機械仕掛けの最終勇者

土日月

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第十七章 融合

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 タンバラの国境付近。市街地から離れた所にあるフォルテの宮殿周辺は、ユアン達が人払いしてくれたお陰で、人っ子一人いなかった。

 そんな中、輝久は、地面にくずおれて今にも消えてしまいそうな半透明な老人に叫ぶ。

「今、ティアって言ったよな!? それって、俺の夢に出てくる女神だろ!! 実在するのか!?」

 しかし、老人の目はアルヴァーナの空へと向けられていた。

「ワシは信じている……ティアと、お前の思いに勝てる覇王など存在しない……」
「ティアと俺の思いって何!? 俺、その女神とリアルで会ったことないんだけど!!」
「お前が死ねば全てが終わる……だが覚えておけ。お前は幾度となく繰り返した、草場輝久という意識の結晶体だということを」
「えっ、えっ、どゆこと!? 結晶体って、目の中にあるやつ!? アレ、水晶体だっけ!?」
「全てを託す。いや、全てをお前にかえす……」
「はあああぁぁぁ!?」

 老人の言葉は輝久にとって、あまりに意味不明だった。意味不明な上、消えかかっているので、輝久は焦る。

「分かんねえって!! 誰なんだよ、アンタは!!」
「分からなくとも、大丈夫……全ては魂に刻まれている……」
「分からなかったら、大丈夫じゃないだろ!!」

 老人に対して口を荒らげていると、突如、クローゼが輝久に突進してくる。

「テル! 危ねぇっ!」

 クローゼに押し飛ばされると、同時に眩い閃光が走る。

「な、何だ、何だ!?」

 クローゼに倒されながら、輝久は目をパチクリさせつつ周囲を窺った。

 まず気付いたのは、老人の体勢が先程と変わっていること。くずおれていた老人が、地面にへばりつくようにして完全に倒れ伏している。

「……消えろ。無意味な時間だ」

 感情のない言葉を発したのは、機械のような覇王メガルシフだった。老人に向けられた黒い掌から、弾が発射された後の銃口のように煙が立ち上っている。

 その様子を見て、輝久は老人がメガルシフに攻撃されたのだと知った。

「何してんだ、お前!! じ、爺さん!?」

 輝久は、メガルシフの動向に注意を払いつつ、再度、老人に近付く。既に体の輪郭はぼやけて色彩を無くし、老人は空間に溶けかけていた。

 完全に消え去る直前、老人は輝久に、薄ら微笑んだように見えた。刹那、半透明な老人の体はふわりと浮いて、急速に輝久の方に迫る。

「うわああああああああ!?」

 輝久は、老人が突然ぶつかってきたと思って叫んだ。だが、半透明な老人は、輝久の体に吸い込まれるようにして消失する。

「じ、じ、爺さんが……俺の中に……!?」

 愕然として呟く輝久。仲間達が心配して、輝久の周りに集まってきた。

「テル!! 大丈夫かい!?」

 ユアンに続けて、ネィムとクローゼも話し掛ける。

「お爺さんが、勇者様に吸い込まれたように見えたのです!」
「もしかして、テル!! 今ので、何か分かったんじゃねえか!?」

 クローゼの言葉に、輝久はプルプルと震えていた。ユアン、ネィム、クローゼが期待しつつ、自分の次の言葉を待っているのが分かる。

 そして――輝久はアルヴァーナの空を仰ぎながら絶叫する。

「いやもう、全ッ然、分かんねええええええええええええええ!!」

 少しの沈黙の後、クローゼが呆れ顔を見せた。

「分からなすぎて、怒りで震えてたのかよ!!」

 今しがた起きたことは輝久にとって、完全に理解不能だった。老人は意味不明な事を散々喋った後、自分と同化するようにして消えた。前に、老人が近付いてきた時、夢を連続して見たことから、何か分かるのではないかと輝久も期待したが、さっぱり分からなかった。

 分からないことだらけで無性に苛つく輝久だったが、寂しげに俯いているマキに気付く。

「どうした、マキ?」
「あのオジイサン、お亡くなりになっタのデスネ……何だカ、悲しいデス……」

 マキは、老人が倒れていた地面に手を当てて、目からオイルを流していた。

「マキ……?」

 意外だった。普段、感情を出さないマキが、素性の分からぬ老人の為に涙を落としている。

 ふと、輝久は拳をきつく握り締めている自分に気付いた。

(アレ……何か分かんないけど、俺も腹立ってきたな)

