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第十六章 偶の女神
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ロロゲは客観的に見ても、ジエンドが言ったように戦闘不能。それでも、輝久は緊張を緩めない。ロロゲの目が、まだ光を宿しているからだ。
「アタシはもう動けない……けどね……もう一つの依頼は、果たさせて貰う!」
不気味な言葉の後、『カッ』と強烈な光がロロゲが倒れた場所上空より照射された。
「ま、まだ魔法を使えるのかよ!」
話が違うと輝久は狼狽えながら叫ぶが、マキは冷静に辺りを見回していた。
「大丈夫ッぽいデス。誰もダメージを受けていまセン」
「大丈夫ッぽいって……! けどまぁ、確かに」
突然の眩い光に驚いたが、マキの言うように自分も仲間も全くの無傷だ。
「倒れる前に、魔法を放っていたのかも知れないね」
「けど、不発だったってことか。助かったぜ」
ユアンとクローゼが互いにそう言った。輝久もホッとしつつ、ロロゲの様子を窺う。
奥の手の魔法が不発だったことに、さぞや悔しがっていると思った。だが、ロロゲは、満身創痍で倒れ伏しつつも、邪悪な笑みを浮かべていた。
(何だ……?)
輝久が訝しく思ったその時。傍にいたネィムが震える声を出した。
「アレは一体……何なのです……!?」
ネィムが指さしているのは、ロロゲのいる場所から十メートル程度離れた場所だった。輝久は咄嗟にそちらを見て――吃驚する。
先程まで、何も無かった空間。そこに見覚えのある者がいた。
フードを被った白髭の老人だ。輝久が覇王と戦う際、いつも現れるあの老人である。
しかし、普段とは違うことが二つあった。一つは老人が片膝を突き、苦しげに顔を歪めていること。二つ目は――。
「何だ!? あの爺さん、急に現れやがったぜ!!」
「さっきまで、あそこには何も無かった筈なのに……!」
クローゼとユアンが、老人を眺めながらそう言ったのだ。
「ええっ、見えるのか!?」
輝久が叫ぶと、クローゼ、ユアン、そしてネィムも頷いた。
マキも、老人の方をジッと見て言う。
「マキにも見えるのデス」
(今まで俺以外、誰にも見えてなかったのに!)
突如、甲高い笑い声が聞こえて、輝久はビクリとしてロロゲの方を見る。くずおれたまま、ロロゲは輝久を見て、笑っていた。
「あははは……お前の弱点を……壊してやったぞ……!」
「お、俺の弱点!? あの爺さんが!?」
言っている意味がよく分からないが、どうやら先程の閃光は、老人に対しての攻撃だったらしい。
輝久はとにもかくにも、倒れた老人に向けて駆け出した。パーティメンバーも輝久に続く。
「大丈夫か、爺さん!」
輝久が近寄ると、老人は「うう……」と苦しげに唸った。マキが傍で神妙に語る。
「皆に見えるということハ、テルが脳内で生み出した『イマジナリー・オジイサン』ではナイようデス」
「だから、それは違うって言ってんじゃん!」
「アッ。今、このオジイサン、どことなク薄くなっタような気が致しマス」
「またお前は適当なことを! 人間が薄くなったり、濃くなったりする筈が……」
「ほ、本当に薄くなってるのです!」
ネィムに言われて、輝久は老人をまじまじと見る。体全体の色彩が薄れ、輪郭がぼやけている。
「うわっ! ホントだ!」
輝久は叫ぶ。ユアンが顎に手を当てて思案していた。
「もしかしたら、ゴーストに近い存在なのかも知れないね」
「ゴースト……! ってか、待て! このまま消えちまうんじゃないだろうな!?」
輝久は焦るが、老人は苦しげに唸りながらも、皺だらけの顔に笑みを浮かべた。
「大丈夫だ……ワシがいなくなっても……問題はない……」
「問題あるだろ! アンタにゃ聞きたいことが山ほどあるんだ!」
老人は、しかし、そう叫ぶ輝久を見てはいなかった。笑みを浮かべたまま、独りごちる。
「愚かなり、戴天王界……ワシが全ての鍵だと思っておるのか……ワシが消えたところで、ラグナロク・ジ・エンドにさしたる変化などない」
「だから何言ってんのか分かんねえよ! ちゃんと説明を――」
「皆! ロロゲが!」
輝久の言葉を遮るように、フォルテが不意に叫ぶ。輝久が振り返ると、満身創痍のロロゲが立ち上がっていた。
「次は……許さないからね……!」
ふらつきながらも、ふわりと宙に浮く。
「あの野郎、逃げるぞ!」
クローゼが追おうとした、その時。
『ウー、ウー、ウー、ウー、ウー!』
突如、マキの方からサイレン音が鳴り響いた。
「マキ!? 何で、このタイミングでサイレンなんだよ!?」
輝久が問うも、マキは放心状態でサイレンを発し続けていた。覇王が現れる時に鳴るマキのサイレン。だが、ロロゲは既に目の前にいる。
宙に浮かびかけていたロロゲが「あ……?」と、間の抜けた声を出して、自分の腹部を眺めた。ジエンドの攻撃によって、歯の欠けた腹部の口腔内から『ヌッ』と巨大な腕が現れる。
それはジエンドのような機械の腕だった。だが、鏡面ではなく、黒い金属。それでいてジエンドの腕よりも太い。
(何だ、アレ!?)
