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10.イケメン俳優のマネージャーはキレ者です
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いつの間にか集結していたスタッフが黒山の人だかりを作るサブスタジオで、僕は今をときめく恋愛ドラマの女王と名高い宮古怜奈を相手に、ラブシーンを延々と演じていた。
───ただし、僕のほうがヒロインの演技をしているという、マジで意味のわからない状況だったけど。
しかも途中から彼女に、より気分を盛り上げるためだとか言われて、メイクまでほどこされて、むしろなんの罰ゲームだ?!となったのは、言うまでもない。
ヒロインを演じさせたら右に出るものはなしと言われる女優さんを前に、その彼女だったら演じるであろう役作りを延々と披露するって、なかなかにレアかつ、はずかしいことだからな!?
だってそれ、いわば本人を前にしたモノマネ披露するのと同じなわけじゃん。
あぁいうのは、プロのモノマネ芸人さんだからこそ許されるのであって、僕みたいな地味役者なら本人を前にしちゃダメだろ。
アンダーっていうのは、本人がそこにいないからこそ、必要な役回りなんだからな?
……でもまぁ、東城の役を演じているときの彼女は、いつもとはちがう役柄に、実に生き生きとした芝居を見せてくれたことだし、こういう息抜きがあってもいいのかもしれない。
一応彼女の機嫌を損ねたっていう原因も、僕にも責任がないわけではないしな。
そうしてようやくその晒しものの刑から解放されたころには、ツヤツヤの笑顔になる宮古怜奈とはちがって、僕はぐったりしていた。
ダメだ……なんかこう、東城との稽古をおかわりしたようなもんだし、あのときとはさらに異なる環境になっていて、そういう意味では精神力も削られたから、疲労感が半端ない。
「お疲れさまです、羽月さん」
「あ、ありがとうございます、後藤さん」
さりげなく飲み物を渡しに来てくれるのに、お礼を言って受け取る。
「はぁ……まったく、なんで僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ……」
いくら相手が大人気女優さんだとはいえ、こっちも多少はほかのお仕事を蹴ってしまったわけだし、単発のバイトでも増やさなきゃダメだろうか?
貧乏役者にとっては、そのエキストラの収入だって大事なんだからな!?
スタジオの片隅に置かれたパイプ椅子に腰かけ、その背もたれにぐったりと寄りかかりながら、そんなことを思っていたら。
「これはガッツリ、ギャラを取れそうですね!交渉は私にお任せくださいね、ガッポリせしめてきますから!」
なんて、後藤さんがこぶしをにぎりしめながら言ってくる。
え、これボランティアじゃないの?
「えぇ、このお仕事に関しては、そちらのプロダクションしじまさんとは、一時的にあなたのマネジメントを私が代理で受け持つ形で、きちんと契約を締結してますから、ご安心ください」
なにそれ、マジでなにも聞いてないけど?!
「……というか、まさかこれだけの熱の入ったお稽古をつけてあげて、無給のつもりだったんですか?!羽月さん、それはお人好しにもほどがあるでしょう!」
「えっと……、でも東城とは同じこと、タダでやりましたけど……?」
後藤さんにダメ出しを受けて、しかしそちらの管理する東城にはボランティアでのサービス残業みたいなものだったと告げれば、にっこりとほほえみ返された。
なにそれ、全然安心できないんですけど。
いや、だってその笑いかたをしたときの後藤さん、ロクなこと言わない気がするんだもん。
たいていはヤンキーモードが出る直前の、予兆みたいなものだろ。
「あのクソ野郎……よりによって職場に押し掛けたあげくに自宅に上がり込んだ上、稽古をねだるわ、それにかこつけてキスを迫るわ、最低野郎じゃねぇか!あれか、物理的に去勢しなきゃいけねーヤツか!?」
笑顔のままに口はしからもれ出ているのは、東城への恨みごとだ。
「……いえ、東城のしつけはこれからガッツリやるとして、もちろんそちらのお稽古代も、当社からきっちりとお支払いさせていただきます。余所様のタレントさんを危うく傷ものにしかけたんですから、これくらいは誠意を見せないと」
「だからそれ、誤解ですって!」
まだ先日のやりとりを引きずる後藤さんに、思わずツッコミを入れる。
なのに後藤さんときたら、信じられないものを見るような顔で、僕の顔をのぞきこんでくる。
「羽月さん、あなたそれ……本気で言ってます?!だとしたら、なんとなく東城のひとりよがりな片想いだとは思っていましたが、まさかここまで脈なしだとは……いっそ哀れで笑いが止まらな……もとい、涙が止まりませんよ」
あわてて泣きマネをして見せるものの、それ、もう手遅れですからね?
うん、たぶんあれだ。
後藤さんはふだんすごく紳士だけど、きっと本性はドSな人だと思う。
ちょいちょいその言動から、気配が感じとれる。
「というよりもですね、あまり余所様の事務所の方針に口を出したくはないんですけど、あなたの才能を生かしきれてないのがくやしくて。自慢じゃないですけど、有象無象のひしめく街中から東城を見い出して、スカウトした私は、これでも人の才能を見極める目は確かなものだと自負しているんです」
そして少し伏し目がちになった後藤さんは、直後にまっすぐに僕の目を見つめてきた。
「その私から見て、羽月さん、あなたの演技力はすばらしい。あなたはなんにでもなれるし、演じられる力があるでしょう?それはかぎられたものだけが持つ、立派なかがやきなんです」
「………買いかぶりすぎですよ、後藤さんは」
手元のコップでゆれる水面に目をやれば、そこにぼやけて映るのは、なんの特徴もない地味な顔だ。
「地味顔のモブ役者ですから。東城みたいに、そこにいるだけで人の視線を集められるほどの華はないですし……」
そう口にすれば、ジクジクと胸の疵が痛みだす。
それは物理的な傷ではなく、精神的な疵だ。
どれだけ演技がうまくても、舞台の真ん中に立つことはない。
どれだけあこがれて、スキルを磨きつづけてきても、僕ではヒーローになれなかった。
でも、東城はちがう。
あっさりと、オーディションをするでもなく制作側からの熱烈なオファーを受けて、スーパー戦隊もののレッドを務め上げ、チビッ子からお年寄りまで、全国のお茶の間にファンを作った。
今やその活躍の場は、テレビドラマだけでなくバラエティーやCM、雑誌と枚挙に暇がないくらいだ。
そんな東城と比べたら、地味顔の万年モブだけ演じている僕のような役者は、どうあがいたって勝てないんだ。
そこにあるのは、絶望的な開きだけで、希望なんてどこにもない。
「……あまり私から言うのもなんなんですが、あなたはもっとご自分の力を信じたほうがいい。私から見て、あなたに足りないのは、最後のきっかけだけなんです。誰にも負けないくらいの当たり役、それを手にすることさえできれば、あるいは……」
静かななかにも熱意のこもる声に、後藤さんの仕事に対するプライドを感じる。
「そのきっかけは、人によっては偶然手にすることもあるでしょう。でも、私たちマネージャーや、タレントが所属する事務所というのは、唯一そのきっかけを自ら作り出すことができるんですよ!?なのにそれをしないのは、単なる怠慢です」
うっすらと怒りをにじませた後藤さんの声に、僕はめちゃくちゃ動揺していた。
だって、これじゃまるで、僕はもっと売れるべきだと実力を誉められているようなもんじゃないか。
業界随一の大手芸能事務所の、切れ者マネージャーに認めてもらえるって、そうそうないからな?!
「……口がすべりました、今のは私の戯れ言だと聞き流してください。でも、できることならうちに引き抜いて、私が育ててみたいタレントのひとりであることは、まちがいないですからね」
今の発言は、ともすれば僕の所属事務所の批判とも受けとられかねない発言だしな。
「ありがとうございます、励ましてくださって」
ウソも方便というやつなのかもしれないけれど、東城との差にうちひしがれ、自分に自信の持てない僕にとって、今は後藤さんのやさしさがうれしかった。
だけど、そのホンワカした雰囲気は、急に一変する。
グシャリと手にした書類をにぎりつぶした後藤さんは、見たこともないような凶悪な顔になった。
「というよりも、うちの事務所に引き抜けない原因は、そんなことをしたら絶対に、東城が『待て』も利かずにあなたを襲う未来しか見えないんですよ……強制猥褻もしくは強制性交等の犯罪者になるのがわかっていて呼べるほど、私も無責任なことはできませんから!!」
…………………………はいっ??
