機械仕掛けの最終勇者

土日月

文字の大きさ
14 / 45
連載

第十五章 信じるよ その二

しおりを挟む
 ロロゲと数メートルの距離を隔てて、向かい合うジエンド。輝久は、少し気になったことがあって、胸の女神の彫像に話し掛ける。

「もう変身してるし、いつもの台詞言わなくて良い?」
『アニマコンシャスネス・アーカイブアクセス。分析を開始します』
「無視すんなよ!!」

 自分の胸に対してツッコむ輝久。その間も――。

『105……623……1560……7003……15455……29311……34588……41999……51876……66664』

 赤き数字の羅列が、ジエンドのアイシールド上に現れては消えていった。そして今、輝久の視界には、怒りで歯を食い縛るロロゲが映っている。

「その余裕、すぐに消し去ってあげるからねー」

 ロロゲが、自らの服の裾を持って、ジリジリと、たくし上げた。

(ええ……? な、何してんの?)

 ジエンドのフルフェイスの下で、顔を赤らめかけた輝久だったが、現れた腹部の巨大な口を見て戦慄する。ぱかりと開いた鮫のような口腔内に、バチバチと今にも爆ぜそうな黒球が発生していた。

 ロロゲが両方の口角を上げた。同時に、胸の女神が言葉を発する。

『対象腹部より、核エネルギーに類似する反応を感知しました』
「核ぅ!?」

 輝久は叫ぶ。胸の女神は今まで、何かを誇張して言うことはなかった。ロロゲが繰り出そうとしている技は本当に、核爆弾同等の威力を秘めているということなのだろう。

 輝久は呼吸を荒くしつつ、ロロゲの腹腔内の黒球を見据える。

「アレが発動する前に、何とかするしかないってことか」
「やってみなよー! 絶速のエウィテルを倒した速度でさー!」

 高らかに笑うロロゲに輝久は違和感を覚えた。まるで、先の戦闘を見ていたかのようである。

「けどね! 私がコレを噛み砕く方が速い!」

 ロロゲは自信に溢れていた。腹の口の乱杭歯が、ぴくりと動く。『ロロゲの歯が黒球に触れる』――それが、核爆弾のトリガーなのだと輝久は確信した。

(もし、ロロゲの技が炸裂すれば……?)

 輝久はちらりと背後の仲間と、心配そうに見守るフォルテを窺う。

 ジエンドは強い! 一対一なら、きっとどんな覇王にも負けない! だけど、皆は……!

 仲間がロロゲの技を喰らい、蒸発するかの如く消えるイメージが脳裏に浮かんで、輝久の心臓は鼓動を速める。だが、狼狽する輝久とは裏腹に、ジエンドは平然とロロゲに左腕をかざした。

 刹那、輝久は気付く。ジエンドの左腕に、いつもは無い物体が装備されていることに。

 クローゼも気付いたのか、素っ頓狂な声を出す。

「あれえっ!? アタシが持ってた、勇者の盾じゃねえか!!」

 改めて輝久はジエンドの左腕を見る。武芸大会の賞品であった勇者の盾が、いつの間にかジエンドの左腕にぴったりと装着されている。

 ロロゲが勇者の盾を指さして、大声で笑う。

「あはははははは! そんな盾で防げる訳ねーでしょ!」
「そ、そうだよ! コレお前、煮汁とか付いてた盾じゃねーか!」

 輝久も叫ぶ。ソブラの闘技場裏手に、ぞんざいに置かれていた、弱い世界の弱い防具。こんな盾で核エネルギーに類似するという覇王の攻撃を凌げる訳がない。

『受けよ。別領域より来たるぐうの神力を』

 それでも胸の女神は、淡々とした口調で言った。

『五次元障壁による転移反射……』

  瞬間、勇者の盾が増殖する。目にも止まらぬ速さで数百、数千の盾となり、上下左右に展開。蜂の巣模様のようになり、輝久達を囲った。

 瞬時に構成されたバリケードに驚く輝久。そして、いつものように自身の口が勝手に開き――。

「マキシマムライト・スペリオル・リフレク!」

 初見の技の名を、何故だか叫んでしまう。

 ロロゲが「ふん」と鼻を鳴らした。

「『反射』とか言ってたよねー? やってみなよー! もし仮に、跳ね返せたとして! アタシの体から生まれた力がアタシに効くもんか!」

 言い終わるやロロゲの腹の口がばくんと閉じる。それと同時に目も眩む閃光。ジエンドのアイシールドでも遮光できない眩さに、輝久は瞬間、目を閉じてしまう。

(くっ!! クローゼ達は、どうなった!?)

