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第五話
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翌朝、小鳥のさえずりと共に目を覚ますと、そこには昨夜のソファで首を妙な角度に曲げたまま「……問題ない。これが俺のデフォルトだ」と言い張る、アルくんがいた。
彼は必死に「氷の王子」の仮面を被り直し、私を朝食会へとエスコートしてくれた。
「エルナ。我が国の両親は少々、賑やかだが……安心しろ。俺がスマートに、お前を紹介してやる」
そう言って、彼は自信満々に食堂の大きな扉を開けた。
……が、そこにあったのは「朝食会」なんて生易しいものではなかった。
「「「エルナちゃん、いらっしゃいませぇぇ!!」」」
食堂に入った瞬間、色とりどりの紙吹雪と、天使の格好をした楽団の演奏が私たちを襲った。
部屋の隅々まで最高級の百合の花が飾られ、正面の玉座には、王冠を少し斜めに被った王様と、ハンカチを握りしめて号泣している王妃様が座っていた。
「ああ、アルフレッドが五年間も『エルナが来たらこれを……!』と書き溜めていたメニューがついに提供できるわ!」
「よく来たな、エルナ嬢! 息子から『彼女は女神だ』という報告書を毎週一万字ペースで送りつけられていたから、初対面な気がしないぞ!」
「…………っ!!」
アルくんの顔が、見たこともないような深い紫色に染まった。
彼は私の肩を抱き寄せ、震える声で両親を指差した。
「父上! 母上! ……誰が、そこまでやれと言った……!!」
「えっ、だってアルフレッド、あなたが『彼女が来たら世界で一番の歓迎をしないと、この国ごと灰にする』って脅してきたじゃない」
「そうだぞ。騎士団にも、エルナ嬢が通る道にはレッドカーペットを敷き詰めろと命じていたのはお前だろう?」
「っ……あ、あああ、あーー!! 黙れ! 今すぐ黙れ!!」
アルくんは、かつてないほど取り乱していた。
冷徹な「氷神」の面影は微塵もない。彼は私の耳を塞ごうとして、自分の手が震えていることに気づき、さらにパニックになっている。
「エルナ、違うんだ、これは……その、外交上の、高度な戦略で……!」
「ふふ、アルくん、戦略にしては横断幕の『祝・アルフレッドの初恋成就』っていう文字が大きすぎるわよ?」
「……っ!! 死ぬ、俺は今ここで死ぬ……!!」
彼はガックリと膝をついた。
かっこいい王子として再会し、余裕たっぷりに私をエスコートするはずが、身内によって「五年前からの重すぎる愛」を全て暴露されてしまったのだ。
一方、私を追い出した母国、バウム公爵領では。
「旦那様! 昨夜からエルナ様の執務室にある書類が、勝手に発火して消滅しています!」
「な、何だと!? あの女、自分が去る時に魔法的な仕掛けをしていきおったな!」
「エドワード王太子からも悲鳴が上がっております! 『帳簿の読み方を教えろ』と……!」
バウム公爵が頭を抱えている頃。
私は、真っ赤な顔で固まっているアルくんの背中を、優しく叩いてあげていた。
「いいのよ、アルくん。とっても素敵な歓迎だわ」
「…………。……そうか。お前が、いいなら……」
彼は消え入るような声で呟き、私の指先をギュッと握りしめた。
その不器用で、熱すぎる執着。
どうやら私は、この王子様から、一生逃げられそうにない。
彼は必死に「氷の王子」の仮面を被り直し、私を朝食会へとエスコートしてくれた。
「エルナ。我が国の両親は少々、賑やかだが……安心しろ。俺がスマートに、お前を紹介してやる」
そう言って、彼は自信満々に食堂の大きな扉を開けた。
……が、そこにあったのは「朝食会」なんて生易しいものではなかった。
「「「エルナちゃん、いらっしゃいませぇぇ!!」」」
食堂に入った瞬間、色とりどりの紙吹雪と、天使の格好をした楽団の演奏が私たちを襲った。
部屋の隅々まで最高級の百合の花が飾られ、正面の玉座には、王冠を少し斜めに被った王様と、ハンカチを握りしめて号泣している王妃様が座っていた。
「ああ、アルフレッドが五年間も『エルナが来たらこれを……!』と書き溜めていたメニューがついに提供できるわ!」
「よく来たな、エルナ嬢! 息子から『彼女は女神だ』という報告書を毎週一万字ペースで送りつけられていたから、初対面な気がしないぞ!」
「…………っ!!」
アルくんの顔が、見たこともないような深い紫色に染まった。
彼は私の肩を抱き寄せ、震える声で両親を指差した。
「父上! 母上! ……誰が、そこまでやれと言った……!!」
「えっ、だってアルフレッド、あなたが『彼女が来たら世界で一番の歓迎をしないと、この国ごと灰にする』って脅してきたじゃない」
「そうだぞ。騎士団にも、エルナ嬢が通る道にはレッドカーペットを敷き詰めろと命じていたのはお前だろう?」
「っ……あ、あああ、あーー!! 黙れ! 今すぐ黙れ!!」
アルくんは、かつてないほど取り乱していた。
冷徹な「氷神」の面影は微塵もない。彼は私の耳を塞ごうとして、自分の手が震えていることに気づき、さらにパニックになっている。
「エルナ、違うんだ、これは……その、外交上の、高度な戦略で……!」
「ふふ、アルくん、戦略にしては横断幕の『祝・アルフレッドの初恋成就』っていう文字が大きすぎるわよ?」
「……っ!! 死ぬ、俺は今ここで死ぬ……!!」
彼はガックリと膝をついた。
かっこいい王子として再会し、余裕たっぷりに私をエスコートするはずが、身内によって「五年前からの重すぎる愛」を全て暴露されてしまったのだ。
一方、私を追い出した母国、バウム公爵領では。
「旦那様! 昨夜からエルナ様の執務室にある書類が、勝手に発火して消滅しています!」
「な、何だと!? あの女、自分が去る時に魔法的な仕掛けをしていきおったな!」
「エドワード王太子からも悲鳴が上がっております! 『帳簿の読み方を教えろ』と……!」
バウム公爵が頭を抱えている頃。
私は、真っ赤な顔で固まっているアルくんの背中を、優しく叩いてあげていた。
「いいのよ、アルくん。とっても素敵な歓迎だわ」
「…………。……そうか。お前が、いいなら……」
彼は消え入るような声で呟き、私の指先をギュッと握りしめた。
その不器用で、熱すぎる執着。
どうやら私は、この王子様から、一生逃げられそうにない。
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