16 / 85
第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。
16 浮かんだ疑問に答えが出ないまま次の疑問が湧くのって精神衛生上あんまりよくない気がする。
しおりを挟む
「吉田さんて、女子大出身て聞いたしお嬢様系かと思ってたけど、話すと面白いんだね」
植木くんが気弱そうな顔を笑ませて言った。いかにももやしっ子な感じのひょろりとした容姿である。
「あーっと……よく言われる」
今まで言われた数々の言葉を思い出し、ついつい目を反らした。得に男子からは、あんまりいい意味で言われた経験がないので気まずく思っていると、前田が横でふんと鼻を鳴らす。
「……何よ」
また何か言われるのかと身構えつつ半眼を向けると、
「いや、別に」
黙ってグラスを傾けかけ、何も入っていないと気づいて私の梅酒に手をかけた。かと思えば、
「こらこらっ」
人の制止も聞かずに飲み干す。
「甘っ」
「じゃあ飲まなければいいでしょうよ!」
ドリンクメニューを手に取ると、何飲もうかなとぼやく。何よ一体何なのよ!
「俺、レモンサワー。吉田さんは?」
「あんたねー」
「梅酒?モスコミュールとかもあるけど。好きじゃなかったっけ?」
「まああれば飲むけど……」
「じゃそれね」
前田は淡々と言って店員さんを呼んだ。この人何考えてるか全然わかんない。呆れ返っている私をそっちのけで、レモンサワーとモスコミュールを頼む。
「……ありがとう」
悔しいけど、一仕事してくれたんだからお礼は言わないとね。そう思って呟くと、
「どういたしまして」
期待してなかった返事があった。
気付けば植木くんはもうメイちゃんたちと話し始めていて、すっかり私との会話は終わってしまっている。
そのことにわずかにホッとしていると、前田が言った。
「吉田さんてさ」
先ほどよりも肩の力を抜いて、前田の横顔を見やる。
「分かりやすいよね」
私は戸惑った。今、このタイミングで言われても、それは何を意味しているんだろう。
「プレゼンの日さ、何かあったんでしょ」
言いながら、前田は枝豆を口に含んだ。ぷちぷちと口の中に豆を出し、もぐもぐとかみ砕く。私は目を反らした。
やっぱバレてた?でも何でほとんど会ったこともないこいつにバレるわけ。いやむしろ、それでバレるってことは他の人たちには丸分かり?え、じゃあもしかして私の案を採用してくれたのって同情的な何か?
「お待たせしましたー!飲み物、お持ちしました」
私の脳内で軽い混乱が発生していると、店員さんが飲み物を運んで来てくれた。二つのグラスを受け取った前田は、一つを私に差し出す。私はそれを黙って受け取り、口元に持って行った。
爽やかな甘味と炭酸の刺激が口中に広がる。
ーーっていうか、何でモスコミュール好きなの知ってんの?
その味を感じてようやく気づき、口を開きかけたとき、前田が私を静かに見つめているのに気づいた。
「ーー彼氏に振られたとか?」
黒ぶち眼鏡の奥にある瞳は、あまりに静かすぎて感情が読み取れない。
「あんたには関係ないでしょ」
うろたえた私は目をさ迷わせ、せめてもの強がりを口にした。
前田の視線がふっと緩む。
「……まあ、そうかもね」
ーー何なの。
こいつといると、調子が狂う。
それが悔しくて、目の前の焼鳥を二本、一気に掴むと口に運ぶ。
横の前田があきれ顔で私を見ていた。
植木くんが気弱そうな顔を笑ませて言った。いかにももやしっ子な感じのひょろりとした容姿である。
「あーっと……よく言われる」
今まで言われた数々の言葉を思い出し、ついつい目を反らした。得に男子からは、あんまりいい意味で言われた経験がないので気まずく思っていると、前田が横でふんと鼻を鳴らす。
「……何よ」
また何か言われるのかと身構えつつ半眼を向けると、
「いや、別に」
黙ってグラスを傾けかけ、何も入っていないと気づいて私の梅酒に手をかけた。かと思えば、
「こらこらっ」
人の制止も聞かずに飲み干す。
「甘っ」
「じゃあ飲まなければいいでしょうよ!」
ドリンクメニューを手に取ると、何飲もうかなとぼやく。何よ一体何なのよ!