 何だかんだで、アルヴァーナに来た時から、老人のことを見知っていた。一体何者だったのか定かではないが、輝久にとって悪い存在ではなかった。むしろ、覇王と戦う自分を常に気に掛けてくれていたように思う。だから、このようにイライラするのだろう。

 輝久がそう結論づけた時、メガルシフが急かすように話し掛けてきた。

「邪魔者は排除した。女神と合体して、貴様の本領を発揮して見せろ」
「あの爺さんは色々知ってた。お前のせいで、分かんねえことが一層分かんなくなっちまったじゃねえかよ」

 メガルシフを睨みながら言う。機械の覇王に対して怒りはあったが、輝久には懸念もあった。

 傍にいるマキに小声で尋ねる。

「マキ。ジエンドに変身できるか?」
「マキは平常運転デス。変身できルかできナイかは、テルの体力の問題デス」
「そうなの?」
「ハイ。本日は連戦デ、体力の消耗が激しかったのでショウ。ですかラ、先程は強制的に変身ガ解除されましタ。でも、あのオジイサンが亡くナった時、不思議とテルの体力は回復したのデス」
「言われてみたら、熟睡した後みたいにスッキリしてるな。なんでだろ?」
「分かりかねマス。ですガ、とにかク変身は可能デス」

 問題ないと知って、安心する。ジエンドに変身できなければ、覇王に勝ち目はない。

「いくぞ、マキ。『トランス・フォーム』!」
「了解いたしマシタ」

 輝久の言葉にマキが頷く。五体が分離したマキと輝久が合体し、発光。ラグナロク・ジ・エンドに変身する。

「異世界アルヴァーナに巣くう邪悪に会心の神撃を……」

 胸の女神と呼応するように言葉を紡ぐと、短い演舞の後で、覇王メガルシフを指さした。

「終わりの勇者――ラグナロク・ジ・エンド!」

 普段なら、この後、胸の女神が覇王の分析を開始する。だが、ジエンドのアイシールド上を、いつものように数字の羅列が走ることはなかった。

(コイツのデータはないってことか)

 あの老人も、メガルシフを見て『見たことのない覇王』だと言っていた。ジエンドに変身した後、輝久は改めてメガルシフを見やる。

『機械化した獣人』とでも形容すれば良いのだろうか。獣を彷彿とさせる頭部は野性的な獰猛さを孕み、重量ある黒色の装甲からは威圧感が醸し出されている。輝久の緊張感が、自然とジエンドに戦闘態勢を取らせた。

 一方、メガルシフは、ジエンドに変身した輝久を特に驚きもせずに眺めていたが、やがて鋼鉄のような腕をアルヴァーナの空へと伸ばした。

(魔法攻撃か?)

 武器を持たず、ただ掲げた腕から、輝久は魔法を警戒するが、メガルシフは腕を天に伸ばしたまま言う。

「時の覇王ですら知悉し得ぬことだが、ならば可能」
「あ? 何を言って――」

 輝久が言いかけた時、メガルシフの腕から黒い光線が空に向かって射出された。

「やっぱり、魔法だ! 皆、下がってろ!」

 輝久が仲間達に指示する。輝久の言葉を聞き、素直に後退するユアン達。だが、様子がおかしい。

 メガルシフは、アルヴァーナの雲を裂き、天に繋がる光線を出したまま微動だにしなかった。やがて、機械の口腔が開かれる。

「解析開始……対象『天動地蛇てんどうちじゃ円環えんかん』……」

 腕からの光線をジエンドや仲間達に向けるでもなく、ただアルヴァーナの空へと射出し続けている。

「おい!! 何やってんだ、お前!?」

 輝久が叫ぶと、メガルシフは光線の射出を止めた。そして、機械獣の如き顔をジエンドに向ける。

「驚いたぞ。解析数値『66666』。貴様で最後ではないか」

 その口角はほんの僅かに上向き、見方によっては笑っているようにも見えた。

「『終わりの勇者』とは、よく言ったものよ。長きに渡る可逆神殺かぎゃくしんさつの計は、貴様との戦闘にて終結する……」

 刹那、メガルシフの体から耳をつんざく排気音。飛び掛かる寸前の機械獣の体から、オーラの如き黒煙が立ち上る。

「無論、機の勝利によって」
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