期待外れな吉田さん、自由人な前田くん

松丹子

文字の大きさ
17 / 85
第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。

17 好きだから、だけじゃ許されないこともあるのはちゃんと分かってる。

しおりを挟む
「サリーちゃんて、元々の志望もおもちゃ部門でしょ。雰囲気違うし話題も違うし、大変じゃない?」
 気遣う言葉をくれたのはメイちゃんだ。私はここぞとばかりに頷く。
「そうなんだよー。声優の話とかゲームとかアニメのキャラとか、話されてもわかんなくて」
 私の言葉にレイラちゃんがはっとする。
「異文化だわ~。それでよく頑張れるね」
 逆に私、声優萌え語れないなんて無理無理、と本気の顔で手を振った。メイちゃんがその横から身を乗り出す。
「えー、でも何かないの?語ってたら興奮してきちゃうもの」
「あるでしょ」
 横から知った口をきくのはもちろん前田だ。
 こやつめ、私のことなど気に留めてない風にしながら、何故ちょいちょい口を出すのだ。
「あるといえばある、かなぁ」
 ごまかそうとした私の代わりに、
「不倫する余地もないほど愛妻家のイケメン」
 さらり、と口にしてまたグラスを傾ける。
「……でしょ?」
 だから、なんであんたが言うのよ。
 むっとして睨みつけるが、前田は知らん顔だ。
「えー!三次元!?しかもアイドルとかじゃないんだ」
 驚くポイントがそこ?
「いや、でも下手なアイドルよりかっこいいから。マジで」
「そんなにぃ?」
「そんなに!」
 私は思わず鼻息も荒く身を乗り出した。始まったよとでも言うように前田が半眼を向けて来るが、無視無視。だいたい話を繋いだのはあんたでしょ。
「大学のサークル仲間のお兄さんで、二児のパパなんだけどね。今37かな。もー醸し出る色気が!」
 たまんないのよー!とバシバシ机をたたいていると、
「そんなに好きならさ」
 前田は言った。
「呼んだら?ファミリーデー」
 私ははっとして前田の方を振り向いた。
「……前田」
「な……なに?」
 たじろぐ前田の手を取り、握りしめる。
「たまにはいいこと言うじゃん!」
 握りしめたままの手をぶんぶん振ってから、気持ちに任せて肩をたたいた。
 ファミリーデーとは、毎年8月に開催される社内イベントだ。家族や、親しい関係の子どもを招待し、全社挙げて楽しませる。おもちゃやゲームを作る我が社の社員にとっては子どもたちの喜ぶ顔を見られてモチベーションにもなり、メインイベントの一つとも言える。
「私も会える上、日頃お世話になってるお礼にもなって、一石二鳥じゃないー!!」
 バシバシ肩を叩き続ける私の手を、前田は嫌そうな顔で払った。
「えー、写真とかないの?見たい見たいー!」
「え、うーん、ちょっとだけだよ」
 酒の勢いも手伝って、ついついスマホを取り出した。画面を操作しお気に入りの一枚を出す。
「うわ、マジでイケメン」
「でしょでしょー」
 レイラちゃんとメイちゃんがスマホ画面を覗き込んで目を輝かせる姿に、誇らしげに頷く。自分の顔がデレデレなのが分かるが仕方ない。
 写真は長男の悠人くんを抱えている写真だ。背の高い向日葵の花に触りたがり、マサトさんが悠人くんを抱き上げた。
「でもむしろ私はショタ萌えー」
 メイちゃんが頬を押さえた。確かに悠人くんも将来が楽しみな顔をしているので気持ちは分かる。
「えー、じゃあこれはどうだ」
 次のお気に入りの一枚を探していると、何枚持ってんの、盗撮じゃないよね?と前田のツッコミが入るが気にしない。ふふん、この華麗なるスルースキル、とくとご覧あれ。
「ほらっ」
 写真は料理中のマサトさんに(そう、マサトさんは料理もできるのである!)スープの味を確認する妻アヤノさんのツーショットだ。マサトさんはアヤノさんが差し出したスプーンをくわえようと口を開けている。
 実はこの写真、撮った後でさすがに半眼を向けられたのだが、その直後アヤノさんがスープをこぼして大混乱になったので追求を免れたという裏エピソードがある。
 そう、このフォルダ内のコレクションも私なりにいろいろ苦労して手に入れたものなのだーー
 ……前田には絶対教えられないけど。
「ちょ、しかも奥さん美人」
「綺麗なお姉さん大好きです!」
「でしょでしょぉー!!もー素敵な夫婦なんだよー!」
 女子三人の盛り上がりに、男子三人はついて来れないらしい。思い思いに飲み物や食べ物をつまんでいる。
「はぁー。見てたら会いたくなっちゃった」
 切ないため息をつくと、隣の前田が噴き出した。
「何よ」
「いや……なんだかあまりに不釣り合いだったから」
 げほげほとむせながら前田が口にした言葉に、私は渋面を作った。
「私だって一応オトメの部類なんですけど」
「生物学上女であることがイコール乙女ではないと思う」
 間髪入れぬ前田の返し文句に、私は無言でその後ろ頭をひっぱたいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

花の精霊はいじわる皇帝に溺愛される

アルケミスト
恋愛
崔国の皇太子・龍仁に仕える女官の朱音は、人間と花仙との間に生まれた娘。 花仙が持つ〈伴侶の玉〉を龍仁に奪われたせいで彼の命令に逆らえなくなってしまった。 日々、龍仁のいじわるに耐えていた朱音は、龍仁が皇帝位を継いだ際に、妃候補の情報を探るために後宮に乗り込んだ。 だが、後宮に渦巻く、陰の気を感知した朱音は、龍仁と共に後宮の女性達をめぐる陰謀に巻き込まれて……

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」  出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。  冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?  

幸せのありか

神室さち
恋愛
 兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。  決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。  哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。  担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。  とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。 視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。 キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。 ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。 本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。 別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。 直接的な表現はないので全年齢で公開します。

イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団の異色男子 ジャスティン・レスターの意外なお話 矢代木の実(23歳) 借金地獄の元カレから身をひそめるため 友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ 今はネットカフェを放浪中 「もしかして、君って、家出少女??」 ある日、ビルの駐車場をうろついてたら 金髪のイケメンの外人さんに 声をかけられました 「寝るとこないないなら、俺ん家に来る? あ、俺は、ここの27階で働いてる ジャスティンって言うんだ」 「………あ、でも」 「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は… 女の子には興味はないから」

わたしの愉快な旦那さん

川上桃園
恋愛
 あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。  あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。 「何かお探しですか」  その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。  店員のお兄さんを前にてんぱった私は。 「旦那さんが欲しいです……」  と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。 「どんな旦那さんをお望みですか」 「え、えっと……愉快な、旦那さん?」  そしてお兄さんは自分を指差した。 「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」  そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの

処理中です...