輝久は息を呑む。最初は、ロロゲの新しい技かと思った。しかし、ロロゲ自身が驚愕して、顔を青ざめさせている。
「いつの間に、アタシの体に……!?」
もう一本の機械の腕がロロゲの腹部より現れて、両手でロロゲ腹部の口を押し広げた。肉の裂けるブチブチという音が周囲に響く。
「や、やめて……!」
ロロゲの懇願など無視するように、ソレは腹部を無理矢理こじ開けるようにして、這い出してきた。腹部の口と、上の口から同時に「ごぼっ」と血の塊を吐くロロゲ。金切り声で絶叫しながら、ロロゲは辺りに大量の血液を撒き散らしていた。
輝久は、近くにいたネィムを引き寄せる。幼女に見せるには、あまりにも凄惨な光景だったからだ。
やがて、ロロゲの絶叫が止んだ。輝久が目を向けると、ロロゲは上半身と下半身が分かたれて、絶命していた。そして、ソレはその傍に直立していた。
「思念体の破壊をもって、ロロゲ、貴様の役目は終了。後は機が引き継ぐ」
くぐもった低い声で、ソレは語った。クローゼが大声で叫ぶ。
「何だぁ!? ロロゲの腹から、でっけえカラクリ人形が出てきやがったぜ!!」
マキを初めて見た時も、クローゼはカラクリ人形と表現していた。アルヴァーナで暮らす人々にとって、目前の奇怪な物体をそう言い表すしかないのだろう。
(人形ってか、これは……!)
しかし、日本で暮らし、ゲームや小説に通じていた輝久はクローゼ達よりは的確に、ソレを表現することができた。
「ロボット――いや、魔導機械って奴かよ!」
排気音のような呼吸。怪しく光り輝く双眸。生物とは言い難い黒色のメタルボディを見て、輝久はそう叫んだ。
どこか獣を彷彿とさせる頭部より、再び低い声が響く。
「機の名はメガルシフ……六世界統一覇王メガルシフ……」
「一日で覇王、現れすぎだろ! つーか、六世界統一って! ボクシングかっての!」
メガルシフと名乗る新たな覇王を前に、輝久はそう言った。少し冗談めかしたのは、仲間に心配を掛けたくなかったから。実際のところ、輝久の心臓はばくんばくんと早鐘を打つ。暴虐の覇王サムルトーザに直面した時以上の圧力を感じていたからだ。それに加え、連戦に次ぐ連戦。はたして今、自分はジエンドに変身できるのかという不安が、更に輝久の緊張を高めた。
くずおれた老人もまた、メガルシフを眺めて呟く。
「ワシが今まで見たことのない覇王だ……」
「ヤ、ヤバそうだよな? これは流石に」
「心配はいらぬ……どのような敵が現れても、お前なら大丈夫だ……」
確信めいた目を、老人は輝久に向けていた。
「仲間を大切に思い、魔王軍四天王フォルテのことも信じた……お前はあの頃のワシとは違う」
「爺さん? 何を言って……」
「むしろ焦るべきは、戴天王界だ……可逆神殺の計に生じた綻びを感じて、な……」
相変わらず輝久には意味不明だったが、メガルシフが老人の言葉に反応した。
「可逆神殺の計は順調に推移している。時の覇王クロノザは、全てを見越している。全壊のロロゲが勇者を殺せないことも。そして、機が代わりに勇者を滅ぼすことも」
輝久のパーティは誰一人として、メガルシフの言葉が理解できない。だが、消え入りそうな老人は、にやりと口元を歪めた。
「『全てを見越している』じゃと? 時の覇王クロノザですら、今、何が起こっておるのか、真に理解してはおるまい……」
