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第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。
22 無愛想と不機嫌が前田のデフォルト。
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休憩時間は少し遅いランチタイムになった。デスクで簡単なランチを済ませた私は、ばったり前田と行き当たった。
「あ、前田」
私の声に気づいて立ち止まった前田の顔を目にしたとき、そうだと思い立つ。
「ちょっと待ってて」
ジャージを返そうとデスクから袋を取り出し戻ったが、前田はエレベーターに向かって歩いて行ってしまっていた。慌ててその背を追う。
「ちょっと!待ってって言ったのに!」
慌てて追いかけると、エレベーターに乗り込んでしまったので私も乗った。無機質な箱の中で私はわずかに弾んだ息を整える。
「はい、これ。お世話になりました」
ジャージの入った袋を突き出すと、前田は嫌そうな顔をした。
「今渡されても困るよ」
「じゃあ自分のデスクに置いておけばいいじゃない。どうせ置いておくジャージなんでしょ」
「そうだけど……」
話しているとドアが開いた。私は前田に袋を押し付け、やれやれと外へ出る。降りたフロアは前田がボタンを押していた階だが、私もちょうど同じフロアをうろつこうと思っていたので当然のように降りる。
「吉田さんて、変わってるよね」
「ああどうも。よく言われる」
適当に流してさっさと目的の部屋へ向かおうとすると、その目的の部屋から小さな影が走り出てきた。
「悠人。ぶつかるぞ、走るな」
その声に、私の目がまた輝く。やっぱりいた!
スタンプラリーの最後の部屋は社長室である。社長が自らスタンプを押すのが恒例で、他のスタンプを集めてからでないと貰えない。時間的にそろそろじゃないかと思っていた私の読みは見事に当たったらしい。
「サリーちゃんだぁ」
私の足に悠人くんがぺたりと抱き着いて来た。次いで、弟の健人くんも真似をして抱き着いて来る。
部屋から顔を覗かせたマサトさんは苦笑した。
「お前ら、サリーちゃんセンサーでもついてんの?」
むしろマサトさんセンサーがついてるのは私の方かも知れないが、気持ち悪がられても嫌なので黙っておく。
マサトさんが健人くんを抱き上げると、健人くんはあっという間に私と目線が変わらなくなった。
「スタンプラリー終わったんですね」
「ちょうど今。すぐ終わると思ってたけど、子連れだと結構時間かかるね」
「ざっきーは?」
「翔太がどんどん進みたがって別行動。昼は一緒に食ったけど。今プログラミング体験してるらしい。どこか分かる?」
「ああ、それなら」
私は振り返る。
「前田、これからどこ行くの?」
「……プログラミング体験の部屋だけど」
「よぉし」
私はびしりと前田の目の前に人差し指を突きつけた。
「案内せよ」
前田は呆れた顔になる。
「受付だったのに、どこで何やってるか知らないの?」
「全部把握してる訳ないでしょ。どうせ行くところ同じなんだから、ぐだぐだ言わない」
私たちの言い合いを見ていたマサトさんが、口元を押さえて笑っている。私はちょっと気恥ずかしくなった。
「わ、笑いすぎです」
「いや、思わずーーごめんごめん」
私は唇を尖らせて見せたけど、実際はその崩れた笑顔にきゅんきゅんしている。やっぱ生は違うわ、写真とは。
前田はふんと鼻を鳴らした。いつものことながらーーいや、何故かいつもにまして、不機嫌そうである。
「前田。お客さんの前なんだからもうちょっと愛想よくしてみたら?」
「これが俺のデフォルトだから仕方ないでしょ。文句あるなら他の人にお願いすれば」
言いながら、前田はこちらへどうぞとほとんど棒読みで言って歩き出す。マサトさんは込み上げる笑いを堪えられないらしい。ここまで笑うマサトさんも珍しくて、どうも先ほどのやりとりだけが原因ではないらしい、と察しつつもよく分からない。
「お父さん、どうしたのー?」
悠人くんが首を傾げている。マサトさんはそれに手で応じながら、やっぱり笑っていた。
「あ、前田」
私の声に気づいて立ち止まった前田の顔を目にしたとき、そうだと思い立つ。
「ちょっと待ってて」
ジャージを返そうとデスクから袋を取り出し戻ったが、前田はエレベーターに向かって歩いて行ってしまっていた。慌ててその背を追う。
「ちょっと!待ってって言ったのに!」
慌てて追いかけると、エレベーターに乗り込んでしまったので私も乗った。無機質な箱の中で私はわずかに弾んだ息を整える。
「はい、これ。お世話になりました」
ジャージの入った袋を突き出すと、前田は嫌そうな顔をした。
「今渡されても困るよ」
「じゃあ自分のデスクに置いておけばいいじゃない。どうせ置いておくジャージなんでしょ」
「そうだけど……」
話しているとドアが開いた。私は前田に袋を押し付け、やれやれと外へ出る。降りたフロアは前田がボタンを押していた階だが、私もちょうど同じフロアをうろつこうと思っていたので当然のように降りる。
「吉田さんて、変わってるよね」
「ああどうも。よく言われる」
適当に流してさっさと目的の部屋へ向かおうとすると、その目的の部屋から小さな影が走り出てきた。
「悠人。ぶつかるぞ、走るな」
その声に、私の目がまた輝く。やっぱりいた!
スタンプラリーの最後の部屋は社長室である。社長が自らスタンプを押すのが恒例で、他のスタンプを集めてからでないと貰えない。時間的にそろそろじゃないかと思っていた私の読みは見事に当たったらしい。
「サリーちゃんだぁ」
私の足に悠人くんがぺたりと抱き着いて来た。次いで、弟の健人くんも真似をして抱き着いて来る。
部屋から顔を覗かせたマサトさんは苦笑した。
「お前ら、サリーちゃんセンサーでもついてんの?」
むしろマサトさんセンサーがついてるのは私の方かも知れないが、気持ち悪がられても嫌なので黙っておく。
マサトさんが健人くんを抱き上げると、健人くんはあっという間に私と目線が変わらなくなった。
「スタンプラリー終わったんですね」
「ちょうど今。すぐ終わると思ってたけど、子連れだと結構時間かかるね」
「ざっきーは?」
「翔太がどんどん進みたがって別行動。昼は一緒に食ったけど。今プログラミング体験してるらしい。どこか分かる?」
「ああ、それなら」
私は振り返る。
「前田、これからどこ行くの?」
「……プログラミング体験の部屋だけど」
「よぉし」
私はびしりと前田の目の前に人差し指を突きつけた。
「案内せよ」
前田は呆れた顔になる。
「受付だったのに、どこで何やってるか知らないの?」
「全部把握してる訳ないでしょ。どうせ行くところ同じなんだから、ぐだぐだ言わない」
私たちの言い合いを見ていたマサトさんが、口元を押さえて笑っている。私はちょっと気恥ずかしくなった。
「わ、笑いすぎです」
「いや、思わずーーごめんごめん」
私は唇を尖らせて見せたけど、実際はその崩れた笑顔にきゅんきゅんしている。やっぱ生は違うわ、写真とは。
前田はふんと鼻を鳴らした。いつものことながらーーいや、何故かいつもにまして、不機嫌そうである。
「前田。お客さんの前なんだからもうちょっと愛想よくしてみたら?」
「これが俺のデフォルトだから仕方ないでしょ。文句あるなら他の人にお願いすれば」
言いながら、前田はこちらへどうぞとほとんど棒読みで言って歩き出す。マサトさんは込み上げる笑いを堪えられないらしい。ここまで笑うマサトさんも珍しくて、どうも先ほどのやりとりだけが原因ではないらしい、と察しつつもよく分からない。
「お父さん、どうしたのー?」
悠人くんが首を傾げている。マサトさんはそれに手で応じながら、やっぱり笑っていた。
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