「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう

ムラサメ

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1章

温かい食事

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 サロンに戻ると、そこには豪華な食事が並べられていた。焼きたてのパン、黄金色のスープ、瑞々しい果物。一口スープを口に含んだ瞬間、私はポロポロと涙をこぼしてしまった。

​「おいしく……ないかい?」

 心配そうに覗き込むゼノ様に、私は必死に首を振った。

「いえ……こんなに温かくて、美味しいものを食べたのは、初めてで……。なんだか、夢みたいで……起きたらまた、あの冷たい地下室にいるんじゃないかって……」

​ ゼノ様は椅子から立ち上がり、私の前に膝をついた。
 そして、私の小さな手を、彼の大きな温かい手で包み込んだ。

​「ミア。これは夢じゃないよ。もしこれが夢だと言うなら、僕が絶対に覚まさせない。……君を捨てた奴らが、どれだけ愚かで残酷だったか、僕は生涯をかけて証明してみせる」

​ ゼノ様の瞳は、炎のように熱く、真剣だった。

「向こう見ずだと笑われても構わない。僕は君を守ると決めたんだ。……明日からは、もっと美味しいものを食べよう。もっと綺麗な服を着よう。君が、自分のことを『大好きだ』と思えるようになるまでね」

​ 私は、溢れる涙を止めることができなかった。
 生まれて初めての、お腹いっぱいのご飯。
 そして、生まれて初めて、私の存在を肯定してくれる、黄金の瞳。

​「ありがとうございます……ゼノ様……っ」

​ 泣きじゃくる私を、彼は優しく、壊れ物を扱うように抱きしめてくれた。

食後、メイドさんたちに案内された部屋には、見たこともないほど大きなベッドが置かれていた。
 おずおずとその端に座ってみると、まるで雲の上にでも乗ったかのように、体が沈み込んだ。

​「……あ……」

​ シーツからは、干したてのお日様と、ほんのりラベンダーの香りがする。
 地下室で私を包んでいたのは、湿り気を帯びたカビの臭いと、冷え切った石の感触だけだった。
 
 あまりの柔らかさに戸惑い、私はベッドの隅っこで膝を抱えて小さくなった。
 こんなに真っ白で綺麗な場所に、私みたいな汚れが横たわってもいいんだろうか。明日の朝、目が覚めたら、またあの暗い地下室で、妹の「起きなさいよ、ゴミ」という蹴り声で起こされるんじゃないだろうか。

 そんな不安が胸をよぎった時、部屋の扉が小さくノックされた。

​「ミア、入ってもいいかな?」

​ ゼノ様だった。彼は寝着の上にガウンを羽織り、手に小さなキャンドルを持って入ってきた。

​「ゼノ様……! あの、私、こんなに立派なベッドは……」

「やっぱり、落ち着かないかい? ……ごめんね、君を驚かせるつもりはなかったんだ」

​ ゼノ様はベッドの脇に椅子を持ってきて、そこに座った。
 私を安心させるように、少しだけ距離を置いて、でもすぐ手の届く場所にいてくれる。

​「今日は、たくさんのことがありすぎた。ゆっくり休んでいいんだよ。……君が眠りにつくまで、僕はここにいる。悪い夢を見そうになったら、僕が追い払ってあげるから」

「でも……ゼノ様はお疲れではありませんか?」

「君の寝顔を見ている方が、僕にとってはどんな休息よりも価値があるんだ。……おやすみ、ミア。明日の朝、目が覚めても、僕はここにいるよ。太陽と一緒に、君に『おはよう』を言うためにね」

​ ゼノ様は、布団の上から私の手をポンポンと優しく叩いた。
 その規則正しいリズムが心地よくて、私は少しずつ、体の力が抜けていくのを感じた。

​ 羽毛の布団は、魔法のように温かい。
 暗闇を照らすキャンドルの炎と、隣で静かに息をつくゼノ様の存在。

 私は、生まれて初めて「明日が来るのが楽しみだ」と思いながら、深い眠りに落ちていった。
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