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ついに16歳
閑話 残滓の戦
しおりを挟む『下がれクラウド。人の身で奴らを相手取るのは荷が重い。奴らには決して触れるな。近付くのも駄目だ』
茫然としているカーラと、全神経を研ぎ澄まして彼女を護ろうとしているクラウドを背に、あちらへ置いてきた体の一部を呼び寄せ始める。こちらにある分では奴らを塗りつぶして取り込むのに、明らかに足りていないからだ。
徐々に大きくなっていく体を異空間に収納しつつ、私は真白たちに見えないようにして、右後ろ足を使いクラウドとモリオンへ合図を送った。
「氷華ぁ。今すぐ砂華を呼んでぇ。あたしはぎりまで使ってあっちへ帰るからぁ、後はよろしくぅ」
宿主の体はどういう原理か見えないように消されてしまっているが、元が異世界からの侵入者だからなのか、精神生命体である精霊同士であれば互いの姿をこちらの事象に左右されず見ることができる。・・・いや、視覚に頼っている訳ではないから、この場合は感じるの方が正しいか。
よってこうして宿主の意思に関係なく自立して行動したり、実体化でもしない限り、契約が他者へ知れることはない。
クラウドがカーラを抱き寄せるのに気を取られて、真白たちの接近を許してしまったのは悔やんでも悔やみきれない失態だな。
間延びした話し方をする真白は、言葉の通りに捨て身で襲い掛かってくるつもりだろう。私はだいぶ大きくなった体の一部を影に沿って周囲へ巡らせ、防御にまわした。
『行け!』
『はいっす!』
真白は自らが宿る体を切り裂いたようで、その血しぶきが視界を赤く染める。そして宿主の命が尽きる直前に力を揮ってきた。もう一方の真白ごと、私も囲うように放たれたそれの隙間を、私は体を使って維持しつつカーラたちを逃がす。
しかし、こんなところで対真白用に示し合わせた合図が役に立つとは思わなかった。トゥバーンの忠告に感謝しなければなるまい。もちろん警戒すべき相手は、あの大公令嬢の真白を想定していたのだが。
静寂に満ちた真っ白い空間の中、残った方の真白が話しかけてきた。
『深淵・・・狂乱様・・・待ってる・・・帰ろ?』
『断る。』
なんだってまた、あんな面白くもない苦痛ばかりの世界へ帰らなければならないのか。
それに「狂乱」が待っているのは私ではなく、私の中の「悲嘆」の記憶の方だ。もういっそ分離した体に「まかいぞう」したあれを入れて、「狂乱」へ差し出してしまおうか。
・・・・・・いや。ないな。
例え入れ物でしかなくても、私の一部が奴に愛でられると思うだけで吐き気がする。耐えられない。
不快を払うために身震いすると、残った方の真白が身構えた。
帰っていった真白が施していったのは、どうやら私が逃げられないようにする檻のようなものらしい。居心地の悪い真っ白な空間に、残った方の真白と2者、閉じ込められている。
それにしても面倒な奴らに契約していることが知れてしまった。
「悲嘆」に固執する「狂乱」がこれを知れば、きっと私とカーラの契約を消去しようと画策してくるだろう。残った真白を食って証拠隠滅したとしても、もう一方があちらへ帰ってしまった以上、すでに狂乱へ伝わったとみて間違いない。
カーラを消せば「悲嘆」ごと私も消えるわけだから、一息にカーラを消そうとされないだけましかもしれないが。
そんなわけで、ここで無駄に戦う必要はない。私はさっさと、とんずらすることに決めた。
『待て!』
そう言われて待つ馬鹿がいるか!
私はもちろん無視して、悪趣味な白い空間の外壁に体当たりをした。
『くっ!』
カーラが経験した痛みの中の、火傷に近い感覚の後、私はあっさりと外へ出ることができた。
あまりの抵抗の無さに拍子抜けして、飛び出した勢いのまま、ごろごろと地面を転がる。速度が落ちてきた頃を見計らい、体をしならせて跳ね起きようとした、その時。
先程の比ではない痛みが全身を襲った。
『っがぁぁぁっ!!』
『油断大敵っ』
別の真白だと?!
それにこの痛み・・・何を消された?!
体の表層を、今なお火に炙られ続けているかのような痛みで意識が遠のきかける。その痛みに耐えながら体を確認したが、何を消されたのかがわからない。
のたうち回りたい衝動を抑え、私は自分の体へ剣を突き刺している、新たに現れた真白を睨んだ。
『深淵ったら、こっちにいたんだねっ。どおりで何を言っても、あっちの深淵が無反応だと思ったっ』
これは、この真白は知っている。あちらで時折、嫌味を言いに来ていた結構大きな真白だ。
弾むような話し方は相変わらずだが、宿主である筋骨隆々な、カーラの知識で言うところの「熊」のような大男がくねくねと腰を揺らす動作が気色悪い。
『・・・ぅぇ』
おかげで少々、冷静になれた。数本の氷の矢を放って牽制し、転移で大男の剣から逃れて距離をとる。
それにしても、こう何人も宿主の体を乗っ取っているのはどういうわけだ? 私を捕らえるためだけにしては、大掛かり過ぎている。
何か別の目的でもあるのだろうか。
『おまけに契約するとかっ。狂乱様が悲しんじゃうでしょっ。やめてよねっ』
目の前の大男は、相変わらず気色の悪い動きを繰り返している。
焼け付くような痛みが徐々に治まってきて、私は大男から目を離さずにもう一度体を確認した。しかし何を消されたのかが、さっぱりわからない。痛みからして、重要な何かであることは確かであるのに。
まさかと思いつつ、厳重に保護し自身の奥深くに隠してある契約の状態を確かめる。奴らの目的は契約を消去し、私をあちらへ帰すことだろうからだ。
強固に繋がったままの契約にほっとしていたら、大男が叫んだ。
『今だよっ!』
『何っ?!』
大男でない方、未だに白い空間に捕らわれたままだった方の真白が、その空間ごと私へ体当たりしてきた。予想外の動きに焦りかけたが、飲み込めない大きさでもない。
私は異空間収納内の体を取り出し、袋に入れて口を閉じるようにして飲み込んだ。
『っ!! やっぱりそれは見せかけの大きさなんだねっ』
ついでに大男も飲み込もうとして、逃げられた。外見に反して意外と素早い。
私は大男の動向に注視しつつ、取り込んだ真白の囲いから塗りつぶすことにした。身を焼かれる痛みを感じるが、大男に体の一部を消された時ほどではない。
次第に小さくなっていく囲いにほくそ笑んでいたら、再びのたうち回りそうなほどの痛みが襲ってきた。
『がぁぁ・・ぐっく・・・』
『始まったねっ。頑張れっ。氷華っ』
満足そうにくねくねしている大男は、もう私に手を出す気はないようだ。少しずつ後退して、私から離れていく。
『頃合いを見計らって、宿主殺しなねっ。機会はまだいくらでもあるんだからっ。消滅しない程度にとどめるんだよっ』
そう言って手を振ると、林の暗闇に消えていった。
私は暫くそちらを睨んでいたが、気配が完全に遠のいたことに安堵した途端、耐えきれなくなってしゃがみ込み、のたうち回った。
『ぐうぁ・・・ぁぁぁ・・・がはっ・・・』
痛い。苦しい。
意識が飛びそうだ。
身を抉られるようなこの痛みは、きっと私の中に隠した契約を探しながら、私の一部を消去しているからなのだろう。
あの、1人目の真白が作り出した空間は、中に入れたものを出さないためのものではなく、外部からの攻撃を防ぐためのものだったのだ。してやられた。
こうなった以上、一刻も早く囲いを塗りつぶし、取り込んだ真白を食うしかない。
私は姿が保てなくなってきたことに構うことなく、意識が遠のくような痛みに耐えながら、囲いを塗りつぶすことに専念した。
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