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手伝いの作業は、かなり地道だった。
数万人の顧客リストを元データと照合し、確認していく。作業は二人一組になって、一人が読み上げ、一人がリストを確認する形で行われた。
作業に当たったのは、システム管理課10名全員とシステム企画課4名、そして春菜たちの計16名。その内、女性は春菜と林だけだった。
春菜にとっては、ありがたいのかそうでないのか、小野田への緊張など飛んでしまうくらいに単調で、神経を使う作業だ。20時を回ろうという頃、眠気が強くなった春菜を見て、小野田は苦笑した。
「一休みしようか。ミスしてもいけないし」
「でもーー」
「闇雲にやった方が効率がいいとは限らないよ。僕もお腹が空いたし、一度外へ出よう」
小野田は言って、野崎に断り、春菜の背中をたたいた。
春菜は立ち上がって小野田についていく。途端に空腹を感じて腹を押さえた。
小野田はそれに気づいたのか、ふわりと微笑んだ。
「お腹すいたね。何が食べたい?ゆっくりはできないけど、せっかくだから少し美味しいものを食べよう」
「……あ。私、今小銭しか持ってません。デスクに一度戻ってもいいですか?」
頷きかけた春菜は、自分の所持物がズボンの小さいポケットに入った小銭入れと携帯だけであることに気づいて言った。
「いいよ。僕が奢るよ」
「でも。申し訳ないです」
「いいから。奢らせて」
小野田の言い方はやんわりしていたが、反論の意味はなさそうだった。仕事でも時々見せる頑固さを知っている春菜は、おとなしく従うことにした。
「ありがとうございます」
「うん」
小野田はずいぶんと機嫌がよくなった。
「で、何食べたい?洋食?和食?それとも……何があったかな。僕いつもラーメンか蕎麦しか食べないから」
歩きながら言うその声は浮き立っている。そんなに夕飯をとれるのが嬉しいのか、と春菜は思いながら考えた。
ランチで花梨と行ったのはスパゲティー屋だったので、お米が食べたい。
「和食がいいです。定食屋さんにしましょう」
それを聞いて、小野田が笑った。
「女性って、洋食屋さんが好きかと思ってた」
「今日のランチがスパゲティーだったんで。課長は洋食がよかったですか?」
「いや。小松さんの食べたいものでいいよ」
小野田の優しい瞳が春菜を映す。
思い切りその笑顔を見た春菜は、思い出したように赤面した。
数万人の顧客リストを元データと照合し、確認していく。作業は二人一組になって、一人が読み上げ、一人がリストを確認する形で行われた。
作業に当たったのは、システム管理課10名全員とシステム企画課4名、そして春菜たちの計16名。その内、女性は春菜と林だけだった。
春菜にとっては、ありがたいのかそうでないのか、小野田への緊張など飛んでしまうくらいに単調で、神経を使う作業だ。20時を回ろうという頃、眠気が強くなった春菜を見て、小野田は苦笑した。
「一休みしようか。ミスしてもいけないし」
「でもーー」
「闇雲にやった方が効率がいいとは限らないよ。僕もお腹が空いたし、一度外へ出よう」
小野田は言って、野崎に断り、春菜の背中をたたいた。
春菜は立ち上がって小野田についていく。途端に空腹を感じて腹を押さえた。
小野田はそれに気づいたのか、ふわりと微笑んだ。
「お腹すいたね。何が食べたい?ゆっくりはできないけど、せっかくだから少し美味しいものを食べよう」
「……あ。私、今小銭しか持ってません。デスクに一度戻ってもいいですか?」
頷きかけた春菜は、自分の所持物がズボンの小さいポケットに入った小銭入れと携帯だけであることに気づいて言った。
「いいよ。僕が奢るよ」
「でも。申し訳ないです」
「いいから。奢らせて」
小野田の言い方はやんわりしていたが、反論の意味はなさそうだった。仕事でも時々見せる頑固さを知っている春菜は、おとなしく従うことにした。
「ありがとうございます」
「うん」
小野田はずいぶんと機嫌がよくなった。
「で、何食べたい?洋食?和食?それとも……何があったかな。僕いつもラーメンか蕎麦しか食べないから」
歩きながら言うその声は浮き立っている。そんなに夕飯をとれるのが嬉しいのか、と春菜は思いながら考えた。
ランチで花梨と行ったのはスパゲティー屋だったので、お米が食べたい。
「和食がいいです。定食屋さんにしましょう」
それを聞いて、小野田が笑った。
「女性って、洋食屋さんが好きかと思ってた」
「今日のランチがスパゲティーだったんで。課長は洋食がよかったですか?」
「いや。小松さんの食べたいものでいいよ」
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