「なんですか、それ!?」
「残念ことに、あなたが絡むと東城は簡単に理性を失いますから、十分に起こり得る未来です」
なにをそんなに、キリッとした顔で言い切ってるんですか!
なんか前提からして、色々とおかしいだろ!?
「あれは、あなたが絡んだときだけ、偏差値2の阿呆に成り果てますからね。えぇ、ですから最後まで致すときは、合意の上となることを願うばかりです……」
若干遠い目をしているのは、どうしてなんですか、後藤さん!!
ちょっと怖いんですけどもっ!
そうこうしているうちに、ロケに出ていた東城たちの撮影班も、無事に撮影を終えたという連絡が入った。
そして宮古怜奈の機嫌もすっかり直っていることから、引き続きスタジオでの撮影が再開されることになったのである。
「見ててね、理緒たん先生!理緒たんの可愛らしさ、あたしが演じることで世のなかに広めてくるから!!」
「う、うん?とにかく、撮影は大変だと思うけど、がんばってください……?」
謎の宮古怜奈の気迫に押され、結局帰り損ねた僕は、そのままモニタールームにもどって撮影の見学をしていくことになってしまっていた。
なんとなく、東城とは顔を合わせづらいんだけどなぁ。
でもまぁ、この部屋から出なければ、会うことはないか。
……どうせ僕みたいな地味顔なら、スタッフにまぎれられるだろうしな。
そんな風に肚をくくった僕に対する、横に立つ後藤さんからの、かわいそうなものを見るような視線が痛い。
わかってるよ、あきらかに巻き込まれた感じで帰れなくなってるしな。
はぁ……なんで『もう会わない』と決めたヤツと、こんな早々に近づくようなことしてんだろうな。
我ながら未練がましいというか、完全に縁を切る勇気もないのかもな……。
こっそりとため息をついて、気持ちを切り替えるようにモニターに目を向けた。
───ただし、僕のほうがヒロインの演技をしているという、マジで意味のわからない状況だったけど。
しかも途中から彼女に、より気分を盛り上げるためだとか言われて、メイクまでほどこされて、むしろなんの罰ゲームだ?!となったのは、言うまでもない。
ヒロインを演じさせたら右に出るものはなしと言われる女優さんを前に、その彼女だったら演じるであろう役作りを延々と披露するって、なかなかにレアかつ、はずかしいことだからな!?
だってそれ、いわば本人を前にしたモノマネ披露するのと同じなわけじゃん。
あぁいうのは、プロのモノマネ芸人さんだからこそ許されるのであって、僕みたいな地味役者なら本人を前にしちゃダメだろ。
アンダーっていうのは、本人がそこにいないからこそ、必要な役回りなんだからな?
……でもまぁ、東城の役を演じているときの彼女は、いつもとはちがう役柄に、実に生き生きとした芝居を見せてくれたことだし、こういう息抜きがあってもいいのかもしれない。
一応彼女の機嫌を損ねたっていう原因も、僕にも責任がないわけではないしな。
そうしてようやくその晒しものの刑から解放されたころには、ツヤツヤの笑顔になる宮古怜奈とはちがって、僕はぐったりしていた。
ダメだ……なんかこう、東城との稽古をおかわりしたようなもんだし、あのときとはさらに異なる環境になっていて、そういう意味では精神力も削られたから、疲労感が半端ない。
「お疲れさまです、羽月さん」
「あ、ありがとうございます、後藤さん」
さりげなく飲み物を渡しに来てくれるのに、お礼を言って受け取る。
「はぁ……まったく、なんで僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ……」
いくら相手が大人気女優さんだとはいえ、こっちも多少はほかのお仕事を蹴ってしまったわけだし、単発のバイトでも増やさなきゃダメだろうか?
貧乏役者にとっては、そのエキストラの収入だって大事なんだからな!?
スタジオの片隅に置かれたパイプ椅子に腰かけ、その背もたれにぐったりと寄りかかりながら、そんなことを思っていたら。
「これはガッツリ、ギャラを取れそうですね!交渉は私にお任せくださいね、ガッポリせしめてきますから!」
なんて、後藤さんがこぶしをにぎりしめながら言ってくる。
え、これボランティアじゃないの?
「えぇ、このお仕事に関しては、そちらのプロダクションしじまさんとは、一時的にあなたのマネジメントを私が代理で受け持つ形で、きちんと契約を締結してますから、ご安心ください」
なにそれ、マジでなにも聞いてないけど?!
「……というか、まさかこれだけの熱の入ったお稽古をつけてあげて、無給のつもりだったんですか?!羽月さん、それはお人好しにもほどがあるでしょう!」
「えっと……、でも東城とは同じこと、タダでやりましたけど……?」
後藤さんにダメ出しを受けて、しかしそちらの管理する東城にはボランティアでのサービス残業みたいなものだったと告げれば、にっこりとほほえみ返された。
なにそれ、全然安心できないんですけど。
いや、だってその笑いかたをしたときの後藤さん、ロクなこと言わない気がするんだもん。
たいていはヤンキーモードが出る直前の、予兆みたいなものだろ。
「あのクソ野郎……よりによって職場に押し掛けたあげくに自宅に上がり込んだ上、稽古をねだるわ、それにかこつけてキスを迫るわ、最低野郎じゃねぇか!あれか、物理的に去勢しなきゃいけねーヤツか!?」
笑顔のままに口はしからもれ出ているのは、東城への恨みごとだ。
「……いえ、東城のしつけはこれからガッツリやるとして、もちろんそちらのお稽古代も、当社からきっちりとお支払いさせていただきます。余所様のタレントさんを危うく傷ものにしかけたんですから、これくらいは誠意を見せないと」
「だからそれ、誤解ですって!」
まだ先日のやりとりを引きずる後藤さんに、思わずツッコミを入れる。
なのに後藤さんときたら、信じられないものを見るような顔で、僕の顔をのぞきこんでくる。
「羽月さん、あなたそれ……本気で言ってます?!だとしたら、なんとなく東城のひとりよがりな片想いだとは思っていましたが、まさかここまで脈なしだとは……いっそ哀れで笑いが止まらな……もとい、涙が止まりませんよ」
あわてて泣きマネをして見せるものの、それ、もう手遅れですからね?
うん、たぶんあれだ。
後藤さんはふだんすごく紳士だけど、きっと本性はドSな人だと思う。
ちょいちょいその言動から、気配が感じとれる。
「というよりもですね、あまり余所様の事務所の方針に口を出したくはないんですけど、あなたの才能を生かしきれてないのがくやしくて。自慢じゃないですけど、有象無象のひしめく街中から東城を見い出して、スカウトした私は、これでも人の才能を見極める目は確かなものだと自負しているんです」
そして少し伏し目がちになった後藤さんは、直後にまっすぐに僕の目を見つめてきた。
「その私から見て、羽月さん、あなたの演技力はすばらしい。あなたはなんにでもなれるし、演じられる力があるでしょう?それはかぎられたものだけが持つ、立派なかがやきなんです」
「………買いかぶりすぎですよ、後藤さんは」
手元のコップでゆれる水面に目をやれば、そこにぼやけて映るのは、なんの特徴もない地味な顔だ。
「地味顔のモブ役者ですから。東城みたいに、そこにいるだけで人の視線を集められるほどの華はないですし……」
そう口にすれば、ジクジクと胸の疵が痛みだす。
それは物理的な傷ではなく、精神的な疵だ。
どれだけ演技がうまくても、舞台の真ん中に立つことはない。
どれだけあこがれて、スキルを磨きつづけてきても、僕ではヒーローになれなかった。
でも、東城はちがう。
あっさりと、オーディションをするでもなく制作側からの熱烈なオファーを受けて、スーパー戦隊もののレッドを務め上げ、チビッ子からお年寄りまで、全国のお茶の間にファンを作った。
今やその活躍の場は、テレビドラマだけでなくバラエティーやCM、雑誌と枚挙に暇がないくらいだ。
そんな東城と比べたら、地味顔の万年モブだけ演じている僕のような役者は、どうあがいたって勝てないんだ。
そこにあるのは、絶望的な開きだけで、希望なんてどこにもない。
「……あまり私から言うのもなんなんですが、あなたはもっとご自分の力を信じたほうがいい。私から見て、あなたに足りないのは、最後のきっかけだけなんです。誰にも負けないくらいの当たり役、それを手にすることさえできれば、あるいは……」
静かななかにも熱意のこもる声に、後藤さんの仕事に対するプライドを感じる。
「そのきっかけは、人によっては偶然手にすることもあるでしょう。でも、私たちマネージャーや、タレントが所属する事務所というのは、唯一そのきっかけを自ら作り出すことができるんですよ!?なのにそれをしないのは、単なる怠慢です」
うっすらと怒りをにじませた後藤さんの声に、僕はめちゃくちゃ動揺していた。
だって、これじゃまるで、僕はもっと売れるべきだと実力を誉められているようなもんじゃないか。
業界随一の大手芸能事務所の、切れ者マネージャーに認めてもらえるって、そうそうないからな?!
「……口がすべりました、今のは私の戯れ言だと聞き流してください。でも、できることならうちに引き抜いて、私が育ててみたいタレントのひとりであることは、まちがいないですからね」
今の発言は、ともすれば僕の所属事務所の批判とも受けとられかねない発言だしな。
「ありがとうございます、励ましてくださって」
ウソも方便というやつなのかもしれないけれど、東城との差にうちひしがれ、自分に自信の持てない僕にとって、今は後藤さんのやさしさがうれしかった。
だけど、そのホンワカした雰囲気は、急に一変する。
グシャリと手にした書類をにぎりつぶした後藤さんは、見たこともないような凶悪な顔になった。
「というよりも、うちの事務所に引き抜けない原因は、そんなことをしたら絶対に、東城が『待て』も利かずにあなたを襲う未来しか見えないんですよ……強制猥褻もしくは強制性交等の犯罪者になるのがわかっていて呼べるほど、私も無責任なことはできませんから!!」
…………………………はいっ??
「なんですか、それ!?」
「残念ことに、あなたが絡むと東城は簡単に理性を失いますから、十分に起こり得る未来です」
なにをそんなに、キリッとした顔で言い切ってるんですか!
なんか前提からして、色々とおかしいだろ!?
「あれは、あなたが絡んだときだけ、偏差値2の阿呆に成り果てますからね。えぇ、ですから最後まで致すときは、合意の上となることを願うばかりです……」
若干遠い目をしているのは、どうしてなんですか、後藤さん!!
ちょっと怖いんですけどもっ!
そうこうしているうちに、ロケに出ていた東城たちの撮影班も、無事に撮影を終えたという連絡が入った。
そして宮古怜奈の機嫌もすっかり直っていることから、引き続きスタジオでの撮影が再開されることになったのである。
「見ててね、理緒たん先生!理緒たんの可愛らしさ、あたしが演じることで世のなかに広めてくるから!!」
「う、うん?とにかく、撮影は大変だと思うけど、がんばってください……?」
謎の宮古怜奈の気迫に押され、結局帰り損ねた僕は、そのままモニタールームにもどって撮影の見学をしていくことになってしまっていた。
なんとなく、東城とは顔を合わせづらいんだけどなぁ。
でもまぁ、この部屋から出なければ、会うことはないか。
……どうせ僕みたいな地味顔なら、スタッフにまぎれられるだろうしな。
そんな風に肚をくくった僕に対する、横に立つ後藤さんからの、かわいそうなものを見るような視線が痛い。
わかってるよ、あきらかに巻き込まれた感じで帰れなくなってるしな。
はぁ……なんで『もう会わない』と決めたヤツと、こんな早々に近づくようなことしてんだろうな。
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