 急いで重い瞼を開いて、視界に入った光景を見て……輝久は安堵した。

 仲間は皆、無事。蜂の巣のような盾のバリケードは消えていたが、周囲の状況は戦う前とまるで変化はない。

 すぐに、ロロゲに向き直り、輝久は「うっ」と息を呑む。

 ロロゲの全身は、焼けただれたようになっていた。服は所々が燃え裂け、髪も焦げている。

「あ……ぐ……!」

 膝に手を当てて、苦しそうに唸る。明らかに、ジエンドがロロゲの技を跳ね返しようだが、輝久は叫ばずにはいられない。

「いや、効かないんじゃなかったのかよ!?」

 相変わらず胸の女神は何も語ってくれなかったが、ジエンドの背後で、ユアンが呟くように言う。

「ロロゲの技は、闇魔法の一種だったと思う。それが、テルの出した盾の魔法障壁に触れた途端、属性が入れ替わった。ロロゲの弱点属性の光の魔法に変えてから、跳ね返したんだと思う」
「だから、ロロゲはダメージを受けたのか! ユアンすげえ! 流石、魔法使い!」

 いつも意味不明なジエンドの技の解説をしてくれるのは、メチャクチャありがたいと輝久は心底思った。ただ、当のユアンは、ジエンドの反射技の方に感嘆していた。

「すごいのは君だよ! あんな魔法障壁、初めて見たよ!」
「確かに、テルはすげえな! 技を返すと同時に、敵の弱点に変えちまうなんて!」
「やっぱり、マキちゃんと合体した勇者様は、とっても強いのです!」

 クローゼもネィムも感動して声をあげる。だが、彼女達より、驚愕している者がいた。

 魔王軍四天王フォルテが、慄きに似た声で呟く。

「何という力だ……! これが『勇者』か……!」

 一方、全身に大火傷を負ったロロゲは、血走った目でジエンドを睨み付ける。

「アタシの体が……! この……このクソがあああああああああああ!!」

 激昂して叫ぶロロゲを見て、輝久は身構える。

(ダメージを負ってる、今がチャンスだ!)

 そして、追撃すべく、輝久自身の意志でロロゲに向かおうとした。だが駆け寄ろうとした途端、輝久の足は止まる。ロロゲが閉じていた腹の口を開くと、既に黒球が発現していたからだ。

「また作ってる!? ってか、デッカ!!」

 先程のが野球のボールだとしたら、今度のはボーリングの玉並の大きさだった。既にバチバチと帯電している巨大な黒球を見て、輝久は胸の女神に尋ねてみる。

「なぁ、ジエンド。アレ、どのくらいの威力か分かるか?」
『アルヴァーナを三回滅ぼして、まだ余りあるエネルギー反応です』
「き、聞かなきゃよかった……! でも、大丈夫なんだろ? さっきの反射技があれば」
『いいえ。スペリオル・リフレクで反射できる領域を超越しています』
「は? ってことは?」

 ジエンドとの会話の途中だったが、ロロゲが口を三日月にして笑う。

「あはははははは! アタシ以外、全部消えちまえよ!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!!」

 輝久の慌てる気持ちと同調するように、ジエンドはあたふたと後退した。しかし、その狼狽振りとは裏腹に、ジエンドの胸からは落ち着き払った女神の声が響く。

『攻撃は既に完了しています』

 輝久の意思とは無関係に、ジエンドが左手の指をパチンと鳴らした。

(あ……!)

 その瞬間、輝久は目を見開く。ジエンドが指を鳴らすと同時に、ロロゲの腹腔内の黒球が、美しく輝く巨大な光の球に変化したからだ。

(すり替えた!? いや……元々、光の球だったのか!?)

 まるで手品か奇術のようだと、輝久は思った。

 勝利を確信したロロゲが、光の球に気付かず、噛み砕く。刹那、眩い光が輝久の目を強制的に閉じさせた。

 輝久が視覚を取り戻すと、ロロゲは天を仰ぐように直立していた。ロロゲの全身は先程よりも凄惨。激しい爆撃を受けたように煤に塗れて、腹部の牙は殆どが朽ち果てている。ゴボッと黒い血の塊を吐き出し、ロロゲが無言で前のめりに倒れた。

「ふぅ……終わった……のか?」

 とにもかくにもロロゲが倒れたことに安堵して、今の攻撃の説明をジエンドに聞こうとした輝久だったが――。

『対象の戦闘不能状態を確認しました。ホワイト・マター補給の為、変身を解除します』
「へ?」

 突如、胸の女神が言うや、ジエンドの各パーツが分かたれて、幼女女神のマキへと戻る。

 これまでにない急な変身解除に輝久は驚くが、マキに何か言うより先に、ぐらりと視界が歪んだ。

「うっ……」

 視界がぐるぐると回っている。マキが気付いて、上目遣いに輝久を見た。

「テル。大丈夫デスカ?」
「ああ……。でも久し振りだな、この目眩……」
「連戦デ、体力の消耗が激しかっタのだと思われマス。股間を撫でまショウカ?」
「なんでだよ。そんなんで回復しねえよ。やめてくれ」

 目眩のせいで激しく怒鳴れず、静かにマキに言う。言われてみれば確かに、シアプの岩場で覇王二体を倒し、そのままハデス・ゲートで此処まで急行。ロロゲと戦闘した。

(こんな長い間、ジエンドに変身して戦ったこと、なかったもんな)

「テル! 大丈夫か?」
「うん。心配ないよ」

 クローゼに笑顔で答える。事実、目眩は治まってきている。だが、輝久は言い様のない不安に駆られつつ、前方を眺めた。

「畜生……畜生……! このままで済むと思うなよ……!」

 ロロゲは地面にへたばりながらも、鬼女のような顔で輝久を睨んでいる。

(大丈夫なんだよな? しばらく、ジエンドに変身できそうにないけど……!)

 ジエンドは、ロロゲが『戦闘不能』だと言った。心配することはないのかも知れない。しかし、ユアン達も、そしてフォルテも、未だに生きているロロゲを固唾を呑んで見詰めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。