《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか

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第9章 オレはケレメイン大公国の大公妃殿下です。

593.オレとクロードは、ケレメイン大公国を治めるにあたり、オレが異世界人であることを忘れてはいけないと思っています。

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オレとクロードが、ケレメイン大公国で、貴族を作らないことを徹底した理由は、一つだけ。

オレのため。

オレがクロードの隣で、大公妃として生涯を全うするため。

ケレメイン大公国に貴族を作れば、肩書きや地位を使って他の国との外交がしやすくなるかもしれない。

国内を統治するにも、平民の代官ではなく、爵位持ちの貴族がいた方が、統治しやすいかもしれない。

オレもクロードも、ケレメイン大公国に貴族を作る利点はすぐ思いついた。

メリット、デメリットを考えて、シュミレーションをした結果。

オレとクロードは、ケレメイン大公国に貴族を作らない方という結論に達した。

外交や、内政へのメリットを捨ててでも。

オレとクロードだけが、ケレメイン大公国で別格だと位置づけることは、何も持たないオレ自身を守る武器になるから。

女神様の世界でオレが生きていくには、オレ自身の武器と防具が必要だとオレは痛感している。

身分だとか。

権威だとか。

確固たる地位。

なぜなら、オレは、特別な何かを持ちあわせていないから。

カズラくんと同じように異世界から来たけれど、オレに特殊な能力は、一切備わっていない。

オレの才能は、身体能力も頭脳も、日本にいたときのまま。

とりたてて秀でた頭脳や肉体を持たない成人男性のオレだけど、日本で暮らしていく分には何も問題がなかった。

一人で出歩いても、友達と夜中まで遊び歩いても、命を狙われたことはなかった。

でも。

女神様の世界で長生きしようとするなら。

日本で暮らしていたときの感覚で、人生計画を練っても、実現できる日は来ない。

オレは、大公城の中を移動するときに、護衛を同行するようになった。

大公城の中でも外でも、オレは一人でいることを止めた。

日本にいたとき。

友達や家族といることはあっても、上下関係はなかった。

上下関係がある人と言うと、会社の上司くらい。

日本で生きていたときは、身分による上下関係なんて、無縁で生きていけた。

特殊な才能がなくても、平凡な生まれで、平凡な見た目でも。

平凡なオレが生きていく場所で、オレが生きていくことについて、何も問題がなかった。

なぜか、というと。

オレが生まれてから一人前になるまで、オレは家族や周りの人に守られていたから。

社会に出るようになってからのオレは、オレと同じように、日本に根を生やして働いて暮らしている人達の中にいた。

突出することなく、埋没して平穏な毎日をオレは生きていた。

今も日本にいたなら。

オレは、オレが非力だとか考えることはなかった。

恋人を作るときも、誰かと結婚するときも。

日本にいたのなら。

本人同士の同意や、家族や友達の祝福だけで、幸せな家庭を築けたと思う。

女神様の世界において。

オレは、英雄クロードの寵愛だけで大公妃になった男。

オレが、誰かに親切にしたり、問題を片付けたりして、感謝されるとき。

オレは、ケレメイン大公国の大公である英雄クロードの伴侶の大公妃ヒサツグとして感謝される。

オレ、という個人に対しての感謝ではない。

最初のうちは、大公妃として、オレが認められることを重視していたから、気づかなかった。

でも。

大公妃であるオレに感謝して協力的になったり、態度を軟化させたりしている人達の様子を見ているうちに、分かってきた。

途中から大公妃ヒサツグとして、オレの仕事ぶりを認めた人達からは、クロードの寵愛に相応しい大公妃との関係を良くしようという思惑が透けて見えた。

そういうこともあるよな、と分かっていても。

オレの言動から、オレ自身の味方を作れないことは、オレにとって、衝撃的で、痛手だった。

クロードに寵愛されている大公妃という肩書きがないオレは、歯牙にもかけられない。

大公妃という肩書きで味方になる人達を、オレの味方にカウントするわけにはいかない。

オレ自身の味方を作れないなら、オレに味方するのが当然になる仕組みを作るしかない。

クロードがいないとき。

クロードが倒れたとき。

クロードが俺より先に亡くなったとき。

クロードの寵愛というパワーをもってしても、オレを守れなくなるなる未来に備えよう。

オレとクロードは、そう決めた。

オレとクロードは、二人きり。

オレとクロードには、お互いしかいない。

オレが危機に陥ったときに、クロードもオレを助けられないほどの危機に陥っていた場合。

クロードの寵愛で大公妃になったヒサツグという男では、オレは捨て置かれる。

もし、ケレメイン大公国に、オレとクロード以外の貴族がいたら?

クロードが健在の間や、政治的な失態を演じていない間は、オレは大公妃として安穏としていられる。

だけど、クロードが体調を崩すようなことがあれば。

クロードの寵愛頼みの、異世界人の大公妃の権勢は一気に弱まる。

貴族につきものの、頼りにできる実家が、オレにはない。

オレは、身一つで、女神様の世界に来ている。

女神様の世界で生まれ育ち、ケレメイン大公国内にしっかりした地盤がある貴族が台頭してきたら?

オレは、どうなる?

クロードは、オレを守ろうとして、無茶をするはずだ。

女神様の世界は、王侯貴族の権力や権威が絶大。

人を殺したり、傷つけたりすること、誰かを騙したり、利用することへの抵抗感が、日本にいたときとは比較にならないくらいに薄い。

必要なら、という言葉で、正当化される。

どうにかされそうになった経験から、オレは自覚した。

オレは、女神様の世界の住人よりも非力だ。

元々、運動神経も良い方じゃない。

一対一でつかみ合いになろうものなら、オレは力で負ける。

オレとクロードは、二人で生きていくために、オレを害さない仕組みをケレメイン大公国に取り入れることにした。

国を治めるには、多くの人の協力がいる。

人の数だけ、人の感情があることも、オレとクロードは知っている。

この世界に来て、クロードと暮らし始めたオレは、この世界の人の悪意も善意も厚意も思惑も経験済み。

誰も裏切らないという前提で、人生の計画を立てないのが、親切だ。

裏切られることを前提にして、人が裏切らない仕組みを作って運用すれば、誰も傷つかない。

「ケレメイン大公国では、マウンテン王家の血筋を貴族として取り立てることはしない。

マウンテン王家以外もだ。

ケレメイン大公国に、私とヒサツグの二人以外、貴族は作らない。」
とクロード。

「マウンテン王国の王侯貴族としての生まれを誇りに思って生きることまでは否定しない。

ケレメイン大公国の国民は、私とヒサツグ以外は、貴族ではないということを、この場で再確認しておく。」
とクロード。

オレじゃなく、クロードが話すのは、クロードが英雄で、マウンテン王家の血を引くケレメイン大公だから。

「かつて、マウンテン王国の王侯貴族だったことは、ケレメイン大公国での貴族の地位を保証することにはならない。

ケレメイン大公国の貴族ではない、ということを自覚して振る舞い、貴族であると他者に誤認させる振る舞いは、慎むように。」
とクロード。

「貴族として、貴族らしく振る舞うことは止めておくように、ということですか。

私は一向に構いません。

私の伴侶とともに平民の生活を続けていきます。」
とギリギリ王族の司祭。

ミーレ長官とミーレ長官の奥様は、考え込んでいた。

「各々の人生経験を活かし、自分自身の人生経験や能力を仕事や生活に活かして生きることを私とヒサツグは望んでいるが、将来的にも、貴族として迎え入れることはしないと心得よ。」
とクロード。

ミーレ長官の奥様は、クロードの真意を探ろうとしていたが、クロードは、はっきりと断言する。

「ケレメイン大公国では、私とヒサツグ以外が貴族として生きていくことはない。

マウンテン王国の王侯貴族だったころのような貴族として復活する日を、ケレメイン大公国の国民が期待してはならない。

交流する者にも、貴族として復活すると期待させないようにせよ。」
とクロード。

オレ達は、ミーレ長官夫妻が了承の返事をするまで、誰も席を立たなかった。

オレ、クロード、ミーレ長官夫妻、司祭、医者の六人は、ミーレ長官夫妻が、了承の返事をしてから解散した。
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