「俺、レモンサワー。吉田さんは?」
「あんたねー」
「梅酒?モスコミュールとかもあるけど。好きじゃなかったっけ?」
「まああれば飲むけど……」
「じゃそれね」
前田は淡々と言って店員さんを呼んだ。この人何考えてるか全然わかんない。呆れ返っている私をそっちのけで、レモンサワーとモスコミュールを頼む。
「……ありがとう」
悔しいけど、一仕事してくれたんだからお礼は言わないとね。そう思って呟くと、
「どういたしまして」
期待してなかった返事があった。
気付けば植木くんはもうメイちゃんたちと話し始めていて、すっかり私との会話は終わってしまっている。
そのことにわずかにホッとしていると、前田が言った。
「吉田さんてさ」
先ほどよりも肩の力を抜いて、前田の横顔を見やる。
「分かりやすいよね」
私は戸惑った。今、このタイミングで言われても、それは何を意味しているんだろう。
「プレゼンの日さ、何かあったんでしょ」
言いながら、前田は枝豆を口に含んだ。ぷちぷちと口の中に豆を出し、もぐもぐとかみ砕く。私は目を反らした。
やっぱバレてた?でも何でほとんど会ったこともないこいつにバレるわけ。いやむしろ、それでバレるってことは他の人たちには丸分かり?え、じゃあもしかして私の案を採用してくれたのって同情的な何か?
「お待たせしましたー!飲み物、お持ちしました」
私の脳内で軽い混乱が発生していると、店員さんが飲み物を運んで来てくれた。二つのグラスを受け取った前田は、一つを私に差し出す。私はそれを黙って受け取り、口元に持って行った。
爽やかな甘味と炭酸の刺激が口中に広がる。
ーーっていうか、何でモスコミュール好きなの知ってんの?
その味を感じてようやく気づき、口を開きかけたとき、前田が私を静かに見つめているのに気づいた。
「ーー彼氏に振られたとか?」
黒ぶち眼鏡の奥にある瞳は、あまりに静かすぎて感情が読み取れない。
「あんたには関係ないでしょ」
うろたえた私は目をさ迷わせ、せめてもの強がりを口にした。
前田の視線がふっと緩む。
「……まあ、そうかもね」
ーー何なの。
こいつといると、調子が狂う。
それが悔しくて、目の前の焼鳥を二本、一気に掴むと口に運ぶ。
横の前田があきれ顔で私を見ていた。
0
あなたにおすすめの小説
花の精霊はいじわる皇帝に溺愛される
アルケミスト
恋愛
崔国の皇太子・龍仁に仕える女官の朱音は、人間と花仙との間に生まれた娘。
花仙が持つ〈伴侶の玉〉を龍仁に奪われたせいで彼の命令に逆らえなくなってしまった。
日々、龍仁のいじわるに耐えていた朱音は、龍仁が皇帝位を継いだ際に、妃候補の情報を探るために後宮に乗り込んだ。
だが、後宮に渦巻く、陰の気を感知した朱音は、龍仁と共に後宮の女性達をめぐる陰謀に巻き込まれて……
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。
実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。
それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。
ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。
目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。
すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。
抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……?
傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに
たっぷり愛され甘やかされるお話。
このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。
修正をしながら順次更新していきます。
また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。
もし御覧頂けた際にはご注意ください。
※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。
わたしの愉快な旦那さん
川上桃園
恋愛
あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。
あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。
「何かお探しですか」
その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。
店員のお兄さんを前にてんぱった私は。
「旦那さんが欲しいです……」
と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。
「どんな旦那さんをお望みですか」
「え、えっと……愉快な、旦那さん?」
そしてお兄さんは自分を指差した。
「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」
そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
完 弱虫のたたかい方 (番外編更新済み!!)
水鳥楓椛
恋愛
「お姉様、コレちょーだい」
無邪気な笑顔でオネガイする天使の皮を被った義妹のラテに、大好きなお人形も、ぬいぐるみも、おもちゃも、ドレスも、アクセサリーも、何もかもを譲って来た。
ラテの後ろでモカのことを蛇のような視線で睨みつける継母カプチーノの手前、譲らないなんていう選択肢なんて存在しなかった。
だからこそ、モカは今日も微笑んだ言う。
「———えぇ、いいわよ」
たとえ彼女が持っているものが愛しの婚約者であったとしても———、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる