着替えている間に、自分へクラウドと同じ歳に見えるよう視覚阻害をかけ、認識阻害もかけました。
「お待たせしました」
「では参りましょう」
クラウドが脱いだ服を受け取って影にしまい、その手に触れて認識阻害をかけました。そして物置のような部屋を出ます。オニキスの案内で、所々にランプの明かりが点る薄暗い廊下を歩きました。
どこまで人払いをしてあるのか、周囲に人の気配がしません。目的の部屋まで誰にも会いませんでした。
クラウドが私に下がるよう手で示し、扉をノックします。拍子抜けするくらいあっさり扉が開き、王弟殿下が顔を出しました。
「来たか。てっきり室内に忽然と現れるものだと思っていたぞ」
王弟殿下の言うように現れようかとも思ったのですが、彼の望みがレオンの予想通りなら、この部屋の中にガンガーラ王がいる可能性が高いです。そんな場所にひょいと飛び込むのは、考えなしの自覚がある私でもためらいました。
王弟殿下の招きに、私、クラウドの順に部屋へ入ろうとすると、クラウドのみ止められてしまいました。
「従者はここで待て」
「しかし・・・」
押し入ろうとするクラウドの腕に触れて見上げます。不安に揺れる茜色の瞳を見つめました。
「大丈夫です。ここで待ちなさい」
「・・・はい」
クラウドが私の足元へ視線を落とし、それを受けたオニキスが仰々しく頷きます。
「こっちだ」
招き入れられた石作りの部屋には誰も居ませんでした。高価そうな毛の長い絨毯が敷かれたその部屋は、端にベッドかという程大きなソファとその上にたくさんのクッションが置かれており、正面のテラスには松明が焚かれています。外の様子からして、2階か、3階でしょうか。
絨毯の上を何のためらいもなく土足で突っ切った王弟殿下に、隣の部屋へ案内されました。
81
あなたにおすすめの小説
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました〜モブのはずが第一王子に一途に愛されています〜
みかん桜
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは、乙女ゲームが舞台の小説の世界だった。
悪役令嬢が主役で、破滅を回避して幸せを掴む——そんな物語。
私はその主人公の姉。しかもゲームの妹が、悪役令嬢になった原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私はただのモブ。
この世界のルールから逸脱せず、無難に生きていこうと決意したのに……なぜか第一王子に執着されている。
……そういえば、元々『姉の婚約者を奪った』って設定だったような……?
※2025年5月に副題を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる