魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ

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目覚めた庭園と、聖女の片鱗 2

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王宮の最深部、国王の居住区に近い小回廊。カイルはエリナの手を握り、重厚な扉の前に立っていた。

​「……マルク、フェリクスは中にいるのか?」

​「はい。陛下が『庭園の異変を説明しろ』と、魔導院の長であるフェリクス殿を呼びつけておられます。今頃、陛下に油を絞られている頃でしょう」

​ マルクが淡々と説明する。そう、フェリクスは王立魔導院の長として、王宮に張り巡らされた魔道結界の全責任を負っている。一晩で庭が満開になるような「異常事態」が起きれば、真っ先に国王に釈明しなければならない立場なのだ。

​ 扉が開くと、案の定、玉座に座る国王ゼノスの前で、フェリクスが「いやぁ、僕の管理不足っていうか、奇跡っていうか」と、頭をかきながら軽口を叩いていた。

​「……カイル。正門を壊してまで連れ帰った女を、ようやく見せる気になったか。そしてフェリクス、貴様はさっさとこの花の異常事態を理論的に説明しろ」

​ 国王の怒鳴り声に、エリナはカイルの背後に隠れて震え上がる。

​「陛下、そんなに怒らないでくださいよ。原因の『ご本人』がちょうど到着したみたいですから」

​ フェリクスがニヤリと笑って、入り口の方を指さした。カイルがエリナを促し、国王の前に進み出る。 

​「父上。彼女は私の婚約者だ。……フェリクス、貴様は仕事を終えたらさっさと消えろ」

​「つれないなぁ。僕がいなきゃ、彼女の力がどれだけ『ヤバい』か、陛下に正確に伝わらないよ?」

​ フェリクスは王の横に仕えながら、状況を面白がっている。
 国王ゼノスは、カイルの背中からおずおずと顔を出したエリナをじろりと睨みつけた。

​「……顔を上げよ」

​ エリナが顔を上げた瞬間、彼女の瞳から溢れる無自覚な慈愛の光に、国王は言葉を失う。

 実は国王は、先日の大戦で受けた呪いの傷に長年苦しんでいた。だが、エリナがこの部屋に入った瞬間から、その疼きが消えていたのだ。

​「……フェリクス。貴様、これを知っていて黙っていたのか」

​「まさか。僕も昨日、庭園で彼女に会って驚いたんですよ。カイルがこれほどまでの『至宝』を野良犬みたいに拾ってくるとはね」

​ フェリクスはわざとカイルを煽り、カイルの殺気を引き出すことで、エリナの魔力がそれにどう反応するかを王に見せつけた。

 カイルの殺気が高まるたび、エリナの周囲に柔らかな光の霧が立ち込め、その殺気すらも清涼な風に変えていく。

​「……なるほど。これが『本物』か」

​ 国王は深い溜め息をつき、険しかった顔をわずかに緩めた。

​「カイル。この娘は、王家の守護結界よりも尊い。……フェリクス、今日から魔導院を挙げてこの娘を『聖女』として認定する手続きに入れ」

​「了解です、陛下。……あ、カイル、そんな顔しないでよ。認定されたら、もう誰も彼女を『洗濯係』なんて呼べなくなる。君にとっても都合がいいだろ?」

​ フェリクスはウィンクを投げ、カイルの激しい嫉妬を軽く受け流した。
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