21 / 85
第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。
21 サリーちゃんと同期の仲間たち!
しおりを挟む
受付の波が落ち着いたので、片付けられるものを片付けようと、段ボールにつめこんで事務室へ向かった。段ボールは上の蓋が開いたままで、中のものが若干見えている。
マサトさんと会えた私はご機嫌も甚だしく鼻歌混じりのテンションである。
だって肩に二回も触ってもらっちゃったもんね。うふ。
「サリーちゃん、ご機嫌だね」
荷物は重くはないのだが、前がよく見えない。後ろからレイラちゃんに声をかけられ、笑顔で振り返った。
「そりゃーもう。憧れの人と会えたから~」
語尾はほとんど歌わんばかりである。レイラちゃんは楽しげに笑った。
「私もさっき見かけたよ、例のイケメン。確かにサリーちゃんが言うのも分かる気はした」
言いながら私に近づいて来たかと思えば、耳元で低く囁いた。
「ーーあれは受けだな」
ちょっと待て。
「あの一体何を言ってるんでしょうか」
「だからぁ。サリーちゃんの憧れの人が受けで、もう一人の男の人ーーあれが大学の友達?弟って言ってたっけ。あの人が攻め」
うわぁあ女子の妄想怖いよぅ、怖いこと言ってるよぅ。
思わず顔が青くなっていく私を見て、レイラちゃんが噴き出す。
「そういう妄想しちゃうくらい、素敵な人たちだったよ」
それって褒められてるんでしょうかどうなんでしょうか。
「いやー、リアルでも妄想できちゃうような知人、いいねぇ。見てるだけで萌えだねぇ」
レイラちゃんは大変満足げだが、とりあえず、本人たちには絶対に言うまい、と私は心に誓った。
「吉田さん、手伝うよ」
レイラちゃんと別れて歩いていると、声に振り向く間もなく、手元の荷物が軽くなった。見やると同期の尾木くんだ。
「あー、ありがとう」
答えつつ、あんまりありがたがっている訳ではない。力仕事は嫌いじゃないし、大学では女子ばかりだったからどんな仕事も当然女子がやっていた。そういう場所に慣れていると、こういう女扱いはむしろ違和感を覚えるようにすらなる。
女らしいと言われる容姿とは裏腹に、私は多分、か弱さとか、そういう要素を持ち合わせていない。精神的にも、体力的にも。
でも、今まで出会った男の人たちは、大概私の外見から勝手に理想の女性像をイメージして、近づいてみてやっぱり理想と違ったと言って去っていくのである。
だから私、思うのよね。いわゆるギャップ萌え、なんて、結局自分の都合のいい方へのギャップでなければポイントにならない。つまり加点方式でなければいけないわけ。で、私の場合にはそれが減点方式になってしまうのである。なんという損な性分。
でも、私はこんな自分がそんなに嫌いじゃない。だいたいのことは笑って終わりにできる自分はなかなか捨てたもんじゃないと思う。
そんなことを考えながら尾木くんの隣を歩いていたが、尾木くんはなんとなく緊張しているのが分かった。そこまで鈍感でも、経験が少ない訳でもない私は、ああ面倒だなと感じる。
いや、尾木くんが面倒な訳じゃなくてね。多分この人も私に勝手な幻想を抱いているんだろうと思うから面倒なんであって、ある意味それって自分の面倒くささなのかもしれない。
さてこういうときは、いかにすれば彼の中の私のイメージを払拭できるか考えつつ会話をしてしまうのが私である。でもこの前の飲み会は割と素だったのになぁ。私がおしゃべりなのはバレてるハズ。
「尾木くんは、今日はどこの担当なの?」
そういえば尾木くんもSEだったと思い出しつつ言う。
「え、ええと、道案内役だったけど、今代わったとこ」
「道案内だと、トイレも行けないもんねぇ」
「うん」
尾木くんは中肉中背、SEにしては珍しく眼鏡をしていない。
「あ、荷物ここ」
私が事務室を指差してドアを開けた。尾木くんも一緒に入ってくる。
「ありがとー、助かった」
とは、もちろん社交辞令だ。尾木くんは嬉しそうに微笑んだ。
「うん。吉田さんはまた受付に戻るの?」
「そうだね。入口周辺にいるかな」
「そっか。俺、これからプログラミング体験のコーナー」
「ああ、そういうのもあったね。がんばってねー」
尾木くんは手を挙げて去って行った。私はホッと息をつく。
「あーあ」
あんまり近づかないようにしとこ。思いながら後ろ頭をかいた。
マサトさんと会えた私はご機嫌も甚だしく鼻歌混じりのテンションである。
だって肩に二回も触ってもらっちゃったもんね。うふ。
「サリーちゃん、ご機嫌だね」
荷物は重くはないのだが、前がよく見えない。後ろからレイラちゃんに声をかけられ、笑顔で振り返った。
「そりゃーもう。憧れの人と会えたから~」
語尾はほとんど歌わんばかりである。レイラちゃんは楽しげに笑った。
