期待外れな吉田さん、自由人な前田くん

松丹子

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第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。

06 私の萌えを侮辱するなど……断じて許せぬ!

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「サリーちゃん、ゲームの経験もないし、ネタなんて考えられなーいって言ってたのに、すごい熱入ってたね!」
 デスクに戻った私の肩をぽんとたたいて来たのは、なっちゃんこと杉田奈津子さん。三期先輩なのだけど、大学を一浪しているのと、転職者じゃないので年齢が一緒で、割と仲良しである。
 そう、実は私は転職組で、最初普通の?大手商社に就職した。それなりに評価はされていたんだけど、働いている内につまらなくってつまらなくって、四年勤めた後、現在の会社に転職したのだ。どうせ社畜になるなら夢を生み出す会社の社畜になろうと思った私。今考えてもなかなか病んでいるが、予定通り順調に社畜としての人生を歩んでいるのでもはや笑えない。
 さてなっちゃんに話を戻すと、彼女は今回のプレゼンのライバルでもあった。日本史を専攻していたらしく、歴史上の人物を題材にした世界設定を提案していた。これがやりたくて入ったようなものよと笑っていたくらいだ。その世界設定、いわゆる南北朝時代。宮内庁的な意味でちょっとアウトな気がする設定だったので本人も駄目元だと言っていたが、大変楽しそうにプレゼンしていた。
「うん……まあその」
 もにょもにょと曖昧に頷くと、なになに?と顔を覗き込んで来る。
「もしかしてリアルにいる人題材にしたり?」
 私は盛大に目を反らした。
「それ以上聞かないでお願い」
「えええ、いいじゃなーい教えてよぉ」
 互いに全力を尽くしたライバルでしょうと肩を叩かれる。だってそんなつもりなかったのにと私も泣きそうである。
「そういえば時々スマホの画像眺めてニヤニヤしてるよね。彼氏かと思ってたけど」
 元カレは見てニヤニヤするようなイカした容姿じゃなかった。そもそもスマホに写真入ってないわそういえば。
「いやぁ……その」
 適当にごまかそうと思ったけど、佐々マネが横から笑う。
「そういや、既婚者がどうのとか言ってたね、さっき」
「あああああ!」
 よりによってこのタイミングでそれ言っちゃうの!佐々マネの言葉を遮ろうというつもりの雄叫びは、全く意味を成してなかった。
「ふぅん」
 近づいてきたのはさっきの眼鏡男子である。
「吉田さん、不倫してるんだ。意外」
「違うわぁあああ!!」
 全力で否定する。ばあんと机をたたいて立ち上がった。愛しのマサトさんとアヤノさんを汚される訳には行かないのである。
「不倫する余地もありませんっ!」
「あ、そういう意味の否定?」
 拳を握った私の言葉に、みんなのツッコミが入る。え?それ以外に言いようがあったっけ?と思わず脳内検索をかけている内に、なっちゃんが手を出した。
「じゃ、見せて」
 当然見せてもらえるものと言わんばかりの態度と大変よい笑顔に思わず頷きかける。危ない危ない。見事に釣られるところだった。こやつ、なかなかやりよるな。
「個人情報なので公開できません」
「ええー。いいじゃーんいいじゃーん。素敵な人なんでしょー」
「そりゃあもう語りはじめたら日が暮れる程に素敵ですけど!萌えますけど!」
 好きなアイドルについて語る女子高生並のテンションで語る私を、眼鏡男子が白い目で見ている。
「……どんだけ好きなの」
「す、好きって、いや好きだけど……ちょっと照れる」
 思わず赤面する私に笑うなっちゃんとあきれる眼鏡男子。っていうかさ、眼鏡男子、あんた一体何者よ!自分の部署に帰れよ!企画部の人間じゃないだろ!
「じゃあ、前田くん。そういう訳でよろしくね。吉田さんもプロジェクトチームの仲間入りだよ」
 佐々マネが笑顔で言った。プロジェクトチーム?どういうこっちゃ。
「今回のゲームの制作チーム。俺はSEメンバーの取り纏め役。よろしくね。吉田さん」
 淡々と自己紹介をする眼鏡男子の目からは相変わらず表情が伝わってこない。が、私の名前の部分を発声するときになんとなく棘を感じて眉を寄せた。
 もしかして知り合い?さっき佐々マネが前田くんとか言ってたっけ。前田前田……
 脳内検索の結果、該当するページはありません。ノットファウンド。
 結局首を傾げたまま突っ立っていると、眼鏡男子は心底あきれたような嘆息を残して去って行ったのだった。
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