老人は、メガルシフから視線をマキに移した。老人の眼光が鋭くなる。
「『偶の女神』が、アルヴァーナに降臨したのだ」
そう言ってから、老人は天を仰いだ。空の向こうにいる何者かに告げるように、大声を振り絞る。
「聞いているか、戴天王界! これからは貴様らが震える番だ……!」
「グウの女神……」
輝久は呟き、キョトンとしているマキを眺めた。ネィムもまた、不思議そうな顔をする。
「それって、マキちゃんのことなのです?」
すると、マキは小首を傾げた。
「マキはジャンケンの女神なのでショウか?」
老人は何も言わずに、ただマキを見て、優しく微笑んだ。その後、またも苦しそうな表情を浮かべる。ホログラム映像のように、老人の体全体が乱れた。
「爺さん!? ダメだって!! まだ、死んじゃ!!」
今にも消えそうな老人に、輝久は叫んだ。
メガルシフは輝久に視線を向け、感情に乏しい声を出す。
「死ぬも生きるもない。それは、ただの意識の集積にすぎぬ。無駄で無意味な六万回以上もの……」
「無駄で無意味……か。そうではない……」
苦しげながらも、老人は口角を上げる。
「時間にすれば数百年……それら全てが、この『奇跡を超える奇跡』に繋がるのだ……」
「おい、爺さん! しっかりしろって!」
老人には輝久の声が届いていないようだった。その目は輝久の方を向いてはいるが、別のものを映していた。
老人が、掠れる声で言う。
「ティア……」
その瞬間、輝久はハッと思い出す。老人が呟いたのは、夢に出てくる女神の名だった。
「アタシはもう動けない……けどね……もう一つの依頼は、果たさせて貰う!」
不気味な言葉の後、『カッ』と強烈な光がロロゲが倒れた場所上空より照射された。
「ま、まだ魔法を使えるのかよ!」
話が違うと輝久は狼狽えながら叫ぶが、マキは冷静に辺りを見回していた。
「大丈夫ッぽいデス。誰もダメージを受けていまセン」
「大丈夫ッぽいって……! けどまぁ、確かに」
突然の眩い光に驚いたが、マキの言うように自分も仲間も全くの無傷だ。
「倒れる前に、魔法を放っていたのかも知れないね」
「けど、不発だったってことか。助かったぜ」
ユアンとクローゼが互いにそう言った。輝久もホッとしつつ、ロロゲの様子を窺う。
奥の手の魔法が不発だったことに、さぞや悔しがっていると思った。だが、ロロゲは、満身創痍で倒れ伏しつつも、邪悪な笑みを浮かべていた。
(何だ……?)
輝久が訝しく思ったその時。傍にいたネィムが震える声を出した。
「アレは一体……何なのです……!?」
ネィムが指さしているのは、ロロゲのいる場所から十メートル程度離れた場所だった。輝久は咄嗟にそちらを見て――吃驚する。
先程まで、何も無かった空間。そこに見覚えのある者がいた。
フードを被った白髭の老人だ。輝久が覇王と戦う際、いつも現れるあの老人である。
しかし、普段とは違うことが二つあった。一つは老人が片膝を突き、苦しげに顔を歪めていること。二つ目は――。
「何だ!? あの爺さん、急に現れやがったぜ!!」
「さっきまで、あそこには何も無かった筈なのに……!」
クローゼとユアンが、老人を眺めながらそう言ったのだ。
「ええっ、見えるのか!?」
輝久が叫ぶと、クローゼ、ユアン、そしてネィムも頷いた。
マキも、老人の方をジッと見て言う。
「マキにも見えるのデス」
(今まで俺以外、誰にも見えてなかったのに!)
突如、甲高い笑い声が聞こえて、輝久はビクリとしてロロゲの方を見る。くずおれたまま、ロロゲは輝久を見て、笑っていた。
「あははは……お前の弱点を……壊してやったぞ……!」
「お、俺の弱点!? あの爺さんが!?」
言っている意味がよく分からないが、どうやら先程の閃光は、老人に対しての攻撃だったらしい。
輝久はとにもかくにも、倒れた老人に向けて駆け出した。パーティメンバーも輝久に続く。
「大丈夫か、爺さん!」
輝久が近寄ると、老人は「うう……」と苦しげに唸った。マキが傍で神妙に語る。
「皆に見えるということハ、テルが脳内で生み出した『イマジナリー・オジイサン』ではナイようデス」
「だから、それは違うって言ってんじゃん!」
「アッ。今、このオジイサン、どことなク薄くなっタような気が致しマス」
「またお前は適当なことを! 人間が薄くなったり、濃くなったりする筈が……」
「ほ、本当に薄くなってるのです!」
ネィムに言われて、輝久は老人をまじまじと見る。体全体の色彩が薄れ、輪郭がぼやけている。
「うわっ! ホントだ!」
輝久は叫ぶ。ユアンが顎に手を当てて思案していた。
「もしかしたら、ゴーストに近い存在なのかも知れないね」
「ゴースト……! ってか、待て! このまま消えちまうんじゃないだろうな!?」
輝久は焦るが、老人は苦しげに唸りながらも、皺だらけの顔に笑みを浮かべた。
「大丈夫だ……ワシがいなくなっても……問題はない……」
「問題あるだろ! アンタにゃ聞きたいことが山ほどあるんだ!」
老人は、しかし、そう叫ぶ輝久を見てはいなかった。笑みを浮かべたまま、独りごちる。
「愚かなり、戴天王界……ワシが全ての鍵だと思っておるのか……ワシが消えたところで、ラグナロク・ジ・エンドにさしたる変化などない」
「だから何言ってんのか分かんねえよ! ちゃんと説明を――」
「皆! ロロゲが!」
輝久の言葉を遮るように、フォルテが不意に叫ぶ。輝久が振り返ると、満身創痍のロロゲが立ち上がっていた。
「次は……許さないからね……!」
ふらつきながらも、ふわりと宙に浮く。
「あの野郎、逃げるぞ!」
クローゼが追おうとした、その時。
『ウー、ウー、ウー、ウー、ウー!』
突如、マキの方からサイレン音が鳴り響いた。
「マキ!? 何で、このタイミングでサイレンなんだよ!?」
輝久が問うも、マキは放心状態でサイレンを発し続けていた。覇王が現れる時に鳴るマキのサイレン。だが、ロロゲは既に目の前にいる。
宙に浮かびかけていたロロゲが「あ……?」と、間の抜けた声を出して、自分の腹部を眺めた。ジエンドの攻撃によって、歯の欠けた腹部の口腔内から『ヌッ』と巨大な腕が現れる。
それはジエンドのような機械の腕だった。だが、鏡面ではなく、黒い金属。それでいてジエンドの腕よりも太い。
(何だ、アレ!?)
輝久は息を呑む。最初は、ロロゲの新しい技かと思った。しかし、ロロゲ自身が驚愕して、顔を青ざめさせている。
「いつの間に、アタシの体に……!?」
もう一本の機械の腕がロロゲの腹部より現れて、両手でロロゲ腹部の口を押し広げた。肉の裂けるブチブチという音が周囲に響く。
「や、やめて……!」
ロロゲの懇願など無視するように、ソレは腹部を無理矢理こじ開けるようにして、這い出してきた。腹部の口と、上の口から同時に「ごぼっ」と血の塊を吐くロロゲ。金切り声で絶叫しながら、ロロゲは辺りに大量の血液を撒き散らしていた。
輝久は、近くにいたネィムを引き寄せる。幼女に見せるには、あまりにも凄惨な光景だったからだ。
やがて、ロロゲの絶叫が止んだ。輝久が目を向けると、ロロゲは上半身と下半身が分かたれて、絶命していた。そして、ソレはその傍に直立していた。
「思念体の破壊をもって、ロロゲ、貴様の役目は終了。後は機が引き継ぐ」
くぐもった低い声で、ソレは語った。クローゼが大声で叫ぶ。
「何だぁ!? ロロゲの腹から、でっけえカラクリ人形が出てきやがったぜ!!」
マキを初めて見た時も、クローゼはカラクリ人形と表現していた。アルヴァーナで暮らす人々にとって、目前の奇怪な物体をそう言い表すしかないのだろう。
(人形ってか、これは……!)