「私もさっき見かけたよ、例のイケメン。確かにサリーちゃんが言うのも分かる気はした」
言いながら私に近づいて来たかと思えば、耳元で低く囁いた。
「ーーあれは受けだな」
ちょっと待て。
「あの一体何を言ってるんでしょうか」
「だからぁ。サリーちゃんの憧れの人が受けで、もう一人の男の人ーーあれが大学の友達?弟って言ってたっけ。あの人が攻め」
うわぁあ女子の妄想怖いよぅ、怖いこと言ってるよぅ。
思わず顔が青くなっていく私を見て、レイラちゃんが噴き出す。
「そういう妄想しちゃうくらい、素敵な人たちだったよ」
それって褒められてるんでしょうかどうなんでしょうか。
「いやー、リアルでも妄想できちゃうような知人、いいねぇ。見てるだけで萌えだねぇ」
レイラちゃんは大変満足げだが、とりあえず、本人たちには絶対に言うまい、と私は心に誓った。
「吉田さん、手伝うよ」
レイラちゃんと別れて歩いていると、声に振り向く間もなく、手元の荷物が軽くなった。見やると同期の尾木くんだ。
「あー、ありがとう」
答えつつ、あんまりありがたがっている訳ではない。力仕事は嫌いじゃないし、大学では女子ばかりだったからどんな仕事も当然女子がやっていた。そういう場所に慣れていると、こういう女扱いはむしろ違和感を覚えるようにすらなる。
女らしいと言われる容姿とは裏腹に、私は多分、か弱さとか、そういう要素を持ち合わせていない。精神的にも、体力的にも。
でも、今まで出会った男の人たちは、大概私の外見から勝手に理想の女性像をイメージして、近づいてみてやっぱり理想と違ったと言って去っていくのである。
だから私、思うのよね。いわゆるギャップ萌え、なんて、結局自分の都合のいい方へのギャップでなければポイントにならない。つまり加点方式でなければいけないわけ。で、私の場合にはそれが減点方式になってしまうのである。なんという損な性分。
でも、私はこんな自分がそんなに嫌いじゃない。だいたいのことは笑って終わりにできる自分はなかなか捨てたもんじゃないと思う。
そんなことを考えながら尾木くんの隣を歩いていたが、尾木くんはなんとなく緊張しているのが分かった。そこまで鈍感でも、経験が少ない訳でもない私は、ああ面倒だなと感じる。
いや、尾木くんが面倒な訳じゃなくてね。多分この人も私に勝手な幻想を抱いているんだろうと思うから面倒なんであって、ある意味それって自分の面倒くささなのかもしれない。
さてこういうときは、いかにすれば彼の中の私のイメージを払拭できるか考えつつ会話をしてしまうのが私である。でもこの前の飲み会は割と素だったのになぁ。私がおしゃべりなのはバレてるハズ。
「尾木くんは、今日はどこの担当なの?」
そういえば尾木くんもSEだったと思い出しつつ言う。
「え、ええと、道案内役だったけど、今代わったとこ」
「道案内だと、トイレも行けないもんねぇ」
「うん」
尾木くんは中肉中背、SEにしては珍しく眼鏡をしていない。
「あ、荷物ここ」
私が事務室を指差してドアを開けた。尾木くんも一緒に入ってくる。
「ありがとー、助かった」
とは、もちろん社交辞令だ。尾木くんは嬉しそうに微笑んだ。
「うん。吉田さんはまた受付に戻るの?」
「そうだね。入口周辺にいるかな」
「そっか。俺、これからプログラミング体験のコーナー」
「ああ、そういうのもあったね。がんばってねー」
尾木くんは手を挙げて去って行った。私はホッと息をつく。
「あーあ」
あんまり近づかないようにしとこ。思いながら後ろ頭をかいた。
0
あなたにおすすめの小説
花の精霊はいじわる皇帝に溺愛される
アルケミスト
恋愛
崔国の皇太子・龍仁に仕える女官の朱音は、人間と花仙との間に生まれた娘。
花仙が持つ〈伴侶の玉〉を龍仁に奪われたせいで彼の命令に逆らえなくなってしまった。
日々、龍仁のいじわるに耐えていた朱音は、龍仁が皇帝位を継いだ際に、妃候補の情報を探るために後宮に乗り込んだ。
だが、後宮に渦巻く、陰の気を感知した朱音は、龍仁と共に後宮の女性達をめぐる陰謀に巻き込まれて……
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
幸せのありか
神室さち
恋愛
兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。
決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。
哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。
担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。
とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。
視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。
キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。
ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。
本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。
別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。
直接的な表現はないので全年齢で公開します。
男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される
山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」
出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。
冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?
家族から冷遇されていた過去を持つ家政ギルドの令嬢は、旦那様に人のぬくもりを教えたい~自分に自信のない旦那様は、とても素敵な男性でした~
チカフジ ユキ
恋愛
叔父から使用人のように扱われ、冷遇されていた子爵令嬢シルヴィアは、十五歳の頃家政ギルドのギルド長オリヴィアに助けられる。
そして家政ギルドで様々な事を教えてもらい、二年半で大きく成長した。
ある日、オリヴィアから破格の料金が提示してある依頼書を渡される。
なにやら裏がありそうな値段設定だったが、半年後の成人を迎えるまでにできるだけお金をためたかったシルヴィアは、その依頼を受けることに。
やってきた屋敷は気持ちが憂鬱になるような雰囲気の、古い建物。
シルヴィアが扉をノックすると、出てきたのは長い前髪で目が隠れた、横にも縦にも大きい貴族男性。
彼は肩や背を丸め全身で自分に自信が無いと語っている、引きこもり男性だった。
その姿をみて、自信がなくいつ叱られるかビクビクしていた過去を思い出したシルヴィアは、自分自身と重ねてしまった。
家政ギルドのギルド員として、余計なことは詮索しない、そう思っても気になってしまう。
そんなある日、ある人物から叱責され、酷く傷ついていた雇い主の旦那様に、シルヴィアは言った。
わたしはあなたの側にいます、と。
このお話はお互いの強さや弱さを知りながら、ちょっとずつ立ち直っていく旦那様と、シルヴィアの恋の話。
*** ***
※この話には第五章に少しだけ「ざまぁ」展開が入りますが、味付け程度です。
※設定などいろいろとご都合主義です。
※小説家になろう様にも掲載しています。
わたしの愉快な旦那さん
川上桃園
恋愛
あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。
あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。
「何かお探しですか」
その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。
店員のお兄さんを前にてんぱった私は。
「旦那さんが欲しいです……」
と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。
「どんな旦那さんをお望みですか」
「え、えっと……愉快な、旦那さん?」
そしてお兄さんは自分を指差した。
「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」
そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
完 弱虫のたたかい方 (番外編更新済み!!)
水鳥楓椛
恋愛
「お姉様、コレちょーだい」
無邪気な笑顔でオネガイする天使の皮を被った義妹のラテに、大好きなお人形も、ぬいぐるみも、おもちゃも、ドレスも、アクセサリーも、何もかもを譲って来た。
ラテの後ろでモカのことを蛇のような視線で睨みつける継母カプチーノの手前、譲らないなんていう選択肢なんて存在しなかった。
だからこそ、モカは今日も微笑んだ言う。
「———えぇ、いいわよ」
たとえ彼女が持っているものが愛しの婚約者であったとしても———、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる