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幕間 老人の憂慮
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その日の未明――アルヴァーナの空が光った。
老人は空へと視線を向ける。雷光と見まがうソレは、老人にとって幾度も見慣れた光景であった。
だが、しかし……。
(そんな、バカな……!)
老人は絶句していた。空が二回、連続して光ったのだ。これはつまり、覇王二体が同時にアルヴァーナに降臨したことを意味する。
(六万回以上繰り返した世界で、こんなことは今まで一度もなかった! 戴天王界……遂に本気になったか!)
老人は唇を噛み締めた後、空が光った方角を睨む。とにもかくにも、現地に向かわねばなるまい。
老人は、空が光った方角から、おおよその位置を推測して、意識を集中させた。しばしの時を経て、老人の体の色が薄くなっていく。
次の瞬間、老人はシアプの岩場上空に浮遊していた。下方に目を凝らすと、異形の者達が歩いている。ユニコーンの獣人と、黒いローブを羽織った者だ。
獣人が呑気そうに、ローブの者に言う。
「此処がアルヴァーナかあ」
「あ、辺りに、に、人間は、い、いないようですね」
老人は上空から、その光景を見下ろしつつ、戦慄していた。
(絶速のエウィテル! 全属全系魔法のギャラン!)
覇王達の二つ名を思い出しつつ、老人は彼らの動向を注視する。
エウィテルが、歩きながら肩をすくめて笑っていた。
「本当、戴天王界には呆れたよ。僕だけで充分なのに」
「が、ガガにボルベゾ、そ、それにサムルトーザを倒したと聞きました。ゆ、油断は禁物かと」
「まぁ、そうだね」
(何ということだ……!)
やはり、覇王が二体降臨していた。そして、輝久達の所に向かおうとしている。
(一刻も早く、このことを教えなければ!)
だがその途端、老人は愕然とする。覇王達から百メートルと離れていない地点に、輝久のパーティが見えるではないか。
「まずい……! いくら何でも、これは……!」
絶望して、思わず独りごちる。ラグナロク・ジ・エンドに変身した輝久が途方もなく強いとはいえ、覇王二体を同時に相手にすれば勝率は確実に下がるだろう。しかも――。
(今回は輝久に、過去の世界を見せることができなかった!)
苦渋の表情を浮かべながら老人は、輝久に伝えられなかった過去を思い起こしていた。
エウィテル、ギャラン共に、繰り返しの世界で輝久と出会った回数は数百を超えている。老人は、その中から特に印象深かった時――24242回目の世界でのエウィテル戦、続けて39781回目のギャラン戦に思いを馳せた。
6万回以上の膨大な記憶域から、まるで昨日の出来事のように正確に。
それは、人の身ならぬ老人にのみ可能な所作であった。
老人は空へと視線を向ける。雷光と見まがうソレは、老人にとって幾度も見慣れた光景であった。
だが、しかし……。
(そんな、バカな……!)
老人は絶句していた。空が二回、連続して光ったのだ。これはつまり、覇王二体が同時にアルヴァーナに降臨したことを意味する。
(六万回以上繰り返した世界で、こんなことは今まで一度もなかった! 戴天王界……遂に本気になったか!)
老人は唇を噛み締めた後、空が光った方角を睨む。とにもかくにも、現地に向かわねばなるまい。
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次の瞬間、老人はシアプの岩場上空に浮遊していた。下方に目を凝らすと、異形の者達が歩いている。ユニコーンの獣人と、黒いローブを羽織った者だ。
獣人が呑気そうに、ローブの者に言う。
「此処がアルヴァーナかあ」
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老人は上空から、その光景を見下ろしつつ、戦慄していた。
(絶速のエウィテル! 全属全系魔法のギャラン!)
覇王達の二つ名を思い出しつつ、老人は彼らの動向を注視する。
エウィテルが、歩きながら肩をすくめて笑っていた。
「本当、戴天王界には呆れたよ。僕だけで充分なのに」
「が、ガガにボルベゾ、そ、それにサムルトーザを倒したと聞きました。ゆ、油断は禁物かと」
「まぁ、そうだね」
(何ということだ……!)
やはり、覇王が二体降臨していた。そして、輝久達の所に向かおうとしている。
(一刻も早く、このことを教えなければ!)
だがその途端、老人は愕然とする。覇王達から百メートルと離れていない地点に、輝久のパーティが見えるではないか。
「まずい……! いくら何でも、これは……!」
絶望して、思わず独りごちる。ラグナロク・ジ・エンドに変身した輝久が途方もなく強いとはいえ、覇王二体を同時に相手にすれば勝率は確実に下がるだろう。しかも――。
(今回は輝久に、過去の世界を見せることができなかった!)
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エウィテル、ギャラン共に、繰り返しの世界で輝久と出会った回数は数百を超えている。老人は、その中から特に印象深かった時――24242回目の世界でのエウィテル戦、続けて39781回目のギャラン戦に思いを馳せた。
6万回以上の膨大な記憶域から、まるで昨日の出来事のように正確に。
それは、人の身ならぬ老人にのみ可能な所作であった。
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