しかし、日本で暮らし、ゲームや小説に通じていた輝久はクローゼ達よりは的確に、ソレを表現することができた。
「ロボット――いや、魔導機械って奴かよ!」
排気音のような呼吸。怪しく光り輝く双眸。生物とは言い難い黒色のメタルボディを見て、輝久はそう叫んだ。
どこか獣を彷彿とさせる頭部より、再び低い声が響く。
「機の名はメガルシフ……六世界統一覇王メガルシフ……」
「一日で覇王、現れすぎだろ! つーか、六世界統一って! ボクシングかっての!」
メガルシフと名乗る新たな覇王を前に、輝久はそう言った。少し冗談めかしたのは、仲間に心配を掛けたくなかったから。実際のところ、輝久の心臓はばくんばくんと早鐘を打つ。暴虐の覇王サムルトーザに直面した時以上の圧力を感じていたからだ。それに加え、連戦に次ぐ連戦。はたして今、自分はジエンドに変身できるのかという不安が、更に輝久の緊張を高めた。
くずおれた老人もまた、メガルシフを眺めて呟く。
「ワシが今まで見たことのない覇王だ……」
「ヤ、ヤバそうだよな? これは流石に」
「心配はいらぬ……どのような敵が現れても、お前なら大丈夫だ……」
確信めいた目を、老人は輝久に向けていた。
「仲間を大切に思い、魔王軍四天王フォルテのことも信じた……お前はあの頃のワシとは違う」
「爺さん? 何を言って……」
「むしろ焦るべきは、戴天王界だ……可逆神殺の計に生じた綻びを感じて、な……」
相変わらず輝久には意味不明だったが、メガルシフが老人の言葉に反応した。
「可逆神殺の計は順調に推移している。時の覇王クロノザは、全てを見越している。全壊のロロゲが勇者を殺せないことも。そして、機が代わりに勇者を滅ぼすことも」
輝久のパーティは誰一人として、メガルシフの言葉が理解できない。だが、消え入りそうな老人は、にやりと口元を歪めた。
「『全てを見越している』じゃと? 時の覇王クロノザですら、今、何が起こっておるのか、真に理解してはおるまい……」
老人は、メガルシフから視線をマキに移した。老人の眼光が鋭くなる。
「『偶の女神』が、アルヴァーナに降臨したのだ」
そう言ってから、老人は天を仰いだ。空の向こうにいる何者かに告げるように、大声を振り絞る。
「聞いているか、戴天王界! これからは貴様らが震える番だ……!」
「グウの女神……」
輝久は呟き、キョトンとしているマキを眺めた。ネィムもまた、不思議そうな顔をする。
「それって、マキちゃんのことなのです?」
すると、マキは小首を傾げた。
「マキはジャンケンの女神なのでショウか?」
老人は何も言わずに、ただマキを見て、優しく微笑んだ。その後、またも苦しそうな表情を浮かべる。ホログラム映像のように、老人の体全体が乱れた。
「爺さん!? ダメだって!! まだ、死んじゃ!!」
今にも消えそうな老人に、輝久は叫んだ。
メガルシフは輝久に視線を向け、感情に乏しい声を出す。
「死ぬも生きるもない。それは、ただの意識の集積にすぎぬ。無駄で無意味な六万回以上もの……」
「無駄で無意味……か。そうではない……」
苦しげながらも、老人は口角を上げる。
「時間にすれば数百年……それら全てが、この『奇跡を超える奇跡』に繋がるのだ……」
「おい、爺さん! しっかりしろって!」
老人には輝久の声が届いていないようだった。その目は輝久の方を向いてはいるが、別のものを映していた。
老人が、掠れる声で言う。
「ティア……」
その瞬間、輝久はハッと思い出す。老人が呟いたのは、夢に出てくる女神の名だった。
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