94 / 147
もう15歳
21
しおりを挟むあの後、当たり前ですが大騒ぎになり、寮室検査が済むまで生徒たちは各々の部屋で待機となりました。
王族の命が狙われたわけですからね。生徒に限らず、教師、その他職員に至るまで、学園警備によって私室を検あらためられるわけです。
順次、部屋を検査されていく中、もちろん順番は貴族階級の順に行われるわけでございます。侯爵家の子女である私とルーカスが部屋を与えられている別館は、早々に立ち入り検査が終了いたしました。ついでにまた別館まで来る手間を省いたのか、クラウドの部屋も済んでいます。
夕食には早過ぎる時間に解放されましたが、事件現場で夕食をとるわけにもいきません。そんなわけで今晩は各自の部屋や、寮の談話室で食事をとるよう通達されました。
そして私はもちろん、殿下とのディナーの約束をなかったことにして、静かに別館で食事をするはずでした。だってイングリッド様抜きで殿下と一緒に食事をする意味などありませんし。
オニキスに探りを入れてもらったところ、イングリッド様はお部屋で執筆活動に勤しんでおられるそうな。怪我やそれを負った記憶の影響も無く、お元気そうでなによりです。
しかし問題なのは、殿下のディナーを断って妄想の世界へ旅立っているイングリッド様ではなく、早めの夕食を中断させたにも関わらず全く悪びれもせず、私の前に立っている人物なのでございます。
「来ちゃった」
「・・・」
肩をすくめつつ顔を傾げるしぐさがものすごく可愛いですが、いつも通り嫌な予感しかしません。
食堂が使用できないため、昨日のようにクラウドと二人きりではなく、今晩はルーカスも一緒に別館の談話室で夕食。それは当然のことだと思うのです。
しかし殿下、貴方は命を狙われたご本人ですよね。こんなところにいないで、一人になってしまった護衛と一緒に、ご自分の部屋で大人しくしているべきではないのですか?
「申し訳ない・・・カー・・・カム」
殿下のやや後ろで所在無げに佇み、私から標準で鋭い目をそらす、アレクシス様。巻き込まれただけのような彼には、同情を込めてできるだけ優しく微笑んでみます。
そんな、無理に私を愛称呼びしなくてもいいのですよ? それに私と共にするより、自室で食事をされた方が落ち着くのではないですか?
「カム。怒んないで?」
「レオン。貴方もですか・・・」
レオンが静かに近づいて来ているのは気付いていましたが、放置していたら私の肩へしなだれかかってきました。そして金の瞳を潤ませながら、上目遣いで私を見てきます。
私よりほんの少し背が高いレオンがこの姿勢をすると、しがみつかれている腕が重いのですよ。その重い方の手でぎゅっと脇腹をつねってみましたが、全く動じません。
ルーカスが冷気を感じる笑顔を浮かべながら、ぐりぐりと足を踏んでいるのも無視するのですね。痛くないのですか?
「あのね、カム。僕、しばらく殿下の護衛をすることになったんだ。だから・・・カムに呼ばれても駆け付けられなくなっちゃった。ごめんね」
ほう。それはそれは。朗報ではないですか。
沈みきっていた気分が浮上しかかった時、殿下が胸を張って言いました。
「それについては、私も一緒に駆け付ければいいのだから、問題ないっ!」
「そっか! さすが、殿下!!」
「・・・」
馬鹿なの? 死ぬの?
守られるべき王族が自ら危険に身を投じようとか、問題以外の何物でもないでしょうが。
とは言っても、私がレオンを呼んだのは昨日の入浴時だけですから、危険でもなんでもありませんけれど。だいたい、殿下もレオンも私に勝てたことありませんでしたよね?
もういいや。
追い返すのは無理そうなので、諦めて談話室で夕食をご一緒することにします。
そもそもこの別館は、私の持ち物というわけではありませんし。殿下たちの後ろの方で、遠巻きに私たちのやり取りを見ている給仕たちがいますしね。
「夕食をこちらでご一緒するのはいいのですが、テーブルが足りません。ですからソファで食事してもらうことになります。よろしいですか?」
「構わないよ」
機嫌よさそうにソファへ腰かけた殿下と、なんとなくほっとした様子のアレクシス様、ルーカスに踏まれていた足を確認しているレオンの前へ、夕食が運ばれてきます。そして、すべてをテーブルへ並べた状態で食事をしていた私たちに習い、殿下たちも給仕たちに同じようにするよう言って下がらせてしまいました。
その間に給仕たちの手伝いをしながら、さりげなく別室へ、たぶん談話室の向かいにある厨房へ、自分の料理をもっていこうとするクラウドを捕まえます。
「逃がしませんよ」
「・・・」
目を泳がせるクラウドを元の席へ戻らせ、ルーカスがクラブを迷っている話を聞きながら、なんとなく気まずい食事を終えました。
「殿下、先程のお話ですが・・・」
食器が片付けられたソファの方で、クラウドが入れてくれた紅茶をいただきながら殿下へ視線を向けます。時間を置こうと答えが変わらないのであれば、早めにお伝えしておいた方がいいと思ったのです。
「駄目。そんなすぐにでる答えなんて認めない。しっかり考えてからにして!」
しかし殿下は手で耳を塞ぎ、私から顔をそむけてしまいました。そのまま頑なにこちらを見ようとしない殿下と、眉間にシワを寄せてそちらを見つめる私を見て、ルーカスが首を傾げます。
「何かあったのですか?」
殿下はルーカスの方へ視線を向けましたが、口を引き結んで話そうとはしません。どうやら「言いたくない」という事を、態度から察しろと言う意味のようですね。
しかしここで、空気を読めなかったのか、わざとなのか。レオンが少し機嫌悪そうに言いました。
「殿下がね、抜け駆けしたの!」
おや、レオンさん。まさかあの場にいたにも関わらず、手を貸さず、隠れていたのですか?
「何?」
「どういうことですか?」
アレクシス様とルーカスが先を促すように、レオンへ顔を向けます。
レオンがプリプリした感じで、ソファへもたれかかり、腕を組みました。
「・・・っ求婚したんだよ! 自分が殺されかけたときに! 信じられる?!」
私に関することを話せないよう、レオンには制約がかけてあります。ですから「誰に」という事を、発言することができなかったようです。しかし相手は誰なのかすぐに察したらしく、アレクシス様とルーカスが驚いた顔で私を見ました。
やはりレオンは覗き見ていたようですね。別に手を貸してくれなくても大丈夫でしたが、悪趣味過ぎやしませんか。
「・・・ヘンリー?」
「なに? カムも私も、誰とも婚約していないし、別にかまわないだろう?」
鋭い視線をふてくさせたような顔の殿下へ向けて、咎めるように名を呼ぶ、アレクシス様。
まあね。王太子派の人間としては、私なんかより大公令嬢であるゲーム主人公と婚姻を結んでいただいた方が、側妃派を牽制するのに効果的ですし。それにそうなれば殿下も次期大公となるのですから、殿下の地位も磐石になります。
この国では王位に就かなかった王族は、臣籍降下が通例ですからね。
そんなわけで万が一、殿下が私と結婚した場合、殿下は次期テトラディル侯爵となるわけですよ。嫡子より王族が優遇されるのも通例ですから、ルーカスのテトラディル侯爵への道が閉ざされる事になります。私は誰とも結婚する気がありませんから、ありえませんけれども。
「姉上。そんなお顔をされなくとも、僕が一生不自由をかけさせません。だから無理に婚姻される必要はありませんよ」
ルーカスがほわーっと笑いながら言いました。かわゆす。
我が弟ながら男前発言ですね。しかし相手が姉である私というのが空しい・・・。誰とも結婚する気がありませんが、ルーカスとそのお嫁さんの迷惑にならないよう、しっかり自立せねば。
それにしても、いったい私はどんな顔をしていたのでしょうか?
「はいはいはい! 僕! 僕と結婚したなら、何しても大丈夫だよ! 秘密保持も口止めも任せて!」
レオンが元気よく右手を挙げました。
その口止めには「死人に口無し」的な意味が含まれている気がするのですが、気のせいですか?
「レオンの元へ嫁ぐのでは、カ・・・カムが降嫁となってしまうではないか。そ、それなら私との方が釣り合いがとれる」
私から目をそらしながら、アレクシス様が言いました。そして恐る恐る私をチラ見する彼へ、私は精一杯優しく微笑んでみます。
侯爵令嬢である私が、レオンと婚姻を結べば伯爵位へ降位してしまうという、私に気をつかった発言ですね。それに対して、アレクシス様であれば、公爵位へ上がるという。
お気遣い、大変ありがとうございます。誰とも・・・以下略なので、必要ありませんけれど。
「その理屈なら、私でも問題ないだろう?」
ヘンリー王子がぷくっと頬を膨らませながら言いました。安定の可愛さです。
何故だかいつの間にか私の進路相談になっていますが、私の心は既に決まっています。ここは行き遅れ確定の姉を心配する弟のルーカスと、私の今後をお気遣いくださったアレクシス様の憂いを絶つためにも、しっかり意思表示をしなければなりませんね。
「私は・・・」
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「・・・」
せっかく姿勢を正して発言したというのに、殿下に遮られてしまいました。気を取り直して、もう一度口を開きます。
「私」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
またですか。
「わ」
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
どうしていちいち叫ばれるのですか?
「・・・」
「駄目。」
何が駄目なのかわかりませんが。私に発言させる気はないようです。
あ。そうか。皆の前で断られたくないのか。どうやら殿下のプライドに対する配慮が欠けていたようですね。
私が諦めた事を察したのか、殿下がにっこり笑いました。
「ねぇ、カム」
「・・・なんですか?」
「ここのお風呂入っていってもいい? カムの後でいいから」
唐突ですね。しかし別に構いませんので、許可する事にします。
「どうぞ」
いいな。男子どもは自由で。
いくら見目麗しくとも男ばかりでは、私の癒しにはなりえません。
ああ。可愛いお嬢様がたと女子会したい・・・きゃっきゃうふふしながら一緒に入浴したい・・・と、しばらく現実逃避にひたる事にしました。
59
あなたにおすすめの小説
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました〜モブのはずが第一王子に一途に愛されています〜
みかん桜
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは、乙女ゲームが舞台の小説の世界だった。
悪役令嬢が主役で、破滅を回避して幸せを掴む——そんな物語。
私はその主人公の姉。しかもゲームの妹が、悪役令嬢になった原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私はただのモブ。
この世界のルールから逸脱せず、無難に生きていこうと決意したのに……なぜか第一王子に執着されている。
……そういえば、元々『姉の婚約者を奪った』って設定だったような……?
※2025年5月に副題を追加しました。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~
浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。
「これってゲームの強制力?!」
周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。
※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる