婚約破棄して泥を投げつけた元婚約者が「無能」と笑う中、光り輝く幼なじみの王子に掠め取られました。

ムラサメ

文字の大きさ
2 / 9

黄金の檻

しおりを挟む
シリルの屋敷――それは、王宮と見紛うほどに豪華な白亜の城だった。

連れてこられた私は、数十人の侍女たちによって、まるで宝石でも扱うように丁寧に湯浴みをさせられ、最高級のシルクの寝巻きを纏わされた。

​「……信じられない」

​ふかふかのベッドに座り、自分の手を見る。
ついさっきまで泥にまみれていたはずなのに、今は薔薇の香りがする。
けれど、心はまだ雨の中に置き去りにされたままだった。
エドワード様の「無能」という言葉が、胸に深く突き刺さっている。
​そこへ、コンコンと控えめなノック音が響いた。

​「フィオナ、入るよ」

​現れたシリルは、騎士服を脱ぎ、ゆったりとした部屋着姿だった。
それでも隠しきれない黄金のオーラに、私は思わず身を縮める。

​「シリル……様。あの、私なんかが、こんな場所に……」

「また『様』をつけたね。それから、二度と『私なんか』なんて言わないで」

​シリルはベッドの端に腰掛け、私の手を取った。
熱を帯びた彼の指先が、私の手首を優しく、けれど逃げられないようにしっかりと掴む。

​「……なんで、助けてくれたの? 私はエドワード様に捨てられた、何の価値もない女なのに」

​私の問いに、シリルの碧眼がわずかに細められた。
次の瞬間、彼は私の腰を抱き寄せ、そのままベッドに押し倒すようにして顔を近づけた。

​「ひゃっ……!」

「フィオナ。君は本当に何もわかっていないんだね」

​シリルの美しい顔が、鼻先が触れ合うほどの距離にある。
彼の瞳の奥に、揺らめくような「暗い熱」が見えて、私は息を呑んだ。

​「あの日……僕が王位継承争いに巻き込まれて、誰も信じられずに独りで泣いていた時。君だけが僕を見つけて、抱きしめてくれた」

「……え?」

「『シリルは、王子様じゃなくてもシリルだよ』……そう言って笑った君が、僕の絶望をすべて焼き尽くしてくれたんだ。あの時から、僕の心臓は君のものだ。……君を失うくらいなら、この国ごと焼き払った方がマシだよ」

​シリルの声は甘く、そして狂気を感じるほどに重かった。

​「エドワードが君を捨てた?……はは、感謝しなくちゃいけないね。おかげでようやく、君を誰の手も届かない場所に閉じ込める口実ができたんだから」
「閉じ込める……?」

「そう。もう二度と、あのゴミのような男にも、外の冷たい雨にも、君を触らせたりしない。君の指先一本、髪の毛一筋にいたるまで、僕だけの光で満たしてあげる」

​シリルは私の首筋に顔を埋め、深く、深く呼吸をする。

まるで、私の存在を自分の中に刻み込むように。

​「ねえ、フィオナ。……ずっと、僕の腕の中だけで生きて。君にはそれ以外の生き方なんて、僕が許さないから」

​シリルの独占欲を孕んだ微笑みは、この世の何よりも華やかで、そして残酷なまでに美しかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「次点の聖女」

手嶋ゆき
恋愛
 何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。  私は「次点の聖女」と呼ばれていた。  約一万文字強で完結します。  小説家になろう様にも掲載しています。

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

お望み通り、消えてさしあげますわ

梨丸
恋愛
一国の次期王妃と言われていた子爵令嬢アマリリス。 王太子との結婚前夜、彼女は自ら火を放ち、死んだ。 国民達は彼女の死を特に気にもしなかった。それどころか、彼女の死を喜ぶ者もいた。彼女の有していた聖女の力は大したものではなかったし、優れているのは外見だけの“役立たずの聖女”だと噂されるほどだったから。 彼女の死後、すぐさま後釜として皆に好かれていた聖女が次期王妃に召し上げられた。 この国はより豊かになる、皆はそう確信した。 だが、“役立たずの聖女”アマリリスの死後──着実に崩壊は始まっていた。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)

【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!

林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。  マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。  そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。  そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。  どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。 2022.6.22 第一章完結しました。 2022.7.5 第二章完結しました。 第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。 第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。 第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。

ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜

嘉神かろ
恋愛
 魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。  妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。  これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)
恋愛
 一つの密約を交わし聖女になったわたし。  わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。  王太子はわたしの大事な人をー。  わたしは、大事な人の側にいきます。  そして、この国不幸になる事を祈ります。  *わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。  *ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。 ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

政略結婚した夫に殺される夢を見た翌日、裏庭に深い穴が掘られていました

伊織
恋愛
夫に殺される夢を見た。 冷え切った青い瞳で見下ろされ、血に染まった寝室で命を奪われる――あまりにも生々しい悪夢。 夢から覚めたセレナは、政略結婚した騎士団長の夫・ルシアンとの冷えた関係を改めて実感する。 彼は宝石ばかり買う妻を快く思っておらず、セレナもまた、愛のない結婚に期待などしていなかった。 だがその日、夢の中で自分が埋められていたはずの屋敷の裏庭で、 「深い穴を掘るために用意されたようなスコップ」を目にしてしまう。 これは、ただの悪夢なのか。 それとも――現実に起こる未来の予兆なのか。 闇魔法を受け継ぐ公爵令嬢と、彼女を疎む騎士団長。 不穏な夢から始まる、夫婦の物語。 男女の恋愛小説に挑戦しています。 楽しんでいただけたら嬉しいです。

処理中です...