悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ

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ついに16歳

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 3つ目のカナッペを食べ終えた頃、いよいよ劇が始まりました。本日の演目は「建国記」だそうです。

 物語は小さな町とも言えない森の中の集落から始まります。そこで育った、初代モノクロード国王とジスティリア大公、賢者ジウ・ヴァイスセットが建国に至るまでの戦闘あり、恋愛あり、涙ありの冒険活劇です。
 割と史実に沿って作ってあるらしいのですが、惚れっぽく、各地で女性たちを虜にしていくチャラ男大公と、勝手気ままに行動しながら、男性信者を増やしていく意外と体育会系な賢者。その2人をめつすがめつしながら操縦する初代国王が苦労人過ぎますね。彼もまた正義感にあふれつつも柔軟性があり、時に厳しく、時に優しい魅力ある人物として描かれています。
 そんな初代国王には小さなころから心を寄せる少し年上の女性がいるのですが・・・まあ、残念ながら悲恋なのですよ。

 周辺の集落を併合しつつ国のような形態になってきた時、それに反発した隣の小国から戦争を仕掛けられるのですね。で、行ってほしくはないけれど「行かないで」と言えなくて涙を流す彼女さんと一夜を共にします。そして翌朝、初代国王が「帰ってきたら結婚しよう」と死亡フラグを立ててしまうのですよ!
 しかし初代国王は主役でございます。ですからしてこの場合、命を落とすのは彼女さんの方で。

 奇襲をかけられ、炎にまかれた屋敷の一室で1人の男児を産み落とす彼女さん。
 一発的中なんて、繁殖率高いな! という突っ込みは野暮ってものです。
 そこへやってきた初代国王は彼女さんから子供を託され、その死の間際に告げるのです。

「争いなく平和な世を次代へ継ぐと、君に誓う」

 うぅぅぅ。歳をとると涙もろくていけませんね。
 食べるのも忘れて舞台を見入る私は、視界を霞ませた涙をハンカチで拭き、それを握った手をテーブルへ置きます。生暖かい何かが触れた感覚がして視線を落とせば、私の右手の上にアレクシス様の手が重ねられていました。
 何のつもりかと彼を見上げましたが、その顔は舞台の方へ向けられており、しかもいつもの無表情な為に思惑が読めません。
 それでも微かに手が震えていることから、意図的にしている事なのだというのはわかりました。小さく吐いた私のため息に反応して、ぴくりと動きましたし。

 少し前にいろいろされはしましたが、私は彼を嫌ってはいません。
 しかし、いかんせん彼の望むような好意を私が抱くことはないと言い切れてしまうのです。小学生くらいの頃から知っている子供に、そんな感情を向けられるかというとやはり罪悪感が先に立ってしまって無理なのですよ。
 前世では完全に非リアで、好意を一方的に向けることはあっても向けられることの無かった私としては、拒絶することに抵抗を覚えてしまいます。しかし変に期待を持たせるのも良くないのはわかっていて。

 迷った末にゆっくりと手を抜こうとしたら、ぐっと握りこまれてしまいました。
 少し強めに引いてみましたがびくともしません。アレクシス様は華奢ではありませんが、それでも乙女ゲームの攻略対象然として筋肉を感じさせないすらりとした体躯をしておられます。そう力が強いようには見えないのですが、前回同様、男女の力の差というものを埋める手立てはないようですね。

 仕方なくそのままにして舞台へ視線を戻せば、ちょうど幕が下りるところでした。
 立ち上がって拍手をするイングリッド様とルーカスに倣って立ち上がると、アレクシス様の手が緩みます。これ幸いと手を回収しました。再び緞帳どんちょうが上がった舞台の上で礼をする出演者たちに、惜しみない拍手を送ります。

 感動的な場面で水を差されたのは残念でしたが、劇も食事も大満足です。また来ることができたらいいなと、思える場所ができました。
 しかし、もう一度楽しむには阿鼻叫喚対策が必要ですので、早急に「傷害無効」アイテムを作成してオーナーのご令嬢であるイングリッド様を買収すると致しましょう。「御守り」と称し、ルーカスを通してお渡しすれば、受け取っていただけるでしょうか。
 そんなことを考えつつ惰性で拍手を続けていた私へ、イングリッド様が優雅に淑女の礼をしました。

「申し訳ございません、皆さま。支配人に用がありますので、少し席を外しますわね」
「待ってください、イギー。ご一緒させていただけませんか? 支配人に是非お会いしてみたいのです」

