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1. 私は愛を誓えません
しおりを挟む神父様が私に問いました。
「貴女は愛を誓えますか?」
愛を誓う?
神様の前で?
2人の間に愛なんてあるのかしら?
だって、先に聞かれた婚約者は返事もせずに頷くだけでしたわ。
あれで誓ったと言えますの?
ここは神聖な場所…。
嘘はいけませんよね。
「私は愛は誓えません!」
教会内が騒がしくなる。
「エルド様、ごめんなさい。でも神様に嘘はついてはいけないと思うのよ」
私は隣に唖然とした表情で立っている、夫になるはずだったエルドに謝った。
「なぜ……?」
あら?久しぶりにエルド様の声を聞きましたわ。
いつぶりかしら?
「では、私はこれで失礼します。後で婚約解消手続きの書類を送りますね。婚姻届を書く前で良かったですね」
私は笑顔でバージンロードを歩いて教会から出て行った。
後ろから私の両親が慌ててやって来た。
「…何で?」
お父様、何でって言われても困りますわ。
「そうよ、クレアちゃん。エルド様のどこが不満なの?」
お母様、どこと言われましても困りますわ。
確かにエルド様は珍しい藤色の髪と瞳で身長も180センチ以上あるので目立つ美形ですけど…。
会話がないのです…。
まるで私が透明人間かのように。
友人達にも羨ましいと散々言われてきましたけど、私は友人達の方が羨ましかったです。
婚約者と一緒に出掛けたとか、こんな話をして楽しかったとか、可愛いと言ってくれたとか…。
私は10歳の時からエルド様と婚約していますが、一緒に出掛けたことも無ければ、可愛いなんて言われたこともありません。
だって、エルド様の声を聞いたのは最初にお会いした時の挨拶くらいです。
その後は…えーと…。
「ああ」「ん」の単語を聞いたくらいで、他は頭を立てに振るか横に振るかでイエスかノーを判断していましたわ。
「どこがと言われましても…。私は会話ができる方が良いのです。エルド様とは会話ができませんもの…」
「「え?」」
両親は顔を見合わせていた。
「あんなにお話になるエルド様が…クレアとは話をしないのか?」
「え…エルド様がお話になる?」
私の頭の中には、はてなマークがいっぱいだ。
「私…エルド様に嫌われていたのかしら」
そこは盲点でしたわ。
なぜ今まで気がつかなかったのかしら。
それならそうと早く言ってくだされば良かったのに。
そうすれば結婚式当日に婚約解消なんて事になりませんでしたわ。
重たいウェディングドレスを引きずりながら馬車に乗り込みました。
時間をかけて用意したウェディングドレスを着れた事は嬉しいのですが…。
最後に見たエルド様の顔が忘れられません。
悲しそうな揺れる瞳…。
何故か私の胸がざわつきます。
これは…何でしょうか?
今さら考えても仕方ないですね。
馬車の中、目の前では両親が何かを話し合っています。
まあ、何とかなるでしょう…。
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