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第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。
14 コントでも夫婦漫才でも仲良しでもないと全力で主張したい。
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同期会は週末の夜に開催された。主催を買って出たレイラちゃんの他、女子一人、男子二人、そして私で会社近くの飲み屋に集まる。
レイラちゃん以外はやっぱりお互いうろ覚えで、ほとんど初対面みたいな挨拶を交わした。
「覚えてないよねー、部門違うと」
「だよね。話す機会もなかったし」
「ああよかった。うろ覚えなの、私だけじゃなくて」
ほっと胸を撫で下ろしながら苦笑する。ちなみに女子は柳生芽衣ちゃん、男子は尾木くんと植木くん。心中で、もくもくコンビと名付けてみた。
「覚えてないって言ったら、SEの前田くんに呆れられちゃってさぁ。その言いぶりが散々だったんだよね」
「え?前田ってフリーダム?」
「ああ自由な感じのね」
「むしろ、前田は吉田さんのこと覚えてたの?」
メイちゃんともくもくコンビは顔を見合わせながら口々に言う。私が首を傾げつつ頷くと、
「あの人、他人に関心持つことあるんだ」
「ね。知らなかった。俺、最近ようやく顔と名前覚えてもらったよ」
「えー。私、いまだに覚えられてないと思う」
これはまたなかなかのディスり具合である。いや事実なのか。事実だからこそ他人事とはいえ胸に刺さる。でもかわいそうなのは前田じゃないよね。覚えてもらえないこの子たちの方だよね。どんだけ他人に無関心だってんだあいつ。
レイラちゃんがスマホを見た。
「前田くん、そろそろ来るって」
「お、噂をすれば」
「飲み物頼んでおこうか」
「吉田さん気が効くー」
私は手を上げて店員さんを呼んだ。
しばらくすると、見知った顔が現れた。レイラちゃんが声をあげる。
「あー、来た来た!フリーダム!」
「……その呼び方やめてよ」
心底嫌そうな顔で言いながら、前田は勧められるままに私の隣に腰掛ける。しまった。隣開けておいたの間違いだった。
しかし後悔先に立たず。ここは腹をくくるしかない。大人の女の対応をしよう。と、社会人モードを発動して穏やかに声をかける。
「ビール頼んでおいたけど。他の飲むなら私がもらうよ」
「え?ああ、それでいい」
前田はちらりと目線を私に向けたかと思えば、すぐに前方に戻した。
ちょっとむっとして顔を覗き込む。
「ねえ。お礼言ってくれれば聞いてあげないこともないけど」
「何その上から目線。しかも意味わかんない」
「いっつも上から目線されてる気がするから仕返し」
強気に出てみると、前田は私の顔をまじまじと見て、深ー々吐息を吐き出した。
何か言うかと思えば、そのまま黙り込む。
「……おいこら何か言えや」
「え?いや、なんか面倒くさくなった」
「な、んだとー!?」
こっちをちらりとも見ようとしない前田に苛立つ。一応遠慮して衿元は避け、肩をつかんでみる。自然近づく距離に前田が眉を寄せた。
「あのさあ、吉田さん」
「何よ」
「もうちょっと、落ち着いた方がいいんじゃないの」
ーーんなこと、あんたに言われんでも分かってるわ!
「あああイラッとする!何前田!ほんと何前田!何様俺様前田様のつもり!?」
「出た吉田節」
「私はモノノフじゃない!」
「いやそっちのブシじゃないよ」
私たちの言い合いに、他のメンバーはぽかんとしていたと思ったら噴き出した。
「え、これコント?」
「夫婦漫才的な?」
「いつの間にそんなに仲良くなったのー」
「どこを!どう見て!仲良しだと!!」
バンバンとテーブルを叩くが、前田は呆れた顔でビールを持ち上げ口をつける。
「って人のビール飲むなぁああ!!」
「え?頼んでおいてくれたんでしょ。これ、違うの?」
「それは私のだっつーの!!どう見ても飲みかけでしょうが!」
今度こそ遠慮なく衿元を掴んだとき、店員さんがビールジョッキを持ってきた。
「あ、来たよ吉田さん」
「え?」
「新しいの飲めば。これ俺口つけちゃったから」
店員さんからジョッキを受け取り、前田が私にハイと渡した。
まあ確かに、そこであえて元のジョッキを戻してもらう必要もない。
「くっ……」
私は唇を尖らせたままそれを受けとるが、前田の言うことをきいたような感覚が大変、大っっ変、不快である。
その私の様子を見て、前田がふん、と鼻を鳴らす。
