期待外れな吉田さん、自由人な前田くん

松丹子

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第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。

21 サリーちゃんと同期の仲間たち!

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 受付の波が落ち着いたので、片付けられるものを片付けようと、段ボールにつめこんで事務室へ向かった。段ボールは上の蓋が開いたままで、中のものが若干見えている。
 マサトさんと会えた私はご機嫌も甚だしく鼻歌混じりのテンションである。
 だって肩に二回も触ってもらっちゃったもんね。うふ。
「サリーちゃん、ご機嫌だね」
 荷物は重くはないのだが、前がよく見えない。後ろからレイラちゃんに声をかけられ、笑顔で振り返った。
「そりゃーもう。憧れの人と会えたから~」
 語尾はほとんど歌わんばかりである。レイラちゃんは楽しげに笑った。
「私もさっき見かけたよ、例のイケメン。確かにサリーちゃんが言うのも分かる気はした」
 言いながら私に近づいて来たかと思えば、耳元で低く囁いた。
「ーーあれは受けだな」
 ちょっと待て。
「あの一体何を言ってるんでしょうか」
「だからぁ。サリーちゃんの憧れの人が受けで、もう一人の男の人ーーあれが大学の友達?弟って言ってたっけ。あの人が攻め」
 うわぁあ女子の妄想怖いよぅ、怖いこと言ってるよぅ。
 思わず顔が青くなっていく私を見て、レイラちゃんが噴き出す。
「そういう妄想しちゃうくらい、素敵な人たちだったよ」
 それって褒められてるんでしょうかどうなんでしょうか。
「いやー、リアルでも妄想できちゃうような知人、いいねぇ。見てるだけで萌えだねぇ」
 レイラちゃんは大変満足げだが、とりあえず、本人たちには絶対に言うまい、と私は心に誓った。
「吉田さん、手伝うよ」
 レイラちゃんと別れて歩いていると、声に振り向く間もなく、手元の荷物が軽くなった。見やると同期の尾木くんだ。
「あー、ありがとう」
 答えつつ、あんまりありがたがっている訳ではない。力仕事は嫌いじゃないし、大学では女子ばかりだったからどんな仕事も当然女子がやっていた。そういう場所に慣れていると、こういう女扱いはむしろ違和感を覚えるようにすらなる。
 女らしいと言われる容姿とは裏腹に、私は多分、か弱さとか、そういう要素を持ち合わせていない。精神的にも、体力的にも。
 でも、今まで出会った男の人たちは、大概私の外見から勝手に理想の女性像をイメージして、近づいてみてやっぱり理想と違ったと言って去っていくのである。
 だから私、思うのよね。いわゆるギャップ萌え、なんて、結局自分の都合のいい方へのギャップでなければポイントにならない。つまり加点方式でなければいけないわけ。で、私の場合にはそれが減点方式になってしまうのである。なんという損な性分。
 でも、私はこんな自分がそんなに嫌いじゃない。だいたいのことは笑って終わりにできる自分はなかなか捨てたもんじゃないと思う。
 そんなことを考えながら尾木くんの隣を歩いていたが、尾木くんはなんとなく緊張しているのが分かった。そこまで鈍感でも、経験が少ない訳でもない私は、ああ面倒だなと感じる。
 いや、尾木くんが面倒な訳じゃなくてね。多分この人も私に勝手な幻想を抱いているんだろうと思うから面倒なんであって、ある意味それって自分の面倒くささなのかもしれない。
 さてこういうときは、いかにすれば彼の中の私のイメージを払拭できるか考えつつ会話をしてしまうのが私である。でもこの前の飲み会は割と素だったのになぁ。私がおしゃべりなのはバレてるハズ。
「尾木くんは、今日はどこの担当なの?」
 そういえば尾木くんもSEだったと思い出しつつ言う。
「え、ええと、道案内役だったけど、今代わったとこ」
「道案内だと、トイレも行けないもんねぇ」
「うん」
 尾木くんは中肉中背、SEにしては珍しく眼鏡をしていない。
「あ、荷物ここ」
 私が事務室を指差してドアを開けた。尾木くんも一緒に入ってくる。
「ありがとー、助かった」
 とは、もちろん社交辞令だ。尾木くんは嬉しそうに微笑んだ。
「うん。吉田さんはまた受付に戻るの?」
「そうだね。入口周辺にいるかな」
「そっか。俺、これからプログラミング体験のコーナー」
「ああ、そういうのもあったね。がんばってねー」
 尾木くんは手を挙げて去って行った。私はホッと息をつく。
「あーあ」
 あんまり近づかないようにしとこ。思いながら後ろ頭をかいた。
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