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第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。
23 イケメンの挑発と鉄仮面の怒りスイッチ。
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「ああ、いたいた。隼人」
マサトさんが部屋の入口から声をかけると、ざっきーが振り向いた。
「兄さん。終わった?」
「ああ」
ざっきーとマサトさんが会話を交わしていると、周りの女性陣がそわそわしているのが分かる。多くは単純な憧れだろうが、中にはレイラちゃんのような腐女子も混ざっているやも知れぬ……そう思うと心中合掌する思いである。腐女子の妄想の材料にまでならなくちゃいけないだなんて、イケメンも大変だなぁ。
前田は部屋の前まで私たちを連れて来ると、何も言わずに中に入って行った。
ほんと無愛想な男。
「翔太、そろそろ」
「はーい」
翔太くんは、父であるざっきーの前では割と聞き分けがいいらしいーーとは、母である香子の話だが、多分怒らせると怖いからではないかと思う。怒ったときのざっきーって、笑顔ブリザード発動するからね。腹の底が知れない怖さはちょっとしたトラウマもんだよね。分かる分かる。
翔太くんはパソコンの前の椅子からぴょこんと降りると、ぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
お礼に答えたのは先ほど会った同期の尾木くんだ。顔を上げて私に気づいたらしい。軽く手を挙げると、照れ臭そうに手を振り応えてくれた。
するとまた私の斜め前にいたマサトさんが笑う。
「……マサトさん、今日よく笑いますね」
いや、私は笑顔がたくさん見られて嬉しいんだけども。半面、なんとなく含みを感じるので気になるよね。
「いやぁ、他人事でこんなに面白いと思ったことはない」
「……って、私のことですか?」
一体何が?と首を傾げていると、ざっきーと翔太くんがやってきた。
「隼人、サリーちゃん。ちょっと息子たち頼む。彼に一言言ってくるから」
「え?いいですよ、あんな鉄仮面にお礼なんて」
「お礼っていうより、お節介」
笑ってひらりと手を振ると、マサトさんは前田に歩み寄った。前田は尾木くんと交代らしい。尾木くんは先ほど自分がいた場所を前田に譲り、身支度を整えている。
マサトさんが前田の肩をたたき、前田が振り向いた。これ以上ないというほど不機嫌そうな前田の顔にもマサトさんは笑っている。マサトさんが前田の耳元に何かを吹き込むと、前田はその手を払いのけるように立ち上がった。
「ーー貴方なんかに何が分かるんですか」
感情を押さえた前田の低い声がわずかに聞こえる。私ははっとした。
ーー前田が怒ってる?
考えてみれば、彼はいつも仏頂面ではあったが、怒っていることはなかった。無表情、無愛想。優しさや暖かさが伺えたことはない一方、憤りを感じたこともない。そういう意味では安定していて、感情に振り回されるような性質ではないのだろうとーーどこかでそう思っていた。
睨みつけるような前田の視線にも、マサトさんは余裕ありげにーーやや挑発的ともいえる笑みを浮かべて立っている。その態度に前田がますます苛立つのが見て取れた。黙って下唇を噛み締め、目を反らす。
「分かんねぇよ。何もせず妬んでる男の気持ちなんかーーでも」
マサトさんは不敵な笑みを浮かべたまま言って、言葉を切った。その目が、二人を唖然と見つめる私をとらえる。
「ま、いいか。俺にとっちゃあ他人事だしな」
マサトさんはこちらに歩いてきた。私の横でざっきーが苦笑している。
「兄さん。わざわざケンカ売らなくても」
「筋違いなケンカを売ってきたのは向こうだよ。買ってやっただけだ」
「相変わらず子どもっぽいなぁ」
「どういたしまして。お前ほどドライにはなれないんでね」
イケメン兄弟はそんな会話を交わしながら部屋を出ていく。
「サリーちゃん、行こう」
ぼうっと前田の後ろ姿を見ていた私は、悠人くんに服を引っ張られて我に返り、二人の後を追って部屋を出た。
マサトさんが部屋の入口から声をかけると、ざっきーが振り向いた。
「兄さん。終わった?」
「ああ」
ざっきーとマサトさんが会話を交わしていると、周りの女性陣がそわそわしているのが分かる。多くは単純な憧れだろうが、中にはレイラちゃんのような腐女子も混ざっているやも知れぬ……そう思うと心中合掌する思いである。腐女子の妄想の材料にまでならなくちゃいけないだなんて、イケメンも大変だなぁ。
前田は部屋の前まで私たちを連れて来ると、何も言わずに中に入って行った。
ほんと無愛想な男。
「翔太、そろそろ」
「はーい」
翔太くんは、父であるざっきーの前では割と聞き分けがいいらしいーーとは、母である香子の話だが、多分怒らせると怖いからではないかと思う。怒ったときのざっきーって、笑顔ブリザード発動するからね。腹の底が知れない怖さはちょっとしたトラウマもんだよね。分かる分かる。
翔太くんはパソコンの前の椅子からぴょこんと降りると、ぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
お礼に答えたのは先ほど会った同期の尾木くんだ。顔を上げて私に気づいたらしい。軽く手を挙げると、照れ臭そうに手を振り応えてくれた。
するとまた私の斜め前にいたマサトさんが笑う。
「……マサトさん、今日よく笑いますね」
いや、私は笑顔がたくさん見られて嬉しいんだけども。半面、なんとなく含みを感じるので気になるよね。
「いやぁ、他人事でこんなに面白いと思ったことはない」
「……って、私のことですか?」
一体何が?と首を傾げていると、ざっきーと翔太くんがやってきた。
「隼人、サリーちゃん。ちょっと息子たち頼む。彼に一言言ってくるから」
「え?いいですよ、あんな鉄仮面にお礼なんて」
「お礼っていうより、お節介」
笑ってひらりと手を振ると、マサトさんは前田に歩み寄った。前田は尾木くんと交代らしい。尾木くんは先ほど自分がいた場所を前田に譲り、身支度を整えている。
マサトさんが前田の肩をたたき、前田が振り向いた。これ以上ないというほど不機嫌そうな前田の顔にもマサトさんは笑っている。マサトさんが前田の耳元に何かを吹き込むと、前田はその手を払いのけるように立ち上がった。
「ーー貴方なんかに何が分かるんですか」
感情を押さえた前田の低い声がわずかに聞こえる。私ははっとした。
ーー前田が怒ってる?
考えてみれば、彼はいつも仏頂面ではあったが、怒っていることはなかった。無表情、無愛想。優しさや暖かさが伺えたことはない一方、憤りを感じたこともない。そういう意味では安定していて、感情に振り回されるような性質ではないのだろうとーーどこかでそう思っていた。
睨みつけるような前田の視線にも、マサトさんは余裕ありげにーーやや挑発的ともいえる笑みを浮かべて立っている。その態度に前田がますます苛立つのが見て取れた。黙って下唇を噛み締め、目を反らす。
「分かんねぇよ。何もせず妬んでる男の気持ちなんかーーでも」
マサトさんは不敵な笑みを浮かべたまま言って、言葉を切った。その目が、二人を唖然と見つめる私をとらえる。
「ま、いいか。俺にとっちゃあ他人事だしな」
マサトさんはこちらに歩いてきた。私の横でざっきーが苦笑している。
「兄さん。わざわざケンカ売らなくても」
「筋違いなケンカを売ってきたのは向こうだよ。買ってやっただけだ」
「相変わらず子どもっぽいなぁ」
「どういたしまして。お前ほどドライにはなれないんでね」
イケメン兄弟はそんな会話を交わしながら部屋を出ていく。
「サリーちゃん、行こう」
ぼうっと前田の後ろ姿を見ていた私は、悠人くんに服を引っ張られて我に返り、二人の後を追って部屋を出た。
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