「吉田さんて」
「……何よ」
「何でもない」
気ーにーなーるー。
ああもうほんとこいつほんと腹立つ。何なんだろうほんとやだ。
募るイライラと戦っている私をそっちのけで、レイラちゃんが再度乾杯の号令をした。
レイラちゃん以外はやっぱりお互いうろ覚えで、ほとんど初対面みたいな挨拶を交わした。
「覚えてないよねー、部門違うと」
「だよね。話す機会もなかったし」
「ああよかった。うろ覚えなの、私だけじゃなくて」
ほっと胸を撫で下ろしながら苦笑する。ちなみに女子は柳生芽衣ちゃん、男子は尾木くんと植木くん。心中で、もくもくコンビと名付けてみた。
「覚えてないって言ったら、SEの前田くんに呆れられちゃってさぁ。その言いぶりが散々だったんだよね」
「え?前田ってフリーダム?」
「ああ自由な感じのね」
「むしろ、前田は吉田さんのこと覚えてたの?」
メイちゃんともくもくコンビは顔を見合わせながら口々に言う。私が首を傾げつつ頷くと、
「あの人、他人に関心持つことあるんだ」
「ね。知らなかった。俺、最近ようやく顔と名前覚えてもらったよ」
「えー。私、いまだに覚えられてないと思う」
これはまたなかなかのディスり具合である。いや事実なのか。事実だからこそ他人事とはいえ胸に刺さる。でもかわいそうなのは前田じゃないよね。覚えてもらえないこの子たちの方だよね。どんだけ他人に無関心だってんだあいつ。
レイラちゃんがスマホを見た。
「前田くん、そろそろ来るって」
「お、噂をすれば」
「飲み物頼んでおこうか」
「吉田さん気が効くー」
私は手を上げて店員さんを呼んだ。
しばらくすると、見知った顔が現れた。レイラちゃんが声をあげる。
「あー、来た来た!フリーダム!」
「……その呼び方やめてよ」
心底嫌そうな顔で言いながら、前田は勧められるままに私の隣に腰掛ける。しまった。隣開けておいたの間違いだった。
しかし後悔先に立たず。ここは腹をくくるしかない。大人の女の対応をしよう。と、社会人モードを発動して穏やかに声をかける。
「ビール頼んでおいたけど。他の飲むなら私がもらうよ」
「え?ああ、それでいい」
前田はちらりと目線を私に向けたかと思えば、すぐに前方に戻した。
ちょっとむっとして顔を覗き込む。
「ねえ。お礼言ってくれれば聞いてあげないこともないけど」
「何その上から目線。しかも意味わかんない」
「いっつも上から目線されてる気がするから仕返し」
強気に出てみると、前田は私の顔をまじまじと見て、深ー々吐息を吐き出した。
何か言うかと思えば、そのまま黙り込む。
「……おいこら何か言えや」
「え?いや、なんか面倒くさくなった」
「な、んだとー!?」
こっちをちらりとも見ようとしない前田に苛立つ。一応遠慮して衿元は避け、肩をつかんでみる。自然近づく距離に前田が眉を寄せた。
「あのさあ、吉田さん」
「何よ」
「もうちょっと、落ち着いた方がいいんじゃないの」
ーーんなこと、あんたに言われんでも分かってるわ!
「あああイラッとする!何前田!ほんと何前田!何様俺様前田様のつもり!?」
「出た吉田節」
「私はモノノフじゃない!」
「いやそっちのブシじゃないよ」
私たちの言い合いに、他のメンバーはぽかんとしていたと思ったら噴き出した。
「え、これコント?」
「夫婦漫才的な?」
「いつの間にそんなに仲良くなったのー」
「どこを!どう見て!仲良しだと!!」
バンバンとテーブルを叩くが、前田は呆れた顔でビールを持ち上げ口をつける。
「って人のビール飲むなぁああ!!」
「え?頼んでおいてくれたんでしょ。これ、違うの?」
「それは私のだっつーの!!どう見ても飲みかけでしょうが!」
今度こそ遠慮なく衿元を掴んだとき、店員さんがビールジョッキを持ってきた。
「あ、来たよ吉田さん」
「え?」
「新しいの飲めば。これ俺口つけちゃったから」
店員さんからジョッキを受け取り、前田が私にハイと渡した。
まあ確かに、そこであえて元のジョッキを戻してもらう必要もない。
「くっ……」
私は唇を尖らせたままそれを受けとるが、前田の言うことをきいたような感覚が大変、大っっ変、不快である。
その私の様子を見て、前田がふん、と鼻を鳴らす。
「吉田さんて」
「……何よ」
「何でもない」
気ーにーなーるー。
ああもうほんとこいつほんと腹立つ。何なんだろうほんとやだ。
募るイライラと戦っている私をそっちのけで、レイラちゃんが再度乾杯の号令をした。
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