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1章
初めての温もり
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竜の背中は、思っていたよりもずっと温かかった。
凍てつく夜風をゼノ様の広い背中が遮ってくれる。生まれて初めて知った、誰かに守られるという感覚。私は彼のマントの端をギュッと握りしめたまま、うとうとと意識を飛ばしていた。
「……ミア、起きて。着いたよ。ここが僕の家だ」
耳元で響いた優しい声に、私はゆっくりと目を開けた。
視界に飛び込んできたのは、見たこともないほど眩い光の渦だった。
白亜の城壁が月の光を弾き、数えきれないほどの灯火が宝石を散りばめたように街を彩っている。
私がいた地下室の窓から見ていた、どんよりと濁った王国の空とは何もかもが違った。
「わあ……綺麗……」
「そうだろう? 君に見せたかったんだ。さあ、降りようか」
黒竜が城の広大なバルコニーに静かに着陸した。ゼノ様は私を抱き上げたまま、迷いのない足取りで中へ入っていった。
「ゼノ様……あの、私、自分で歩けます。泥で服を汚してしまいますから……っ」
「何を言っているんだい? こんなに冷え切った小さな体で、歩かせるわけないじゃないか。汚れたら洗えばいい。服なんていくらでも買い換えればいいんだ」
彼は困ったように笑い、私を離さない。
豪華な絨毯が敷き詰められた廊下を抜けると、そこには、目を見開いて待機していた大勢のメイドや執事たちがいた。
「ゼノ様! ご無事で……! ――って、そのお方は……?」
「僕の命の恩人であり、この国で最も大切な賓客だ。名前はミア。……すぐに最高のお風呂と食事、それから一番柔らかい寝着を用意してくれ」
ゼノ様の宣言に、周囲がざわめく。
それもそうだろう。ボロボロの、泥だらけの、しかも「不吉」とされる黒髪の少女を、この国の第一王子であるゼノ様が抱きかかえているのだから。
私は怖くなって、彼の腕の中で身を縮めた。
「……っ、ごめんなさい……私のせいで、皆さんに迷惑を……」
その時、ゼノ様が私の頬をそっと指先で上向けさせた。
「ミア、謝る必要なんてどこにもないよ。いいかい? 君がそこにいてくれるだけで、僕は幸せなんだ。まずは、その寒さを取ろう」
連れて行かれたのは、まるでお部屋のように広い浴室だった。
メイドさんたちが何人も寄ってきて、恐る恐る私の服を脱がせていく。
その時、彼女たちの手が止まった。
「……なんてこと。お体中、痣だらけじゃない……」
「あばらも浮いているわ……こんなに小さなお嬢様を、一体誰が……」
メイドさんたちの声が震えている。
地下室で父に踏まれた跡や、妹に叩かれた跡。私にとっては「日常」だった傷が、この国の人たちの目には、見るに堪えない惨劇として映っているようだった。
「……あ、あの、大丈夫です。私、ゴミですから。痛いのには慣れています……っ」
私が慌てて取り繕おうとすると、一人の年配のメイドさんが、涙を浮かべながら私をそっと抱きしめた。
「いいえ、お嬢様。お嬢様はゴミなどではありません。これからは、私たちが全力でお守りいたします」
温かいお湯に浸かった瞬間、私は驚きで息が止まりそうになった。
地下室で浴びせられた、刺すような冷水ではない。花の香りが漂う、肌に吸い付くような柔らかなお湯。
丁寧に、優しく髪を洗ってもらい、泥を落としていく。
鏡に映った自分の髪を見て、私は息を呑んだ。
泥を落とした私の黒髪は、ゼノ様の言った通り、しっとりと艶やかな夜の輝きを放っていた。
「……本当だ。おばあちゃん、私の髪、本当はこんなに綺麗だったんだね」
風呂上がりに用意されたのは、雲を纏っているかのようにふわふわしたシルクの寝着だった。
凍てつく夜風をゼノ様の広い背中が遮ってくれる。生まれて初めて知った、誰かに守られるという感覚。私は彼のマントの端をギュッと握りしめたまま、うとうとと意識を飛ばしていた。
「……ミア、起きて。着いたよ。ここが僕の家だ」
耳元で響いた優しい声に、私はゆっくりと目を開けた。
視界に飛び込んできたのは、見たこともないほど眩い光の渦だった。
白亜の城壁が月の光を弾き、数えきれないほどの灯火が宝石を散りばめたように街を彩っている。
私がいた地下室の窓から見ていた、どんよりと濁った王国の空とは何もかもが違った。
「わあ……綺麗……」
「そうだろう? 君に見せたかったんだ。さあ、降りようか」
黒竜が城の広大なバルコニーに静かに着陸した。ゼノ様は私を抱き上げたまま、迷いのない足取りで中へ入っていった。
「ゼノ様……あの、私、自分で歩けます。泥で服を汚してしまいますから……っ」
「何を言っているんだい? こんなに冷え切った小さな体で、歩かせるわけないじゃないか。汚れたら洗えばいい。服なんていくらでも買い換えればいいんだ」
彼は困ったように笑い、私を離さない。
豪華な絨毯が敷き詰められた廊下を抜けると、そこには、目を見開いて待機していた大勢のメイドや執事たちがいた。
「ゼノ様! ご無事で……! ――って、そのお方は……?」
「僕の命の恩人であり、この国で最も大切な賓客だ。名前はミア。……すぐに最高のお風呂と食事、それから一番柔らかい寝着を用意してくれ」
ゼノ様の宣言に、周囲がざわめく。
それもそうだろう。ボロボロの、泥だらけの、しかも「不吉」とされる黒髪の少女を、この国の第一王子であるゼノ様が抱きかかえているのだから。
私は怖くなって、彼の腕の中で身を縮めた。
「……っ、ごめんなさい……私のせいで、皆さんに迷惑を……」
その時、ゼノ様が私の頬をそっと指先で上向けさせた。
「ミア、謝る必要なんてどこにもないよ。いいかい? 君がそこにいてくれるだけで、僕は幸せなんだ。まずは、その寒さを取ろう」
連れて行かれたのは、まるでお部屋のように広い浴室だった。
メイドさんたちが何人も寄ってきて、恐る恐る私の服を脱がせていく。
その時、彼女たちの手が止まった。
「……なんてこと。お体中、痣だらけじゃない……」
「あばらも浮いているわ……こんなに小さなお嬢様を、一体誰が……」
メイドさんたちの声が震えている。
地下室で父に踏まれた跡や、妹に叩かれた跡。私にとっては「日常」だった傷が、この国の人たちの目には、見るに堪えない惨劇として映っているようだった。
「……あ、あの、大丈夫です。私、ゴミですから。痛いのには慣れています……っ」
私が慌てて取り繕おうとすると、一人の年配のメイドさんが、涙を浮かべながら私をそっと抱きしめた。
「いいえ、お嬢様。お嬢様はゴミなどではありません。これからは、私たちが全力でお守りいたします」
温かいお湯に浸かった瞬間、私は驚きで息が止まりそうになった。
地下室で浴びせられた、刺すような冷水ではない。花の香りが漂う、肌に吸い付くような柔らかなお湯。
丁寧に、優しく髪を洗ってもらい、泥を落としていく。
鏡に映った自分の髪を見て、私は息を呑んだ。
泥を落とした私の黒髪は、ゼノ様の言った通り、しっとりと艶やかな夜の輝きを放っていた。
「……本当だ。おばあちゃん、私の髪、本当はこんなに綺麗だったんだね」
風呂上がりに用意されたのは、雲を纏っているかのようにふわふわしたシルクの寝着だった。
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