 ほわーっと微笑んでエスコートするために手を差し出す、ルーカス。かわゆす。その手をとってこちらを向いたイングリッド様へ、私は一礼しました。

「私はここでお待ちしております」

 お待ちしつつ途中になっていたカナッペと、その後に運ばれてきた一口大のケーキをいただきましょう。そうしましょう。

「俺もここで待つ」

 食欲に思考が支配されかけていた私を、アレクシス様のお声が正気に戻しました。
 驚いてそちらを振り向けば、やや緊張した様子のアレクシス様が私をまっすぐに見ていらっしゃいます。気まずくなってルーカスへ視線を戻すと、すうっと目を細めてぐっと口角を上げました。冷気を感じるにやり顔ですね。
 どうやら意図的に2人きりにするつもりのようです。とは言っても、扉横のクラウドとアレクシス様の護衛は残るのだと思いますけれども。

「なるべく早く帰ってまいりますわ」

 イングリッド様がルーカスにエスコートされながら彼女の護衛を伴って、退出されます。そちらを向いたまま動けない私へ、アレクシス様がお声をかけてくれやがりました。

「カム、こちらへ座って待たないか?」

 ギギギと身体を軋ませながら振り向くと、アレクシス様が先程まで私が座っていた椅子を引いて立っています。

 女は度胸ですよ!
 そろそろはっきり言うべきなのはわかっていますので、ことなかれ主義に流されそうになる思考を叱咤し、素直に示された椅子へと腰を下ろしました。
 アレクシス様も当然のように隣の席へ座ります。

「・・・」
「・・・」

 き、気まずい!
 つい先ほどした決心もどこへやら。私はギシギシと音がしそうに固まっている体を動かして、カナッペへと手を伸ばしました。
 だって、口に入っている間は話をしなくても不自然ではないでしょう?

 できるだけゆっくり咀嚼し、次と決めたケーキを突き刺すためにフォークへ手を伸ばしかけます。しかしその手がフォークに触れる前に、アレクシス様が体ごとこちらを向きました。
 その標準仕様で鋭い視線に射抜かれて、私の動きが止まります。恐る恐るそちらをチラ見すると、予想通りの視線が降ってきました。
 これ以上無視するのも不敬ですので、ナプキンで口元をぬぐい、覚悟を決めてアレクシス様の方へ向き直ります。
 とりあえず笑っておこうと営業スマイルを浮かべた私から一瞬、視線をそらしたアレクシス様は、私と目を合わせて膝が触れそうに近くへ座り直しました。

「カム。俺は君が好きだ。君が俺の心を軽くする言葉をくれた時からずっと」

 私を見つめる空色の瞳は以前のようにそらされることも、揺れることもなく。彼の真剣さをまざまざと感じさせてくれます。
 他人事ならばキュンキュン悶えつつ楽しめたかもしれない状況は、残念ながら逆に私を冷静にさせ、急速に頭が冷えていきます。それに従って表情が消えていく私の心情を読み取ってか、アレクシス様が目を伏せました。

「だがこの想いが、カムのかせにしかならないことはわかっている。応える気がない事も」

 私が口にする前に、言葉にされてしまいました。「想いに応えられないことを伝えなければ」という重圧からあっさり解放され、虚を突かれた私の顔はきっと呆けているのではないでしょうか。
 知らぬ間に空いていた口を意識して閉じると、眉尻の下がったアレクシス様の口角が微妙に上がりました。苦笑されたのだと思います。たぶん。

「俺は今日ですっぱり君を諦める。だから・・・最後に君を抱きしめてもかまわないか?」

 ずいっと身を乗り出してきたアレクシス様の膝と私のそれが触れ合い、そちらへ気を取られた隙に両手を取られました。またしても痛くはないのに抜け出せない、絶妙な力で捕獲されてしまった手を見下ろします。
 何度か強く引いて、やっぱり抜け出せないことに落胆しつつ、私は顔を上げました。

「・・・いいえ。アレクシス様。そこは欲望に屈してはいけないところです。私の怒りを買ったあの時と同じ状況を今後作らないためにも、己の欲望はきっちり制御しなくてはなりません。ですから答えはいなですよ。頭突きされたくなければ、早々に手をお放しください」

 始めてあった日のように、不気味に見えるよう目を見開いてにいっと口角を上げて見せると、アレクシス様が慌てて手を離しました。私はそれに満足すると、何事もなかったかのようにテーブルの方へ向き直り、一口大のケーキを口にします。

 内心ではドキドキですけどね。
 だって前世でも告白もしていないのにふられることはあっても、こちらからふるなんてことありませんでしたから。もちろん初体験なのでございますよ。

 応えられないのに、なぜか断ることへの罪悪感を抱き。けれど希望を持たせない方がいいのも、前世で体験した逆の立場から学んでいて。
 小心者の私には不相応な立場は物凄く荷が重いのです。もう二度としたくないのに、まだあと2人いるという事実が信じられません。

 鬱々としてきたために無表情になっている私へ、唖然とした視線を向け続けているアレクシス様を無視し、ちゃっかり食べた一口大のケーキは3つ。お皿が空になった時にようやく、イングリッド様とルーカスが帰ってまいりました。

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