9 / 9
目覚めた庭園と、聖女の片鱗 2
しおりを挟む
王宮の最深部、国王の居住区に近い小回廊。カイルはエリナの手を握り、重厚な扉の前に立っていた。
「……マルク、フェリクスは中にいるのか?」
「はい。陛下が『庭園の異変を説明しろ』と、魔導院の長であるフェリクス殿を呼びつけておられます。今頃、陛下に油を絞られている頃でしょう」
マルクが淡々と説明する。そう、フェリクスは王立魔導院の長として、王宮に張り巡らされた魔道結界の全責任を負っている。一晩で庭が満開になるような「異常事態」が起きれば、真っ先に国王に釈明しなければならない立場なのだ。
扉が開くと、案の定、玉座に座る国王ゼノスの前で、フェリクスが「いやぁ、僕の管理不足っていうか、奇跡っていうか」と、頭をかきながら軽口を叩いていた。
「……カイル。正門を壊してまで連れ帰った女を、ようやく見せる気になったか。そしてフェリクス、貴様はさっさとこの花の異常事態を理論的に説明しろ」
国王の怒鳴り声に、エリナはカイルの背後に隠れて震え上がる。
「陛下、そんなに怒らないでくださいよ。原因の『ご本人』がちょうど到着したみたいですから」
フェリクスがニヤリと笑って、入り口の方を指さした。カイルがエリナを促し、国王の前に進み出る。
「父上。彼女は私の婚約者だ。……フェリクス、貴様は仕事を終えたらさっさと消えろ」
「つれないなぁ。僕がいなきゃ、彼女の力がどれだけ『ヤバい』か、陛下に正確に伝わらないよ?」
フェリクスは王の横に仕えながら、状況を面白がっている。
国王ゼノスは、カイルの背中からおずおずと顔を出したエリナをじろりと睨みつけた。
「……顔を上げよ」
エリナが顔を上げた瞬間、彼女の瞳から溢れる無自覚な慈愛の光に、国王は言葉を失う。
実は国王は、先日の大戦で受けた呪いの傷に長年苦しんでいた。だが、エリナがこの部屋に入った瞬間から、その疼きが消えていたのだ。
「……フェリクス。貴様、これを知っていて黙っていたのか」
「まさか。僕も昨日、庭園で彼女に会って驚いたんですよ。カイルがこれほどまでの『至宝』を野良犬みたいに拾ってくるとはね」
フェリクスはわざとカイルを煽り、カイルの殺気を引き出すことで、エリナの魔力がそれにどう反応するかを王に見せつけた。
カイルの殺気が高まるたび、エリナの周囲に柔らかな光の霧が立ち込め、その殺気すらも清涼な風に変えていく。
「……なるほど。これが『本物』か」
国王は深い溜め息をつき、険しかった顔をわずかに緩めた。
「カイル。この娘は、王家の守護結界よりも尊い。……フェリクス、今日から魔導院を挙げてこの娘を『聖女』として認定する手続きに入れ」
「了解です、陛下。……あ、カイル、そんな顔しないでよ。認定されたら、もう誰も彼女を『洗濯係』なんて呼べなくなる。君にとっても都合がいいだろ?」
フェリクスはウィンクを投げ、カイルの激しい嫉妬を軽く受け流した。
「……マルク、フェリクスは中にいるのか?」
「はい。陛下が『庭園の異変を説明しろ』と、魔導院の長であるフェリクス殿を呼びつけておられます。今頃、陛下に油を絞られている頃でしょう」
マルクが淡々と説明する。そう、フェリクスは王立魔導院の長として、王宮に張り巡らされた魔道結界の全責任を負っている。一晩で庭が満開になるような「異常事態」が起きれば、真っ先に国王に釈明しなければならない立場なのだ。
扉が開くと、案の定、玉座に座る国王ゼノスの前で、フェリクスが「いやぁ、僕の管理不足っていうか、奇跡っていうか」と、頭をかきながら軽口を叩いていた。
「……カイル。正門を壊してまで連れ帰った女を、ようやく見せる気になったか。そしてフェリクス、貴様はさっさとこの花の異常事態を理論的に説明しろ」
国王の怒鳴り声に、エリナはカイルの背後に隠れて震え上がる。
「陛下、そんなに怒らないでくださいよ。原因の『ご本人』がちょうど到着したみたいですから」
フェリクスがニヤリと笑って、入り口の方を指さした。カイルがエリナを促し、国王の前に進み出る。
「父上。彼女は私の婚約者だ。……フェリクス、貴様は仕事を終えたらさっさと消えろ」
「つれないなぁ。僕がいなきゃ、彼女の力がどれだけ『ヤバい』か、陛下に正確に伝わらないよ?」
フェリクスは王の横に仕えながら、状況を面白がっている。
国王ゼノスは、カイルの背中からおずおずと顔を出したエリナをじろりと睨みつけた。
「……顔を上げよ」
エリナが顔を上げた瞬間、彼女の瞳から溢れる無自覚な慈愛の光に、国王は言葉を失う。
実は国王は、先日の大戦で受けた呪いの傷に長年苦しんでいた。だが、エリナがこの部屋に入った瞬間から、その疼きが消えていたのだ。
「……フェリクス。貴様、これを知っていて黙っていたのか」
「まさか。僕も昨日、庭園で彼女に会って驚いたんですよ。カイルがこれほどまでの『至宝』を野良犬みたいに拾ってくるとはね」
フェリクスはわざとカイルを煽り、カイルの殺気を引き出すことで、エリナの魔力がそれにどう反応するかを王に見せつけた。
カイルの殺気が高まるたび、エリナの周囲に柔らかな光の霧が立ち込め、その殺気すらも清涼な風に変えていく。
「……なるほど。これが『本物』か」
国王は深い溜め息をつき、険しかった顔をわずかに緩めた。
「カイル。この娘は、王家の守護結界よりも尊い。……フェリクス、今日から魔導院を挙げてこの娘を『聖女』として認定する手続きに入れ」
「了解です、陛下。……あ、カイル、そんな顔しないでよ。認定されたら、もう誰も彼女を『洗濯係』なんて呼べなくなる。君にとっても都合がいいだろ?」
フェリクスはウィンクを投げ、カイルの激しい嫉妬を軽く受け流した。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!
野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。
私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。
そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした
おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。
真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。
ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。
「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」
「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」
「…今度は、ちゃんと言葉にするから」
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
黒の聖女、白の聖女に復讐したい
夜桜
恋愛
婚約破棄だ。
その言葉を口にした瞬間、婚約者は死ぬ。
黒の聖女・エイトは伯爵と婚約していた。
だが、伯爵は白の聖女として有名なエイトの妹と関係をもっていた。
だから、言ってはならない“あの言葉”を口にした瞬間、伯爵は罰を受けるのだった。
※イラストは登場人物の『アインス』です
◆◆お別れなので「王位継承セット」をプレゼントしたら、妹カップルが玉座を手に入れました。きっと喜んでくれてますよね◆◆
ささい
恋愛
ん?おでかけ楽しみ? そうだね。うちの国は楽しいと思うよ。
君が練ってた棒はないけど。
魔術に棒は要らない。素手で十分? はは、さすがだね。
なのに棒を量産したいの? 棒を作るのは楽しいんだ。
そっか、いいよ。たくさん作って。飾ってもいいね。君の魔力は綺麗だし。
騎士団に渡して使わせるのも楽しそうだね。
使い方教えてくれるの? 向上心がある人が好き?
うん、僕もがんばらないとね。
そういえば、王冠に『民の声ラジオ24h』みたいな機能つけてたよね。
ラジオ。遠く離れた場所にいる人の声を届けてくれる箱だよ。
そう、あれはなんで?
民の声を聞く素敵な王様になってほしいから?
なるほど。素晴らしい機能だね。
僕? 僕には必要ないよ。心配してくれてありがとう。
君の祖国が素晴らしい国になるといいね。
※他サイトにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる